アポロ出資で非公開化(2026年・日本板硝子の決断)

更新:
論点外部出資を受け非公開化で再建するか
日本板硝子:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
1650億円の第三者割当と、株式併合による上場からの退出

何をなぜ決めたか:1650億円の第三者割当と、株式併合による上場からの退出

概要

2026年3月24日、アポロ・ファンドが保有する特別目的会社Lumina Japan Acquisitionを割当先とする普通株式366,666,666株の第三者割当を決議した。払込金額は1株450円、総額約1,650億円で、発行済普通株式142,319,262株の257.64%にあたる。

割当予定先は議決権の72.07%を握る親会社となり、同時に普通株式122,222,222株を1株に併合して、それ以外の株主には併合前1株当たり500円の金銭を交付する。払込期間は2026年6月30日から2027年3月31日までで、取引の完了後、普通株式は上場廃止となる見込みにある。

背景

過去5年間で累積約284億円の最終赤字を計上し、総額5,000億円を超える負債を背景に、企業価値のうち高い割合をネット有利子負債が占める状態にあった。英国子会社の借入れには配当制限などのコベナンツが付き、欧州の景気が後退するとグループ内の資金活用を縛る要因となる。

2025年3月期の大幅な最終赤字と2026年3月期の業績回復の遅れから、2026年3月末までに返済期限を迎える1,000億円超の借入金は、現状の資本構成のままでは借り換えを含む返済が容易ではない状況にあった。A種種類株式の発行、人員体制の見直し、欧州のフロート窯閉鎖といった自助努力では復配の見通しが立たない。

内容

第三者割当と並行して、三井住友銀行・日本政策投資銀行・みずほ銀行・三井住友信託銀行の4行が出資先組合と割当予定先を通じて1,400億円を払い込み、その資金で同4行からの借入債務のうち同額を弁済する擬似DESを株式併合の効力発生日に予定する。調達資金は、英国子会社の既存借入金の返済と、株式併合で少数株主へ交付する金銭に充てる。

A種種類株式を保有していたJISファンドとUDSファンドは3月24日に普通株式を対価とする取得請求権を行使し、普通株式38,252,710株の交付を受けた。実行の条件は、6月の定時株主総会での承認と、各国の競争法・対内直接投資に係る許認可の完了である。

含意

人員の削減にしても拠点の統廃合にしても、まず費用を払う必要があり、財務の体力が足りないままでは着手できない。そこで、上場を続けながら構造改革に取り組む方針はとらず、借り換えで返済を先へ送るのでもなく、資本を入れて解決する方を選んだ。

アポロが非公開化を伴う初期的な提案を持ち込んだのは2025年9月である。ほかのスポンサー候補と比べたうえで、必要となる資本性資金の規模、提案が実現する見込み、金融機関と足並みをそろえられるかという観点から、最良の提案と判断している。少数株主へ交付される1株500円は、割当予定先の払込金額450円を上回る。

いつ何が起きたか7件
当時の取締役6名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:借りて買収し、返せず、また借りる
考察

考察:借りて買収し、返せず、また借りる

この施策を買収の後始末と呼ぶだけでは、判断の中身が見えない。この20年で足りなかったのは改革の意志ではなく、改革を実行するための財務体力であったとみられる。人員削減も拠点の統廃合も、手をつけるには先に費用がかかる。有利子負債5,471億円のうち、短期借入金284億円と1年以内に返済期限の来る長期借入金2,683億円が目前に迫る会社に、その費用を先に払う余裕はない。借り換えで期限を延ばしても同じ状態が続くと判断したところに、今回の選択の芯があると推察される。

もっとも、資本を入れて負債を返済する代わりに、会社は議決権の72.07%を譲渡し、上場という資金調達の場も失う。1950年の株式上場から76年続いた上場企業としての歴史が、ここで途切れる。少数株主に交付される1株500円が、2006年に約6,160億円を投じた判断の最終的な精算額にあたる。借りた資金で買い、返しきれず、また外部の資本に依存する——負債で規模を買った会社が、その負債を自力で畳めなかったときに何が起きるかを、この一件は示しているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る2表

数字で見る

図と表

日本板硝子:有利子負債と自己資本の推移

有利子負債(百万円)親会社の所有者に帰属する持分率(%)
日本板硝子:有利子負債と自己資本の推移
(百万円)有利子負債親会社の所有者に帰属する持分総資産備考
2021年3月期470,14062,937824,963
2022年3月期466,364145,291939,281
2023年3月期491,54397,040951,387欧州の自動車用ガラス事業ののれん及び無形資産488億円を全額減損
2024年3月期500,555124,2751,007,585
2025年3月期522,725108,0651,032,931親会社の所有者に帰属する当期損失138億円
2026年3月期547,169151,2251,117,4943月24日に資本再構成を決議。有利子負債には社債438億円を含む
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第156〜160期(【主要な経営指標等の推移】【借入金等明細表】【社債明細表】)
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第156〜160期(【主要な経営指標等の推移】【借入金等明細表】【社債明細表】)

資本再構成の条件

資本再構成の条件
科目概要備考
決議日2026年3月24日取締役会で第三者割当と、定時株主総会への定款変更・株式併合議案の付議を決議した
割当予定先Lumina Japan Acquisition株式会社アポロ・ファンドが保有する特別目的会社。所在地は東京都港区虎ノ門
募集株式の種類及び数普通株式366,666,666株発行済普通株式142,319,262株の257.64%にあたる
払込金額1株につき450円
払込金額の総額164,999,999,700円
払込期間2026年6月30日から2027年3月31日まで
増加する資本金の額82,499,999,850円資本準備金も同額の82,499,999,850円が増加する
割当予定先の議決権比率72.07%親会社及び主要株主である筆頭株主となる予定
株式併合普通株式122,222,222株を1株に併合割当予定先以外の株主には、併合前の1株当たり500円の金銭を交付する
債務の株式化(擬似DES)1,400億円主要金融機関4行が出資先組合と割当予定先を通じて払い込み、同額の借入債務を弁済する
A種種類株式の取得請求普通株式38,252,710株を交付2026年3月24日にA種種類株主が取得請求権を行使。A種22,644株は未消却で残る
実行の前提条件定時株主総会の承認と各国の許認可特別委員会の意見書、主要金融機関との契約の存続、リファイナンスの実行なども条件
資金の使途英国子会社の借入金返済と少数株主への金銭交付内訳の金額は有価証券報告書に記載がない
上場取引完了後に上場廃止となる見込み割当予定先が株式併合を経て完全子会社とすることが予定されている
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第160期(2026年3月期)【重要な契約等】【追加情報】
出所:日本板硝子 有価証券報告書 第160期(2026年3月期)【重要な契約等】【追加情報】
当時の取締役6名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 日本板硝子 有価証券報告書【沿革】
  • 日本板硝子 適時開示「第三者割当による新株式発行、定款の一部変更、株式併合及び単元株式数の定めの廃止、債務の株式化による資本再構成並びに親会社及び主要株主である筆頭株主の異動についてのお知らせ」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第160期(2026年3月期)【重要な契約等】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第160期(2026年3月期)【事業等のリスク】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第160期(2026年3月期)【主要な経営指標等の推移】【借入金等明細表】【社債明細表】」
  • 日本板硝子 有価証券報告書「第157期(2023年3月期)【事業等のリスク】」

次に読む決断

免責事項およびポリシー