赤字転落後の構造改革(2024年・住友化学の決断)

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論点 巨額赤字からの回復を何で急ぐか
住友化学:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
創業以来最大の赤字を受け、減損と資産売却で1年でのV字回復を優先した再建

何をなぜ決めたか:創業以来最大の赤字を受け、減損と資産売却で1年でのV字回復を優先した再建

概要

2024年3月期に親会社の所有者に帰属する当期損失3,118億円という創業以来最大の赤字を計上し、岩田圭一社長は2024年4月に抜本的構造改革の概要を策定・公表した。前年11月に始めた短期集中業績改善策で事業再構築・在庫削減・投資厳選・資産売却を進め、2023年度からの2年間で約7,000億円のキャッシュを創り出しながら、赤字の震源であるペトロ・ラービグ社と住友ファーマに正面から手を入れた。全社横断の構造改革クロスファンクショナルチームを置き、岩田圭一社長みずからがリーダーとして指揮を執った。

背景

2000年代以降、石化事業の抜本的競争力強化、ライフサイエンス事業のクリティカルマスの確保、ICTを中心とした新規事業の育成という3つのコア戦略を進め、非石化事業の拡大によるスペシャリティ化で一定の成果を示していた。しかし技術のコモディティ化の加速や中国等での大型プラントの新増設という外的要因に加え、5事業部門がそれぞれの成長を目指すことで経営資源が分散し、医薬品での目利き・開発力も不足した。

ペトロ・ラービグ社をはじめとする石化事業と、非定型抗精神病薬ラツーダの特許切れを迎えた住友ファーマの業績が同時に悪化し、5事業部門をエンジンとした成長モデルは限界を迎えていた。

内容

減損損失は2024年3月期に2,694億円へ膨らみ、うち1,335億円が住友ファーマの子宮筋腫・子宮内膜症治療剤マイフェンブリーの特許権、254億円が千葉工場のエッセンシャルケミカルズ製造設備であった。事業構造改善費用も484億円を計上した。

ペトロ・ラービグ社については2024年8月にサウジ・アラムコ社と合意し、持分約22.5%を総額約702百万米ドルで売却するとともに、貸付金750百万米ドルを債権放棄した。住友ファーマは販管費と研究開発費を絞り込み、外部専門家の起用と経営人材の派遣でガバナンスを強めた。2024年10月1日には5事業部門を4つへ組み替え、長期的に目指す企業像を「Innovative Solution Provider」と定めた。

含意

短期の改善は速く表れた。2025年3月期のコア営業損益は前期の1,490億円の損失から1,405億円の利益へ転じ、親会社の所有者に帰属する当期利益は386億円の黒字となった。有利子負債は2024年3月期末の1兆5,635億円から2026年3月期末には1兆1,515億円まで減っている。2026年3月期のコア営業利益は2,084億円で、2025-2027年度中期経営計画が2027年度に掲げる2,000億円を初年度で上回った。ただ石化を抱えるエッセンシャル&グリーンマテリアルズのコア営業利益は144億円にとどまり、利益の多くは住友ファーマとペトロ・ラービグ社の持分売却益が支えている。

いつ何が起きたか 11件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:速い再建と、根の深い課題
考察

考察:速い再建と、根の深い課題

この再建で目を引くのは、危機の宣言から立ち直りまでの足の速さである。創業以来最大の赤字に対して、まず2,694億円の減損で膿を出し切り、政策保有株や厚生施設まで含む資産を2年で約7,000億円ぶん現金へ換え、赤字の震源であったペトロ・ラービグ社と住友ファーマに正面から手を入れた。財務の底割れは1年で止まり、有利子負債は1兆5,635億円から2年で4,120億円減った。危機が経営に許した数少ない自由を使い、平時には動かしにくい上場子会社と政策保有資産にまで踏み込んだ判断であったと思われる。

もっとも、速く止血できたことと、病巣が消えたことは別である。2026年3月期のコア営業利益2,084億円のうち、石化を担うエッセンシャル&グリーンマテリアルズは144億円にすぎず、その中身にもペトロ・ラービグ社の一部株式売却益が混じっている。稼ぎ頭は皮肉にも、赤字の震源であった住友ファーマの1,084億円であった。汎用品依存を断つという構造改革の本旨は、売却益が尽きたあとの数年で問われることになるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

住友化学:コア営業損益・減損損失・有利子負債の推移

減損損失(億円)
住友化学:コア営業損益・減損損失・有利子負債の推移
(億円) コア営業損益減損損失有利子負債 備考
2019年3月期 2,0432468,395
2020年3月期 1,32737313,047 住友ファーマのロイバント社との戦略的提携により有利子負債が4,651億円増えた
2021年3月期 1,47640813,511
2022年3月期 2,3488113,505
2023年3月期 9281,09414,614 営業損益は310億円の損失。減損損失はメチオニン製造設備と医薬品の特許権が主
2024年3月期 △1,4902,69415,635 創業以来最大の赤字。2023年11月から短期集中業績改善策に着手した
2025年3月期 1,40526312,861 2024年4月に抜本的構造改革を公表。約7,000億円のキャッシュ創出で負債が減った
2026年3月期 2,08434611,515 D/Eレシオは1.20倍から0.93倍へ。2026年度のコア営業利益は2,150億円の予想
出所:住友化学 有価証券報告書 第138〜145期(経営成績等の状況、連結財務諸表注記「減損損失」)
出所:住友化学 有価証券報告書 第138〜145期(経営成績等の状況、連結財務諸表注記「減損損失」)

住友化学:石油化学事業のセグメント業績

売上収益(百万円)コア営業損益率(%)
住友化学:石油化学事業のセグメント業績
(百万円) 売上収益コア営業損益減損損失 備考
2019年3月期 757,52961,610535
2020年3月期 656,92914,4851,108
2021年3月期 589,323△11,991965 持分法適用会社のペトロ・ラービグ社の悪化を受けてコア営業損益が赤字に転じた
2022年3月期 842,51153,5151,386
2023年3月期 852,916△34,1971,805 報告セグメント名を石油化学からエッセンシャルケミカルズへ変更した期
2024年3月期 779,439△90,68245,724 千葉工場の製造設備25,381とシンガポールのメタアクリル設備14,891を減損
2025年3月期 899,029△58,4712,802 2024年10月の再編でエッセンシャル&グリーンマテリアルズへ。区分が変わる
2026年3月期 678,80014,44623,016 ペトロ・ラービグ社の一部株式売却益と交易条件の改善でコア営業損益が黒字へ
出所:住友化学 有価証券報告書 第138〜145期(連結財務諸表注記「セグメント情報」・外部顧客への売上収益)
出所:住友化学 有価証券報告書 第138〜145期(連結財務諸表注記「セグメント情報」・外部顧客への売上収益)

住友化学:医薬品事業のセグメント業績

売上収益(百万円)コア営業損益率(%)
住友化学:医薬品事業のセグメント業績
(百万円) 売上収益コア営業損益減損損失 備考
2019年3月期 492,13080,76422,996
2020年3月期 515,84575,26635,196
2021年3月期 546,45071,67235,720
2022年3月期 591,70961,712910
2023年3月期 584,87316,16886,013 非定型抗精神病薬ラツーダの特許切れが近づき、コア営業損益が急速に細った
2024年3月期 342,739△133,016180,878 マイフェンブリー特許権133,457と北米事業ののれん35,858を減損した
2025年3月期 398,00135,3375,463 2024年10月の再編で住友ファーマセグメントへ。CDMO事業は含まれない
2026年3月期 451,933108,4442,073 オルゴビクスとジェムテサの北米での拡大と、アジア事業の一部持分譲渡益による
出所:住友化学 有価証券報告書 第138〜145期(連結財務諸表注記「セグメント情報」・外部顧客への売上収益)
出所:住友化学 有価証券報告書 第138〜145期(連結財務諸表注記「セグメント情報」・外部顧客への売上収益)

抜本的構造改革の条件

抜本的構造改革の条件
科目 概要 備考
損失を計上した期 2024年3月期(第143期) コア営業損益は1,490億円の損失、親会社の所有者に帰属する当期損失は3,118億円
減損損失 269,389百万円 2024年3月期。売上原価・販売費及び一般管理費・その他の営業費用に計上。前期は109,417百万円
減損した主な資産 マイフェンブリー特許権133,457百万円 ほかに北米医薬品のれん35,858、千葉工場の製造設備25,381、メタアクリル設備14,891百万円
事業構造改善費用 48,397百万円 2024年3月期。有形固定資産除却損と組織・業務改革の推進に伴う費用が主。前期は22,100百万円
短期集中業績改善策 2023〜2024年度で約7,000億円を創出 2023年11月開始。当初目標5,000億円を6,000億円、次いで7,000億円へ引き上げた
推進体制 構造改革クロスファンクショナルチーム 全社横断で設置。岩田圭一社長がみずからリーダーとして直接指揮する
事業部門の再編 2024年10月1日に5部門を4部門へ 報告セグメントは2025年3月期第3四半期より5区分へ変更。前期は組替後で開示
ペトロ・ラービグ社の持分売却 持分約22.5%を総額約702百万米ドル 2024年8月契約。規制当局等の承認が前提。サウジ・アラムコ社も同額を同社へ拠出
ペトロ・ラービグ社向け債権放棄 貸付金750百万米ドル 2024年8月に500百万米ドル、2025年1月に250百万米ドル。損失109,791百万円を計上
住友ファーマの立て直し 2024年度に黒字化を達成 販管費と研究開発費の合理化、基幹3製品の拡販、外部専門家の起用と経営人材の派遣
従業員数 32,161人から27,491人へ 2024年3月末から2026年3月末まで。臨時従業員は3,492人から2,381人へ減った
2027年度の財務目標 コア営業利益2,000億円 2025-2027年度中期経営計画。当期利益1,000億円、ROE8%、ROIC6%、D/Eレシオ0.8倍台
出所:住友化学 有価証券報告書 第143期(2024年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【減損損失】、第144期(2025年3月期)【経営上の重要な契約等】、住友化学レポート2024
出所:住友化学 有価証券報告書 第143期(2024年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【減損損失】、第144期(2025年3月期)【経営上の重要な契約等】、住友化学レポート2024
当時の取締役 12名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 住友化学 決算説明資料「2023年度第2四半期決算説明資料」
  • 住友化学 決算説明資料「2023年度決算概況」
  • 住友化学 決算説明資料「2024年度第2四半期決算説明資料」
  • 住友化学 統合報告書「住友化学レポート2024」
  • 住友化学 有価証券報告書「第143期(2024年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【減損損失】」
  • 住友化学 有価証券報告書「第144期(2025年3月期)【経営上の重要な契約等】【セグメント情報】」
  • 住友化学 有価証券報告書「第145期(2026年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」

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