MARUWA企業再生支援機構からのヤマギワ全株式の7億円での取得

セラミックの会社が、なぜ1923年創業の照明ブランドを買い取ったか

時期 2012年11月
意思決定者(推定) 神戸誠 社長
論点 LED照明事業の販路とブランドの獲得
概要
2012年11月1日、MARUWAはヤマギワ株式会社の発行済株式の全部を企業再生支援機構から取得すると発表した。株式取得の期日は同年12月3日、取得価額は7億円であった。1923年創業の照明器具の老舗を、機構の管理下から引き受けた買収であった。
背景
MARUWAは2005年にMARUWA SHOMEIを設けてLED高輝度照明へ進出し、2011年にはマレーシアにも照明の生産子会社を置いた。だが照明機器事業の売上高は2012年3月期で22.89億円にとどまり、光源を作る技術はあっても設計と販路が自前では育っていなかった。
内容
秋葉原の実店舗を2010年に閉じ、2011年4月から企業再生支援機構の支援下にあったヤマギワの全株式を7億円で取得した。翌2013年3月に商号を株式会社YAMAGIWAへ改め、MARUWA SHOMEIが製造、YAMAGIWAが販売を担う二社体制を組んだ。
含意
照明機器事業の売上高は2014年3月期に121.96億円まで伸び、連結の36%を占めた。ただ利益率は低く、翌期は赤字となった。2026年3月期には106.79億円・利益21.41億円と過去最高を更新したが、本業のセラミックが伸びた分、連結比率は14%へ下がった。
筆者の見解

買ったのは市場ではなく名前だった

成長するLED照明市場に賭けた多角化と読むと、この買収は的を外す。MARUWAは2005年から自社でLED光源を作り、マレーシアに生産子会社まで置きながら、照明機器事業の売上高は22億円で止まっていた。足りなかったのは市場でも技術でもなく、施設や住宅の照明設計に入り込む販路と、設計者が知っている名前であった。7億円という値付けは、それを機構の管理下から買うために必要だった額にすぎないとみることができる。

もっとも、二本目の柱としては半端に終わった。照明の連結売上比率は2014年3月期の36%から2026年3月期の14%へ下がり、自前で立てたマレーシアの照明生産子会社は清算され、残ったのは買ってきた名前の方であった。7億円の会社が十年で30億円の純資産を積んだ以上、この判断が外れだったとは言えない。ただそれは、本業のセラミックがそれ以上の速さで伸び、二本目の柱を必要としなくなった話でもあるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

光源は作れても売り場がなかった

MARUWAが照明に手を伸ばしたのは2005年4月であった。金門光波から金門電気の全株式を取得し、商号を株式会社MARUWA SHOMEIへ改めてLED高輝度照明の事業を始めた。LED素子の放熱にはセラミック基板が使われるため、材料から光源へ回り込む筋道は技術の上では自然であった。2011年8月と12月にはマレーシアへ生産子会社を相次いで設け、うち一社にはMARUWA LIGHTINGSの名を付けている[1]

それでも売上は積み上がらなかった。照明機器事業の売上高は2011年3月期19.50億円、2012年3月期22.89億円で、同じ2012年3月期のセラミック部品事業190.24億円に対して1割強にすぎない。光源を作る技術は社内に積み上がっても、施設や住宅の照明設計に入り込む販路と、設計者に選ばれる名前は自前では育っていなかった[2]

秋葉原を畳んだ老舗

買われる側のヤマギワは1923年創業の照明・家具の老舗で、秋葉原の大型店として知られた会社であった。2010年8月29日、唯一の実店舗だったヤマギワリビナ本館を閉め、店舗小売から退いた。赤字の店舗運営からの撤退が遅れたことに加え、建築市場の低迷が重なって過大な有利子負債を抱えていた[3][4]

2011年4月15日、企業再生支援機構がヤマギワの事業再生を支援すると発表した。機構は新会社へ5億円を出資し、取引金融機関には83億円の債権放棄を求めた。同年8月には本業が新設の会社へ移され、旧会社は社名を改めて清算へ向かった。買い手が現れたのは、機構の管理下に入って1年半後であった[5]

決断

7億円で買った1923年の名前

2012年11月1日、MARUWAはヤマギワの発行済株式の全部を企業再生支援機構から取得すると発表した。株式取得の期日は同年12月3日、取得価額は7億円であった。取得の理由について同社は、ヤマギワのブランド力と照明ソリューション力を生かし、成長するLED照明市場での事業基盤を広げてグローバルな事業成長を目指すためと説明している[6][7]

金額は小さい。2013年3月期のMARUWAの連結売上高は243.99億円、当期純利益は20.40億円で、7億円はその期の純利益の3分の1にすぎない。同期の連結キャッシュ・フロー計算書には、この買収について「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による収入」3億6,496万円が計上された。連結に取り込んだ現金が支払額を上回り、差額が収入として立った形であった[8][9]

製造と販売を分ける二社体制

2013年3月、ヤマギワ株式会社は商号を株式会社YAMAGIWAに改めた。照明機器事業は、MARUWA SHOMEIが製造と販売を担い、YAMAGIWAがMARUWA SHOMEI製品と外部からの仕入商品を売るという分担で組み直された。材料と光源を持つ側に、設計と販路を持つ側を接ぐ配置であった[10][11]

買い取った名前はグループの外へも持ち出された。2016年8月、MARUWAはマレーシアに販売子会社MARUWA YAMAGIWA SDN.BHD.を設け、自社名と買収先の名を並べた商号を海外の販売拠点に使った。日本の照明設計の現場で通っていた1923年の名は、セラミックメーカーの海外網に組み込まれた[12]

結果

一気に3割まで膨らんだ照明

照明機器事業の売上高は、2012年3月期の22.89億円から、ヤマギワが加わった2013年3月期に51.50億円、通期で寄与した2014年3月期には121.96億円へ増えた。同期の連結売上高334.75億円に対して36%にあたる。セラミック部品に次ぐ二本目の柱の外形は、買収によって一年で整った[13]

ただ、利益は薄かった。2014年3月期の照明機器事業の利益は4.26億円で売上高の3.5%にとどまり、2015年3月期には0.82億円の損失に転じた。自前で立ち上げた側も長くは残らず、マレーシアの生産子会社MARUWA LIGHTINGS SDN.BHD.は2022年度に清算結了して連結から外れている[14][15]

十年後の帳尻

事業はその後落ち着いた。照明機器事業の売上高と利益は2024年3月期に83.32億円・11.30億円、2026年3月期には106.79億円・21.41億円と過去最高を更新した。株式会社YAMAGIWA単体でも2024年3月期の売上高63.26億円、経常利益7.86億円、純資産30.73億円を計上しており、7億円で取得した会社の純資産は4倍を超えた[16][17]

それでも連結に占める比重は下がった。2026年3月期の連結売上高744.76億円に対し、照明機器事業は14%で、2014年3月期の36%から半分以下になった。半導体製造装置向けや車載、情報通信向けのセラミック部品がその間に伸びたためであり、照明は二本目の柱というより、たたまずに残した事業の位置に落ち着いた[18]

出典・参考

免責事項およびポリシー