低温食品物流の取り込みを狙ったC&Fロジホールディングスへの同意なきTOBと、佐川急便との争奪戦での撤退

同意なき買収という初めての賭けは、資金力に勝る対抗馬を前にどこまで貫けたか

更新:

時期 2024年3月
意思決定者 和佐見勝 社長
論点 低温食品物流事業の取り込みと同意なき買収という手法の選択
概要
2024年3月21日、AZ-COM丸和ホールディングスは、低温食品物流大手のC&Fロジホールディングスに対し、同社取締役会の同意を得ないまま1株3,000円でTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。しかし佐川急便を傘下に持つSGホールディングスが1株5,740円で対抗TOBを開始し、丸和HDは6月6日に価格を引き上げない方針を表明、6月20日にTOBは不成立に終わった。
背景
丸和HDは低温食品物流事業を成長の柱の一つに据え、2030年度売上高5,000億円・2040年度売上高1兆円という長期ビジョンを掲げていた。C&Fとは2020年から経営統合を協議してきたが2023年10月に打ち切られており、物流の2024年問題が迫るなかで、和佐見勝社長は単独ではなく協業による効率化を志向していた。
内容
丸和HDは経済産業省の新指針後初の同意なきTOBに踏み切り、みずほ証券・みずほ銀行が財務面を支えた。これに対しC&Fはホワイトナイトを募り、佐川急便グループのSGホールディングスが1株5,740円という丸和HDの91%増の価格で対抗TOBを開始した。丸和HDは価格を引き上げず、事実上の撤退を選んだ。
含意
丸和HDのTOBは応募株数が下限に遠く届かず不成立となり、C&FはSGホールディングスの完全子会社となった。和佐見社長は後に「M&Aは簡単じゃない」と振り返りつつ、成長企業を狙う考えと海外M&Aへの意欲は変えていないと語り、資金力の限界と戦略の継続という二面性を残す結果となった。
筆者の見解

資金力の限界と、変わらぬ成長志向

C&Fロジホールディングスをめぐる攻防は、丸和HDが本業で培ってきた採算重視の経営哲学と、資金力にものを言わせる買収競争との間にある距離を映し出したといえる。経済産業省の新指針下で初の同意なきTOBに踏み切った挑戦は、佐川急便グループという桁違いの体力を持つ相手を前に、価格を追わないという判断とともに幕を引くこととなった。和佐見勝社長が「3,000円以上で買う同業者は少ないのではないか」と語った言葉には、走らずに稼ぐという同社の商人的な採算感覚がにじんでいたとみることができる。

2025年のインタビューで和佐見社長は「M&Aは簡単じゃないってことだろう」と振り返りつつ、「今後もやはり、成長していて、収益が上がっている会社や事業シナジーがある会社を狙っていきたい」「日本だけでなく海外でもM&Aを仕掛けて成長していくつもりだ」と語った。低温食品物流という成長領域への関心自体は失われておらず、この一件は同社にとって手法の限界を測る経験になったとうかがえる。売上高1兆円という長期目標に向けて、次にどの相手をどのような手法で狙うのかが、この経験を踏まえた同社の課題として残るとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

低温食品物流という成長機会

AZ-COM丸和ホールディングスは、小売業向け3PLを主力に成長してきた物流会社であった。2013年に低温食品物流事業を専門セグメントとして立ち上げて以降、生鮮・冷凍食品を扱う顧客基盤を広げ、2022年には中期経営計画2025で2025年3月期の売上高2,400億円を掲げるとともに、2030年度に5,000億円、2040年度に1兆円という長期ビジョンを打ち出していた。低温食品物流の規模拡大は、この成長目標を実現する主要な手段の一つであった[1][2]

同社と低温食品3PL大手のC&Fロジホールディングスとの関係は浅くなかった。和佐見勝社長は、C&Fが上場した2015年以来同社の前社長・林原国雄氏と親しく、2020年10月には事業協働や経営統合について協議を始めていた。しかし2023年10月、C&F側はシナジーが限定的であることや企業文化の違いを理由に検討の中止を通達し、数年越しの話し合いはいったん途切れた[3]

物流24年問題という外部環境

物流業界は2024年4月から長距離ドライバーの残業規制が本格適用され、人手不足への対応が経営課題として重みを増していた。和佐見社長は、単独ではなく複数の企業が協力してデジタル投資や効率化を進めるべきだという考えを持っており、C&Fが抱える自社ドライバー4,103人・トラック2,872台という物流資産は、規制対応を急ぐ丸和HDにとって取り込みの魅力を高めていた。低温物流市場自体も、2022年度の1兆7,724億円から2025年度に1兆9,157億円へ拡大が見込まれていた[4]

C&Fは2015年の上場以来、株価が2,000円を上回ることはほとんどなく、PBR(株価純資産倍率)も1倍割れが常態化していた。業績は安定していたものの成長性に乏しく、市場からの評価は高くなかった。一方で全国に自前の物流センターを持ち、2023年3月末時点の土地簿価は約170億円に上るなど、実体を伴う資産を抱えていた点が、丸和HDだけでなく複数の対抗提案者を引き寄せる素地になっていたとみられる[5]

決断

同意なきTOBという初めての選択

2024年3月21日、丸和HDはC&Fの取締役会の同意を得ないまま、1株3,000円でTOBを実施すると発表した。買い付け価格は前営業日終値2,040円に47.06%のプレミアムを乗せた水準で、買付総額は最大649億円に上った。経済産業省が2023年8月に「企業買収における行動指針」を公表して以降、初の同意なきTOBとして注目を集め、財務アドバイザー(FA)とTOB代理人にはみずほ証券が就き、みずほ銀行も買収資金670億円の融資枠を用意した[6][7]

C&Fの綾宏將社長はTOBへの意見表明を「留保」とし、水面下でホワイトナイト探しに動いた。4月には9社から対抗提案の意向表明書を、5月1日までに4社から法的拘束力のある提案書を受け取り、そのうちの1社が佐川急便を傘下に持つSGホールディングスであった。TOBは5月2日に開始され、当初6月17日までとされた期間は6月19日まで延長された[8][9]

佐川急便の参戦と丸和の撤退判断

6月3日、SGホールディングスは1株5,740円でC&Fへの対抗TOBを開始した。丸和HDの買い付け価格を91%上回る水準で、買収額は1,237億円に達する見通しとなった。C&Fの綾宏將社長は「SGHDの提案が最も高額で優れている」とシナジーを強調し、SGHDの松本秀一社長も「佐川急便が中心のラストワンマイルと、C&Fが担う上流から中流を掛け合わせれば一気通貫の物流ができる」と述べた[10]

丸和HDの和佐見勝社長は5月13日の決算説明会で「(1株)3,000円以上で買う同業者は少ないのではないか。ファンドは持っているものをすべてお金にすれば済むが、われわれはまったく異なる」と述べていた。実際、SGHDの提示額を前にした6月6日、丸和HDはTOB価格を引き上げない方針を発表し、藤田勉取締役は「1株3,000円の価格でも苦しかった。SGHDの価格では採算が合わない」と説明した[11]

結果

TOB不成立とC&Fの佐川傘下入り

6月20日、丸和HDはTOBが不成立に終わったと正式に発表した。応募株数は72万8,900株にとどまり、買付予定株数の下限であった1,081万1,204株に遠く届かなかった。丸和HDはTOB期間の末日である6月19日を待たずにこの結果を公表しており、2024年に届け出のあったTOBとしては2件目の不成立案件となった[12]

丸和HDが撤退した後、SGHDは自らのTOBでC&Fを完全子会社化した。買収額は1,200億円超、C&Fの純資産との差額であるのれん代は750億円超に上るとみられ、市場では「考えられない評価」と受け止められた。佐川急便の本村正秀社長は「冷凍冷蔵倉庫の拠点があり、拡張できる土地もある。シナジーを出していく」と、高値評価の根拠を語った[13]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2024年6月8日号「ニュース最前線 物流業界で混迷深まる『同意なきTOB』の行方」
  • 週刊東洋経済 2024年6月22日号「ニュース最前線 物流TOB合戦に佐川参戦『異次元の高値買収』の果実」
  • 週刊東洋経済 2024年6月29日号「【第1特集 仁義なき企業買収】PART1 炎上 みずほが『同意なき』に参戦 是々非々に舵を切る金融機関」
  • 週刊東洋経済 2024年12月28日号「【第1特集 2025年大予測】PART4 産業・企業 物流 結局安値競争に突入 25年も値上げが焦点」
  • 週刊東洋経済 2025年2月22日号「トップに直撃 AZ-COM丸和ホールディングス『なるべく走らないで稼ぐ 海外でもM&Aを仕掛ける』」
  • 日本経済新聞(2024年6月20日)「AZ-COM丸和ホールディングス、C&FロジホールディングスへのTOB不成立 佐川急便の対抗で」
  • 日本経済新聞(2024年6月6日)「AZ-COM丸和、C&F買収を事実上断念 TOB価格上げず」
  • M&A Online(2024年3月21日)「AZ-COM丸和ホールディングス、C&FロジホールディングスへのTOBを実施し子会社化」
  • M&A Online(2024年6月20日)「AZ-COM丸和、C&FロジへのTOB不成立を発表」
  • AZ-COM丸和ホールディングス 有価証券報告書(2024年3月期)