英ピルキントンの完全子会社化(2006年・日本板硝子の決断)

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論点倍の規模の海外同業を買収するか
日本板硝子:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
売上で2倍近い相手の、総額約6160億円での完全子会社化

何をなぜ決めたか:売上で2倍近い相手の、総額約6160億円での完全子会社化

概要

2006年2月27日の取締役会で、約20%を出資する英ピルキントンの全株式を現金で取得し、完全子会社化する手続きの開始を決議した。買収価格は普通株式1株あたり165ペンス(約340円)、すでに保有する持分を除く買収総額は約18億ポンド(約3,585億円)にのぼる。

ピルキントン既存有利子負債の借り換えと諸経費を含む所要資金は、総額約30億ポンド(約6,160億円)。英国裁判所認可のスキーム・オブ・アレンジメントによって手続きは進み、2006年6月16日の最終認可をもって完了、ピルキントンは同日上場廃止となった。

背景

2000年に「先進性があり、かつグローバルで存在感のある企業」を掲げた「ニュービジョン」を策定し、2005年度からの中期計画「CCP300」を進めていた。約20%の出資にとどまっていたピルキントンの完全子会社化は、その実現を加速させる位置づけにあった。

グローバルに事業を展開する自動車メーカーには世界同時の高機能・高品質ガラスの供給が求められ、建築用ではBRICs諸国を中心とした長期的な需要拡大を想定していた。両社の開発拠点・製造拠点を効率よく使うことで、技術・開発・エンジニアリング、営業、生産、資材調達、物流、間接部門のそれぞれにシナジーを見込んでいる。

内容

所要資金6,160億円の内訳は、英国での新規銀行借入1,550百万ポンド(約3,180億円)、日本での新規銀行借入450億円、無担保転換社債型新株予約権付社債1,100億円、手元資金および有価証券の売却約889億円、ピルキントン手元資金など約541億円である。

取得原価は427,578百万円、企業結合日に受け入れた資産のうちのれんが230,369百万円、顧客との関係・ブランド・技術資産を主とするその他無形固定資産が181,750百万円を占めた。のれんは20年の定額法、その他無形固定資産は加重平均13.4年で償却する。連結に含めたのは2006年7月1日からの9か月分である。

含意

約20%の出資は資本・事業提携先という関係にとどまり、持分法適用会社の距離では規模の経済も技術融合も取り出せない。完全子会社化の理由に挙げたのは、板ガラス分野での世界トップシェアの獲得と、コスト・品質・サービスのあらゆる面で真のグローバルプレーヤーとなることであった。

代償は財政状態に出る。自己資本比率は2006年3月期の40.0%から2007年3月期には23.9%へ落ち、有利子負債は5,611億円と前期比3,242億円増加した。転換社債1,100億円は全額が株式に転換され、資本金は961億47百万円、資本剰余金は1,052億89百万円となっている。

いつ何が起きたか7件
考察:20%という距離を、一息に詰める
考察

考察:20%という距離を、一息に詰める

この買収は規模の獲得というより、20%出資という中途半端な位置からの脱出であっただろう。2000年に10%、2001年に20%と買い進めた出資は持分法適用にとどまり、技術・開発から資材調達、物流、間接部門にいたるシナジーは、その距離では取り出せない。完全子会社化して初めて両社の開発拠点と製造拠点を一体で動かせる——買収の理由に挙げたのは、板ガラス分野での世界トップシェアの獲得と、規模の経済と技術融合による真のグローバルプレーヤー化の二つであった。売上で2倍近い相手へ約6,160億円を投じたのは、その距離を一息に詰めるためだったのだろう。

もっとも、代償は財政状態にそのまま出た。自己資本比率は40.0%から23.9%へ落ち、のれん230,369百万円を20年の定額法で償却する構図が残る。償却費だけで年115億円が利益を押し下げる計算で、買収前の日本板硝子の経常利益104億円を上回る。実際、2023年3月期には欧州の自動車用ガラス事業ののれん及び無形資産488億円が全額減損され、2026年にはアポロ・ファンドの出資を受けて非公開化する判断に至っている。借入で規模を買うという選択の帰結が出そろうまでに、20年を要したといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

日本板硝子:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん率(%)
日本板硝子:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産総資産備考
2002年3月期−−528,227
2003年3月期−−452,463
2004年3月期−−442,163
2005年3月期−3,890426,909買収前。連結貸借対照表に連結調整勘定の計上はない
2006年3月期−6,989595,9632月27日に買収を決議。転換社債1,100億円の発行などで総資産が1,690億円増加した
2007年3月期204,883399,4981,408,9836月16日に企業結合。のれん230,369百万円を計上し、総資産は8,130億円増加した
2008年3月期181,167352,6741,319,290
2009年3月期132,882260,1651,025,221
2010年3月期122,653236,034933,721
2011年3月期107,690202,973868,588
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第140〜145期(【主要な経営指標等の推移】連結貸借対照表)
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第140〜145期(【主要な経営指標等の推移】連結貸借対照表)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業Pilkington plc英国セントヘレンズ。1826年設立、建築用ガラス・自動車用ガラスの製造及び販売
決議日2006年2月27日同日に買収手続の遂行に関する契約を締結した
取得の法的形式全株式の現金による取得英国裁判所認可のスキーム・オブ・アレンジメントにより効力が発生する
買収価格普通株式1株あたり165ペンス約340円。ピルキントンの発行済株式数は1,320百万株
既保有分を除く買収総額約18億ポンド(約3,585億円)買収前の出資比率は約20%で、持分法適用会社としていた
買収に必要な資金の総額約30億ポンド(約6,160億円)ピルキントン既存有利子負債の借り換え、諸経費等を含む
資金調達の内訳銀行借入3,630億円・転換社債1,100億円ほか英国1,550百万ポンド(約3,180億円)、日本450億円、手元資金等約1,430億円
企業結合日2006年6月16日英国裁判所の最終認可をもって完了。ピルキントンは同日上場廃止となった
取得原価427,578百万円約20億スターリング・ポンド。現金による取得で、企業結合日以前の所有持分との相殺前
のれん230,369百万円純資産の公正価値が取得原価を下回った差額。20年の定額法で償却する
その他無形固定資産181,750百万円顧客との関係、ブランド、技術資産が主なもの。加重平均償却年数は13.4年
受け入れた有形固定資産285,403百万円流動資産は303,727百万円。買収前の帳簿価額278,452百万円を公正価値で再評価した
引き受けた固定負債499,824百万円流動負債は100,891百万円。EU独禁法関連引当金の計上等により固定負債が増加している
連結に含めた業績の期間2006年7月1日から2007年3月31日までの9か月期首に完了と仮定した売上高は806,666百万円。監査証明は受けていない
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第140期(2006年3月期)【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】・第141期(2007年3月期)【企業結合等関係】
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第140期(2006年3月期)【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】・第141期(2007年3月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 日本板硝子 有価証券報告書【沿革】
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第140期(2006年3月期)【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第140期(2006年3月期)【対処すべき課題】【重要な後発事象】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第141期(2007年3月期)【企業結合等関係】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第141期(2007年3月期)【財政状態】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第142期(2008年3月期)連結損益計算書(前期損益修正益)」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第145期(2011年3月期)【主要な経営指標等の推移】連結貸借対照表」

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