この判断は、対米進出という表向きの目的よりも、提携の解消を先に置いた点に性格がよく表れている。米国進出を果たせなくとも当面の経営に支障はないが、技術提携を続けたままでは、提携先の都合ひとつで事業が揺らぐ。曙ブレーキは、その不確実な相手から離れるために、より大きなGMという相手を選んだ。筆頭株主に伏せて交渉を進め、呑めない条件をあえて提示して物別れの形を作る手順には、四半世紀にわたって技術を借りてきた側が主導権を掌握し直そうとする意図がうかがえる。
賭けの相手はやがて最大の顧客になった。GMは2019年3月期に曙ブレーキの売上高の26%、2020年3月期にも19%を占める。一方で、合弁のために建てたエリザベスタウン工場は2025年12月に閉鎖され、米国に残る生産拠点は1994年に設けたグラスゴーの摩擦材工場ひとつとなる。1985年に信元安貞社長が"大きな賭け"と呼んだ工場は、40年近く稼働して役目を終える。