事業再生ADRの申請(2019年・曙ブレーキ工業の決断)

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論点 私的整理で金融債務を圧縮するか
曙ブレーキ工業:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
560億円の債権放棄を前提とした国内外の生産拠点の縮小

何をなぜ決めたか:560億円の債権放棄を前提とした国内外の生産拠点の縮小

概要

曙ブレーキ工業と子会社6社は2019年1月29日、事業再生実務家協会へ産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続(事業再生ADR手続)を申請し、同日付で受理された。同日、全ての取引金融機関に対して借入金元本の返済の一時停止を求める通知書を送っている。

9月18日の債権者会議の続会で事業再生計画案が全ての取引金融機関の同意により成立し、ADR手続は終了した。9月27日の臨時株主総会で総額560億円の債務免除の効力が発生し、9月30日にはジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第弐号投資事業有限責任組合から200億円のA種種類株式の払込みが完了した。

背景

北米では増産対応で生産が混乱し、労務費の増加と空輸を中心とする緊急輸送費が膨らんだ。米国事業では緊急輸送費40億円・労務費28億円をはじめ合計90億円を超える追加費用が発生し、2016年3月期の営業損失は97億円の見通しとなった。同期の売上高は2,813億円と過去最高を更新しながら、当期純損失は195億円に達している。

その後も米系完成車メーカーの乗用車生産からの撤退や、生産混乱に起因して次期モデル用ブレーキ製品の受注を逃したことが重なり、2019年3月期は多額の減損損失から当期純損失183億円、株主資本は△55億円となった。財務制限条項に抵触し、一部の銀行借入の弁済を約定どおり進めることも困難になっていた。

内容

計画は地域ごとの構造改革で組まれた。日本では本社間接系従業員を対象とする早期退職措置に154名が応募し、自己都合退職者32名を含めて人員削減計画はおおむね達成した。当初は曙ブレーキ山陽製造を段階的に縮小・閉鎖してインドネシアへ生産を移管する計画だったが、設備移管に想定を上回る費用が発生することが判明し、2020年3月に国内4工場の生産最適化へ改めた。

北米はサウスカロライナ州のコロンビア工場を2020年8月、テネシー州のクラークスビル工場を同年9月に閉鎖した。欧州はフランスの生産・開発拠点が2022年6月末に解散し、スロバキアの生産拠点は当初の提携または売却から存続へ計画を変えている。

含意

2020年3月期は債務免除益560億円を特別利益に計上し、親会社株主に帰属する当期純利益は249億円となった。有利子負債は前期末の1,137億円から540億円へ、自己資本比率は1.7%から32.5%へ改善し、継続企業の前提に関する注記は第2四半期連結累計期間に解消されている。

連結従業員数は2017年3月期の9,457名から2024年3月期には5,548名へ減った。借入金は2024年6月28日に完済され、計画期間は終了した。売上高は2022年3月期以降に数値計画を達成したものの、営業利益は大幅な未達に終わっている。

いつ何が起きたか 8件
考察:減らした拠点の数が示すもの
考察

考察:減らした拠点の数が示すもの

事業再生ADRは、裁判所の手続によらず取引金融機関だけを相手に債務を調整する枠組みで、仕入先や顧客との取引を止めずに済む点に利点がある。曙ブレーキ工業でも、申請から計画成立までの約8か月間、国内では顧客との関係に変化は生じていない。ただし、金融支援が動かすのは貸借対照表であって損益計算書ではない。債務免除益560億円は2020年3月期に249億円の当期純利益を生んだが、翌期の売上高は1,340億円まで縮み、営業損益は赤字に戻った。

もっとも、拠点の数はこの15年に起きたことを端的に示している。2009年にボッシュから2工場を譲り受けて4工場となった米国は、2020年にその2工場を閉鎖して2工場に戻り、GMとの合弁で建てたエリザベスタウン工場も2025年12月に生産を終える予定で、残るのはグラスゴーの摩擦材工場ひとつになる。拡張に費やした年月より、畳むのに費やした年月のほうが長い。2030年度に掲げる営業利益150億円は、拠点を増やして稼ごうとした時代の水準を、絞り込んだ体制で取り戻すという目標にあたるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

曙ブレーキ工業:有利子負債と純資産の推移

有利子負債(億円)純資産(億円)
曙ブレーキ工業:有利子負債と純資産の推移
(億円) 有利子負債純資産総資産 備考
2014年3月期 9026041,992
2015年3月期 1,0825992,259
2016年3月期 1,1983012,044 売上高は2,813億円と過去最高。当期純損失195億円で自己資本比率は11.6%
2017年3月期 1,1812942,018
2018年3月期 1,0973151,943 総資産は翌期の有報の前期欄では1,934億円に組み替えられている
2019年3月期 1,137791,686 2019年1月に事業再生ADRを申請。自己資本比率1.7%、株主資本は△55億円
2020年3月期 5405391,490 債務免除560億円とA種種類株式200億円。自己資本比率は32.5%へ
2021年3月期 4894261,326 売上高は1,340億円へ縮小。固定資産の減損損失を計上し当期純損失119億円
2022年3月期 4924891,397
2023年3月期 4965031,413
2024年3月期 4936051,505 2024年6月28日に借入金を完済し事業再生計画期間が終了
出所:曙ブレーキ工業 有価証券報告書 第118〜128期【主要な経営指標等の推移】【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
出所:曙ブレーキ工業 有価証券報告書 第118〜128期【主要な経営指標等の推移】【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

曙ブレーキ工業:従業員数の推移

提出会社の従業員数(人)子会社の従業員数(人)
曙ブレーキ工業:従業員数の推移
(人) 連結従業員数提出会社の従業員数 備考
2014年3月期 8,5051,096
2015年3月期 8,8281,090
2016年3月期 9,2381,071
2017年3月期 9,4571,135 連結従業員数のピーク。北米の増産対応で拠点と人員が最も膨らんだ期
2018年3月期 9,2401,084
2019年3月期 8,6781,122 日本3,051名・北米2,989名・欧州405名・中国780名
2020年3月期 7,6521,022 本社間接系の早期退職に154名が応募。日本2,798名・北米2,410名
2021年3月期 6,299875 米国2工場の閉鎖が2020年8月と9月に完了
2022年3月期 5,826861
2023年3月期 5,720813 国内工場間の生産移管は2022年10月、生産人員の適正化は2023年3月に完了
2024年3月期 5,548785 日本2,051名・北米1,441名・欧州174名・中国512名
出所:曙ブレーキ工業 有価証券報告書 第118〜128期【従業員の状況】
出所:曙ブレーキ工業 有価証券報告書 第118〜128期【従業員の状況】

事業再生ADRと事業再生計画の条件

事業再生ADRと事業再生計画の条件
科目 概要 備考
申請と受理 2019年1月29日 事業再生実務家協会へ申請し同日付で受理。申請者は曙ブレーキ工業と子会社6社
対象債権者 全ての取引金融機関 受理と同日に借入金元本の返済の一時停止を要請。2月12日の第1回債権者会議で追認
事業再生計画の成立 2019年9月18日 決議のための債権者会議の続会で全ての取引金融機関が同意し、ADR手続が終了
金融支援(債務免除) 560億円 2019年9月27日の臨時株主総会で効力が発生。債務免除益56,000百万円を計上
スポンサーの出資 200億円 ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第弐号投資事業有限責任組合が引き受け
発行したA種種類株式 20,000株・発行価格1株1,000,000円 資本組入額は1株500,000円。払込完了は2019年9月30日で資本剰余金が199億円増加
資本金等の減少 資本金・資本準備金を各100億円減少 2019年9月27日の臨時株主総会決議により12月31日付でその他資本剰余金へ振替
人員の削減 早期退職に154名が応募 本社間接系従業員が対象。自己都合退職者32名を含め人員削減計画はおおむね達成
北米の拠点削減 米国の生産2拠点を閉鎖 サウスカロライナ州のコロンビア工場は2020年8月、テネシー州のクラークスビル工場は同年9月
欧州の拠点削減 フランス・スロバキアの2拠点 損失が生じない形での提携または売却。フランスの拠点は2022年6月末に解散
国内の拠点削減 国内4工場の生産最適化 当初は曙ブレーキ山陽製造の段階的な縮小・閉鎖と福島製造の縮小。2020年3月に変更
役員報酬の減額 取締役50%減〜執行役員20%減 経営責任の第一ステップとして2019年4月から当面1年間実施
継続企業の前提に関する注記 2019年3月期に記載 債務免除と払込みの完了を受け、2020年3月期第2四半期連結累計期間に解消
計画期間の終了 2024年6月28日 2024年6月30日を期限としていた借入金を、リファイナンス資金と自己資金で完済
出所:曙ブレーキ工業 有価証券報告書 第123期(2019年3月期)・第124期(2020年3月期)・第128期(2024年3月期)
出所:曙ブレーキ工業 有価証券報告書 第123期(2019年3月期)・第124期(2020年3月期)・第128期(2024年3月期)
参考文献

参考文献

参考

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