デサントへの敵対的TOB(2019年・伊藤忠商事の決断)

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論点 同意なき買付けで経営刷新を迫るか
伊藤忠商事:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
同意なき買付けによる議決権の25.5%から40.0%への引き上げ

何をなぜ決めたか:同意なき買付けによる議決権の25.5%から40.0%への引き上げ

概要

2019年、伊藤忠商事は筆頭株主として出資するスポーツウェア大手デサントへ、対象会社の同意なきTOB(株式公開買付け)を実施した。デサントに対する議決権所有割合は、第94期末の25.5%から40.0%(うち間接所有9.6%)へ上がった。あわせて経営体制の刷新が必要との考えを明らかにしており、日本の大企業間では珍しい同意なき買付であった。

背景

両社の間に不信が芽生えたのは2011年ごろで、きっかけは伊藤忠出身の社長が仕入れの拡大を求めたことだった。それまで伊藤忠は、1980年代からデサントの筆頭株主として、経営が苦しくなるたびに役員を送り込んで下支えしていた。2013年に創業家出身の石本雅敏氏が社長に就くと、対立は解消されないまま、5年にわたって積み重なった。

内容

銀行トップの仲裁を振り切り、伊藤忠は対象会社の同意を得ないまま買付に踏み切った。取得後の議決権は40.0%にとどめ、うち9.6%は子会社を通じた間接所有である。過半には踏み込まなかったためデサントは持分法適用の関連会社のままで、連結子会社化していない。繊維カンパニーのセグメント別資産は、この追加投資等により前期末比523億円(11.0%)増の5,272億円となった。

含意

企業結合に当たらないため、この取得でのれんは生じていない。デサントの持分法取込損益は、議決権25.5%であった2018年3月期の14億円に対し、取込比率が40.0%へ上がった2019年3月期は12億円、翌2020年3月期は△14億円であった。関連会社への同意なき買付という手法が現実に成立し、伊藤忠は支配を取らないまま経営への関与を強める形をとった。

いつ何が起きたか 10件
考察:資本の論理と、事業の論理
考察

考察:資本の論理と、事業の論理

この一件が異例だったのは、同意なき買付そのものよりも、対象が半世紀にわたり支え続けてきた自らの出資先であった点にある。筆頭株主として経営難を救い、役員を送り込んできた相手に対して、資本の論理で経営体制の刷新を迫る——支援の歴史と支配の意思が同じ相手のなかで交錯したところに、この判断の重さがあったと思われる。取引の強要をめぐる不信という、極めて生々しい商売上の齟齬が出発点にあったことも、通常のM&Aとは温度の異なる対立を生んだ一因であったといえる。

もっとも、2019年に伊藤忠が手にしたのは4割の議決権であって支配権ではない。デサントは持分法適用の関連会社にとどまり、取込損益は買付の翌期にいったん赤字へ沈んでいる。潮目が変わるのはそこからで、5年をかけて損益は5倍近くまで伸び、その途上で伊藤忠は完全子会社化へ進んだ。この順序は偶然ではないだろう。4割で経営体制を入れ替え、事業が立ち直る道筋が見えてから残りを買う——資本の論理で相手を動かし、事業の成果を確かめたうえで支配を取りにいったのだろう。同意なき買収の是非は成立の瞬間に問われがちだが、この案件の答えが出たのは、その5年後だった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

伊藤忠商事:繊維カンパニーの推移

セグメント別資産(百万円)当社株主に帰属する当期純利益率(%)
伊藤忠商事:繊維カンパニーの推移
(百万円) 収益合計当社株主に帰属する当期純利益セグメント別資産 備考
2015年3月期 567,91332,013555,842
2016年3月期 582,82514,499524,452
2017年3月期 528,56025,215495,892
2018年3月期 522,46912,499474,856
2019年3月期 593,62629,764527,204 資産の増はデサントへの追加投資等による。収益は新収益基準の適用後
2020年3月期 537,5139,082451,137
2021年3月期 435,1131,609418,720
2022年3月期 444,76325,142436,807
2023年3月期 534,58425,477457,659
2024年3月期 535,20227,006486,009
2025年3月期 636,99573,831782,083 繊維セグメントでデサントを子会社化したことにより収益・資産が増加
出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第92期(2016年3月期)・第94期(2018年3月期)・第95期(2019年3月期)・第96期(2020年3月期)・第98期(2022年3月期)・第100期(2024年3月期)・第101期(2025年3月期)【セグメント情報】
出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第92期(2016年3月期)・第94期(2018年3月期)・第95期(2019年3月期)・第96期(2020年3月期)・第98期(2022年3月期)・第100期(2024年3月期)・第101期(2025年3月期)【セグメント情報】

伊藤忠商事:デサントの持分法取込損益

伊藤忠商事:デサントの持分法取込損益
(億円) 取込損益 備考
2017年3月期 15 統合報告書2019の繊維カンパニー・取込損益内訳(2016年度)
2018年3月期 14 第95期【主な関係会社損益】の前連結会計年度。議決権は25.5%
2019年3月期 12 第95期【主な関係会社損益】。取込比率40.0%
2020年3月期 △14 第96期【主な関係会社損益】。取込比率40.0%
2021年3月期 16
2022年3月期 27
2023年3月期 41 第100期【主な関係会社損益】。取込比率は44.5%へ
2024年3月期 53
2025年3月期 70 第101期【主な関係会社損益】。子会社化により取込比率100.0%
出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第95期(2019年3月期)・第96期(2020年3月期)・第97期(2021年3月期)・第98期(2022年3月期)・第100期(2024年3月期)・第101期(2025年3月期)【主な関係会社損益】 / 伊藤忠商事 統合報告書2019【繊維カンパニー】
出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第95期(2019年3月期)・第96期(2020年3月期)・第97期(2021年3月期)・第98期(2022年3月期)・第100期(2024年3月期)・第101期(2025年3月期)【主な関係会社損益】 / 伊藤忠商事 統合報告書2019【繊維カンパニー】

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
対象会社 ㈱デサント 大阪市天王寺区。スポーツウェア及び関連商品の製造・販売。資本金3,846百万円
取得前の議決権所有割合 25.5% 第94期(2018年3月期)末時点。間接所有分の記載はない
取得後の議決権所有割合 40.0% うち間接所有9.6%(第95期)。BSインベストメント㈱経由の保有は第96期注記
会計上の取扱い 持分法適用の関連会社 連結子会社化しておらず、企業結合に当たらないためのれんは生じていない
持分法での取込比率 40.0% 第95期【主な関係会社損益】。取込損益は前期14億円から当期12億円へ
報告セグメント 繊維カンパニー 第95期のセグメント別資産はデサントへの追加投資等で523億円(11.0%)増
役員の兼任等 2人 営業上の取引等は「商品の販売・仕入」(第95期)
その後の議決権所有割合 85.92% 2024年10月の公開買付後。2025年1月24日に上場廃止し完全子会社(第101期)
出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第94期(2018年3月期)・第95期(2019年3月期)・第96期(2020年3月期)【関係会社の状況】【主な関係会社損益】
出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第94期(2018年3月期)・第95期(2019年3月期)・第96期(2020年3月期)【関係会社の状況】【主な関係会社損益】
参考文献

参考文献

参考
  • 伊藤忠商事 統合報告書「統合報告書2019」
  • 伊藤忠商事 有価証券報告書「第94期(2018年3月期)【関係会社の状況】」
  • 伊藤忠商事 有価証券報告書「第95期(2019年3月期)【関係会社の状況】【主な関係会社損益】【セグメント別業績】」
  • 伊藤忠商事 有価証券報告書「第96期(2020年3月期)【関係会社の状況】」
  • 伊藤忠商事 有価証券報告書「第101期(2025年3月期)【企業結合等関係】」
  • 伊藤忠商事 有価証券報告書「第92期・第94期・第96期・第98期・第100期・第101期【セグメント情報】」

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