杭打ちデータ偽装(2015年・旭化成の決断)

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論点 子会社の杭打ちデータ偽装と全国調査・信頼回復
売上高(億円)営業利益率(%)
子会社・旭化成建材での発覚を受けた全国物件の自主調査と開示

子会社・旭化成建材での発覚を受けた全国物件の自主調査と開示

概要

2014年11月、横浜市のマンション"パークシティLaLa横浜"で住民が建物の傾きに気づいたことを発端に、子会社・旭化成建材による杭打ち工事データの改ざんが発覚した。旭化成グループは過去10年に手掛けた3000件超の杭工事を自ら全件調査し、結果を公表する道を選んだ。

背景

旭化成建材は元請けの三井住友建設からほぼ杭工事を丸投げされる下請け構造のなかで施工を担い、その3次下請けから出向した現場代理人が電流計データの流用・改ざんを続けていた。同種の問題は横浜だけでなく北海道でも独自に発覚し、一現場の逸脱では説明できない広がりを見せた。

内容

社内に対策本部と調査委員会を、外部には独立した弁護士からなる外部調査委員会を設置し、2015年10月22日に過去10年間の杭工事実績を国土交通省へ報告した。11月24日には調査が可能であった3,052件の調査を終え、360件で施工データの流用等が判明したと報告した。2016年4月5日の参議院国土交通委員会では、360件のうち357件の安全性が確認されたと報告されている。

2016年3月期には調査等に要した費用を杭工事関連損失14億5,600万円として特別損失に計上した。浅野敏雄社長は謝罪と引責辞任を表明し、2016年4月に経営戦略担当であった小堀秀毅氏へ社長交代を実施した。

含意

隠蔽ではなく開示という選択は、短期的には批判の集中を招いたが、業界に自浄作用が乏しいなかで旭化成グループの対応を際立たせた。パークシティLaLa横浜は2017年に解体、2021年2月に建て替えが完了して住民が再入居し、小堀新体制は"信頼回復"を経営方針の中心に据えて再出発した。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解 開示という選択がもたらしたもの
筆者の見解

開示という選択がもたらしたもの

この決断の核心は、住民が気づいた小さな傾きを一現場の逸脱として処理せず、旭化成グループが自ら過去10年・3,052件という規模まで調査の網を広げ、途中経過も含めて数字を公表し続けた点にあっただろう。流用等の判明件数が調査のたびに積み上がっていった過程は、外部からは"後出し"に映りかねないものであったが、隠して後に露見するよりも、都度公表して批判を受け止める方を選んだ結果でもあった。北海道での別事案の発覚が示すように、問題は一人の現場代理人の資質にとどまらず、重層下請けと大臣認定工法という業界の構造に根差していた。

経営責任の取り方も、この判断の輪郭をよく表している。浅野敏雄社長は数カ月にわたる調査を自ら指揮した後、次期中期経営計画の始動にあわせて自ら退き、小堀秀毅社長が"信頼回復"を経営方針の看板に掲げて引き継いだ。パークシティLaLa横浜の再入居まで6年余りを要し、施工者間の責任分担をめぐる訴訟はなお続いたが、全件調査と公表という初期の選択が、旭化成グループに対する評価の分かれ目になったとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 3表
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
公表の日 2015年10月14日 旭化成建材が二次下請会社として施工したマンションの杭工事での流用等を公表
偽装の内容 電流計データと流量計データの流用等 杭工事の施工時に使う電流計と、杭先端を根固めするセメントミルクの流量計
端緒となった物件の施工 2005年から2006年 横浜市所在のマンション。旭化成建材は二次下請会社として杭工事を担った
調査の体制 対策本部・調査委員会・外部調査委員会 外部調査委員会は外部の独立した弁護士で構成。事実関係の調査と原因究明にあたった
国土交通省への報告 2015年10月22日 旭化成建材が過去10年間に施工した杭工事の実績を報告した
調査の対象 3,052件 過去10年間の杭工事実績のうち、施工データの流用等の有無を調査できた物件
流用等が判明した物件 360件 2015年11月24日に調査が完了し、国土交通省へ結果を報告した
安全性の確認 360件のうち357件 2016年4月5日の参議院国土交通委員会で国土交通省から報告された
監督処分の日 2016年1月13日 国土交通省関東地方整備局より旭化成建材が受けた
処分の内容 指示処分・営業の停止命令・勧告 建設業法第28条第1項・同条第3項・第41条第1項の規定に基づく
中間報告書の公表 2016年1月8日・2月9日 外部調査委員会が1月8日、社内の調査委員会が2月9日に公表した
損失の計上 杭工事関連損失1,456百万円 2016年3月期の特別損失。施工データの流用等の調査等に要した費用
組織の新設 リスク・コンプライアンス室 2016年1月1日付。グループ全体のリスク情報とコンプライアンス事案を一元的に集約する
品質保証の強化 環境安全部を環境安全・品質保証部へ改組 品質保証機能を強化した
委員会の統合 リスク・コンプライアンス委員会を設置 2016年9月。企業倫理委員会とリスク管理委員会を統合し、社長が委員長を務める
再発防止の方針 三現主義の徹底 「現場」「現物」「現実」を重視して行動し、コンプライアンスの強化を図る
旭化成建材の再発防止策 施工管理体制の見直しと教育の実施 作業員への教育と社員へのコンプライアンス教育を2017年3月期に実施した

出所:旭化成 有価証券報告書 第125期(2016年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】連結損益計算書注記・第126期(2017年3月期)【対処すべき課題】

杭工事関連損失と特別損失の推移

旭化成:杭工事関連損失と特別損失の推移

(百万円) 杭工事関連損失特別損失合計 備考
2011年3月期 −21,576
2012年3月期 −15,662
2013年3月期 −13,151
2014年3月期 −34,539
2015年3月期 −11,241
2016年3月期 1,45624,173 施工データの流用等の調査等に要した費用。独立した科目として計上したのはこの期だけ
2017年3月期 −13,328 杭工事関連損失の計上はない
2018年3月期 −9,908
2019年3月期 −21,814
2020年3月期 −46,022
2021年3月期 −44,795
特別損失合計(百万円)

出所:旭化成 有価証券報告書 第121〜131期(連結損益計算書、注記「杭工事関連損失の内容」)

住宅・建材セグメントの売上高とセグメント利益

旭化成:住宅・建材セグメントの売上高とセグメント利益

(百万円) 住宅建材住宅のセグメント利益 備考
2011年3月期 409,22447,41836,476 建材は独立した報告セグメントで、セグメント利益は2,091
2012年3月期 451,96546,14646,340
2013年3月期 486,18251,50454,266
2014年3月期 534,37755,00362,984
2015年3月期 603,786−63,037 この期から住宅と建材を「住宅・建材」の一つの報告セグメントへ統合
2016年3月期 632,418−71,000 10月に施工データの流用等が発覚。2016年1月に旭化成建材が監督処分を受けた
2017年3月期 618,964−64,100 報告セグメントの名称を「住宅」に変更。建材は同セグメント内の一事業
2018年3月期 640,988−64,357
2019年3月期 659,754−68,161
2020年3月期 704,423−72,711
2021年3月期 692,639−63,548
住宅(百万円)建材(百万円)

出所:旭化成 有価証券報告書 第121〜131期(連結財務諸表注記「セグメント情報」)

参考文献
出典・参考
  • 旭化成 有価証券報告書「第125期(2016年3月期)【対処すべき課題】」
  • 旭化成 有価証券報告書「第125期(2016年3月期)【事業等のリスク】」
  • 旭化成 有価証券報告書「第125期(2016年3月期)連結損益計算書 注記「杭工事関連損失の内容」」
  • 旭化成 有価証券報告書「第125期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 旭化成 有価証券報告書「第126期(2017年3月期)【対処すべき課題】」

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