ボーダフォン日本法人買収(2006年・ソフトバンクの決断)

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論点 携帯参入は自前か巨額買収か
ソフトバンク:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
1兆6,935億円を投じたLBOによる携帯電話事業への参入

何をなぜ決めたか:1兆6,935億円を投じたLBOによる携帯電話事業への参入

概要

2006年3月17日、ソフトバンクとBBモバイルは英ボーダフォン側3社との間で、国内3位の携帯電話事業者ボーダフォン株式会社の買収に合意した。発表時の株式価値は約1.75兆円と算定され、4月27日、BBモバイルは公開買付けとメトロフォン・サービスの取得により発行済株式総数の99.54%を1兆6,935億円で取得した。

背景

ソフトバンクはBBモバイルを通じて移動体通信事業への新規参入に向けた研究開発に取り組んでいたが、その業績はなおブロードバンド・インフラ事業に含まれる段階にあった。一方のボーダフォン日本法人は営業収益が2003年3月期を頂点に落ち続け、2006年3月末の3G携帯電話契約数は300万を超えたところであった。

内容

買収資金は、7金融機関を共同主幹事とする17金融機関からのブリッジファシリティー借入1兆1,660億円、ボーダフォン ビーヴィによる劣後ローン1,000億円と優先株式引受3,000億円、ヤフーの優先株式引受1,200億円、モバイルテックの普通株式引受2,000億円で組んだ。借入はノンリコースローンで、担保は取得したボーダフォン株式等とした。

含意

買収は2007年3月期の連結にのれん9,873億円を残し、償却期間は20年とされた。同年11月には事業証券化により1兆3,660億円を借り入れ、BBモバイルの買収借入を返済して最長13年の資金へ組み替えている。携帯電話の累計契約数は2011年3月末に2,540万件、年間純増数353万件で首位となった。

いつ何が起きたか 10件
考察:時間を買うという判断の型
考察

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この決断の芯は、参入の切符ではなく、すでに動いている網と顧客基盤をそのまま引き継いだ点にある。BBモバイルが払った1兆6,935億円のうち、ソフトバンク本体が直に出したのは子会社モバイルテックを通じた普通株式引受2,000億円で、残りは借入と、売り手である英ボーダフォン側やヤフーが引き受けた優先株式で賄われた。買った資産を担保に、その資産が生むキャッシュフローで返していく構えである。シェアを落としてなお安定した収入を生む携帯電話事業の性質が、この組み方を成り立たせたと推察される。

もっとも、借入の重さはすぐに数字へ表れた。自己資本比率は買収前の55.89%から翌期には30.47%へ低下している。買収の半年後、会社は事業証券化で1兆3,660億円を借り入れてBBモバイルの買収借入を返し、最長13年の資金へ組み替えた。その契約には、契約者数や修正EBITDAが基準を下回れば、貸主が設備投資の制限や取締役の選任にまで踏み込めるという条件が付いている。時間を対価で買った代わりに、会社はしばらくのあいだ経営の自由度を貸主に預けたのだといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

ソフトバンク:資本構成と設備投資の推移

総資産(百万円)純資産率(%)
ソフトバンク:資本構成と設備投資の推移
(百万円) 設備投資額総資産純資産 備考
2002年3月期 −1,856,335391,397 日本テレコムホールディングス連結。固定通信事業を含む
2003年3月期 −1,839,821466,036 ボーダフォンホールディングス連結。固定通信事業を含む
2004年3月期 −1,428,167361,539 2003年11月に日本テレコム㈱の全株式を売却し固定通信から離れた
2005年3月期 −1,364,393710,314 移動体通信のみの連結。自己資本比率は52.06%
2006年3月期 239,7841,355,807757,753 買収の合意は3月17日。自己資本比率55.89%。設備投資は取得ベース
2007年3月期 326,2072,966,893904,048 買収に伴う借入で総資産が2.2倍に。自己資本比率は30.47%へ低下した
2008年3月期 235,2873,297,906923,586
2009年3月期 192,7033,369,543951,003
2010年3月期 171,3603,408,1661,060,797
2011年3月期 339,4783,490,6121,235,383 基地局倍増計画の12万局を達成し、設備投資が再び3,000億円台へ
出所:ボーダフォン 有価証券報告書 第20期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【設備投資等の概要】 / ソフトバンクモバイル 有価証券報告書 第21期〜第25期(【主要な経営指標等の推移】【設備投資等の概要】)
出所:ボーダフォン 有価証券報告書 第20期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【設備投資等の概要】 / ソフトバンクモバイル 有価証券報告書 第21期〜第25期(【主要な経営指標等の推移】【設備投資等の概要】)

ソフトバンク:営業収益と利益の推移

営業収益(百万円)経常利益率(%)
ソフトバンク:営業収益と利益の推移
(百万円) 営業収益経常利益当期純利益 備考
2002年3月期 1,704,03974,030△65,969 固定通信を含む日本テレコムホールディングス連結
2003年3月期 1,796,915271,86979,502 営業収益はこの期が最高。固定通信を含む
2004年3月期 1,655,651181,208△100,042 固定通信の売却を挟む期。当期純損失1,000億円を計上した
2005年3月期 1,470,013153,367162,017
2006年3月期 1,467,57874,35349,492 3G携帯電話契約数は3月末に300万を突破。純増契約数は鈍化していた
2007年3月期 1,561,98295,370147,232 10月に料金プランを刷新し、1月にホワイトプランの受付を開始した
2008年3月期 1,631,27578,83319,683 3月末の累計契約数は1,858万件。年間純増数で首位となった
2009年3月期 1,579,106143,48627,620 3月末の累計契約数は2,063万件。年間純増数は204万件
2010年3月期 1,723,859252,336109,632 3月末の累計契約数は2,187万件。年間純増数は124万件
2011年3月期 1,971,169336,527174,625 3月末の累計契約数は2,540万件。年間純増数353万件で首位
出所:ボーダフォン 有価証券報告書 第20期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / ソフトバンクモバイル 有価証券報告書 第21期〜第25期(【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】)
出所:ボーダフォン 有価証券報告書 第20期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / ソフトバンクモバイル 有価証券報告書 第21期〜第25期(【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 ボーダフォン㈱ 国内3位の移動体通信事業会社。2005年3月期の連結売上高は1兆4,700億円
取得の法的形式 公開買付けによる株式の取得 売主はVodafone International Holdings B.V.ほか。対価は現金
公開買付期間 2006年4月4日〜4月24日 BBモバイルが4月3日開催の取締役会で公開買付けの開始を決議した
株式取得日 2006年4月27日 同日、メトロフォン・サービス㈱の全株式も取得し連結子会社とした
公開買付けで取得した比率 97.64% 普通株式5,299,814株。取得に要した金額は1兆6,612億円
取得後の議決権比率 99.54% メトロフォンが保有していた103,099株(1.90%)を含む
取得価額 1兆6,935億円 公開買付け1兆6,612億円と、メトロフォン株式の取得322億円の合計
合意時の株式価値 約1.75兆円 2006年3月17日の合意時点の算定額。約97.7%の取得を前提としていた
ブリッジファシリティー借入 1兆1,660億円 7金融機関を共同主幹事とする17金融機関。契約枠は総額1兆2,800億円
借入の利率 TIBOR+2.5〜3.5% 9月末までが+2.5%、12月末までが+3.0%、以降が+3.5%
借入期間 2006年4月27日〜2007年3月31日 約1年間。契約枠にはボーダフォンの運転資金枠1,000億円を含む
担保提供資産 取得したボーダフォン株式等 ノンリコースローンで、親会社のソフトバンクに返済義務が及ばない
劣後ローン 1,000億円 ボーダフォン ビーヴィから。利率5.0%、期間は2013年9月30日まで
優先株式の引受(売主側) 3,000億円 BBモバイルが発行し、ボーダフォン ビーヴィが引き受けた
優先株式の引受(ヤフー㈱) 1,200億円 ヤフーはうち800億円をシンジケートローンで調達(TIBOR+0.3%)
普通株式の引受(モバイルテック㈱) 2,000億円 ソフトバンクは先立ってモバイルテック株式2,008億円を引き受けた
BBモバイルの新株予約権 普通株式343,000株 無償発行。行使価額95,098円。行使期間は2013年4月1日から
新株予約権の行使条件 累積EBITDA 3兆3,500億円超 2006年4月から2013年3月までの累計。割当先は売主側245個とヤフー98個
のれん 987,348百万円 償却期間は20年。繰延税金資産の見直しで100,539百万円を遡及減額
完全子会社化 2006年8月 BBモバイルを完全親会社とする株式交換により、その100%子会社となった
借入の組み替え 1兆3,660億円 2006年11月30日、事業証券化でBBモバイルの借入から当社借入へ移した
買収の目的 モバイルブロードバンドの提供 国内3位の移動体通信事業会社の取得で、ユビキタス社会の実現へ前進する
出所:ソフトバンク 有価証券報告書 第26期(2006年3月期)【重要な後発事象】【業績等の概要】 / 第27期(2007年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】 / ソフトバンクモバイル 有価証券報告書 第21期(2007年3月期)【経営上の重要な契約等】
出所:ソフトバンク 有価証券報告書 第26期(2006年3月期)【重要な後発事象】【業績等の概要】 / 第27期(2007年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】 / ソフトバンクモバイル 有価証券報告書 第21期(2007年3月期)【経営上の重要な契約等】
参考文献

参考文献

参考

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