富士フイルム 「アスタリフト」発売 写真技術の化粧品への転用と、スキンケアブランドによる新市場への進出

更新:

時期 2007年
当時の社長 古森重隆
論点 技術転用と多角化
何をなぜ決めたか
概要

2008年3月期、エイジングケアを目的としたスキンケアシリーズ「ASTALIFT(アスタリフト)」を発売した。前の期にあたる2007年3月期に機能性スキンケア化粧品「エフスクエアアイ」と機能性体内ケア食品「エフキューブアイ」を開発してヘルスケア分野へ参入しており、アスタリフトはその延長に置いた本格ブランドである。

同じ期にマルチサプリメント「メタバリア」「オキシバリア」も発売し、肌と体内の両面からエイジングケアを扱う品揃えとした。事業はインフォメーション ソリューション部門のライフサイエンス事業に属する。

背景

祖業を抱えるイメージング ソリューション部門は、2005年3月期に742,993百万円あった売上高が2008年3月期には547,066百万円へ縮み、2006年3月期には75,713百万円の営業損失を計上していた。中期経営計画VISION75のもとで「第二の創業」を掲げ、高機能材料、メディカルシステム・ライフサイエンス、グラフィックシステム、ドキュメント、光学デバイスを重点事業分野と位置付けて、成長戦略へ資源を振り向ける途上にあった。

内容

長年にわたり蓄積してきた多彩なコア技術は深く人間の生命現象と関わっており、ヘルスケア分野でも効果的な形で応用できる——化粧品への参入は、この見立ての上に立っている。2006年4月には神奈川県足柄上郡に富士フイルム先進研究所を開所し、異分野の研究者が協働して差別化技術を生む体制を構築した。

インフォメーション ソリューション部門の研究開発費は2007年3月期の76,980百万円から2008年3月期に93,432百万円へ増え、同じ期のイメージング ソリューション部門は16,933百万円まで絞られている。

含意

化粧品は発売の翌期から数字に出た。2009年3月期は販売チャネルの拡充とテレビコマーシャルの効果でアスタリフトシリーズ等の化粧品を中心としたヘルスケア製品の販売が大幅に増え、2010年3月期もアスタリフトとサプリメント「メタバリア」等の販売が大幅に増加した。2008年3月には富山化学工業を子会社として医薬品事業へ本格参入し、「診断」「予防」の領域に「治療」を加えている。化粧品は、写真で培った技術をヘルスケアへ展開する筋道の入り口となった。

いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
筆者の見解

消えゆく技術を、別の市場の資産に読み替える

この判断は、化粧品という商品を一つ増やしたことではなく、研究開発の配分をどこへ寄せるかを決めたことだったと思われる。イメージング ソリューション部門の研究開発費は2006年3月期の32,678百万円から2008年3月期に16,933百万円へ半減し、同じ期にインフォメーション ソリューション部門は93,432百万円へ膨らんだ。写真フィルムとスキンケアは店頭で隣り合うことのない別世界の商品だが、蓄積したコア技術が人間の生命現象と関わるという読みに立てば、両者は同じ資産の別の出口になる。アスタリフトは、その読みを製品の形で世に問うたものだった。

もっとも、化学メーカーが消費財で成功を約束されていたわけではない。専業大手の競う成熟市場に技術の物語だけで挑めば埋もれる恐れも小さくなく、有価証券報告書には化粧品事業そのものに投じた金額も、掲げた売上目標も出てこない。それでも発売の翌期には販売チャネルの拡充とテレビコマーシャルの効果で販売が大幅に増え、2008年3月の富山化学工業の子会社化と合わせて、ヘルスケアは部門の成長事業として名指しされるようになった。事業の寿命が尽きたときに何が残せるか——その問いに、この会社は技術の再配置で答えたのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
化粧品事業への参入の条件

化粧品事業への参入の条件

科目 概要 備考
ヘルスケア分野への参入 2007年3月期 機能性スキンケア化粧品「エフスクエアアイ」と機能性体内ケア食品「エフキューブアイ」を開発した
発売した製品 スキンケアシリーズ「ASTALIFT(アスタリフト)」 2008年3月期に発売。併せてマルチサプリメント「メタバリア」「オキシバリア」も出した
事業の位置づけ インフォメーション ソリューション部門 ライフサイエンス事業 部門の2008年3月期の売上高は1,108,134百万円、営業利益は127,432百万円
部門の研究開発費 93,432百万円(2008年3月期) 前の期は76,980百万円。化粧品に投じた金額そのものは開示されていない
研究開発の拠点 富士フイルム先進研究所(神奈川県足柄上郡) 2006年4月開所。2007年3月期末の帳簿価額は29,991百万円
掲げた方針 中期経営計画VISION75(2007) 「第二の創業」を掲げ、メディカルシステム・ライフサイエンスを重点事業分野に据えた

出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第111期(2007年3月期)・第112期(2008年3月期)【研究開発活動】【対処すべき課題】【設備の状況】

事業部門別の売上高

富士フイルム:事業部門別の売上高

(百万円) インフォメーション部門 売上高イメージング部門 売上高 備考
2005年3月期 768,680742,993 売上高は外部顧客に対するもの。セグメント間取引を含まない
2006年3月期 877,366689,458 イメージング部門は75,713百万円の営業損失。構造改革の途上にあった
2007年3月期 1,026,085605,383 機能性スキンケア化粧品でヘルスケア分野へ参入した期
2008年3月期 1,108,134547,066 「ASTALIFT」を発売。インフォメーション部門の営業利益は127,432百万円
2009年3月期 946,156410,399 化粧品は販売チャネルの拡充とテレビコマーシャルで販売が大幅に増加
2010年3月期 900,844345,489 アスタリフトとサプリメント「メタバリア」等の販売が大幅に増加
2011年3月期 917,391325,804 3月にバイオ医薬品の製造受託へ参入し、医療の領域を広げた
2012年3月期 887,758322,706 9月に機能性化粧品「アスタリフト」のベースメイクシリーズを投入
2013年3月期 907,713294,817 翌期の区分変更で、2014年3月期の有報の前期欄は856,521に組み替えられた
インフォメーション ソリューション部門の売上高
インフォメーション部門 売上高(百万円)

出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第110期〜第117期【セグメント情報】(連結・米国会計基準)

事業部門別の研究開発費

富士フイルム:事業部門別の研究開発費

(百万円) インフォメーション部門イメージング部門ドキュメント部門 備考
2006年3月期 67,92132,67881,555 全社の研究開発費は182,154百万円。先進研究所を建設していた期
2007年3月期 76,98021,55078,474 全社では177,004百万円。ヘルスケア分野へ参入した期にあたる
2008年3月期 93,43216,93377,224 全社では187,589百万円で、売上高に対する比率は6.6%
2009年3月期 96,35614,31080,410 インフォメーション部門は3期で67,921から96,356へ増えた
2010年3月期 87,74113,59173,788 構造改革で研究開発の効率化と重点分野へのシフトを進めた期
2011年3月期 69,7087,55565,401 イメージング部門は5期前の4分の1以下に絞られた
2012年3月期 76,8637,16864,116 医薬品事業とライフサイエンス事業が部門の成長事業となった
2013年3月期 70,9556,98363,386 9月にリニューアルした機能性化粧品「アスタリフト」を投入した期
インフォメーション ソリューション部門の研究開発費
インフォメーション部門(百万円)

出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第110期〜第117期【研究開発活動】(連結・米国会計基準)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第111期(2007年3月期)【研究開発活動】【対処すべき課題】【設備の状況】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第112期(2008年3月期)【研究開発活動】【セグメント情報】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第113期(2009年3月期)【業績等の概要】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第114期(2010年3月期)【業績等の概要】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第117期(2013年3月期)【セグメント情報】」

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