日立製作所 社会イノベーション事業への集中 製造業最大の赤字を受けて上場子会社を取り込み、主力事業に集中した再建
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2009年3月期に787,337百万円の当期純損失を計上した日立製作所が、川村隆氏を執行役会長兼執行役社長に迎えて構造改革に踏み切った。オートモティブシステム事業とコンシューマ事業を新設分割で切り出し、事業グループを社内カンパニーへ再編したうえで、上場子会社5社に2,556億円を投じて公開買付けを実施した。
情報通信システム技術で高度化された社会インフラを提供する社会イノベーション事業に設備投資と研究開発を重点配分する、という一点へ経営資源を配分した判断である。
- 背景
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第140期の税引前当期純損失は289,871百万円だが、当期純損失はその2.7倍の787,337百万円に膨らんだ。法人税等が505,249百万円計上されたためである。営業外費用では長期性資産の減損が128,400百万円、持分法損失が162,205百万円に達した。
減損の内訳は、プラズマテレビ事業でガラスパネル部材を外部調達へ切り替えたことなどによるデジタルメディア・民生機器部門の57,995百万円、自動車市場の悪化による電力・産業システム部門の32,961百万円である。株主資本比率は前期の20.6%から11.2%へ低下した。
- 内容
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2009年7月1日、オートモティブシステム事業を日立オートモティブシステムズ、コンシューマ事業を日立コンシューマエレクトロニクスとして新設分割し、同年10月には事業グループを社内カンパニーへ再編して独立採算による迅速な運営を徹底した。
8月20日から10月8日まで上場子会社5社へ公開買付けを実施し、買付資金は2,556億円を要した。12月には公募で1,090,000,000株、第三者割当で60,000,000株を発行価額220.48円で発行し、あわせて1,000億円の転換社債型新株予約権付社債を起こした。
- 含意
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株主資本は2009年3月期末の1,049,951百万円から翌期末には1,284,658百万円へ戻り、株主資本比率は11.2%から14.4%になった。有利子負債は2兆8,201億円から2兆3,671億円へ4,529億円縮んでいる。連結従業員数は361,796人から2014年3月期の320,725人まで4万人減った。
事業を幅広く保有し続ける会社から、社会イノベーション事業へ資源を配分して事業を入れ替える会社への転換点にあたる。
いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
二度目の淵から
川村改革の核心は、財務の穴埋めそのものよりも、危機を口実に"聖域"を解体した点にあったと思われる。赤字787,337百万円のうち505,249百万円は法人税等の計上であり、事業そのものの傷は税引前で289,871百万円だった。それでも上場子会社5社に2,556億円を投じ、稼いでいた情報システム3社まで市場から引き上げたのは、目先の穴埋めではなく資本関係の組み替えを狙ったからだろう。日立は1950年にも全工場の生産を止めてまで人員整理に踏み切り、倒産の淵から立ち直った歴史を持つ。平時には触れられない構造へ手が入るのは、二度とも淵に立ってからだった。
もっとも、看板を降ろすことと、次の稼ぎ方を定めることは別の課題である。総合電機の枠を外した日立は、ハードディスクドライブ事業と液晶ディスプレイ事業を2012年3月に手放し、その後もABBのパワーグリッド事業やGlobalLogicといった大型買収でエネルギーとデジタルへ稼ぎ頭を入れ替えていく。株主資本比率は11.2%から2014年3月期の24.1%まで戻ったが、川村隆氏が引いた"情より理"の線を後任がどこまで貫けるか。787,337百万円の赤字から始まった問いは、事業を持ち替え続ける今日の日立にも引き継がれているのだろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
構造改革の条件
構造改革の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 当社に帰属する当期純損失 | △787,337百万円 | 第140期。税引前当期純損失289,871百万円に法人税等505,249百万円が重なった |
| 長期性資産の減損 | 128,400百万円 | デジタルメディア・民生機器部門57,995百万円、電力・産業システム部門32,961百万円 |
| 事業構造改善費用 | 22,927百万円 | 主に早期退職優遇制度による特別退職金21,517百万円 |
| 持分法損失 | 162,205百万円 | 第139期は計上がなく、第140期に営業外費用として発生した |
| 株主資本比率 | 11.2% | 第140期末の株主資本1,049,951百万円、総資産9,403,709百万円 |
| 連結従業員数 | 361,796人 | 第140期末。ほかに当連結会計年度の平均臨時従業員数42,097人 |
| 執行役会長兼執行役社長 | 川村隆氏 | 2009年4月就任。第140期の有価証券報告書は川村隆氏の名義で提出された |
| 会社分割 | 2009年7月1日 | 日立オートモティブシステムズと日立コンシューマエレクトロニクスを新設分割で設立 |
| 社内カンパニー制の導入 | 2009年10月 | 事業グループを社内カンパニーに再編し、独立採算による迅速な運営を徹底 |
| 公開買付けの買付期間 | 2009年8月20日から10月8日 | 上場子会社であった5社を完全子会社とすることを目的として実施した |
| 公開買付けの買付資金 | 2,556億円 | 非支配持分からの子会社株式の取得に伴う支出は261,113百万円 |
| 完全子会社化(公開買付け) | 2010年2月 | ㈱日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング㈱、㈱日立システムアンドサービス |
| 完全子会社化(株式交換) | 2010年4月1日 | ㈱日立プラントテクノロジー(交換比率1.986)と日立マクセル㈱(同5.66) |
| 公募による新株式発行 | 1,090,000,000株 | 発行価格230円・発行価額220.48円。2009年12月14日に資本金120,161百万円増加 |
| 第三者割当による新株式発行 | 60,000,000株 | オーバーアロットメントに関連し2009年12月25日。割当先は野村證券株式会社 |
| 転換社債型新株予約権付社債 | 100,000百万円 | 2009年12月発行の第8回。利率0.1%、当初の転換価額は1株につき317円 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第140期(2009年3月期)・第141期(2010年3月期)・第142期(2011年3月期)【沿革】【従業員の状況】【対処すべき課題】【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】【株式の総数等】及び連結財務諸表注記
構造改革にかかった費用の推移
日立製作所:構造改革にかかった費用の推移
| (百万円) | 長期性資産の減損 | 事業構造改善費用 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2007年3月期 | 9,918 | 3,983 | |
| 2008年3月期 | 87,549 | 18,110 | 減損はプラズマテレビ事業で687億円。特別退職金156億円 |
| 2009年3月期 | 128,400 | 22,927 | 当期純損失787,337百万円を計上した期 |
| 2010年3月期 | 25,196 | 25,154 | 減損と持分法損失の減少で税引前当期純損益が635億円の利益へ転じた |
| 2011年3月期 | 35,170 | 5,757 | |
| 2012年3月期 | 31,841 | 23,097 | 液晶ディスプレイ事業の人員規模適正化による特別退職金229億円 |
| 2013年3月期 | 23,209 | 30,498 | |
| 2014年3月期 | 33,796 | 28,284 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第139〜145期(連結損益計算書 営業外費用)
株主資本と有利子負債の推移
日立製作所:株主資本と有利子負債の推移
| (百万円) | 株主資本 | 有利子負債 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2005年3月期 | 2,307,831 | − | 有利子負債は有価証券報告書が手元になく照合できていない |
| 2006年3月期 | 2,507,773 | − | 有利子負債は有価証券報告書が手元になく照合できていない |
| 2007年3月期 | 2,442,797 | 2,687,400 | |
| 2008年3月期 | 2,170,612 | 2,531,500 | |
| 2009年3月期 | 1,049,951 | 2,820,100 | 手元資金確保のためコマーシャル・ペーパー1,000億円を発行した期 |
| 2010年3月期 | 1,284,658 | 2,367,100 | 公募等による株式発行で株主資本比率が11.2%から14.4%へ |
| 2011年3月期 | 1,439,865 | 2,521,500 | 会計基準変更により有利子負債へ証券化事業体の連結に伴う負債が加わった |
| 2012年3月期 | 1,771,782 | 2,396,400 | 株主資本比率18.8%。ハードディスクドライブ事業の売却対価で借入を返済 |
| 2013年3月期 | 2,082,560 | 2,370,000 | |
| 2014年3月期 | 2,651,241 | 2,823,000 | 株主資本比率24.1%。米国基準で作成された最後の期 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第139期・第140期・第145期【主要な経営指標等の推移】 / 有利子負債は第139〜145期【業績等の概要】の記載(億円単位)を百万円に換算
従業員数の推移
日立製作所:従業員数の推移
| (人) | 連結従業員数 | 提出会社の従業員数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2008年3月期 | 347,810 | 37,143 | |
| 2009年3月期 | 361,796 | 37,283 | |
| 2010年3月期 | 359,746 | 31,065 | 会社分割により提出会社の従業員が6,218人減少した |
| 2011年3月期 | 361,745 | 32,926 | |
| 2012年3月期 | 323,540 | 32,908 | ハードディスクドライブ事業と液晶ディスプレイ事業を売却した期 |
| 2013年3月期 | 326,240 | 33,665 | |
| 2014年3月期 | 320,725 | 33,500 | |
| 2015年3月期 | 336,670 | 31,375 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第139〜146期【従業員の状況】
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- 日立製作所 有価証券報告書「第140期(2009年3月期)【対処すべき課題】【従業員の状況】及び連結財務諸表注記」
- 日立製作所 有価証券報告書「第141期(2010年3月期)【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】【株式の総数等】及び連結財務諸表注記」
- 日立製作所 有価証券報告書「第142期(2011年3月期)【沿革】」
- 日立製作所 有価証券報告書「第146期(2015年3月期)連結財務諸表注記「作成の基礎」」