住友ファーマ総額1,809億円の減損計上と、北米人員半減・パイプライン圧縮による構造改革
ラツーダの米国独占販売が終わった年に、住友ファーマは損をどこまで一度に出したか
- 概要
- 2023年2月に抗精神病薬ラツーダの米国独占販売期間が終了したことを受け、住友ファーマが2024年3月期に総額1,809億円の減損損失を計上し、北米の人員を約半分に削り、パイプラインを絞り込んだ経営判断。同期の営業損失は3,549億円、親会社の所有者に帰属する当期損失は3,150億円となった。決算発表と同じ日に野村博社長の退任と木村徹副社長の昇格が発表された。
- 背景
- 2022年4月に商号を住友ファーマへ変え、プライム市場へ移った半年後、2016年に買収したキンモビで544億円の減損を計上し四半期営業損失289億円に沈んだ。2023年2月にラツーダが米国で特許切れとなると、2023年4月から12月の米国売上は51億円と前年同期の1,793億円から97%が消えた。
- 内容
- マイフェンブリーに係る特許権1,335億円とのれん359億円、開発中止に伴う仕掛研究開発106億円などを減損。北米人員は2,200人から1,200人へ削り、ドルベースの販管費を5億ドル圧縮、開発品目を22から17へ絞り、ウロタロントの開発は大塚製薬に委ねた。米国グループ会社はスミトモ・ファーマ・アメリカへ統合した。
- 含意
- 2005年の合併以来18年かけて広げた北米事業を、1年で畳み直す内容であった。財務制限条項に抵触して親会社である住友化学の債務保証を受ける事態にも至った。2025年3月期は当期利益236億円と1年で黒字へ戻り、続く「Reboot 2027」では米国と日本への集中が明示された。
出せる損の量が経営を決めた
1,809億円という減損額は、その年の売上収益3,146億円の半分を超える。会社が選んだのは、この損を数年に分けず1年に集めることであった。分割すれば毎期の赤字が続き、財務制限条項にも触れ続ける。一度で出し切れば、翌期の損益計算書は身軽になる——2025年3月期に当期利益236億円へ戻り、前年から3,386億円の改善を示した数字は、その効き方をそのまま映している。会計上の処理が再建の入口を作った例といえる。
ただし、出せる損の量を決めたのは会社ではなかった。期末に財務制限条項へ抵触した住友ファーマは、親会社である住友化学の債務保証を受けて期限の利益を保った。減損を一度に出す判断は、それを支える資本の存在を前提にしていた。2005年に大日本製薬が過半の株式を渡した相手が、18年後に会社を存続させる側へ回ったことになる。独立中堅として106年を歩んだ会社が親会社を持ったことの意味は、規模を広げた年月よりも、この畳み直しの2年にはっきり出たとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
新しい商号の半年後に始まった減損
2022年4月、東証の市場区分見直しに合わせ、同社は商号を大日本住友製薬から住友ファーマへ改め、プライム市場へ移った。合併時から掲げてきた二つの社名を一つにまとめ、創薬を核に新領域へ広げる方針を外へ示した改称であった。ところがその半年後、2016年の買収で得たパーキンソン病治療剤キンモビについて544億円の減損を計上し、四半期の営業損失は289億円に沈んだ[1][2]。
減損の理由を、社長の野村博氏は説明会で自ら語っている。ピークで5億ドル規模の売上を目指していたが「そこからは遥かに低いレベルになっていた」。誤りの中身も明かした。レスキュー剤を必要とするパーキンソン病患者の人数が想定と異なり、2021年の処方箋でオフ症状の治療薬を使う患者は0.1%程度にとどまっていた。買収の前提そのものを外していた[3]。
97%が消えた柱
2023年2月、抗精神病薬ラツーダが主戦場の米国で特許切れを迎えた。後発品を出すメーカーは多く、2023年4月から12月末までのラツーダの米国売上はわずか51億円と、前年同期の1,793億円から97%が消えた。特許切れから1年も経たないうちに、売上高の4割弱を稼いでいた柱がなくなった。後継に据えた基幹3製品の販売も会社の見立てを大きく下回り、通期計画はいずれも引き下げられた[4]。
財務の傷みは速かった。2023年12月末の自己資本比率は32.4%と、50%以上あった2年前から大きく下がり、自己資本は3,435億円まで減った。2022年末に2,657億円あった現預金は364億円へ急減し、有利子負債は2,497億円から4,118億円へ膨らんだ。うち900億円の短期借入金は2024年3月に借換期限を迎え、メインバンクと返済方法を協議する状態にあった[5]。
決断
損を1年に集める
2024年3月期、会社は損失を一度に出す道を選んだ。北米事業の予想を見直し、マイフェンブリーに係る特許権1,335億円とのれん359億円を減損、開発中止に伴う仕掛研究開発106億円などと合わせ、総額1,809億円の減損損失を計上した。営業損失は3,549億円、親会社の所有者に帰属する当期損失は3,150億円となる。期末にはシンジケートローンの財務制限条項に抵触し、親会社である住友化学から借入金の債務保証を受けた[6][7]。
損を出すのと並行して、北米の組織そのものを縮めた。2023年7月には米国グループ会社を再編してスミトモ・ファーマ・アメリカを発足させ、サノビオン、スミトバント、マイオバントなどを1社に集約している。人員は2,200人から1,200人へ、ほぼ半分に減らした。ドルベースの販管費は2023年度に5億ドル、続く2024年度にもう5億ドルの圧縮を見込む規模であった[8][9]。
パイプラインを絞り、社長を替える
研究開発も同じ年に絞り込まれた。開発品目は22から17へ減り、精神神経領域の中核であったウロタロントの開発は大塚製薬に委ねられた。がん領域とパーキンソン病の細胞医薬に資源を寄せ、研究開発費は500億円規模まで下げる計画とした。販管費は前年度比670億円の削減を掲げている。組織を薄くし、そこに見合う本数までパイプラインを合わせるという順序であった[10]。
2024年5月14日、会社は2023年度決算説明会と代表取締役の異動に関する会見を同じ日、同じ場で開いた。野村博氏が社長を退き、専務執行役員であった木村徹氏が後を継ぐ。取締役だった3人も職を退いて常務執行役員に移った。この人事について木村氏は後に「取締役を退任し、常務執行役員となった。相当なメッセージだ」と述べている[11][12]。
結果
1年での黒字回帰と、国内の700人
翌2025年3月期、数字は反転した。売上収益は3,988億円、コア営業利益は432億円、当期利益は236億円となり、前年の3,150億円の損失から3,386億円の改善であった。北米ではオルゴビクスが期首予想の4億ドルに対して5億4,400万ドルと136%で着地している。減損で切り下げた前提を、少なくとも主力の1品は実績で上回った[13][14]。
北米で始めた縮小は、翌年に国内へ及んだ。2024年、会社は生産部門などを除く40歳以上かつ勤続5年以上を対象に700人の早期希望退職を募った。募集対象層の2人に1人にあたる規模である。木村徹氏は、残って再建に加わるか別の道を選ぶか「ともに厳しい道のりだと社員には伝えた」とし、「残るにしても、これまでと同じ住友ファーマではない」と語っている[15]。
米国と日本だけを残す
2025年5月13日、会社は「Reboot 2027」を策定し、2023年に立てた中期経営計画2027を取り下げた。すでに実施した施策としてアジア事業と再生・細胞医薬事業の合弁化、フロンティア事業の譲渡を挙げ、疾患領域はがんと精神神経を軸に、モダリティは低分子と再生・細胞医薬へ集中する方針を掲げた。2027年度までに基幹3製品で2,500億円規模、コア営業利益250億円以上、有利子負債2,000億円以下を目標に置いた[16][17]。
残ったのは、米国と日本の2市場である。1993年に現地法人1社で始まり、2009年のセプラコール買収で販売網を得て、2019年のロイバント提携で開発会社群まで抱えた北米が、規模を半分にして中核として残った。その代償として、大日本製薬時代から続いた国内の多角事業とアジアが連結を離れた。18年かけて広げた版図の整理が、実質2年で終えられた計算になる[18]。
- 住友ファーマ 有価証券報告書(2024年3月期)
- 住友ファーマ 2023年3月期第2四半期・2024年3月期第1四半期・2024年3月期・2025年3月期 決算説明会 質疑応答
- 住友ファーマ 2024年度(2025年3月期)決算説明会資料
- 週刊東洋経済 2024年3月2日号「ニュース最前線 03 柱の抗精神病薬が97%減 住友ファーマが陥った窮地」
- 週刊東洋経済 2024年10月5日号「【特集 製薬サバイバル】Part2 活路を探る 日の丸製薬 Interview 住友ファーマ 社長 木村 徹「トップラインが伸びれば投資できる」」
- 住友ファーマ ニュースリリース(2023年4月28日)「中期経営計画2027(2023~2027年度)の策定について」 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20230428-5.html
- 住友ファーマ ニュースリリース(2025年5月13日)「Reboot 2027 –力強い住友ファーマへの再始動– 策定について」 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20250513-5.html