ニコン 希望退職者の募集 二本柱同時不振と1,143人の希望退職──2016年の全社構造改革
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2016年、半導体露光装置と映像の二つの主力事業が同時に不振へ沈んだニコンは、牛田一雄社長のもと、三菱銀行から迎えた岡昌志氏を代表取締役兼副社長執行役員兼CFOに据えて全社の構造改革に着手した。既存事業に成長事業を加えた事業ポートフォリオを掲げた「中期経営計画2015年度版」の継続を断念し、売上成長を志向する戦略から収益力強化を志向する戦略へ方針を転換した。
国内で希望退職を募集して1,143人が退職し、2017年3月期の構造改革関連費用は533億70百万円に達した。半導体装置事業の黒字化と映像事業の選択と集中で短期の採算は戻したが、二本柱を縮める手当てにとどまった。
- 背景
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半導体露光装置は1990年代末に世界シェア5割超を占めたが、台湾・韓国の新興顧客への転換に後れ、オランダのASMLに約8割の寡占を許して慢性的な赤字体質に陥った。カメラ事業もスマートフォンの普及で入門機の需要を失い、ソニーやキヤノンが先行したミラーレス化にも追われた。
「中期経営計画2015年度版」は、半導体装置事業の黒字化の実現に至らず、映像事業では想定以上に市場縮小が進行し、成長事業の育成も期待通りに進捗しなかった。祖業の延長にある二本柱が同時に揺らぎ、計画そのものの継続が断念された。
- 内容
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構造改革は半導体装置事業・映像事業・本社機構の三つを最優先に据えた。半導体装置事業では採算性を重視して棚卸資産の廃棄・評価減リスクの最小化を図り、映像事業では製品戦略全体を見直してプレミアムコンパクトデジタルカメラ「DLシリーズ」の発売中止を決めた。事業部門の戦略と本社部門の機能の再定義に伴う組織体制の見直しで人員適正化を図るため、国内で希望退職を募集し、1,143人が退職した。
2017年3月期の構造改革関連費用533億70百万円の内訳は、半導体装置産業の棚卸資産評価損及び廃棄損274億47百万円、国内の希望退職者の募集に伴う割増退職金等166億55百万円、製品の商品化中止に伴う損失74億72百万円である。
- 含意
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翌2018年3月期、精機事業の営業利益は533億93百万円と前期の4倍近くへ戻り、半導体露光装置分野は計画どおり黒字化を達成した。映像事業も高付加価値製品への選択と集中で302億22百万円まで利益を回復させ、全社の営業利益は562億36百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は347億72百万円となった。
一方で連結従業員数は25,031人から21,029人へ4,002人減った。成長戦略を織り込んだ新中期経営計画は、構造改革の終了後の2019年4月のスタートへ送られ、次の収益源を示すのは後任の体制に委ねられた。
いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
止血の速さと、成長の設計は別物である
この判断の核心は、劣位にある戦線を見極めて先に損を確定させ、まず利益の出る体に戻すことにあった。構造改革関連費用533億70百万円のうち274億47百万円が半導体装置産業の棚卸資産評価損及び廃棄損で占められている事実は、この改革が人減らしである以前に、開発を縮小した製品の在庫を一度に落とす作業だったことを示している。祖業の技術に自負を持つ社内から見れば重い決断だったはずである。三菱銀行の出身で数字に立つ岡昌志氏が副社長として構造改革の前面に立ち、牛田一雄社長が祖業の継承を掲げて社内をつなぐ——攻めの縮小と守りの継承を役割で分けたところに、この構造改革の性格が表れている。
もっとも、縮小均衡は次の収益源を生まない。二本柱を縮めて採算を戻す手当ては、失血を止めることには成功したが、そこから何を育てるかまでは答えていない。1,143人の希望退職と4,002人の従業員減という痛みの代償に見合う成長を、ニコンはいまも探している。下降のときに規模を絞って守りを固めることと、その先に新しい収益源を築くことは別の仕事であり、前者を断行できた会社が後者でつまずく例は少なくない。新中期経営計画を構造改革の終了後の2019年4月へ送った判断は、その順序を認めたものだったと推察される。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
構造改革の条件
構造改革の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 公表 | 2016年11月 | 「中期経営計画2015年度版」の継続を断念し、構造改革の実施を決定した |
| 対象 | 半導体装置事業・映像事業・本社機構 | 売上成長を志向する戦略から、収益力強化を志向する戦略へ方針を転換した |
| 構造改革関連費用 | 53,370百万円 | 2017年3月期のその他営業費用に計上。翌2018年3月期は8,732百万円 |
| うち棚卸資産評価損及び廃棄損 | 27,447百万円 | 半導体装置産業。開発が縮小された製品に関連して発生した |
| うち割増退職金等 | 16,655百万円 | 国内における希望退職者の募集に伴うもの |
| うち商品化中止に伴う損失 | 7,472百万円 | 映像事業。プレミアムコンパクトデジタルカメラ「DLシリーズ」の発売を中止した |
| 減損損失 | 5,351百万円 | 有形固定資産4,951・無形資産350・その他51。うち204は構造改革関連費用へ |
| セグメント別の構造改革関連費用 | 精機34,723・映像10,971百万円 | ほかインストルメンツ692、メディカル232、その他1,438、全社5,313百万円 |
| 人員 | 1,143人が退職 | 国内で希望退職を募集。事業部門の戦略と本社部門の機能の見直しに伴うもの |
| 連結従業員数 | 25,031人(2017年3月期末) | 翌期末は21,029人。希望退職と中国の生産子会社の操業停止で4,002人減った |
| 新中期経営計画 | 2019年4月のスタートを目指す | 成長戦略を織り込んだうえで、構造改革の終了後に改めて発表するとした |
出所:ニコン 有価証券報告書 第153期(2017年3月期)・第154期(2018年3月期)【その他営業費用】【非金融資産の減損損失】【従業員の状況】
映像事業の売上収益とセグメント利益
ニコン:映像事業の売上収益とセグメント利益
| (百万円) | 売上収益 | セグメント利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2012年3月期 | 587,127 | 53,971 | 2016年3月期までは日本基準。売上は外部顧客への売上高、利益はセグメント利益 |
| 2013年3月期 | 751,240 | 60,711 | |
| 2014年3月期 | 685,446 | 64,284 | |
| 2015年3月期 | 586,019 | 56,698 | |
| 2016年3月期 | 520,484 | 45,751 | スマートフォンの普及で入門機の需要が細り、市場の縮小が想定を超えて進んだ |
| 2017年3月期 | 383,024 | 17,150 | 日本基準からIFRSへ移行。構造改革関連費用10,971百万円を含む |
| 2018年3月期 | 360,703 | 30,222 | 報告セグメントの区分を変更。高付加価値製品への選択と集中で増益 |
| 2019年3月期 | 296,169 | 22,069 | |
| 2020年3月期 | 225,894 | △17,153 | |
| 2021年3月期 | 150,218 | △35,779 | 固定資産の減損損失と構造改革関連費用を計上し、営業損失が拡大した |
| 2022年3月期 | 178,234 | 19,069 |
出所:ニコン 有価証券報告書 第148〜158期(セグメント情報。各期の当期欄で統一した)
精機事業の売上収益とセグメント利益
ニコン:精機事業の売上収益とセグメント利益
| (百万円) | 売上収益 | セグメント利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2012年3月期 | 248,145 | 42,723 | 2016年3月期までは日本基準。売上は外部顧客への売上高、利益はセグメント利益 |
| 2013年3月期 | 179,013 | 13,090 | |
| 2014年3月期 | 205,446 | 20,079 | |
| 2015年3月期 | 170,757 | 8,355 | |
| 2016年3月期 | 182,416 | 14,607 | |
| 2017年3月期 | 248,026 | 13,463 | 日本基準からIFRSへ移行。構造改革関連費用34,723百万円を含む |
| 2018年3月期 | 226,334 | 53,393 | 半導体露光装置分野が計画どおり黒字化。FPD露光装置は減収減益 |
| 2019年3月期 | 274,540 | 81,730 | |
| 2020年3月期 | 239,728 | 46,774 | |
| 2021年3月期 | 184,777 | 1,400 | |
| 2022年3月期 | 211,216 | 27,719 |
出所:ニコン 有価証券報告書 第148〜158期(セグメント情報。各期の当期欄で統一した)
従業員数の推移
ニコン:従業員数の推移
| (人) | 連結従業員数 | 提出会社従業員数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2012年3月期 | 24,348 | 5,397 | |
| 2013年3月期 | 24,047 | 5,583 | |
| 2014年3月期 | 23,859 | 5,684 | |
| 2015年3月期 | 25,415 | 5,672 | |
| 2016年3月期 | 25,729 | 5,564 | |
| 2017年3月期 | 25,031 | 5,090 | 国内で希望退職を募集し1,143人が退職。提出会社は前期末比474人減 |
| 2018年3月期 | 21,029 | 4,444 | 希望退職と中国の生産子会社の操業停止で連結は4,002人減、提出会社は646人減 |
| 2019年3月期 | 20,917 | 4,398 | |
| 2020年3月期 | 20,190 | 4,442 | |
| 2021年3月期 | 19,448 | 4,183 | |
| 2022年3月期 | 18,437 | 4,174 |
出所:ニコン 有価証券報告書 第148〜158期【従業員の状況】
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- ニコン 有価証券報告書「第153期(2017年3月期)【その他営業費用】【非金融資産の減損損失】【従業員の状況】」
- ニコン 有価証券報告書「第154期(2018年3月期)【その他営業費用】【従業員の状況】」
- ニコン 有価証券報告書「第148〜158期(セグメント情報)」