上山健二社長による大規模構造改革——500店閉鎖と不採算ブランドの廃止
ファストファッションに挟まれた多ブランドSPAで、外部出身の上山健二社長はなぜ「利益を伴わない売上げは追わない」と固定費に踏み込んだのか
更新:
- 概要
- 2015年4月に創業家以外で初の社長に就いた上山健二氏が、「利益を伴わない売上げは追わない」を掲げ、全店舗の約15%にあたる400〜500店の閉鎖と10〜15の不採算ブランドの廃止、約500人規模の希望退職に踏み切った構造改革。2016年3月期に特別損失95億円を計上して固定費を落とし、定価販売率の改善と合わせて売上高営業利益率を4.2%から5.6%へ引き上げた。
- 背景
- ユニクロやZARAなどファストファッションの台頭で、約40ブランドを抱える中価格帯のSPAは上下から挟まれ、2015年3月期の連結営業利益は前期比43.4%減の52億円へ沈んだ。2005年のMBOに伴う有利子負債も財務の重しとなるなか、外部から再生請負人と評された上山健二氏が招かれた。
- 内容
- 2015年5月、上山社長は「固定費のスリム化に一切聖域は設けない」として、赤字店だけでなく黒字でも収益性の低い店を含めて400〜500店を2016年3月期中に閉じ、10〜15の不採算ブランドを廃止した。希望退職には全社員のおよそ4分の1が応じ、構造改革に絡む特別損失95億円を計上して純利益を7.4億円まで削った。
- 含意
- 売上を積み上げるより固定費を落とすことを優先した判断は、定価販売率の改善と重なって収益力を回復させ、2018年9月の東証一部再上場につながった。創業家の系譜を離れた外部社長だからこそ、多ブランドの整理という痛みを伴う縮小に踏み込めたとみることができる。
売上を追うのをやめる、という選択
この判断の核心は、財務が破綻に瀕したための緊急避難ではなく、売上を積み上げること自体を目的にしてきた経営のかたちへ、外から来た経営者が正面から手を入れた点にある。多くのブランドと店舗を抱えて規模を競う戦い方は、ファストファッションが台頭するなかで利益を細らせていた。上山社長が「利益を伴わない売上げは追わない」と掲げ、黒字店まで含めて400〜500店を閉じ、不採算ブランドを畳んだのは、その戦い方そのものを見直す試みだったとみることができる。痛みを伴う縮小へ踏み込めた背景には、創業家の系譜を離れた社長だからこそ、過去の拡大路線への遠慮が薄かったという事情もうかがえる。
もっとも、店とブランドを閉じることは、それまで積み上げてきた顧客や売り場を手放すことでもある。縮小がそのまま次の成長を約束するわけではなく、身軽になった本体をどの事業で伸ばすかは、なお残された問いであった。ワールドはこののち、持株会社体制への移行や、デジタル・投資といった新しい事業領域への展開へ動いていく。規模の大きさではなく、利益を生む事業をどう選ぶか——上山社長の構造改革は、アパレル大手が百貨店モデルの退潮に直面した2010年代半ばに、その問いを経営の中心へ引き戻した判断として位置づけられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
ファストファッションに挟まれた多ブランドSPA
ワールドは、1992年に掲げたSPARCS構想のもとで企画から生産・小売までを自社で一貫させ、百貨店や専門店に約40のブランドを並べる中価格帯のSPAへ育っていた。ところが2010年代に入ると、低価格で品質を保つユニクロやZARA、H&Mが急速に売り場を広げ、価格帯で上に立つ百貨店ブランドと、下から攻めるファストファッションの双方に挟まれる形になった。多くのブランドと店舗を抱えるほど販管費はふくらみ、2015年3月期の連結営業利益は前期比43.4%減の52億円、売上高は2,985億円まで落ちた[1]。
収益力の低下に、財務の重しが重なった。ワールドは2005年に経営陣による買収(MBO)で株式を非公開にしており、その買収に伴う有利子負債が残っていた。手元の資金に余裕のない状態では、痛みを伴う縮小へ踏み込む財務の余地は限られる。同じ時期、オンワード樫山やレナウンといった百貨店を主戦場とするアパレル大手も構造的な不振に陥っており、百貨店に依存したモデルからの転換は、業界全体に突きつけられた課題だった[2]。
外部から招いた再生請負人
この局面で、ワールドは創業家の外へ再建の指揮を委ねた。1959年の創業から半世紀あまり、経営は創業家・畑崎一族の系譜のなかで受け継がれてきたが、2015年4月、寺井秀蔵社長が代表取締役会長へ退き、外部から再生請負人と評された上山健二氏が代表取締役社長に就いた。創業家の血脈を離れた社長は、ワールドで初めてであった。上山社長は就任にあたり、企画や生産の部門まで含めた全社員へ、「自分の仕事の延長線上に店があること、お客様がいることを忘れてはならない」と繰り返し呼びかけた[3][4]。
決断
「利益を伴わない売上げは追わない」
上山社長が再建の柱に据えた言葉は、「利益を伴わない売上げは追わない」であった。就任の翌月、2015年5月には具体策を明らかにする。全店舗のおよそ15%にあたる400〜500店を2016年3月期のうちに閉じ、10〜15の不採算ブランドを廃止する。閉じる対象は赤字店にとどまらず、利益が出ていても収益性の低い店を含めた。「固定費のスリム化に一切聖域は設けない」——上山社長はそう述べ、ここ数年で最大規模の閉店に踏み切った[5][6]。
希望退職と95億円の特別損失
店舗とブランドの整理は、人員の削減を伴った。ワールドは約500人規模の希望退職を募り、これに全社員のおよそ4分の1が応じた。国内では479店を実際に閉じている。固定費の圧縮に伴って、2016年3月期には構造改革に絡む特別損失95億円を計上し、同期の連結純利益は前の期の45億円から7.4億円へ大きく落ち込んだ。目先の利益を削ってでも、費用の構造そのものを軽くすることを優先する判断であった[7][8][9]。
結果
定価販売率の改善と収益の回復
固定費を落とす一方で、上山社長は売り方にも手を入れた。値引きに頼るセールの幅を抑え、定価で売れる比率を高めることで、一つの商品から得られる利益を厚くした。閉店とブランド整理で身軽になった費用の構造と、この定価販売率の改善が重なり、収益力は目に見えて戻った。2017年3月期には営業利益が前の期より24%増えて144億円となり、売上高営業利益率は4.2%から5.6%へ1.4ポイント改善した[10]。
再建の成果は、資本市場への復帰という形で節目を迎える。2018年9月、ワールドは東京証券取引所市場第一部へ再上場した。2005年にMBOで市場を去ってから13年、非上場のあいだに進めた構造改革が、上場企業として再び評価される段階までこぎ着けた。売上の規模を追うことをやめ、利益の出る事業へ絞り込んだ選択は、この再上場によって一応の決着をみた[11]。
- 日本経済新聞(2015年5月19日)「ワールド、500店閉鎖 不採算ブランドも廃止」
- NetIB-News(2017年8月28日)「危機にあるアパレル、ワールドをV字回復させた再生請負人の手法」
- 繊研新聞(2015年4月16日)「ワールド社長に就任した上山健二さん」
- ビジネスジャーナル(2015年8月10日)「不振企業をピカピカにする「マジック」経営者!社員4分の1が退職、一挙に5百店閉店…」
- ワールド 有価証券報告書(2016年3月期・連結IFRS)
- ワールド 有価証券報告書【沿革】