三菱HCキャピタルJackson Square Aviation の買収と航空機リースの本格化
縮む国内リース市場を前に、約1,000億円を組成3年目の米国系リース会社へ投じた判断
- 概要
- 2012年10月4日、三菱UFJリースは取締役会でJSA International Holdings, L.P.の全出資持分の取得を決議し、持分譲渡契約を締結した。取得価額は約1,000億円で、傘下のJackson Square Aviation, LLC などを通じてグループ全体で約70機の航空機を保有する会社を完全子会社化する内容である。取得は2013年1月11日に完了した。
- 背景
- 2009年3月期のリース会計基準変更と超低金利により、国内のファイナンスリース需要は細っていた。三菱UFJリースは中期経営計画「Vision2013」でアジアを代表する総合ファイナンス会社への転換を掲げ、航空機・船舶・コンテナ・貨車など国際的に流通するアセットの拡大を進めていた。
- 内容
- 取得原価は1,071億92百万円で、現金対価1,053億44百万円にアドバイザリー費用など18億48百万円を加えた金額である。資金は手元資金と新規借入で賄った。JSAは2010年2月に組成された会社で、機齢の若いナローボディー機を中心に良質な資産を持ち、業界に精通した経営陣が世界各国の航空会社との取引を担っていた。
- 含意
- 買収前年の2012年6月には、三井住友銀行・三井住友ファイナンス&リース・住友商事がロイヤルバンク・オブ・スコットランドの航空機リース事業を共同買収している。国内で伸ばせなくなった資産を、日本の金融機関が国境の外の航空機に置きはじめた時期にあたる。
値札のついた時間
この買収で三菱UFJリースが手に入れたのは、約70機の機体そのものよりも、機材の残価を読み、世界の航空会社と交渉し、売り時を決める人と関係の束であった。国内でその能力を一から育てれば10年はかかる。1,000億円という値札は、その時間に対して付けられている。組成3年目の若い運用体を、立ち上げの赤字期を越えた直後に、資金力のある側が引き取るという取引の形も、それをよく表している。
一方で、買った時間の使い方までが値札に含まれていたわけではなかった。航空機は10年で会社の稼ぎ頭となり、同じ10年のあいだ、社長が代わるたびに航空機以外を育てる必要が語られ続けた。ひとつの領域で成功した会社が次の領域を探すときの難しさが、決算説明会と社長交代の記録に残っている。2025年に自らエアバスへ50機を発注するところまで来た航空事業は、その難しさを解いた答えというより、解かねばならない問題をより大きくした側面もある。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内で積めなくなった資産
2009年3月期からリース取引の資産計上が義務づけられ、顧客企業が設備を貸借対照表に載せずに済むという利点は消えた。加えて金融緩和で企業の調達金利が下がり、設備は借りるより買うか借入で賄うほうが安く済むようになった。国内のリース取扱高はリーマン・ショックを境に落ち込み、5兆円前後で頭打ちとなる。合併で3兆円規模の資産を抱えた三菱UFJリースにとって、国内の設備リースを積み増して収益を伸ばす型は、市場の側から先に閉じられていた[1]。
そこで三菱UFJリースが向かったのが、物件そのものの価値と流通性で稼ぐ領域であった。中期経営計画「Vision2013」は、国内トップグループの総合ファイナンス会社からアジアを代表する会社への転換を掲げ、オペレーティングリースや中古機器売買を軸に据えている。航空機・船舶・コンテナ・貨車のように国際市場で売買が成立する資産は、日本国内の設備投資動向から切り離して残高を積める。航空機については、業界に通じた人材の採用と営業拠点の開設が2008年のダブリン拠点開設以降続いていた[2]。
日本の金融機関が航空機に集まった年
航空機リースへ動いたのは三菱UFJリースだけではなかった。2012年6月、三井住友銀行・三井住友ファイナンス&リース・住友商事の3社は、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド傘下の航空機リース事業を共同で買収している。金額は約73億ドルにのぼった。金融危機後の資本規制で欧州の金融機関が航空機ファイナンスから退き、円建てで安く資金を調達できる日本勢がその資産を引き取る取引が、この年に集中した[3][4]。
航空機は、リース資産としての性格が国内設備と大きく異なる。新興国の経済成長と格安航空会社の台頭で需要が伸び、機材を自前で持ちたがらない航空会社が増えていた。機体は世界のどこへでも移せて、中古市場も成立する。反面、1機あたりの金額は数十億円規模で、契約は10年を超え、機材の残存価値と航空会社の信用力の両方を読む専門性が要る。買う側にとっては、資産よりも人と取引網を手に入れられるかどうかが分かれ目になる領域であった[5]。
決断
報道の否定から2週間で決議
2012年9月26日、三菱UFJリースは「一部報道に関する件」と題した短い開示を出した。前日に航空機リース会社の買収が報じられたことを受け、自社が発表したものではないと述べるだけの文面である。それから8日後の10月4日、同社は取締役会でJSA International Holdings, L.P. の全出資持分を取得することを決議し、同日付で持分譲渡契約を締結した。取得価額は売買代金と手数料等を含めて約1,000億円を予定し、資金は手元資金と新規借入で充てるとした。前期の連結当期純利益346億円の3倍に近い投資であった[6][7]。
売り手は、米オークツリー・キャピタル・マネジメントが運営する12本のファンドと、JSAの経営陣らが出資する持株会社および個人であった。取得後の出資比率は100%となる。日程は決議と同日の契約締結、2012年12月を予定する出資持分の取得期日という運びで、企業結合日は実際には2013年1月11日となった。買収の対象はケイマン籍のリミテッド・パートナーシップで、その傘下に108社の子会社がぶら下がる構造である[8][9]。
機材ではなく事業モデルを買う
取得の理由として三菱UFJリースが挙げたのは、機数でも簿価でもなく事業モデルであった。JSAは業界に精通した専門性の高い経営陣が中心となり、汎用性の高いナローボディーを中心に機齢の若い良質な航空機資産を保有し、世界各国の航空会社へアクセスできる強固な営業基盤を持つ——この3点が、アセットファイナンスの強化という自社の方向と合致すると判断したと説明している。単通路機を若いうちに保有し、リース期間が終われば市場で売る回転型の運用は、残価を読む力と航空会社との関係がそろって初めて成り立つ[10]。
買収時点のJSAは、組成からまだ3年に満たない会社であった。ケイマンのパートナーシップが組成されたのは2010年2月3日で、2010年12月期の連結売上高は2,030万米ドル、当期純損益は680万米ドルの赤字である。翌2011年12月期には売上高1億4,840万米ドル、純利益2,520万米ドルと立ち上がり、連結総資産は27億3,950万米ドルへ膨らんでいた。歴史の長い会社ではなく、急速に資産を積んだ若い運用体を、資金力のある日本の金融系リース会社が引き取る取引であった[11]。
結果
取得原価1,071億円と、増えた子会社108社
2013年1月11日、三菱UFJリースは全出資持分の取得を完了した。取得原価は1,071億92百万円で、内訳は現金対価1,053億44百万円とアドバイザリー費用等18億48百万円である。みなし取得日を2013年1月1日としたため、2013年3月期の連結財務諸表にはJSAの貸借対照表だけが反映され、損益は含まれていない。JSAとその子会社108社が連結対象に加わり、うち22社が特定子会社となった。買収の効果が損益に出るのは翌期以降となる[12][13]。
航空機を入り口に、周辺の資産へも手が伸びた。2014年5月12日の取締役会で、三菱UFJリースは航空機エンジンリースのEngine Lease Finance Corporationの全株式と、海上コンテナリースのBeacon Intermodal Leasing, LLC の全出資持分の取得を決議し、同年11月13日に取得を完了している。機体を貸すJSAと、エンジンを貸すエンジン会社が並んだことで、機体・エンジン・部品を一つのグループで扱える構えとなった。中古エンジンについては、機体を解体して部品として売る事業にも踏み込んだ[14][15]。
稼ぎ頭になった一方で、偏りも残した
買収から5年たった2017年、社長に就いた柳井隆博氏は、航空機や航空機エンジン以外はビジネスとして目立った収益貢献ができるサイズになっていないと述べ、それらを独り立ちさせることを課題に挙げた。前任の白石正社長も、退任間際の決算説明会で新事業の発掘が不足しており航空機や不動産に収益源の偏りが見られると語っている。国内で積めない資産の受け皿として買った航空機は、想定どおり稼ぎ頭になり、同時に他の事業が育つ前に会社の重さを一方へ寄せていた[16][17]。
買収から13年後の2025年3月末、JSAが保有する航空機は248機、グループの航空機エンジンは400基となった。三菱HCキャピタルの航空セグメントの利益は472億円、セグメント資産残高は2兆4,481億円で、グループ全体の利益1,351億円の3割強を占める。2025年3月にはJSAがエアバスに対しA320neoファミリー機50機を初めて直接発注した。中古機を買ってリースする会社として引き取った運用体は、メーカーへ自ら発注する規模の事業へ変わった[18][19]。
- 三菱UFJリース ニュースリリース 2012年9月26日「一部報道に関する件」
- 三菱UFJリース ニュースリリース 2012年10月4日「子会社の異動(出資持分取得)に関するお知らせ」
- 三菱UFJリース ニュースリリース 2013年1月15日「航空機リース会社JSA International Holdings, L.P.の出資持分取得完了について」
- Aviation Wire 2012年10月9日「三菱UFJリース、米航空機リース大手を1000億円で買収」
- 週刊東洋経済 2017年5月27日号「深層リポート リース反攻 ジリ貧からの脱却」
- 週刊東洋経済 2017年8月26日号「この人に聞く 三菱UFJリース 社長 柳井隆博 中計と働き方改革が両輪 航空機以外の育成に注力」
- 週刊東洋経済 2018年12月29日号「2019大予測 PART1 国内産業 49 リース 海外展開や多角化が成長を牽引」
- 三菱UFJリース 有価証券報告書(2015年3月期・沿革)
- 三菱UFJリース 有価証券報告書(2013年3月期・連結)
- 三菱HCキャピタル 統合報告書2025