野村ホールディングス リーマン・ブラザーズ承継 アジア太平洋・欧州中東部門の引き受けによるグローバル投資銀行への転身
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何をなぜ決めたか
- 概要
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サブプライム問題で持株会社化後初の赤字を負った野村ホールディングスが、2008年9月に破綻した米リーマン・ブラザーズの日本・オーストラリアを含むアジア・パシフィック地域部門の大部分の雇用と、欧州・中東地域の株式・投資銀行部門の大部分および債券部門の一部の雇用等を、同年10月に承継した経営判断。承継したのは人員と業務上必要な特定の資産・負債で、リーマンの金融資産と金融負債は対象外とした。設備でも資本でもなく、人材に絞って手を挙げた。
- 背景
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2006年3月期に当期純利益3,043億円と持株会社化後の最高業績を記録した野村は、その好況がサブプライム前夜の市況に支えられた一時的なものだと2008年に思い知る。2008年3月期に当期純損失▲678億円を計上し、同年4月に渡部賢一氏が執行役社長兼CEOに就任した半年後、9月にリーマンが破綻した。
- 内容
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雇用等の承継と併せて、リーマンの欧州地域部門やアジア・パシフィック地域にIT・会計・グローバルなリスク管理の機能を提供していたインドの関連会社3社を買収した。第105期の連結従業員数は7,600名増えて25,626名となり、有価証券報告書はその主因を承継と関連会社の買収と記している。取得価額は2009年3月末の暫定値428億円から、配分が確定した同年9月末に481億円となり、のれんは130億円から232億円へ増えた。
- 含意
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2009年3月期の収益合計(金融費用控除後)は前期比60%減の3,126億円、野村ホールディングスに帰属する当期純損失は▲7,082億円に達した。有価証券報告書はリスクとして、支払保証賞与を約束したキーとなる承継従業員が賞与の支払い後に流出する可能性と、承継した従業員と従来の従業員との融合が円滑に進まない可能性を挙げている。承継で積んだのれんを含むホールセール部門ののれんは、2019年3月期に813億円を全額減損して残高が消え、同期の当期純損失は▲1,004億円となった。
いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
日本企業が外資型投資銀行を経営するということ
この承継の面白さは、買ったものの中身にある。取得価額481億円のうち受け入れた資産は648億円、引き受けた負債は399億円で、残る232億円はのれんとして立った。有価証券報告書【企業結合】が挙げるのれんの発生原因は、リーマンの顧客基盤の融合によってホールセール・ビジネスと投資銀行業務が強化拡大されることで得られる価値である。金融資産と金融負債は引き取らず、人員と業務上必要な資産だけを選んで承継した組み立ては、投資銀行の価値は人に宿るという業の本質を突いていた。第105期に連結従業員数は7,600名増え、ゼロから築けば10年かかる陣容が数か月で手に入った。
だが引き受けたのは人材だけではなかった。有価証券報告書はリスクとして、支払保証賞与を約束したキーとなる承継従業員が賞与の支払い後に流出する可能性と、承継した従業員と従来の従業員との融合が円滑に進まない可能性を並べている。取得時に認識した負債262億円の中身が事業の取捨選択に伴う人件費と事務所の移転費用だったことも、統合の重さを物語る。そして2019年3月期、ホールセール部門に計上していたのれん813億円は減損テストによって全額が消え、残高はなくなった。有価証券報告書はこれを過去の海外での買収に関連するものと記す。承継で得たアジア太平洋の足場は野村の海外事業の骨格として残ったが、その簿価上の価値は10年で失われた。外資型の投資銀行を日本企業が営むという難題への答えは、いまも定まっていない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
承継の条件
承継の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 承継した事業 | リーマンのアジア・パシフィックと欧州・中東部門 | アジア・パシフィックは大部分の雇用、欧州・中東は株式・投資銀行部門の大部分と債券部門の一部 |
| 承継の対象外 | リーマンの金融資産と金融負債 | 承継したのは人員と業務上必要な特定の資産・負債にとどまる |
| 企業結合の形式 | 雇用等の承継とインド3社の買収 | IT・会計・グローバルなリスク管理の機能を提供していた関連会社3社を買収 |
| 企業結合日 | 2008年10月 | 承継した事業にかかる損益は2008年10月から連結損益計算書に含まれる |
| 取得価額(暫定) | 42,863百万円 | 2009年3月末時点。承継資産・負債への対価と承継に付随する直接経費から成る |
| 取得価額(確定) | 48,159百万円 | 2009年9月末に配分が完了。インドの証券会社の買収等で5,296百万円増えた |
| のれん(暫定) | 13,018百万円 | 2009年3月末の見積り。事業の取捨選択が進むにつれ増加する見込みと注記された |
| のれん(確定) | 23,224百万円 | 2009年9月末に確定。取得した事業の再編費用が増え10,206百万円増加した |
| のれんの発生原因 | リーマンの顧客基盤の融合による価値 | ホールセール・ビジネスおよび投資銀行業務が強化拡大されることで得られる価値 |
| のれんの帰属部門 | グローバル・マーケッツ15十億円 | インベストメント・バンキング8十億円。損金処理が認められるのは8十億円 |
| 受け入れた資産 | 64,800百万円 | 建物・土地・器具備品23,016、無形資産26,420、現金・預金7,815百万円を含む |
| 引き受けた負債 | 39,865百万円 | 純資産は24,935百万円。いずれも2009年9月末に確定した取得日現在の額 |
| 無形資産の中身 | 顧客関係資産と有利なリース契約 | 26,420百万円。加重平均残存期間10年、残存価額ゼロとして償却 |
| 取得時に認識した負債 | 26,241百万円 | 事業の取捨選択に伴う人件費や事務所の移転費用。2009年3月末から8,958増 |
| 人件費の一時費用 | 2009年3月期に7十億円 | 2010年3月期は2十億円。既存事業の取捨選択にかかる一時費用 |
| 連結従業員数の増加 | 7,600名 | 第105期の増加分。期末の連結従業員数は25,626名(臨時従業員4,997名は外数) |
| 通期換算した収益合計 | 679,920百万円 | 2007年4月1日に承継したと仮定した2009年3月期の要約仮定財務情報。監査対象外 |
| 通期換算した純損益 | △794,081百万円 | 同じ仮定による2009年3月期の当期純損失。実績は△708,192百万円 |
出所:野村ホールディングス 有価証券報告書 第105期(2009年3月期)・第106期(2010年3月期)【企業結合】【経営上の重要な契約等】
のれんとその他の無形資産の推移
野村ホールディングス:のれんとその他の無形資産の推移
| (百万円) | のれん | のれんおよびその他の無形資産 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2006年3月期 | 11,412 | 13,586 | |
| 2007年3月期 | 91,279 | 177,481 | インスティネット社で69,090百万円、ツバキ・ナカシマで11,813百万円増加 |
| 2008年3月期 | 62,990 | 103,022 | 投資会社の連結除外で△17,143百万円、為替換算で△11,146百万円 |
| 2009年3月期 | 70,459 | 130,972 | リーマン承継で13,018百万円を見積計上。無形資産26,420百万円も受け入れた |
| 2010年3月期 | 79,818 | 134,015 | 配分の確定でリーマン分が10,206百万円増え、計上額は23,224百万円となった |
| 2011年3月期 | 70,223 | 116,834 | 為替換算で△7,276百万円。69,800百万円がホールセール部門に帰属 |
| 2012年3月期 | 74,034 | 160,227 | ホールセール部門に帰属するものは68,718百万円 |
| 2013年3月期 | 74,242 | 115,661 | ホールセール部門ののれん8,293百万円を減損。公正価値はDCF法で決定 |
| 2014年3月期 | 77,737 | 115,143 | ホールセール部門は74,134百万円。その他の部門で2,840百万円を減損 |
出所:野村ホールディングス 有価証券報告書 第103期〜第111期(連結貸借対照表上のその他の資産―その他に含まれるのれんの変動、その他の資産の内訳)
連結従業員数の推移
野村ホールディングス:連結従業員数の推移
| (人) | 連結従業員数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2006年3月期 | 14,668 | |
| 2007年3月期 | 16,145 | |
| 2008年3月期 | 18,026 | |
| 2009年3月期 | 25,626 | 7,600名の増加。主因はリーマンの雇用等の承継とインドの関連会社の買収 |
| 2010年3月期 | 26,374 | |
| 2011年3月期 | 26,871 | |
| 2012年3月期 | 34,395 | 関連会社であった野村土地建物を子会社化したことで大幅に増加した |
| 2013年3月期 | 27,956 | 海外子会社の従業員数は11,926名で、主にホールセール部門に所属 |
| 2014年3月期 | 27,670 |
出所:野村ホールディングス 有価証券報告書 第102期〜第111期(従業員の状況・連結会社の状況。就業人員で、臨時従業員は外数)
収益と損益の推移
野村ホールディングス:収益と損益の推移
| (億円) | 収益合計(金融費用控除後) | 野村HDに帰属する当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2004年3月期 | 8,031 | 1,723 | |
| 2005年3月期 | 7,992 | 947 | |
| 2006年3月期 | 11,456 | 3,043 | 持株会社化後の最高益 |
| 2007年3月期 | 10,911 | 1,758 | |
| 2008年3月期 | 7,873 | △678 | サブプライム問題で持株会社化後初の年度赤字 |
| 2009年3月期 | 3,126 | △7,082 | 承継は10月から。収益合計(金融費用控除後)は前期比60%減 |
| 2010年3月期 | 11,508 | 678 | |
| 2011年3月期 | 11,307 | 287 | |
| 2012年3月期 | 15,359 | 116 | |
| 2013年3月期 | 18,136 | 1,072 | |
| 2014年3月期 | 15,571 | 2,136 |
出所:野村ホールディングス 有価証券報告書 第102期・第106期・第111期(主要な経営指標等の推移。米国会計基準・連結)
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参考文献
- 野村ホールディングス 有価証券報告書【沿革】
- 野村ホールディングス 有価証券報告書(連結・米国会計基準)
- 野村ホールディングス 有価証券報告書「第105期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】【連結財務諸表注記10 企業結合】」
- 野村ホールディングス 有価証券報告書「第106期(2010年3月期)【連結財務諸表注記10 企業結合】」
- 野村ホールディングス 有価証券報告書「第103期〜第111期(その他の資産の内訳、のれんの変動)」
- 野村ホールディングス 有価証券報告書「第102期・第106期・第111期【主要な経営指標等の推移】」
- 野村ホールディングス 有価証券報告書「第115期(2019年3月期)【事業等のリスク】【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」