富士フイルム 富士ゼロックス完全子会社化 持ちかけた買収構想の破談と、その後に選んだ持分の全量取得
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2018年1月、富士フイルムホールディングスは、米ゼロックスが合弁会社の富士ゼロックスを完全子会社としたうえで、その第三者割当増資を引き受けてゼロックス株式の50.1%を取得する契約を締結した。しかし同年5月に相手方から契約終了の通知を受け、統合構想は実現しなかった。2019年11月、富士フイルムはゼロックスが保有する富士ゼロックス株25%を239,633百万円で取得して合弁契約を解消し、完全子会社とした経営判断。既に75%を持つ子会社の追加取得であり、企業結合ではなく資本取引として処理された。
- 背景
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富士ゼロックスは、1962年2月に富士写真フイルムと英国ランクゼロックス社が折半出資で設立した日米合弁である。2001年3月に富士写真フイルムが発行済株式の25%を追加取得して持分を75%とし、連結子会社とした。事業はゼロックスとのゼログラフィー製品の技術・商標クロスライセンスのうえに成り立ち、この契約が続くかぎり富士フイルムのブランドで世界へ出ることはできなかった。
- 内容
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2018年1月31日の取締役会で統合の契約締結を決議したが、対価の金額は有報にも決算説明会資料にも記載がない。同年5月13日、ゼロックスは富士ゼロックスの監査済み決算が期限までに提出されなかったことなどを理由に契約の終了を通知し、大株主のアイカーン氏・ディーソン氏との新たな合意へ移った。富士フイルムは6月18日、ゼロックスに損害賠償請求訴訟を提起した。終了通知の5日後に開いた2017年度の決算説明会でも、統合構想にも契約の終了にも触れず、富士ゼロックスについては1万人の人員削減を含む構造改革の進捗だけを説明している。
- 含意
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世界規模の統合は実現しなかった。富士フイルムは2019年11月8日に富士ゼロックス株25%を取得して合弁契約を解消し、戦略の自由度と意思決定のスピードを上げることを狙いに完全子会社とした。訴訟は取り下げ、製品供給契約は改定のうえ残した。会社は完全子会社化を、意思決定の迅速化とグループ内のシナジー創出につながる基盤と位置づけている。非支配持分へ配分していた利益が消えたことは、2021年3月期の過去最高益と目標だったROE8%超の達成に寄与した。2021年3月31日の技術契約終了で富士フイルムブランドでの世界展開が可能となり、翌4月に社名を富士フイルムビジネスイノベーションへ改めて、販売地域とビジネス領域は大きく広がった。
いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
買収できなかった本体と、取得した残りの25%
この判断の核心は、一つの製品群を日米で分けて持つという合弁の仕組みそのものに、富士フイルムが手を入れた点にある。当初めざしたのは、ゼロックスの過半の株式を握って二つの会社を一つに統合する世界規模の統合であった。それが相手方からの契約終了の通知で消えたとき、富士フイルムは構想を捨てず、対象を富士ゼロックスの残り25%だけに絞り直した。買えなかったのは欧米のゼロックス本体であり、取得したのは、半世紀以上分かち合ってきた富士ゼロックスの全株式であった。
規模を一気に広げる統合は逃したが、富士フイルムは合弁という相手のいる経営から、自社だけで決められる経営へと立ち位置を移した。完全子会社化の狙いに挙げたのも、戦略の自由度と意思決定の速さである。技術契約の終了とともにゼロックスの名から離れ、自前のブランドで世界へ出る立場を得たのは、その延長線上にある。統合の不成立を、合弁の解消という次善の一手で経営の自由へ組み替えたところに、縮む市場のなかで祖業と決別してきた富士フイルムらしさがうかがえる。1962年に始まった日米の協業は、こうして富士フイルム一社の事業として新しい段階に入った。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
富士ゼロックス完全子会社化の条件
富士ゼロックス完全子会社化の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 買収構想の契約締結日 | 2018年1月31日 | 同日の取締役会で決議。第123期以降の有報に本契約の記載はない |
| 買収構想で取得予定だった持分 | ゼロックス株式の50.1% | ゼロックスが富士ゼロックスを完全子会社化した後、第三者割当増資を引き受ける方式 |
| 取得した持分比率 | 25% | 富士ゼロックス㈱の発行済株式総数の25%。取得前の保有は75%で既に連結子会社 |
| 株式譲渡契約の締結日 | 2019年11月5日 | ゼロックスが保有する富士ゼロックス㈱の全株式を取得する契約 |
| 株式の取得日 | 2019年11月8日 | 同日付で富士ゼロックス㈱の非支配持分はなくなった |
| 取得の法的形式 | 現金を対価とする株式取得 | 支配を維持したままの追加取得で、企業結合ではなく資本取引として処理された |
| 取得価額 | 239,633百万円 | ゼロックス及びその子会社が保有する富士ゼロックス㈱全株式の取得価額 |
| ゼロックスへの支払総額 | 2,300百万米ドル | 富士ゼロックス株式25%とXerox International Partners持分51%の対価 |
| 併せて取得した持分 | Xerox International Partners の51% | 富士ゼロックスとゼロックスの合弁会社。ゼロックスが保有していた持分 |
| ゼロックスブランド使用の対価 | 100百万米ドル | 技術契約終了後のブランド移行期間を2年間に延長することへの対価 |
| 技術・商標クロスライセンス契約の期間 | 2016年4月1日から2021年3月31日まで | ゼログラフィー製品等の技術・商標の相互供与。第124期はこの終了で自社ブランドの世界展開が可能になると記す |
| 取得後の議決権比率 | 100% | 1962年の設立以来続いた日米合弁は解消された |
| 合弁契約 | 解消 | 富士ゼロックスとゼロックスの製品供給契約は改定のうえ存続 |
| 損害賠償請求訴訟 | 取り下げ | 当社が2018年6月18日に提起したゼロックスに対する訴訟 |
| 営業権(のれん) | 計上なし | 資本取引のため発生せず。同期のドキュメント部門の営業権取得額は12,002百万円 |
| 資本剰余金の増減 | △56,016百万円 | 連結資本勘定計算書「非支配持分との資本取引及びその他」。期末残高はゼロ |
| 非支配持分の増減 | △166,360百万円 | 同じ行。資本合計は240,385百万円減少した |
| 財務活動による支出 | △241,207百万円 | 連結CF「非支配持分との資本取引その他」。前期は△78,551百万円 |
| 社名変更の日 | 2021年4月1日 | 富士ゼロックス㈱が富士フイルムビジネスイノベーション㈱へ商号変更 |
出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第122期(2018年3月期)・第124期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】(1)相互に技術を供与している契約・(4)株式取得に関する契約、第125期(2021年3月期)連結財務諸表注記
ドキュメントソリューション事業の業績(報告セグメント)
富士フイルム:ドキュメントソリューション事業の業績(報告セグメント)
| (百万円) | 売上高 | 営業利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2015年3月期 | 1,178,031 | 101,345 | 報告セグメントは「ドキュメントソリューション」。第120期の前連結会計年度 |
| 2016年3月期 | 1,174,122 | 94,887 | |
| 2017年3月期 | 1,080,876 | 82,683 | 第122期の前連結会計年度 |
| 2018年3月期 | 1,047,802 | 13,980 | 第123期で年金費用の組替により営業利益は8,414へ修正された |
| 2019年3月期 | 1,005,609 | 96,366 | |
| 2020年3月期 | 958,329 | 105,045 | 2019年11月8日に富士ゼロックスを完全子会社化した期 |
| 2021年3月期 | 854,690 | 73,284 | 「ドキュメントソリューション」として開示された最後の期 |
| 2021年3月期 | 761,706 | 73,086 | 第126期の遡及値。プロダクション・サービスをマテリアルズへ移した後の区分 |
| 2022年3月期 | 763,549 | 57,914 | 「ビジネスイノベーション」へ改称した後の最初の期 |
| 2023年3月期 | 838,080 | 69,491 | |
| 2024年3月期 | 826,136 | 70,750 | 第128期の開示。翌期にグラフィックコミュニケーションを受け入れる |
| 2024年3月期 | 1,157,750 | 67,425 | 第129期の遡及値。売上高はセグメント間取引消去後の金額に変わった |
| 2025年3月期 | 1,198,494 | 74,614 | 第129期。グラフィックコミュニケーションを受け入れた後の区分 |
出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第120〜129期(連結財務諸表注記 セグメント情報)
営業権と無形固定資産の推移
富士フイルム:営業権と無形固定資産の推移
| (百万円) | 営業権 | その他の無形固定資産 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2015年3月期 | 504,963 | 80,271 | 3,501,950 | 総資産は第121期【主要な経営指標等の推移】の組替後の数値 |
| 2016年3月期 | 506,870 | 86,249 | 3,311,970 | 第121期の前連結会計年度。第120期の当初開示の総資産は3,363,674 |
| 2017年3月期 | 499,833 | 76,448 | 3,533,189 | |
| 2018年3月期 | 591,568 | 127,137 | 3,492,940 | |
| 2019年3月期 | 655,508 | 145,013 | 3,414,692 | |
| 2020年3月期 | 687,155 | 142,071 | 3,321,692 | 25%取得は資本取引のため営業権は増えず。増加分は他の企業買収による |
| 2021年3月期 | 804,199 | 128,496 | 3,549,203 | |
| 2022年3月期 | 824,003 | 152,691 | 3,955,280 | |
| 2023年3月期 | 858,311 | 144,258 | 4,134,311 | |
| 2024年3月期 | 953,835 | 178,335 | 4,783,460 | |
| 2025年3月期 | 947,924 | 157,547 | 5,249,908 |
出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第120〜129期(連結貸借対照表・米国会計基準)
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- Xerox Corporation プレスリリース(2018年5月13日)「Xerox Terminates Transaction Agreement with Fujifilm and Enters into New Agreement with Carl Icahn and Darwin Deason」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第122期(2018年3月期)【経営上の重要な契約等】(4)株式取得に関する契約」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第124期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】(4)株式取得に関する契約」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第124期(2020年3月期)連結資本勘定計算書・連結キャッシュ・フロー計算書」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第124期(2020年3月期)連結財務諸表注記8「営業権及びその他の無形固定資産」」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第125期(2021年3月期)連結財務諸表注記「セグメント情報(3)主要顧客及びその他情報」」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第126期(2022年3月期)【沿革】・連結財務諸表注記「セグメント情報」」
- 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第129期(2025年3月期)連結財務諸表注記23「セグメント情報」」
- 富士フイルムホールディングス 決算説明会資料「2017年度決算説明会(2018年5月18日)・2019年3月期決算説明会(2019年5月8日)」
- 富士フイルムホールディングス 決算説明会資料「2020年3月期決算説明会(完全子会社化を実行した期)」
- 富士フイルムホールディングス 決算説明会資料「2021年3月期決算説明会(2021年5月12日)」
- 富士フイルムホールディングス 統合報告書「統合報告書2019」
- 富士フイルムホールディングス 統合報告書「統合報告書2021」
- 富士フイルムホールディングス 決算説明会 質疑応答「2024年3月期第2四半期(2023年11月8日)・2025年3月期第2四半期(2024年11月7日)」
- 富士フイルムホールディングス 決算説明会 質疑応答「2025年3月期第3四半期(2025年2月6日)・2025年3月期通期(2025年5月8日)」