KOKUSAIエレクトリック日立製作所からの分離とKKRによる非公開化、会社分割での成膜事業の承継

好調な装置事業をなぜ手放したのか——シリコンサイクルを抱える親会社と、二本柱の切り分け

時期 2017年4月
意思決定者(推定) 東原敏昭・佐久間嘉一郎 日立製作所 執行役社長兼CEO・日立国際電気 執行役社長
論点 親会社の選択と集中と、二本柱の切り分け
概要
2017年4月26日、日立製作所は上場子会社の日立国際電気を米投資ファンドKKRおよび日本産業パートナーズへ売却すると発表した。KKR傘下のHKEホールディングス合同会社が公開買付けで非公開化し、2018年6月の会社分割で成膜プロセスソリューション事業を承継、商号を株式会社KOKUSAI ELECTRICへ改めた経営判断である。
背景
日立製作所はIoT基盤「ルマーダ」との関係が薄く利益率の低い上場子会社を連結から外す方針をとり、10年前に20社超あった上場子会社を4社まで減らしていた。日立国際電気は映像・通信と成膜という性格の異なる二本柱を抱え、日立との事業上の重なりも薄かった。
内容
買付価格は当初1株2,503円。実際の公開買付けは2017年10月に2,900円で始まり、11月に3,132円へ引き上げられて12月8日に成立した。応募は発行済株式数の26%相当で、成立要件の23.58%を上回り、取得規模は2,500億円規模となった。
含意
1949年の設立以来、通信と装置の二つの系譜を抱えてきた会社が、成膜装置の専業と映像・通信の専業に割れた。日立国際電気の商号は映像・通信側が引き継ぎ、装置側はKOKUSAI ELECTRICとして5年後に東証プライムへ再上場した。
筆者の見解

好調な事業を手放した親会社と、離れた側の速さ

日立製作所が手放したのは、当時いちばん伸びていた事業であった。2018年3月期の売上高見通しを1,690億円から1,990億円へ押し上げたのは半導体製造装置で、その好調さが買付価格を2,503円から3,132円へ引き上げさせた面もある。それでも切り離したのは、シリコンサイクルで数年ごとに振れる装置事業を社会インフラ中心の連結決算に抱え続ける重さを、東原敏昭社長兼CEOのもとで測ったからだとみられる。伸びているうちに売る判断は、業績が落ちてからでは選べない。

二度の価格引き上げは、この分離が売り手の描いた線どおりには運ばなかったことを示している。当初の2,503円は成立に届かず、エリオット・マネジメントの参戦を経て応募はようやく26%に達した。装置事業のその後も平坦ではなく、アプライドマテリアルズへの売却は承認を得られずに解けた。それでも、途中経過を報告して承認を取る必要がなくなったと佐久間嘉一郎社長が語った速さは、分離が残した実質であり、5年後の再上場を支えたといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場子会社を20社超から4社へ絞り込む日立

日立製作所は2010年代後半、IoT基盤「ルマーダ」との関係が薄く利益率の低い上場子会社は株式を売却して連結から外す方針をとっていた。日立物流、日立キャピタル、日立工機、クラリオンと売却が続き、10年前に20社超あった上場子会社は4社まで減っている。東原敏昭社長兼CEOのもとで進んだこの入れ替えのなかに、日立国際電気の売却も置かれた。残る4社についても2021年度までに結論を出す考えが示されていた[1]

売却の対象となった日立国際電気は、日立製作所が51.67%を握る東証一部の子会社であった。事業は映像・通信ソリューションと成膜プロセスソリューションの二本柱で、前者は市町村や官公庁向けの高信頼無線や鉄道ソリューション、後者は主力の縦型半導体製造装置とその保守・部品販売を担う。佐久間嘉一郎社長は後年、日立とはほとんどシナジー関係がなかったと振り返っている[2][3]

好調な装置事業と、読みにくいシリコンサイクル

切り離しが動き出した時期、半導体製造装置は伸びていた。半導体メーカーの設備投資が活発で、3次元メモリー向けを中心に受注が増え、2017年7月には2018年3月期の連結売上高見通しを従来の1,690億円から1,990億円へ、純利益を114億円から145億円へ引き上げている。日立製作所にとっては、業績を押し上げていた資産を手放す判断となった[4]

それでも装置事業は、数年ごとに需要が大きく振れる。佐久間社長は、日立側から見れば業績好調な半導体製造装置を抱えてはいたものの、シリコンサイクルという変動リスクがあり将来はどうなるかわからないという見方があった、と説明している。社会インフラを中核に据えた日立製作所にとって、振れ幅の大きい装置事業は連結の収益見通しを立てにくい資産であった[5]

決断

1株2,503円で示された非公開化と事業分割の設計

2017年4月26日、KKR、日立製作所、日本産業パートナーズは、KKR傘下の投資ファンドが保有するHKEホールディングス合同会社が日立国際電気の普通株式に公開買付けを実施すると発表した。買付価格は1株2,503円で、憶測報道前の2016年10月3日までの12か月の終値平均に62.46%のプレミアムを乗せた水準にあたる。この評価額に基づく時価総額は約2,571億円と試算された[6]

設計は、非公開化と事業の切り分けを一続きにしていた。公開買付けの成立後に株式併合と自己株式取得を行って日立製作所が持分を売却し、そのうえで日立国際電気が成膜プロセスソリューション事業を吸収分割で公開買付者へ移す。装置事業は公開買付者が100%持ち、残る映像・通信事業は公開買付者60%、日立製作所20%、日本産業パートナーズ系のHVJホールディングス20%で保有する形とされた[7]

二度の価格引き上げと、応募をめぐる攻防

公開買付けは2017年8月上旬に始める予定であったが、実際の開始は10月にずれ込み、価格は1株2,900円に上がっていた。それでも応募は必要な水準に届かず、KKRは11月に3,132円へ再び引き上げ、締切を12月8日まで延ばしている。取得総額は2,500億円前後と見込まれた。当初の提示から二度の引き上げを重ねる展開であった[8][9][10]

締切の12月8日、応募は発行済株式数の26%相当に達し、成立要件の23.58%を上回った。二度の引き上げを重ねてようやく届いた水準にあたる。この過程では、米国で最も恐れられる物言う株主と呼ばれるエリオット・マネジメントが日立国際電気株を買い増して参戦しており、価格の押し上げに働いたとみられる。買収の規模は2,500億円となった[11][12]

結果

二社に割れた「日立国際電気」

2018年3月、日立国際電気は東京証券取引所市場第一部の上場を廃止した。同年6月には会社分割により、成膜プロセスソリューション事業をHKEホールディングス株式会社が承継し、商号を株式会社KOKUSAI ELECTRICへ改めている。本店も東京都千代田区丸の内から神田へ移した。1961年の東証上場から57年続いた上場企業としての期間は、ここでいったん途切れた[13]

映像・通信ソリューション事業の側は日立国際電気の商号を残し、KKRが6割、日立製作所と日本産業パートナーズ系のファンドが各2割を持つ会社として続いた。分割後に「日立国際電気」を名乗るのは、この映像・通信の会社にあたる。佐久間社長は、社名は変わっていないが中身は半分になったと述べ、半導体とたもとを分かち退路を断つと語った。日立へ途中経過を報告して承認を取る必要がなくなり、意思決定の速さが変わったとも述べている[14][15]

成膜専業として過ごした5年

KKR傘下に移ったKOKUSAI ELECTRICは、2018年6月に社長となった金井史幸氏のもとで成膜装置に絞った経営に入った。金井史幸氏(社長)は、当時KKR側と次の道をどう進むかを議論したこと、上場には時間がかかること、ほかの領域の製造装置との関係を築いて半導体製造事業全体を見渡せる環境に身を置く利点を重くみたことを挙げ、2019年に米アプライドマテリアルズとの統合合意に至った経緯を説明している[16]

その合意は2021年3月、期限内に規制当局の承認を得られないまま解除された。KOKUSAI ELECTRICは単独での上場へ方針を戻し、2023年10月25日に東証プライム市場へ新規上場している。バッチALD方式の成膜装置で世界シェア約7割を占める専業として、日立から分かれた5年後に資本市場へ戻った[17][18]

出典・参考

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