米OSIへの敵対的TOB(2010年・アステラス製薬の決断)

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論点 同意なき買付でがん領域へ進出するか
アステラス製薬:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
同意なき買付からの出発と、価格の引き上げによる合意への持ち込み

何をなぜ決めたか:同意なき買付からの出発と、価格の引き上げによる合意への持ち込み

概要

2010年、アステラス製薬が米OSIファーマシューティカルズへ同意を得ないまま株式公開買付けを仕掛けた経営判断。OSIの取締役会は提示額が自社の値打ちを下回るとして当初の提案を拒んだが、買付期間は米国東部時間の3月2日から6月7日まで続き、その途中の5月16日に1株当たり57.50米ドルで最終契約を締結した。6月8日に全株式を取得し、買付けに要した約40億米ドルは全額を手元資金で賄っている。

背景

第5期(2010年3月期)の有価証券報告書は、2009年8月に米国で主力製品である免疫抑制剤プログラフの後発医薬品が発売されたことを挙げ、経営環境は厳しい状況にあると記した。同期の中期経営計画VISION2015はグローバル・カテゴリー・リーダーの実現を掲げ、がん領域を重点疾患領域に位置づけて早期の事業基盤確立を進める方針を示していた。

内容

企業結合を行った主な理由は、米国においてトップクラスのがん領域事業を早期に立ち上げ、製品ポートフォリオ及び開発パイプラインを拡充することにあった。OSIが創製したがん治療剤Tarcevaの販売による早期の業績貢献も見込んでいる。取得原価は3,543百万ドル(2,947億円)で、うち2,815百万ドル(2,341億円)をのれん以外の無形固定資産に、1,107百万ドル(921億円)をのれんに配分した。

含意

取得原価の配分は、既発売・既承認の製品に1,683億円、仕掛研究開発に658億円を割り当てた。タルセバに係る権利の帳簿価額は2013年3月期末の1,209億円から2017年3月期末の447億円へ減り、2018年3月期以降は主要な無形資産に挙がらなくなる。仕掛研究開発のうちエルロチニブ(タルセバ)の適応拡大は、2013年3月期に肝細胞がん、2014年3月期に非小細胞肺がんのアジュバント療法で開発が中止された。

いつ何が起きたか 8件
考察:同意なき買収という選択
考察

考察:同意なき買収という選択

この判断の核心は、拒まれてもなお買いにいったという一点にある。有価証券報告書に残る買付期間は米国東部時間の2010年3月2日から6月7日までで、最終契約を締結したのはその途中の5月16日である。買付けを始めてから合意に至るまでの2か月半が、そのまま同意なき買収から友好的な買収へ転じるのに要した時間だった。買付価格は1株当たり57.50米ドル、要した資金は約40億米ドルで、借入を起こさず全額を手元資金で払っている。

買ったものの中身は、取得原価の配分にあらわれている。2,341億円の無形固定資産のうち1,683億円は既発売・既承認の製品、658億円は仕掛研究開発だった。タルセバに係る権利の帳簿価額は2013年3月期末の1,209億円から2017年3月期末の447億円へ減り、仕掛研究開発のうちエルロチニブの適応拡大は肝細胞がんと非小細胞肺がんのアジュバント療法で相次いで中止された。同意を得ずに買うという手段の是非は成立の一点では測れず、買った権利がどれだけの期間、収益を生み続けるかが後から答えを出す。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

アステラス製薬:のれんと無形資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)
アステラス製薬:のれんと無形資産の推移
(百万円) のれんのれん以外の無形資産総資産 備考
2009年3月期 26,37731,9841,348,446
2010年3月期 22,15940,6011,364,176
2011年3月期 101,255265,9231,335,091 OSIの取得でのれん92,106と無形固定資産234,067を計上
2012年3月期 94,192220,0861,400,629
2013年3月期 95,977198,8641,445,561
2014年3月期 116,766280,1201,653,108 IFRSを適用。のれんの償却をやめ、毎期の減損テストに切り替えた
2015年3月期 136,337295,8441,793,578
2016年3月期 150,660339,2021,799,338
出所:アステラス製薬 有価証券報告書 第5〜11期(連結貸借対照表・連結財政状態計算書)
出所:アステラス製薬 有価証券報告書 第5〜11期(連結貸借対照表・連結財政状態計算書)

アステラス製薬:タルセバに係る権利の帳簿価額

タルセバに係る権利(百万円)
アステラス製薬:タルセバに係る権利の帳簿価額
(百万円) タルセバに係る権利 備考
2013年3月期 120,905
2014年3月期 96,108
2015年3月期 90,770
2016年3月期 65,003 2017年3月期末は44,698。2018年3月期以降は主要な無形資産に挙がらない
出所:アステラス製薬 有価証券報告書 第9〜13期(連結財務諸表注記 重要な無形資産)
出所:アステラス製薬 有価証券報告書 第9〜13期(連結財務諸表注記 重要な無形資産)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 OSI Pharmaceuticals, Inc. 米国ニューヨーク州メルビル。1984年設立。CEOはColin Goddard, Ph.D.
被取得企業の事業 がん、糖尿病/肥満領域の医薬品の研究開発・販売 2009年12月期の売上高は428百万米ドル、純利益は76百万米ドル
公開買付期間 2010年3月2日から6月7日(米国東部時間) 買付けを行う株式の種類は普通株式。発行済株式総数は61,207,646株
最終契約の締結 2010年5月16日(米国東部時間) 買付けの開始から2か月半を経て買収で合意した
公開買付価格 1株当たり57.50米ドル
買付けに要する資金 約40億米ドル 完全希薄化後ベース。調達方法は全額手元資金の充当
企業結合日 2010年6月8日 連結損益計算書に含めた業績は2010年7月1日から2011年3月31日まで
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得 連結子会社のアステラス US ホールディング Inc.による取得
取得した議決権比率 100%
取得原価 3,543百万ドル(294,681百万円) 公開買付による取得3,525百万ドルと直接要した費用18百万ドルの合計
株式取得のための支出 284,002百万円 取得価額から現金及び現金同等物19,193を控除し為替差額8,514を加算
受け入れた資産 5,117百万ドル(425,549百万円) 流動資産44,827百万円、固定資産380,722百万円
引き受けた負債 1,573百万ドル(130,868百万円) 流動負債43,486百万円、固定負債87,382百万円
無形固定資産への配分 2,815百万ドル(234,067百万円) 既発売・既承認の製品168,295百万円、仕掛研究開発65,771百万円
のれん 1,107百万ドル(92,106百万円) 取得原価が配分された純額を上回った超過額。20年間にわたる均等償却
期首に完了と仮定した影響 売上高+約93億円/営業利益△約133億円 税金等調整前当期純利益は約135億円の減少。監査証明を受けていない
出所:アステラス製薬 有価証券報告書 第5期(2010年3月期)【重要な後発事象】・第6期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】(企業結合等関係)
出所:アステラス製薬 有価証券報告書 第5期(2010年3月期)【重要な後発事象】・第6期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】(企業結合等関係)
参考文献

参考文献

参考
  • アステラス製薬 有価証券報告書 第5期(2010年3月期)
  • アステラス製薬 有価証券報告書 第6期(2011年3月期)
  • アステラス製薬 有価証券報告書「第5期(2010年3月期)【重要な後発事象】」
  • アステラス製薬 有価証券報告書「第6期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • アステラス製薬 有価証券報告書「第6期(2011年3月期)連結財務諸表注記(企業結合等関係)」
  • アステラス製薬 有価証券報告書「第9期(2014年3月期)連結財務諸表注記17 その他の無形資産」
  • アステラス製薬 有価証券報告書「第13期(2018年3月期)連結財務諸表注記17 その他の無形資産」

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