アフリカ事業のアクゾ・ノーベルへの譲渡発表と撤回
6期連続の赤字に見切りをつけた海外撤退は、なぜ毛利訓士社長の手を離れ独禁当局の判断で振り出しに戻ったのか
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- 概要
- 2022年6月1日、関西ペイントは南アフリカとモーリシャスの2子会社(Kansai Plascon Africa、Kansai Plascon East Africa)を、オランダの同業大手アクゾ・ノーベルへ4億5,000万ドル(約585億円)で譲渡すると発表した経営判断。だが2023年11月29日、南アフリカの競争当局が株式譲渡を認めず、関西ペイントはアクゾとの契約を解除してアフリカ事業を継続する結果になった。毛利訓士社長のもとでの決定である。
- 背景
- 2011年4月、関西ペイントは南アフリカ現地最大手の塗料メーカーを買収してアフリカへ進出し、2017年1月にはケニアを中心とする東アフリカへも拠点を広げた。だが現地通貨安と景気減速が重なり、アフリカ事業は2021年3月期まで6期連続の経常赤字が続いた。2018年に日本主導のコスト管理を持ち込む軌道修正を図り、2020年にはナイジェリア撤退やUAE合弁解消など事業規模そのものを縮小する方針へ転じていた。
- 内容
- 2022年6月1日、南アフリカとモーリシャスの2子会社の全株式を、アクゾ・ノーベル子会社へ4億5,000万ドルで譲渡すると公表した。対象はアフリカ12カ国で展開する塗料事業で、現地の連結売上高はおよそ280億円規模にのぼった。譲渡完了は2023年内を見込み、関西ペイントはインドと欧州を重点地域として経営資源を集中させる方針を示した。
- 含意
- アフリカ事業は譲渡発表を挟む22年3月期から2期連続の経常黒字を確保していたが、2023年11月に南アフリカの競争当局が株式譲渡を認めなかった。関西ペイントはアクゾとの契約を解除してアフリカでの事業継続を決め、外部の規制当局の判断によって撤退の意思決定が覆り、保有資産を売り切るのではなく自前で立て直す方針へ切り替わった。
自社の意思の外で決着した撤退劇
この判断の特異な点は、決着の付き方が自社の外に委ねられたことにある。通貨安と景気減速のなかで6期連続の赤字を重ねたアフリカ事業に見切りをつけ、採算が上向いた後もなお売却へ踏み切った点に、日本本社からの遠隔管理という構造的な難しさへの危機感がうかがえる。だが最終的にその判断を覆したのは、自社の経営判断ではなく、南アフリカの競争当局という第三者の審査であった。
海外M&Aで積み上げた版図の一部を手放そうとした試みが、買収先の市場における競争環境という別の論理によって差し止められる——グローバルに事業を展開する企業にとって、売り手の意思だけでは撤退すら完結しないことを、この一件は示している。結果としてアフリカに残った関西ペイントが、毛利訓士社長の掲げる「ONE KANSAI」のもとで、この地域とどう向き合っていくかは、なお注視される論点である。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
南アフリカ買収から東アフリカ拡張への進出
2011年4月、関西ペイントは南アフリカで現地最大手の塗料メーカーを買収し、「Kansai Plascon Africa」としてアフリカ市場への本格進出を果たした。買収したプラスコンは南アフリカで100年余の歴史を持つブランドで、建築用・自動車補修用の塗料事業を軸に据えていた。海外事業は東南アジア・南アジアで積み上げた拠点網の延長として、トルコを経て中東へ、さらにアフリカへと広がりを見せていた時期にあたる[1][2]。
続いて2017年1月には、ケニアを拠点とする「Kansai Plascon East Africa」を出資設立し、東アフリカへも進出範囲を広げた。南部アフリカで築いた地盤をもとに、建築用・自動車補修用塗料の需要拡大が見込める東アフリカを取り込む狙いがあった[3]。
通貨安・景気減速による赤字の累積と軌道修正
だが現地通貨安と新興国景気の減速が重なり、アフリカ事業は苦戦が続いた。2018年11月9日に発表した2019年3月期の業績予想では、南アフリカ・ランド安の影響などから連結営業利益を前期比10%減の324億円へ下方修正した。石野博社長(当時)は現地任せだった経営管理の甘さを認め、日本で培った人員配置の最適化や物流拠点集約のノウハウを中東・アフリカへ持ち込む方針を示した[4][5]。
軌道修正から2年後の2020年7月には、事業規模そのものを縮小する判断に踏み切った。ナイジェリアから同年度中に撤退し、UAEで内装用塗料などを手がけていた合弁会社も解消した。景気減速が業績を圧迫するなか、自動車用塗料が強いインドなど採算の見込める地域へ経営資源を寄せる方針へ転じ、アフリカ事業は2021年3月期まで6期連続の経常赤字を計上するに至った[6][7]。
決断
アクゾ・ノーベルへの譲渡発表
2022年6月1日、関西ペイントは南アフリカとモーリシャスの2子会社を、オランダの同業大手アクゾ・ノーベルへ計4億5,000万ドル(約585億円)で譲渡すると発表した。高原茂季副社長は、日本本社から遠隔地の経営を管理する難しさを譲渡理由の一つに挙げた。長期にわたり利益を圧迫してきた地域から手を引き、収益性の高い地域へ資源を振り向ける選択だった[8][9]。
譲渡の対象は、南アフリカの「Kansai Plascon Africa」とケニアなど東アフリカを担う「Kansai Plascon East Africa」の全株式で、12カ国にまたがる塗料事業をまとめて手放す内容だった。アクゾ・ノーベル側は、100年余の歴史を持つプラスコンブランドの取得によってアフリカでの事業基盤を拡大できるとした。譲渡は2023年内の完了を見込んでいた[10]。
インド・欧州への資源再配分という選択
関西ペイントは譲渡と同時に、インドと欧州を重点地域とし経営資源を集中させる方針を示した。アフリカでの現地拠点は失う一方、トヨタ自動車向けなどの輸出販売は残す計画とされ、完全な撤退ではなく現地生産機能の手放しに絞った設計だった。20年かけて広げた海外子会社網の取捨選択に踏み込んだ決定であった[11]。
アフリカ事業は近年の縮小策が実り、譲渡発表を挟む22年3月期に経常黒字へ転換していた。資産売却や物流拠点の集約を進めた結果であり、赤字体質を脱したうえでの譲渡だった点は、単なる不採算撤退とは異なる事情を含んでいた。採算が上向いた事業をなお手放す判断は、日本からの遠隔管理という構造的な難しさを重く見た結果とみることができる[12]。
結果
南アフリカ競争当局による不承認と契約解除
2023年11月29日、関西ペイントはアフリカ事業からの撤退を取りやめると発表した。南アフリカの競争当局が株式譲渡を認めなかったため、アクゾ・ノーベルとの契約を解除し、自社での事業継続を決めた。1年半前に公表した撤退の決定が、規制当局の判断ひとつで白紙に戻る展開になった[13][14]。
契約解除後もアフリカ事業は縮小されず、現地の製造・販売体制を維持したまま採算改善を続けた。地域別売上高は、譲渡発表があった2023年3月期の428億円から、2024年3月期に443億円、2025年3月期に488億円へと拡大した。撤退のはずだった事業は、結果として成長を続ける地域の一つになった[15]。
- 日本経済新聞 2018年11月9日「関西ペイント、アフリカ・中東戦略を軌道修正」
- 日本経済新聞 2020年7月11日「関西ペイント、アフリカ・中東縮小 海外、収益重視に」
- 日本経済新聞 2022年6月1日「関西ペイント、アフリカ事業から撤退 子会社売却」
- 日本経済新聞 2023年11月29日「関西ペイント、アフリカ事業継続 子会社売却認められず」
- AkzoNobel Newsroom(2022年6月1日)「AkzoNobel to acquire African paints and coatings activities from Kansai Paint」
- 関西ペイント 有価証券報告書 第161期(2025年3月期)【沿革】
- 関西ペイント 有価証券報告書(セグメント情報/地域別売上高)