住友化学の直近の動向と展望
住友化学の直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望をまとめたページです。
セグメント構成や中期的な論点を、現経営陣の発信と有価証券報告書の記述をもとに整理しています。
直近の動向と展望
ラツーダクリフと2024年3月期の戦後最大赤字
2023年5月、岩田圭一は2022年度決算と同時に中計目標を下方修正した。当初コア営業利益3,000億円の計画を2,000億円に引き下げ、2024年のV字回復を掲げ直す。だが半年後の2023年11月、住友化学は通期コア営業利益を400→▲700億円、最終損益を100→▲950億円に再修正し、「聖域なき抜本的構造改革」を宣言した。2年でキャッシュ創出5,000億円、約30件のビジネスユニットを再構築する規模の動きである。この数字は後に7,000億円へ上方修正され、対象ユニットも順次拡大した。下方修正を2段階で重ねる異例の展開は、社内でも3軸同時失速の深刻さが当初の想定を超えていたことを示しており、2024年3月期に向けて決算予想そのものの信頼性が問われる事態に入った。
最終的に2024年3月期は売上2兆4,469億円、営業損失4,888億円、純損失3,118億円となり、住友化学史上最大の最終赤字に沈んだ。要因は3つが重なる。住友ファーマのラツーダ独占販売期間終了によるラツーダクリフ、ペトロ・ラービグの石油精製マージン崩壊、国内外石化の交易条件悪化である。1980年代に引き受けた国家プロジェクト型海外石化と、2000年代に買収した北米医薬の双方が、同じ年に債権放棄や減損を要求した。高付加価値3軸の相殺効果が効かないどころか、3軸そのものが同時に沈んだ形である。1913年の創業以来初めて、住友化学は原料系列型多角化と海外大型案件という戦後の勝ち筋そのものの見直しを迫られた。赤字の規模と広がりは戦後最大級で、経営体制の刷新が避けられなくなった。
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水戸新体制と4部門制への事業組み替え
2024年6月、水戸信彰が代表取締役社長に就任した。同年8月、ペトロ・ラービグへの債権放棄を含む財務改善プランを発表し、住友化学は通期で約1,098億円の貸付金債権放棄損失を計上した。30年来のサウジ拠点に対して、追加出資ではなく損失処理で線を引く判断である。2024年10月には事業部門を再編し、アグロ&ライフソリューション・ICT&モビリティソリューション・アドバンストメディカルソリューション・エッセンシャル&グリーンマテリアルズの4部門制へ組み替えた。農薬・医薬・電子・石化の4軸を明示的に並べ直す組織である。旧来の「基礎化学+機能化学+医薬」という三分割から、事業ごとの独立採算を前面に押し出す体制へ移った点に水戸体制の意思が現れている。
2025年3月期は売上2兆6,062億円、営業利益1,930億円と黒字を回復した。住友ファーマが基幹3製品(オルゴビクス・ジェムテサ・マイフェンブリー)の拡販と北米合理化(7社→1社、年▲400Mドル)で復調し、ICT&モビリティもディスプレイと半導体材料の出荷増で寄与した。岩田時代の構造改革プランをほぼそのまま実行に移した結果である。水戸体制の初年度は、前任者が設計した聖域なき構造改革の執行役に徹する形で始まり、数字の上では速い立ち直りを示した。ただしラービグ問題の根本解決や国内石化の再編は途上であり、黒字回復は構造改革の完了ではなく、緊急止血が効いたにすぎない。住友化学の経営陣は、数字の回復と事業再編の継続を同時に進める難しい舵取りを引き受けている。
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国内石化からの撤退と次の柱の模索
水戸体制が向き合っているのは、エッセンシャル&グリーンマテリアルズの位置づけである。2024年10月には丸善石油化学と京葉エチレン運営最適化で合意し、国内石化の共同運営を具体化させた。住友化学は2015年に自社エチレンを停止しており、京葉地区(国内エチレン能力の約3割)はバイオエタノール由来エチレン新設や複数社共同運営化の検討対象となる。シンガポールではS-SBR撤退、メチオニンは2024年度末までに2018年度末比約3割削減と、海外石化の縮みも並行して進む。1958年に他社に先駆けて踏み出した石油化学事業は、70年近くを経て縮小フェーズへ入った。1970年代から抱え続けた国家プロジェクト型海外石化は、最後の1つであるラービグを含めて縮小の対象となり、住友化学の基礎化学は本格的な再編期を迎えている。
次の柱はリジェネラティブ農業(化学農薬×バイオラショナル)と先端医薬関連事業である。2025年2月には再生・細胞医薬の株式会社RACTHERA(住友ファーマ100%子会社)に出資し、2030年代に1,000億円超の事業規模を目指す。1913年に別子銅山の煙から始まった会社は、2025年には肥料・染料・アルミ・ラツーダ・ラービグを順に手放しながら、次の100年の事業形を模索している。110年前の出発点と同じく、公害処理と資源系列の発想からバイオ・再生医療という次の原料系列へ接続できるかが焦点となっている。化学から細胞・遺伝子へという転換は、住友化学にとって過去の原料系列型多角化の延長にも見えるし、全く異質な専門領域への跳躍にも見える。この両義性こそが、水戸体制が背負う住友化学の次の10年を規定する。
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