輸出を円建てに統一するとは、為替の振れを顧客に負わせることである。それが通ったのは、セラミックフィルターで世界シェア85%を占め、顧客に切り替え先が無かったからでもあった。ただ村田泰隆氏が語った理由は市場での立場ではなく、工法の独自性であった。機械を買わずに作り、材料から自分で焼く。同業が低賃金の国へ工場を移すなかで国内に残れたのは、原価の発生地と請求の通貨をそろえれば為替が商売の前提から外れるという読みがあったからだろう。
もっとも、この型は値下げ圧力を消したわけではない。チップ積層セラミックコンデンサーが毎年2〜3%の値下げ要求を受けた事情は、30年後も1銭をめぐる攻防として続いている。2025年からの中期経営計画では営業利益率の目標を前の中計の20%から18%へ下げ、汎用品の価格競争にも付き合う方針を選んだ。工法を囲い込んで得られるのは値段を決める力ではなく、真似されるまでの時間であった。その時間のうちに次の世代を作り続ける反復が、40年以上繰り返されてきたとみられる。