牧野フライスへのTOB撤回(2024年・ニデックの決断)

更新:
論点 同意なき買収提案を貫くか
ニデック:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
同意なき買収提案という手段の選択と、実現に至らぬままの取り下げ

何をなぜ決めたか:同意なき買収提案という手段の選択と、実現に至らぬままの取り下げ

概要

2024年12月27日、工作機械大手の牧野フライス製作所へ、事前の協議を経ないまま買収提案が届いた。牧野は翌2025年1月10日に特別委員会を設置し、提案内容の評価と代替案の模索を始めた。公開買付けは成立せず、牧野は同年6月3日、別の買い手であるMMホールディングスによる非公開化を前提とした公開買付けへ賛同を表明した。

ニデックが2025年3月末に保有する牧野株は100株で、保有の目的は、株主名簿の閲覧請求をはじめとする株主権を将来行使できる余地を残しておくことにある。

背景

工作機械は買収を重ねて築いた新領域である。2021年8月に高精度・高効率の歯車加工技術を持つ三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)を買収して参入し、2022年2月にマシニングセンタの老舗であるOKK(現ニデックオーケーケー)、2023年2月に横中ぐり盤の世界トップメーカーであるPAMA、2023年11月に旋盤の専門メーカーであるTAKISAWAを取得した。マシニングセンタ・旋盤・歯車機械・大型汎用工作機械が揃い、2030年度までにグローバルNo.1の総合工作機械メーカーとなることを目指していた。金型加工で世界有数の牧野フライスは、その最後の一角を埋める相手だった。

内容

牧野の株価純資産倍率は長年1倍を下回り、企業価値向上に向けた財務目標の設定やキャッシュアロケーションの開示を進めていたものの、提案を受けた時点でも1倍には届いていなかった。突然の買収提案で不安定な状態に置かれ、株主・顧客・サプライヤ・従業員に心配をかけたことを、牧野の経営陣は深く反省していると記した。牧野は2025年3月期に公開買付関連費用1,312百万円を特別損失へ計上している。

含意

ニデックの有価証券報告書・事業報告・コーポレート・ガバナンスに関する報告書に、この提案の記載はない。2023年のTAKISAWAが企業結合として条件まで開示されたのと対照的に、成立しなかった買付けは定期開示に痕跡を残さなかった。牧野を迎えたMMホールディングスの公開買付けも、2026年4月に外為法に基づく中止勧告を受けて実施されないまま終わっている。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

  • 永守重信:代表取締役
  • 小部博志:会長
  • 山田文:社外取締役(監査等委員)
  • 酒井貴子:社外取締役
  • 佐藤慎一:社外取締役
  • 小松弥生:社外取締役
  • 豊島ひろ江:社外取締役(監査等委員)
  • 岸田光哉:社長執行役員
  • 梅田邦夫:社外取締役(監査等委員)
  • 村上和也:取締役(監査等委員・常勤)
  • 落合裕之:取締役(監査等委員・常勤)
考察:速さを優先して獲得を狙った案件が、定期開示に残さなかったもの
考察

考察:速さを優先して獲得を狙った案件が、定期開示に残さなかったもの

工作機械を2030年度に世界首位へ押し上げるという目標から逆算すれば、金型加工で世界有数の相手を短期で取り込む選択には筋が通っている。三菱重工工作機械からTAKISAWAまで4件を2年余りで重ねた速度の延長線上に、この提案は置かれていた。だがTAKISAWAが企業結合として取得原価まで開示されたのに対し、牧野の件は有価証券報告書にも事業報告にも記載が残らなかった。成立しなかった買付けは制度上の開示義務を伴わず、会社が何をいくらで獲得しようとしたのかは、自社の公表資料からは辿れない。

もっとも、動いた痕跡が消えたわけではない。対象会社は特別委員会の設置から企業価値向上策の練り直しまでを迫られ、公開買付関連費用13億円を特別損失に積んだうえで、別の買い手による非公開化へ向かった。その買付けも外為法に基づく中止勧告で実施されず、牧野は上場を保ったまま自力での計画に戻っている。同じ2025年にはグループの会計不正が表面化し、拡大を支えてきた業績至上の文化そのものが問われた。速さで版図を広げる経営が、どこまで持続できるのか。牧野をめぐる半年は、その問いを早い段階で映し出した一幕であったと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

数字で見る

図と表

ニデック:機械事業セグメントの推移

外部顧客に対する売上高(百万円)セグメント損益(百万円)
ニデック:機械事業セグメントの推移
(百万円) 外部顧客に対する売上高セグメント損益 備考
2023年3月期 161,1858,969 第51期有報の前期比較列。区分変更後に組み替えた数値
2024年3月期 204,38828,353 2023年11月にTAKISAWAを取得。損益は第51期有報では29,296
2025年3月期 213,38617,828 牧野フライスへ提案した期。工作機械関連各社の生産体制集約等の費用で減益
出所:ニデック 有価証券報告書 第51期(2024年3月期)・第52期(2025年3月期)【セグメント情報】
出所:ニデック 有価証券報告書 第51期(2024年3月期)・第52期(2025年3月期)【セグメント情報】

ニデック:連結業績の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
ニデック:連結業績の推移
(百万円) 売上高営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2020年3月期 1,534,800108,55858,459
2021年3月期 1,618,064159,970121,945
2022年3月期 1,918,174170,374135,759
2023年3月期 2,230,02789,92336,982 第50期有報の訂正報告書(2024年5月24日提出)を反映した後の数値
2024年3月期 2,347,159161,856124,455
2025年3月期 2,607,813238,116164,365 監査意見不表明。会計不正の調査で虚偽表示が識別されれば訂正されうる
出所:ニデック 有価証券報告書 第47〜52期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)
出所:ニデック 有価証券報告書 第47〜52期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

公開買付けの経過と、その後

公開買付けの経過と、その後
科目 概要 備考
買収提案の受領 2024年12月27日 対象会社側の記述。事前の協議を経ない提案だった
対象会社の特別委員会 2025年1月10日に設置 提案内容の評価と代替案の模索を開始した
買付価格・買付予定数 会社の公表資料に記載なし 有価証券報告書・事業報告・コーポレート・ガバナンスに関する報告書に本件の記載がない
中止の決議日と理由 会社の公表資料に記載なし 同上。違約金の有無を含め、定期開示から確認できるものはない
対象会社が負担した費用 1,312百万円 牧野フライス製作所の2025年3月期の特別損失「公開買付関連費用」。支払額は378百万円
保有する対象会社株式 100株 2025年3月末。株主名簿の閲覧請求等の権利行使の可能性を確保する目的。計上額1百万円
対象会社のその後 2025年6月3日に別の買い手へ賛同 MMホールディングスによる非公開化を前提とした公開買付契約を締結した
その公開買付けの帰結 2026年4月30日に契約を合意解約 外為法第27条第5項に基づく中止勧告を受け、公開買付けは実施されなかった
出所:牧野フライス製作所 有価証券報告書 第86期(2025年3月期)【重要な契約等】【連結損益計算書】・第87期(2026年3月期)【重要な後発事象】、MAKINO Report 2025/ニデック 有価証券報告書 第52期(2025年3月期)【株式の保有状況】
出所:牧野フライス製作所 有価証券報告書 第86期(2025年3月期)【重要な契約等】【連結損益計算書】・第87期(2026年3月期)【重要な後発事象】、MAKINO Report 2025/ニデック 有価証券報告書 第52期(2025年3月期)【株式の保有状況】
当時の取締役 11名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

  • 永守重信:代表取締役
  • 小部博志:会長
  • 山田文:社外取締役(監査等委員)
  • 酒井貴子:社外取締役
  • 佐藤慎一:社外取締役
  • 小松弥生:社外取締役
  • 豊島ひろ江:社外取締役(監査等委員)
  • 岸田光哉:社長執行役員
  • 梅田邦夫:社外取締役(監査等委員)
  • 村上和也:取締役(監査等委員・常勤)
  • 落合裕之:取締役(監査等委員・常勤)
参考文献

参考文献

参考
  • 牧野フライス製作所 統合報告書「MAKINO Report 2025」
  • 牧野フライス製作所 有価証券報告書「第86期(2025年3月期)【重要な契約等】【連結損益計算書】」
  • 牧野フライス製作所 有価証券報告書「第87期(2026年3月期)【重要な後発事象】」
  • ニデック 有価証券報告書「第52期(2025年3月期)【株式の保有状況】」

次に読む決断

免責事項およびポリシー