パナソニック 三洋電機の買収 リチウムイオン電池と太陽電池の技術を、のれん5,144億円を積んで取りに行く選択

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時期 2008年12月
当時の社長 大坪文雄
論点 事業構造の転換とM&Aの値付け
何をなぜ決めたか
概要

2008年12月19日、パナソニックは三洋電機と資本・業務提携契約を締結し、国内外の競争法に基づく手続を終えたのち、公開買付けにより三洋電機株式の過半数を取得して子会社化すると定めた。大坪文雄社長は各国の承認を待って、2009年11月4日の取締役会で1株131円の公開買付けを決議する。11月5日から12月9日までを買付期間とし、12月16日に優先株式の全てを取得、12月21日にこれを普通株式へ転換して議決権の50.2%を握った。対価は現金403,780百万円であった。

背景

世界的な金融危機のさなかで、既存の事業構成のままでは成長の絵が描けなくなっていた。三洋電機は太陽電池、二次電池、電子デバイス、業務用機器、AV機器及び電化機器等を手がけ、なかでもリチウムイオン二次電池と太陽電池に厚い技術基盤を持っていた。取得の狙いに掲げたのは、ソーラー事業の拡大、二次電池事業の強化、コスト削減による三洋電機の経営体質の強化、そして環境・エナジー関連を中心とする総合的なソリューション事業の創造である。

内容

支配獲得日に受け入れた資産は2,449,910百万円、引き継いだ負債は1,513,770百万円で、差額として514,419百万円ののれんが立った。無形固定資産494,103百万円のうち償却対象は492,476百万円で、特許・ノウハウ355,490百万円、顧客関係52,011百万円、商標権45,451百万円が含まれる。のれんは全額が「三洋電機」セグメントに配分され、米国会計基準のもとで償却されず、年1回の減損テストに委ねられた。

2010年10月の公開買付けで持分を約81%まで引き上げ、2011年4月1日、三洋電機株式1株にパナソニック株式0.115株を割り当てる株式交換で完全子会社とした。

含意

取り込んだ電池事業は、円高と製品価格の下落のなかで買値に見合わなくなった。2012年3月期には、民生用リチウムイオン電池事業の73,387百万円を含む163,902百万円ののれん減損損失を計上し、長期性資産の減損損失399,259百万円と合わせた事業構造改革費用は767,112百万円に達した。パナソニックの株主に帰属する当期純損失は772,172百万円、翌2013年3月期も754,250百万円となり、子会社化から3年で二期連続の巨額赤字を招いた。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

技術は正しく、値付けが高すぎた

この買収の本質は、電池の技術を買ったことではなく、成長の担い手を丸ごと外から調達したことにある。支払った現金は403,780百万円だが、受け入れた資産と引き継いだ負債の差から立ち上がったのれんは514,419百万円で、対価そのものを上回っていた。値付けの対象になったのは、三洋電機が抱える帳簿上の資産ではなく、二次電池と太陽電池がこの先生むはずの利益であっただろう。議決権50.2%という最小限の過半数から入り、追加取得と株式交換の二段で完全子会社化へ進んだ手順にも、重い値付けを分割して確かめようとする構えがうかがえる。

もっとも、期待の置き場所そのものを誤ったわけではないだろう。減損に追い込まれたのは民生用リチウムイオン電池事業であって、二次電池の技術そのものではなかった。円高と製品価格の下落に削られた民生用に73,387百万円の減損が生じる一方で、同じ技術は車載という別の出口を得て、のちにエナジー主力事業へ育っていく。買収の成否を分けたのは、何を買ったかではなく、買ったものをどの市場に置くかであった。誤りがあったとすれば、それは技術の見立てではなく、需要の見立ての側にあったのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 三洋電機㈱ 太陽電池、二次電池、電子デバイス、業務用機器、AV機器及び電化機器等の製造販売
資本・業務提携契約の締結日 2008年12月19日 両社取締役会の承認に基づき締結。将来的には組織再編も視野に入れるとした
取得の法的形式 公開買付け 国内外の競争法に基づき必要な手続及び対応を終えた後に実施すると定めていた
公開買付けの決議日 2009年11月4日 取締役会決議。買付けは翌11月5日から開始した
公開買付期間 2009年11月5日〜12月9日 提携契約の締結から約11か月を要した
買付価格(普通株式) 1株131円 2011年の株式交換比率の算定でも1株当たりの株式価値として採用された
買付価格(優先株式) 1株1,310円 A種優先株式・B種優先株式とも同額
企業結合日 2009年12月16日 三洋電機の優先株式の全てを公開買付けにより取得した日
普通株式への転換 2009年12月21日 取得した優先株式を全て普通株式に転換した
取得した議決権比率 50.2% 転換の結果、同社の支配持分を獲得した
対価全体の公正価値 403,780百万円 対価の種類は現金
非支配持分の公正価値 532,360百万円 支配獲得日の三洋電機の株価に基づいて測定している
取得純資産計 936,140百万円 対価全体の公正価値と非支配持分の公正価値の合計
取得関連費用 5,058百万円 連結損益計算書の「営業外損益―その他の費用」に含めた
のれん 514,419百万円 全て「三洋電機」セグメントに計上。税務上損金算入できない
のれんの償却方法 償却せず年1回の減損テスト 米国会計基準の会計基準編纂書350による。日本基準の定額償却とは異なる
受け入れた無形固定資産 494,103百万円 うち償却対象492,476。特許・ノウハウ355,490、顧客関係52,011、商標権45,451
受け入れた資産の合計 2,449,910百万円 有形固定資産404,468、現金及び現金同等物228,972などを含む
引き継いだ負債の合計 1,513,770百万円 流動負債606,639、固定負債907,131
連結総資産への影響 2,046,130百万円の増加 支配獲得日時点の取得資産合計から投資簿価を控除した金額
競争法上の問題解消措置 ニッケル水素電池事業の一部譲渡 提出会社はこれに伴い減損損失14,089百万円を特別損失に計上した
当期に取り込んだ三洋の業績 売上高399,888百万円 税引前損失23,352百万円。2010年1月以降の3か月分
通期換算した売上高 8,617,400百万円 期首から連結と仮定した非監査のプロ・フォーマ情報。純損失は155,294百万円
追加取得の実施 2010年10月の公開買付け 三洋電機に対する持分比率は約81%となった
追加取得に伴う資本剰余金の減少 109,326百万円 2010年度の合計額。パナソニック電工の追加取得分を含む
株式交換の決議日 2010年12月21日 取締役会決議。同日に株式交換契約を締結した
完全子会社化の効力発生日 2011年4月1日 2011年3月初旬の臨時株主総会で株式交換契約が承認された
株式交換比率 三洋電機株式1株に対し当社株式0.115株 交付する株式は全て自己株式241,961,655株で対応。電工分を含む
完全子会社化に伴う非支配持分の減少 271,205百万円 当社株主資本が同額増加。パナソニック電工分を含む合計額

出所:パナソニック 有価証券報告書 第102期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】【事業等のリスク】 / 第103期(2010年3月期)注記「企業結合」 / 第104期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】、注記「非支配持分との資本取引」「後発事象」

のれん・無形固定資産と総資産の推移

パナソニック:のれん・無形固定資産と総資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2005年3月期 461,912101,5858,056,881 第99期の前期欄。当時は「営業権」の名称。全期間が連結・米国会計基準
2006年3月期 413,137104,1587,964,640
2007年3月期 379,324115,6317,896,958
2008年3月期 429,902128,9177,443,614
2009年3月期 410,792120,7126,403,316 2008年12月に資本・業務提携契約を締結した期。連結はまだ買収前
2010年3月期 923,001604,8658,358,057 12月に三洋電機を子会社化し、のれん514,419・無形固定資産494,103を受け入れた
2011年3月期 924,752542,7877,822,870 三洋電機セグメントののれんは為替換算差などで517,980へ
2012年3月期 757,417345,7516,601,055 のれんの減損損失163,902を計上。うち民生用リチウムイオン電池が73,387
2013年3月期 512,146223,0135,397,812
2014年3月期 461,191213,8785,212,994 翌期の前期欄ではのれん473,377・無形固定資産203,591へ組み替えられている
2015年3月期 457,103172,8985,956,947
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)無形固定資産(百万円)

出所:パナソニック 有価証券報告書 第99期(2006年3月期)〜第108期(2015年3月期)(連結貸借対照表、【主要な経営指標等の推移】)。連結・米国会計基準

三洋電機セグメントの推移

パナソニック:三洋電機セグメントの推移

(百万円) 売上高事業別利益のれん 備考
2010年3月期 404,841△730514,419 連結は2010年1月からの3か月分。売上高はセグメント間取引4,953を含む
2011年3月期 1,561,918△8,033517,980 通期で連結した唯一の期。2011年4月1日に完全子会社となった
三洋電機セグメントの売上高と利益率
売上高(百万円)事業別利益率(%)

出所:パナソニック 有価証券報告書 第104期(2011年3月期)(注記「セグメント情報」「のれん及びその他の無形資産」)。連結・米国会計基準

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

救済型の買収2007年山崎製パン二度重ねた第三者割当増資の引受と、菓子の老舗の再建支援菓子事業の拡大と再建支援の引き受け
2012年MARUWA企業再生支援機構からの全株式7億円での引き受けLED照明事業の販路とブランドの獲得
2006年豊田通商資本提携から完全統合へ進めた経営再建中の商社の取り込みと総合商社化非自動車分野の獲得と総合商社化
2001年T&Dホールディングス破綻した生保の受け皿として太陽・大同が引き受けたT&Dフィナンシャル生命の源流破綻生保の受け皿と販売チャネルの獲得
2018年マネックスグループNEMの不正送金から3か月後の取得と、のれんの立たない45億円暗号資産交換業への参入と買収後の再建
隣接領域への展開2003年東北電力東北インテリジェント通信を含む2社の傘下入れによるグループ事業の再編電力自由化下のグループ事業領域と連結経営
1897年住友電工日本製銅の買収を足がかりとする銅線製造事業の立ち上げ銅の加工工程の内製化と創業
2009年サイバーエージェントオンラインゲーム子会社の全株取得による課金事業の取り込み広告に依存した収益構造への課金事業の接ぎ木
2009年キヤノン「自前主義」を返上した初の大型買収自前主義の見直しと商業印刷への進出
2009年三井住友フィナンシャルグループ金融危機に揺れるシティからの証券リテール基盤の取り込み証券ビジネスの強化と銀証融合
参考文献
出典・参考
  • パナソニック 適時開示「パナソニック株式会社および三洋電機株式会社の資本・業務提携契約締結のお知らせ」
  • パナソニック 有価証券報告書「第102期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】【事業等のリスク】」
  • パナソニック 有価証券報告書「第103期(2010年3月期)注記「企業結合」【事業等のリスク】」
  • パナソニック 有価証券報告書「第104期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】、注記「セグメント情報」「のれん及びその他の無形資産」「非支配持分との資本取引」「後発事象」」
  • パナソニック 有価証券報告書「第105期(2012年3月期)注記「長期性資産及びのれんの減損」」

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