常磐興産米フォートレス系Ontario合同会社によるTOBの受け入れと、東証スタンダード市場からの上場廃止

上場を保ったまま設備投資を待つか、非公開化して更新資金を得るか——1966年開業の施設をめぐる論点

時期 2024年9月
意思決定者(推定) 関根一志・取締役会 常磐興産 社長・独立社外取締役1名と外部専門家2名による特別委員会の答申を経た決議
論点 設備投資と上場維持
概要
2024年9月9日、常磐興産は米フォートレス・インベストメント・グループが組成したOntario合同会社による公開買付けに賛同し、株主への応募推奨を決議した。第一回の買付価格は1株1,650円で、2025年2月19日に東京証券取引所スタンダード市場で上場廃止となった。
背景
1966年1月開業のスパリゾートハワイアンズは老朽化が進み、集客の拡大には多額の設備投資を要した。東日本大震災とコロナ禍で有利子負債は322億円まで膨らみ、観光事業の設備投資額は減価償却費の八分の一まで縮んでいた。
内容
一般株主から1株1,650円で買い付ける第一回と、筆頭株主の常磐開発や公益財団法人常磐奨学会など15.99%分を1株1,240円で買い付ける第二回に分けた。フォートレスは傘下のマイステイズ・アコーディアの運営ノウハウと、施設への大規模投資を示した。
含意
最終期の売上高148億81百万円・営業利益13億23百万円は「経営計画2023」の目標を上回っており、業績の悪化を理由とする売却ではなかった。論点は、回収に数年かかる更新投資を、損益を毎期開示する立場のまま実行できるかにあった。
筆者の見解

稼ぐ力ではなく、直す力が尽きかけていた

2024年3月期の営業利益13億23百万円は、「経営計画2023」が置いた8億70百万円を5割上回っていた。それでも上場を閉じたのは、稼いだ額よりも直すべき額のほうが先に膨らんだためである。観光事業の設備投資が減価償却費の八分の一まで落ちた施設は、単年度が黒字でも毎年目減りしている。1966年開業の設備を一巡させる工事はフリー・キャッシュ・フローを二度赤字に沈める規模で、その2期を四半期開示のもとで越える負担は軽くなかっただろう。

資金の出し手を替えたことで、施設の行き先は同社の手を離れた。フォートレスは価値を高めた各施設について、信託受益権化やREITへの売却を含む施策を検討すると記している。その投資が本当に実行されるのかを外から確かめる手立ても消え、株主優待の廃止で地元の個人株主が施設と結んでいた細い関係も途切れた。75年余りの上場を閉じた判断は、更新投資の資金を得る代わりに、説明を届ける相手を一つに絞る選択でもあった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

震災とコロナが二度削った集客

2011年3月の震災で、常磐興産は3月12日以降スパリゾートハワイアンズのパークとホテルを休館した。1カ月後の直下型地震が建物の被害を広げ、営業の一部再開は10月にずれ込んだ。施設は原発から約50キロメートル南にあり、避難指示の対象からは外れていた。それでも同社は、宿泊客の7割を占める首都圏からの客足に風評が及ぶことを懸念した。2012年3月期の連結売上高は296億円、当期純損失は88億円に達した[1][2][3]

復旧そのものは速かった。2012年2月に新ホテル「モノリスタワー」を加えてグランドオープンし、2013年4〜9月期の営業利益は震災前の水準に戻り、宿泊客数は上半期として過去最高を記録した。震災後の資金調達で発行した優先株についても、2013年9月に取得・消却と普通株転換の方針が示された。ただし、資本市場からの調達は2012年1月の第三者割当による新株発行が最後となった[4][5]

更新投資が積み残された施設

コロナ禍の打撃は震災を上回った。連結売上高は2020年3月期の260億円から2021年3月期に151億円、2022年3月期に111億円まで落ち、営業損益は2期続けて赤字となった。有利子負債は2020年3月期末の258億円から2022年3月期末に322億円へ増え、自己資本は135億円から79億円へ減った。2023年3月期に黒字へ戻ったのちも、借入の重さは残った[6][7]

削られたのは利益だけではなかった。観光事業の設備投資額は2020年3月期の7億47百万円から2024年3月期には1億29百万円まで縮み、同じ期の減価償却費10億66百万円の八分の一にとどまった。1966年1月に開業した施設群は、償却で目減りする分を投資で埋め戻せない状態に置かれていた。有報が対処すべき課題に「計画的な施設増強と改修」を挙げたのは、この落差を指している[8][9][10]

決断

計画を超えた最終期と、届かなかった投資余力

2024年3月期の連結業績は、売上高148億81百万円、営業利益13億23百万円であった。前年に策定した「経営計画2023」の初年度目標である売上高145億円・営業利益8億70百万円をいずれも超え、達成率は売上高102.6%、営業利益152.1%に届いた。2025年3月期も売上高156億円と増収を見込んでおり、業績の悪化が非公開化の理由ではなかった[11][12]

同じ有報が、対処すべき課題として二つを並べていた。計画的な施設増強と改修、そして有利子負債の計画的な圧縮である。後者には2026年3月期にコロナ前水準まで戻すという期限が付いていた。借入を減らしながら大型の更新投資を進める道は狭い。株式による調達は2012年1月を最後に途絶えており、仮に実施できても修繕に足る規模は望めないと会社自身が判断していた[13][14]

二段階の公開買付けを受け入れる

フォートレスからの接触は2023年6月26日、取引金融機関の紹介によるものであった。同年8月の面談で常磐興産の経営陣は、施設の老朽化と設備投資の必要性を強く意識しながら、震災とコロナ禍で増えた外部借入の負担がそれを妨げていると伝えている。2024年3月13日の基本合意書、5月24日の特別委員会設置を経て、9月9日の取締役会が賛同と応募推奨を決議した[15]

買付けは二段階に分けられた。第一回は一般株主向けに1株1,650円、公表前営業日の終値1,240円に33.06%を上乗せした価格である。第二回は筆頭株主の常磐開発と公益財団法人常磐奨学会など計140万4,699株、所有割合15.99%を1株1,240円で買い付ける。少数株主にはプレミアムを配り、取引の趣旨を了解した大株主は市場価格で応じる。そういう組み立てだった[16][17]

結果

75年余りの上場を閉じる

第一回公開買付けは期間の延長を経て2024年11月5日に終了し、633万5,381株の応募を集めて下限の445万401株を超えた。所有割合は72.14%となり、Ontario合同会社が親会社となった。第二回は11月13日から12月10日までの20営業日で、140万5,101株を買い付けた。フォートレス傘下企業の取得は計約88%に達し、2025年2月19日に上場廃止となった[18][19][20]

非公開化に伴う条件も、あらかじめ示されていた。株主優待は2024年9月末の権利確定分を最後に廃止された。一方で商号と「スパリゾートハワイアンズ」のブランドは変更せず、従業員の雇用条件は実質的に同等以上で維持すると公開買付者は表明している。常磐奨学会が公益財団法人として事業を続けられるよう、売却代金で同社の普通社債を引き受ける案も検討された[21][22]

投資の谷を、四半期の外へ置く

買付価格の算定に使われた事業計画は、手元資金が数年沈むことを織り込んでいた。2026年3月期から2029年3月期にかけての設備投資により、フリー・キャッシュ・フローは2026年3月期12億14百万円、2027年3月期は3億89百万円の赤字、2028年3月期31億3百万円、2029年3月期は10億73百万円の赤字と振れ、投資が終わる2030年3月期に27億5百万円へ戻る見通しであった[23]

買い手が事業会社ではなく投資ファンドであることは、施設の行き先にも表れている。フォートレスは傘下のマイステイズとアコーディアの運営ノウハウを持ち込む一方、価値を高めた各レジャー施設について、信託受益権化による流動化やREITへの売却を含む施策を検討すると記した。上場維持にかかる監査費用や株主総会運営費用の削減も、賛同の理由に挙がっている[24][25]

出典・参考

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