王子ホールディングス 北越製紙へ敵対的TOB 日本初の本格的な敵対的買収に踏み切った業界再編の仕掛け

更新:

時期 2006年7月
当時の社長 篠田和久
論点 国内紙需要の頭打ちと設備過剰を背景とした業界再編・規模拡大
何をなぜ決めたか
概要

国内首位の王子製紙が業界6位の北越製紙に対し、1株860円で発行済株式の50.1%以上を目標とする敵対的TOBを2006年7月23日に発表した経営判断。日本の大企業間で初の本格的な敵対的買収であったが、北越の防衛策と日本製紙の対抗で目標取得が見込めなくなり、9月に不成立へ終わった。

背景

王子は1993年の神崎製紙、1996年の本州製紙との統合を経て製紙業界の首位に立っていた。国内の紙需要が頭打ちへ向かうなか、設備過剰と価格競争を抜け出すには業界再編で規模を集約する必要があった。北越への経営統合提案が拒否されたことが、敵対的TOBの前段にあった。

内容

2006年7月23日、王子は北越株を1株860円で50.1%以上取得するTOBの方針を発表した。北越は三菱商事へ1株607円で5,000万株を割り当てる第三者割当増資で対抗し、三菱商事は2007年3月末で24.09%を持つ筆頭株主となった。業界2位の日本製紙も北越株を買い進め、王子は9月に断念を表明した。

含意

日本の産業史で初の本格的な敵対的TOBは、ホワイトナイトと第三者割当という防衛策の前に不成立へ終わった。買収の是非以上に、敵対的買収を日本企業がどう受け止めるかという論点を残した。王子はその後も業界再編の動きを続け、北越は独立を守った。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

敵対的TOBが根づかなかったことの意味

日本の産業史で初の本格的な敵対的TOBが不成立に終わった意味は、価格や勝敗だけでは測れない。王子が示したのは、合意に頼らず市場を通じて再編を仕掛けるという、それまでの日本企業になじみの薄い手立てであった。一方で北越が選んだホワイトナイトと第三者割当という防衛は、買収の是非を株主ではなく経営陣と事業パートナーの関係で決める色合いを帯びていた。どちらに理があったかは、その後に続く紙需要の縮小を見なければ判じにくい。

王子はこの後も業界再編の動きを続け、規模と効率を追う路線を保った。北越は独立を守り、年内には日本製紙と戦略提携を締結して第3勢力の道を探り、のちに北越コーポレーションとして自らの道を歩んだ。敵対的TOBがこの一件を境に根づかなかったこと自体が、当時の日本の資本市場と企業社会の距離感を映していたといえる。規模を追う論理と、地域や取引関係に支えられた独立の論理がぶつかった事例として、この不成立は記憶されてよい。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
公開買付けと防衛の条件

公開買付けと防衛の条件

科目 概要 備考
対象会社 北越製紙㈱ 新潟工場を主力とする洋紙・板紙メーカー。2007年4月に創業百周年を迎えた
王子製紙の北越株保有 5,614千株(2.62%) 2007年3月末。退職給付信託に委託した信託財産で、議決権は王子製紙の指図により行使される
対象会社の買収防衛策 2006年7月19日に公表 20%以上の買付に事前の情報提供と検討期間を求め、新株予約権の無償割当てを対抗措置とする
対象会社と三菱商事の業務提携 2006年7月21日締結 原材料の調達と国内外の紙販売の協業。契約期間は5年で延長規定がある
第三者割当増資の割当先 三菱商事㈱に50,000千株 払込は2006年8月7日。北越製紙にとって三菱商事はその他の関係会社となった
増資の発行価格 1株607円 資本組入額は1株304円。資本金15,200百万円と資本準備金15,150百万円が増加した
増資後の発行済株式総数 214,052,054株 増資前は164,052,054株
増資後の筆頭株主 三菱商事㈱ 24.09% 2007年3月末で51,564千株。第三者割当増資の引受けにより主要株主となった
日本製紙の持株比率 8.58% 2007年3月末で18,367千株。北越は2006年12月1日に日本製紙と業務提携契約を締結した
対象会社が計上した費用 624百万円 北越製紙の2007年3月期の特別損失「公開買付対応費用」
買付価格・買付期間・買付予定数の下限 記載なし 王子製紙 第83期の【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】はいずれも該当事項なし

出所:北越製紙 有価証券報告書 第169期(2007年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】【大株主の状況】【経営上の重要な契約等】【株式会社の支配に関する基本方針】 / 王子製紙 有価証券報告書 第83期(2007年3月期)

連結業績の推移

王子ホールディングス:連結業績の推移

(百万円) 売上高経常利益当期純損益 備考
2002年3月期 1,203,79720,091△17,698 第78期。国内の紙需要が頭打ちに向かうなか売上高は1兆2,000億円で足踏みしていた
2003年3月期 1,213,17347,94112,170
2004年3月期 1,180,43667,78931,271
2005年3月期 1,185,14180,52443,349
2006年3月期 1,213,88170,72221,024 経営統合の提案はこの期の決算発表をはさんで行われた
2007年3月期 1,265,73564,11017,150 公開買付けを実施した期。取得はなく、北越製紙の売上高は加わっていない
2008年3月期 1,318,38038,06411,768
2009年3月期 1,267,12928,751△6,324 金融危機による需要減で当期純損益が赤字に転じた
2010年3月期 1,147,32264,71424,886
2011年3月期 1,180,13160,24524,619
2012年3月期 1,212,91248,37522,177 第88期。TOBから5期を経ても売上高は1兆2,000億円台にとどまった
連結売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:王子製紙 有価証券報告書 第82期・第83期・第88期(最近5連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

同意なき買収への対応2006年北越コーポレーション同業最大手からの敵対的買収提案をはねのけた自主独立の堅持業界再編下における自主独立の維持
2019年コクヨ議決権45.05%までの取得と、子会社化を断念しての全株譲渡筆記具事業の獲得と業界再編の主導権
2024年AZ-COM丸和ホールディングス低温食品物流の取り込みを狙った同意なき買付けと、下限に届かなかった応募低温食品物流事業の取り込みと同意なき買収という手法の選択
2025年ニデック同意なき買収提案という手段の選択と、実現に至らぬままの取り下げM&Aによる事業拡大と同意なき買収の手法
2026年デンソーパワー半導体の垂直統合をめざした株式取得提案と、その取り下げ車載パワー半導体の内製化と垂直統合
破談と白紙撤回1985年ミネベアミツミ試みと、買収される側に回ったコングロマリット戦略買収による多角化と敵対的M&A
2007年ファーストリテイリング米高級百貨店への買収提示と、その取り下げによる海外拡張の見送り高級ゾーンへの事業領域拡大とクロスボーダーM&Aの規律
2019年日本触媒最終契約まで結びながら実現しなかった共同株式移転による経営統合三洋化成工業との経営統合構想とその破談
2019年富士フイルム持ちかけた買収構想の破談と、その後に選んだ持分の全量取得合弁の解消と経営権の掌握
2025年ホンダ経営の一体化構想へ踏み込みながら二カ月弱で引き返した判断規模の追求と自主独立路線の相克
参考文献
出典・参考
  • 北越製紙 有価証券報告書「第169期(2007年3月期)」
  • 北越製紙 有価証券報告書「第170期(2008年3月期)」
  • 王子製紙 有価証券報告書「第83期(2007年3月期)」
  • 王子製紙 有価証券報告書「第82期(2006年3月期)・第88期(2012年3月期)」

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