三菱HCキャピタル日立キャピタルとの資本業務提携
合併ではなく4.2%の出資から始めた——系列の違う2社は、何を決め、何を先送りしたか
- 概要
- 2016年5月13日、三菱UFJリースは日立キャピタル、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱東京UFJ銀行、日立製作所と業務提携を行うことで合意した。日立製作所が保有する日立キャピタル株式の一部を三菱UFJフィナンシャル・グループと三菱UFJリースが取得し、日立キャピタルは日立の連結子会社から持分法適用会社へ移った。
- 背景
- 国内リース市場は2016年度の取扱高が約5兆円と10年でほぼ4割縮んでいた。メーカー系リース会社は親会社の選択と集中により本体から切り離される流れにあり、日立キャピタルもその一社となった。海外展開に必要な外貨調達力を求める日立キャピタル側の事情も重なっていた。
- 内容
- 2016年8月3日に三菱UFJリースと日立キャピタルが2社間の業務提携契約を、8月29日に5社で金融プラットフォームに関する業務提携契約を結んだ。10月3日に株式取得を完了し、議決権所有割合は三菱UFJフィナンシャル・グループ23.0%、三菱UFJリース4.2%となった。三菱UFJリース自身の出資は小さく、資本の大半は銀行持株会社側が担った。
- 含意
- 日立の発表資料は、日立キャピタルと三菱UFJリースの2社が「経営統合を一つの選択肢とした将来の関係強化」に向けて適切な時期に協議を始めると記した。統合の可能性を文書に残しつつ、時期も形も決めない形で始まった提携である。
少数出資という入口
4.2%という出資比率は、事業会社同士の提携としては軽い。資本の重みは三菱UFJフィナンシャル・グループの23.0%が担い、三菱UFJリースは業務提携の相手という立場で入った。この軽さは、日立が金融から手を引く速度と、リース2社が互いを測る速度がそろっていなかったことの表れにも見える。実際、提携から1年たっても両社の社長は具体的な案件を語れずにいた。
それでも4年後に合併へ至ったのは、待つあいだに市場が動かなかったからではない。国内リース市場は縮み続け、単独で資産を積む道はいっそう細くなった。2016年の文書に書かれた「経営統合を一つの選択肢とした」という一節は、当座は何も決めない留保のようでいて、他の相手と組む選択肢を実質的に閉じてもいた。系列の壁を越える統合は、条件が整うのを待つ形をとりながら、入口の時点でおおよその行き先を決めていたとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
資産を積んでも伸びない市場
2016年度の国内リース取扱高は約5兆円で、この10年でほぼ4割減っていた。設備投資に占めるリースの利用率も、最盛期の10%程度から6%程度へ下がっている。金融緩和で企業の調達金利が下がり、手元資金も厚くなったため、設備を借りずに買う判断が増えたためである。リース会社の側では、資産規模が兆円単位に膨らむほど銀行からの追加融資が重くなり、資金調達の面から量的成長の限界が意識されていた[1][2]。
この時期の三菱UFJリースは、2013年に買収した航空機リース会社を軸に海外資産を伸ばす一方、航空機と不動産に収益が偏っていた。白石正社長は2017年5月の決算説明会で、新事業の発掘が不足していると述べている。同社が選んだのは、インフラ・ヘルスケア・中古不動産といった、金融の上に事業運営を重ねる領域への進出であった。取るリスクを引き上げてリターンを高める方向で、資産規模を膨らませずに稼ぐ形を探していた[3]。
日立の側の事情
提携の直接の引き金は、三菱UFJリース側ではなく日立製作所側にあった。日立は社会イノベーション事業への経営資源集中を進めており、その一環で金融子会社を手放す判断をした。2016年5月13日、日立は保有する日立キャピタル株式の一部を三菱UFJフィナンシャル・グループと三菱UFJリースへ譲渡する契約を締結したと発表する。これにより日立キャピタルに対する日立の議決権所有割合は33.4%となり、同社は日立の連結子会社から持分法適用会社へ移った。業界内では「え? 日立もか」という驚きが走ったと報じられている[4][5]。
日立キャピタルは、1957年に日立の家電を月賦販売する会社として発足した日立クレジットと、1968年に日本初のメーカー系リース会社として設立された日立リースが2000年に合併して生まれた会社である。2016年3月期の売上収益は3,653億円、総資産は3兆812億円で、英国を中心とする海外事業に強みを持っていた。海外を伸ばすにはドル資金の調達が要る。日立から離れるかわりに、三菱UFJフィナンシャル・グループの調達力を得るという交換が、日立キャピタル側の実利にあたる[6][7]。
決断
4.2%という出資比率
2016年10月3日、株式取得の手続きが完了した。三菱UFJフィナンシャル・グループが26,884,484株を取得して議決権所有割合23.0%、三菱UFJリースが4,909,340株を取得して同4.2%である。日立キャピタルはMUFGと日立それぞれの持分法適用会社となった。資本の重みは銀行持株会社の側にあり、事業会社である三菱UFJリースの持分は5%に満たない。同業2社の提携でありながら、資本関係は相手の親会社を介した三角形の形を取った[8]。
業務提携の中身は二層に分かれた。2016年8月3日、三菱UFJリースと日立キャピタルは2社間で業務提携契約を結び、事業領域の拡大とソリューション力を含む金融サービス機能の強化を掲げた。続く8月29日には、両社に三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱東京UFJ銀行、日立製作所を加えた5社が、オープンな金融プラットフォームに関する業務提携契約を締結している。日本のインフラ産業を金融面から支える枠組みで、翌2017年には3社の共同出資でジャパン・インフラストラクチャー・イニシアティブが設立された[9][10]。
統合を選択肢として書き残す
この提携でもっとも踏み込んだ一文は、出資比率でも協業分野でもなく、日立の発表資料の末尾に置かれていた。日立キャピタルと三菱UFJリースの2社は、経営統合を一つの選択肢とした将来の関係強化に向けて、適切な時期に協議を開始する——期日も枠組みも書かないまま、統合という言葉だけが公表文書に残された。少数出資と業務提携から始め、合併の判断は先へ置く組み立てである[11]。
段階を踏んだ理由は、両社の立ち位置の違いにある。三菱UFJリースは三菱グループの顧客基盤と航空機・不動産に強く、日立キャピタルは日立グループの販売金融と英国・欧州の事業に強い。重なりが小さい分だけ補完の余地は大きいが、そろえるべき審査基準も商品も人事制度も異なる。三菱UFJリース側は新中期経営計画で日立キャピタルとの関係強化を戦略の一項目に掲げ、両社の機能を結集して広範な事業領域を獲得することを目標に置いた。まず協業で確かめ、統合はその先に置くという順序であった[12]。
結果
動き出しの遅さ
提携から1年後、協業はまだ形になっていなかった。2017年6月に三菱東京UFJ銀行から社長に就いた柳井隆博氏は、同年8月の取材で、日立キャピタルとの共同事業の第1号案件やシナジーの見通しを問われ、日立キャピタルの川部誠治社長とそんなに話をしていないので、これからだと答えている。どうすれば日立グループとMUFGにとって意味のある提携になるのか、よく話をしていく必要があるとも述べた。資本と契約は先に整い、事業の中身は後から詰める順序が、社長交代をまたいで表れていた[13]。
それでも協業は少しずつ積み上がった。三菱UFJリース・日立キャピタル・三菱東京UFJ銀行の共同出資で設立されたジャパン・インフラストラクチャー・イニシアティブは、日本企業のインフラ輸出を金融面から支える器となった。海外ではメキシコでの自動車部品会社向けリース、国内では再生可能エネルギー関連ファンドといった案件が並んだ。三菱UFJリース自身も、ドイツの洋上風力発電向け海底送電事業に200億円を投じるなど、海外インフラへの投資を独自に始めていた[14][15]。
4年後の合併
2020年9月24日、三菱UFJリースと日立キャピタルは経営統合契約および合併契約を締結した。三菱UFJリースを存続会社とする吸収合併で、日立キャピタル株式1株に対し三菱UFJリース株式5.10株を割り当て、効力発生日は2021年4月1日とされた。両社が統合の説明資料の冒頭に置いたのは、2016年5月の資本業務提携の締結以降に協業を進め、経営統合を一つの選択肢として関係強化に向けた協議を重ねてきたという経緯であった[16][17]。
2021年4月1日、合併が実行され、商号は三菱HCキャピタルとなった。日立の頭文字を社名に残す形である。合併初年度の2022年3月期は、連結売上高が前期の9,477億円から1兆7,656億円へ、当期純利益が553億円から994億円へ拡大した。2016年に4.2%の出資から始めた関係は、5年をかけて総資産10兆円規模の会社を作るところまで進んだ。統合の可否を先送りしたはずの一文が、結果として道筋を規定した[18]。
- 日立製作所 ニュースリリース 2016年5月13日「子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ・三菱UFJリース ニュースリリース 2016年10月3日「三菱UFJリース株式会社及び日立キャピタル株式会社の金融機能強化に向けた資本業務提携に関するお知らせ」
- 週刊東洋経済 2017年5月27日号「深層リポート リース反攻 ジリ貧からの脱却」
- 週刊東洋経済 2017年8月26日号「この人に聞く 三菱UFJリース 社長 柳井隆博 中計と働き方改革が両輪 航空機以外の育成に注力」
- 三菱UFJリース・日立キャピタル 説明資料 2020年9月24日「経営統合について」
- 三菱UFJリース 有価証券報告書(2017年3月期)
- 三菱HCキャピタル 有価証券報告書(2022年3月期・連結)