富士フイルム 富山化学工業の買収 買収を足がかりにした医薬事業への進出

更新:

時期 2008年2月
当時の社長 古森重隆
論点 医療事業の再定義と医薬への参入
何をなぜ決めたか
概要

2008年、富士フイルムが医薬品メーカーの富山化学工業を大正製薬と共同で買収し、増資の引受けと株式公開買付けで子会社に収めた経営判断。普通株式の66%を総額978億円で取得し、画像診断(診断)に偏っていた医療事業を医薬品(治療)へ広げ、ヘルスケアを全社の主力事業に据える転換となった。

背景

写真フィルムの国内需要がデジタル化で消えるなか、富士フイルムは祖業に依存しない事業構成への転換を進めていた。医療事業は1983年のFCR以来の画像診断に集中し、病を治す医薬品の領域を持たなかった。

内容

2008年2月13日、富士フイルム・大正製薬・富山化学工業の三社が資本提携と業務提携で基本合意した。富山化学の増資引受けと株式公開買付けを経て、富士フイルムが議決権の66%、大正製薬が34%を保有する枠組みとなり、富士フイルムの取得総額は97,858百万円に達した。

含意

異業種の化学メーカーが製薬会社の過半を共同で握る非連続な判断だった。取り込んだ創薬パイプラインから抗ウイルス薬アビガンが生まれ、その後のバイオ医薬品の製造受託や画像診断機器の買収へと連なるヘルスケア拡大の中核となった。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

消える祖業を、次の医療へどう組み替えるか

この買収が際立つのは、財務の危機に迫られた末の一手ではない点にある。まだ本業が利益を出しているうちに、富士フイルムは写真という一本足の消失を見越し、医療の裾野を治療まで広げた。画像診断の会社が製薬会社の過半を共同で握るのは、技術のつながりが細く、審査や開発の作法も異なる非連続な賭けだった。診断で像を撮る力と、薬で病を治す力は、同じ医療でも要る資源が違う。富士フイルムはその溝を、自前の育成ではなく買収で一気に越えた。

買収から十数年を経て、ヘルスケアは富士フイルムの主要な収益源の一つに育った。抗ウイルス薬アビガンの誕生、バイオ医薬品の製造受託、日立からの画像診断事業の取り込みは、いずれも富山化学の買収でひとつ手前に置かれた石だった。もっとも、創薬は当たり外れの大きい事業で、買った時点で成否が約束されていたわけではない。消えゆく祖業の技術と資金を次の医療へどう組み替えるか——富山化学の買収は、その問いに一つの答えを出した判断として残る。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 富山化学工業㈱ 医薬品等の製造及び販売会社。東京都新宿区、資本金37,400百万円
取得の法的形式 増資の引受け及び株式公開買付け 会計処理は財務会計基準書第141号にもとづくパーチェス法。米国会計基準
基本合意の締結日 2008年2月13日 大正製薬㈱・富山化学工業㈱との資本提携と三社間の業務提携の基本合意
連結子会社とした時期 2008年3月 沿革に記された時期。日付までの記載はない
取得した普通株式の比率 66% 基本合意で当社66%・大正製薬㈱34%の議決権割合と定めた
取得の総額 97,858百万円 取得した純資産に等しい。当期の事業買収2件の投資総額は98,973百万円
議決権比率(2008年3月期末) 68.1% 翌期末は66.0%。関係会社の状況に記載された当社の議決権比率
受け入れた営業権及び無形資産 116,112百万円 買収時の暫定的な配分。2008年10月に確定し重要な変更はなかった
受け入れた有形固定資産 20,923百万円 流動資産は16,145百万円、投資及びその他は16,979百万円
引き受けた固定負債 42,947百万円 流動負債は12,866百万円。少数株主持分は16,488百万円
当期に認識した営業権 71,768百万円 本件を含む当期2件の合計。技術関連43,178・販売顧客関連3,745
連結損益への反映 2009年3月期から 買収が当期末近くのため、2008年3月期は貸借対照表だけに反映された
業績への影響 プロフォーマ情報は開示せず 個別でも合計でも経営成績に重要な影響を与えないため
買収の目的 診断・予防から治療への領域拡大 メディカルシステム・ライフサイエンス事業の領域を治療にまで広げる
完全子会社化 2018年7月31日 大正製薬ホールディングス㈱の保有する全株式を取得。合意は5月14日
統合後の社名 富士フイルム富山化学㈱ 2018年10月1日に富士フイルムRIファーマ㈱と統合して発足した

出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第112期(2008年3月期)・第113期(2009年3月期)【事業買収】【経営上の重要な契約等】【沿革】【関係会社の状況】

営業権と事業買収の投資総額の推移

富士フイルム:営業権と事業買収の投資総額の推移

(百万円) 営業権事業買収の投資総額総資産 備考
2003年3月期 −−2,958,317 第107期。総資産のみ主要な経営指標等の推移から採った
2004年3月期 −−3,023,509 第108期。有価証券報告書が手元になく営業権を照合できていない
2005年3月期 227,77558,0102,983,457 第109期。事業買収は11件。対価は現金及び自己株式の譲渡による
2006年3月期 233,54744,0533,027,491 事業買収は29件。投資総額には自己株式の公正価値を含む
2007年3月期 257,86649,7433,319,102 事業買収は7件。第一ラジオアイソトープ研究所などを取得した
2008年3月期 326,77798,9733,266,384 富山化学工業の普通株式66%を97,858で取得。事業買収は2件
2009年3月期 328,9586,6352,896,637 事業買収は7件。ペルセウスプロテオミクスを54.7%追加取得
2010年3月期 325,8593582,827,428 重要な事業買収はない。事業買収は1件
2011年3月期 344,44432,4972,708,841 MSD BiologicsとDiosynth RTPを取得しバイオCDMOへ参入した
2012年3月期 393,54161,0132,739,665 携帯型超音波診断装置のSonoSite社を59,163で完全子会社化
2013年3月期 412,24731,2153,035,901 豪州Salmat社の事業を取得。医薬品事業の追加取得はない
営業権
営業権(百万円)

出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第110期〜第117期【事業買収】【連結貸借対照表】(連結・米国会計基準) / 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第110期【主要な経営指標等の推移】

インフォメーション ソリューション部門の売上高と損益

富士フイルム:インフォメーション ソリューション部門の売上高と損益

(百万円) 部門売上高セグメント営業利益 備考
2005年3月期 768,68071,089 売上高は外部顧客に対するもの。セグメント間取引を含まない
2006年3月期 877,36679,056 医療用の機器・材料、印刷材料、液晶用材料などを含む部門
2007年3月期 1,026,08595,170 フラットパネルディスプレイ材料の伸長で売上が1兆円を超えた
2008年3月期 1,108,134127,432 富山化学工業はこの部門に属する。同社の損益は翌期から反映
2009年3月期 946,15620,351 富山化学工業の損益を通年で取り込んだ最初の期
2010年3月期 900,844△2,627 部門は営業損失。診療報酬改定と液晶材料の需要減が重なった
2011年3月期 917,391103,512 3月にバイオ医薬品の製造受託へ参入し、医療の領域を広げた
2012年3月期 887,75867,446 SonoSite社の取得で超音波診断へ進んだ
2013年3月期 907,71374,343 医薬品事業の売上増加で部門の営業利益は前年度比10.2%増となった
部門売上高と営業利益率
部門売上高(百万円)セグメント営業利益率(%)

出所:富士フイルムホールディングス 有価証券報告書 第110期〜第117期【セグメント情報】(連結・米国会計基準)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 発明協会「戦後日本のイノベーション100選」X線フィルムのデジタル化
  • 日経ビジネス 1992年7月20日号
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第112期(2008年3月期)【事業買収】【経営上の重要な契約等】【沿革】【関係会社の状況】【対処すべき課題】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第113期(2009年3月期)【事業買収】【関係会社の状況】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第118期(2014年3月期)【業績等の概要】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第122期(2018年3月期)【重要な後発事象】【経営上の重要な契約等】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第123期(2019年3月期)【企業結合等関係】【沿革】」
  • 富士フイルムホールディングス 有価証券報告書「第110期〜第117期【事業買収】【連結貸借対照表】【セグメント情報】【主要な経営指標等の推移】」
  • 富士フイルムホールディングス 統合報告書「統合報告書2025」

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