ウエスタンデジタルとの経営統合交渉と、その破談

共同でフラッシュメモリを生む相手との統合は、なぜ株主の同意という壁に阻まれたか

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時期 2021年
意思決定者 早坂伸夫・親会社ベインキャピタル連合/株主SKハイニックス 社長
論点 規模の追求と資本の連立
概要
2021年から2023年にかけて、キオクシアホールディングスは合弁相手の米ウエスタンデジタルとメモリ事業の経営統合を交渉したが、2023年10月下旬に破談した経営判断。四日市・北上でNAND型フラッシュメモリを共同生産する両社が一つになれば、首位の韓国サムスン電子に並ぶ規模のメーカーが生まれるはずであった。しかし株主である韓国SKハイニックスの同意が得られず、統合はまとまらなかった。破談の後、キオクシアは単独での上場と業績回復へ向かった。
背景
キオクシアとウエスタンデジタルは、四日市工場と北上工場でフラッシュメモリを共同生産する合弁「フラッシュベンチャーズ」で結ばれていた。キオクシアが工場を所有・運営し、ウエスタンデジタルが投資の約半分を負担して産出ウエハを折半で引き取る、実質的に折半の枠組みである。もとは2000年に東芝が米サンディスクと始めた合弁で、2016年にサンディスクを買収したウエスタンデジタルがこれを引き継いだ。共同生産という深い結び付きが、両社の統合構想の下地にあった。
内容
ウエスタンデジタルは2021年、キオクシアに約200億ドルの株式交換による統合を提案したが、まとまらなかった。2023年には、ウエスタンデジタルがフラッシュ事業を分離してキオクシアと統合し、本社を日本に置く新会社をつくる構想で交渉が再燃した。邦銀団が約140億ドルの融資枠を用意し、実現すればサムスン電子に肩を並べるNANDメーカーが生まれる見込みであった。だが2023年10月下旬、株主SKハイニックスの同意が得られず、交渉は決裂した。
含意
発明にさかのぼる両社の統合は、複雑な株主構成の前で実を結ばなかった。破談の後、ウエスタンデジタルはハードディスクとフラッシュの事業を二つに分け、2025年2月にフラッシュ事業を「サンディスク」として分社した。共同生産の枠組み自体は続き、次世代品の開発と生産は分社の後も両社で担う。キオクシアは統合によらず単独での道を選び、2024年12月の東証プライム上場と、その後の市況回復による最高益へと向かった。
筆者の見解

発明者どうしの統合を阻んだ資本の連立

この破談の中心にあるのは、フラッシュメモリを世に出した東芝の系譜を引くキオクシアと、その相棒として共同生産を担ってきたウエスタンデジタルという、発明の現場を分かち合ってきた二者の統合が、複雑な資本の連立の前で実らなかったという逆説である。工場では製品と投資を折半で分け合えても、株主の顔ぶれと利害までは一つにまとめきれなかった。競合であるSKハイニックスを株主に抱えた資本の構造そのものが、事業の論理では自然に見えた統合を塞いだとみることができる。

もっとも、統合が流れたことは、キオクシアにとって単独で立つ道を選んだことでもあった。破談の翌年、キオクシアはメモリ市況の谷を耐えて2024年12月に東証プライムへ上場し、その後の需要回復のなかで最高益へ向かう。もし統合が成っていれば、その果実は新会社と旧株主とで分け合われていたはずである。相手との一体化ではなく、自らの資本と技術で市況の波に向き合う道を選んだ点で、破談はキオクシアが単独の会社としての立ち位置を定める分かれ目になったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

四日市・北上の合弁が生んだ共同運命

キオクシアと米ウエスタンデジタルは、フラッシュメモリの共同生産を通じて深く結ばれていた。三重県の四日市工場と岩手県の北上工場を舞台に、両社はフラッシュパートナーズ・フラッシュアライアンス・フラッシュフォワードという合弁会社の総称「フラッシュベンチャーズ」を営む。キオクシアが工場を所有して運営し、ウエスタンデジタルが各社への投資の約半分を負担して、産み出したウエハを両社がおおむね折半で引き取る。工場は一つでも、そこから出る製品と投資はほぼ半分ずつ分け合う、実質的な折半の枠組みであった[1]

この結び付きは、もともと東芝の時代に生まれた。2000年に東芝が米サンディスクとフラッシュメモリの合弁を始め、2016年にサンディスクを買収したウエスタンデジタルが、四日市の合弁関係をそのまま引き継いだ。両社を合わせたNANDの生産規模は世界で有数であり、一つの会社になれば首位のサムスン電子に並ぶ計算であった。世代ごとに数千億円規模の設備投資を要するメモリ事業にとって、開発と投資を一本化できる統合には強い誘因があった[2]

決断

二度の統合提案と、日本に本社を置く新会社構想

両社の統合は、一度で決まる話ではなかった。ウエスタンデジタルは2021年、キオクシアに対しておよそ200億ドルの規模で、株式を交換して一つになる形の統合を提案した。このときは条件が折り合わず、まとまらなかった。合弁で製品と投資を分け合う相手どうしが、資本のうえでも一体になろうという構想は、このころから両社の間で繰り返し浮かんでいた。稼ぐ力の源である工場を共有する以上、二社を一つにまとめる発想は事業の論理としては自然であった[3]

2023年、統合の話は形を変えて再び動いた。ウエスタンデジタルが本体からフラッシュメモリ事業を切り離し、それをキオクシアと統合して、本社を日本に置く新会社をつくるという構想である。邦銀団が約140億ドルの融資枠を用意し、資金の面から統合を支えた。実現すれば、首位のサムスン電子に肩を並べる規模のNANDメーカーが生まれる見込みで、交渉は最終段階に近づいたとみられていた。合弁相手どうしの再編は、いよいよ資本の統合という次の段階へ進もうとしていた[4]

結果

株主の同意という壁と、統合の断念

最終盤で交渉を止めたのは、キオクシアの株主であるSKハイニックスであった。SKハイニックスは2018年の買収連合に約3,950億円を拠出しており、そのうち約1,290億円は将来キオクシア株へ転換できる社債で、最大15%まで持ち分を持ちうる立場にあった。競合であるウエスタンデジタルとの統合は自らの投資の価値を損ないかねないとして、SKハイニックスは同意しなかった。買収連合を組んだベインキャピタルとの条件も折り合わず、2023年10月下旬、統合交渉は破談した[5][6]

SKハイニックスの反対が法的な拒否権に当たるのかどうかは、報道でも見方が分かれた。ただ、統合には株主の同意に加えて各国の独占禁止審査や安全保障上の審査も要り、これらが重なって構想の実現を塞いだとみることができる。破談を受けて、ウエスタンデジタルはハードディスクとフラッシュの事業を二つに分ける方針へ転じ、2025年2月にフラッシュ事業を「サンディスク」として分社した。共同生産の枠組みは分社の後も続き、次世代品の開発と生産は両社で担っている[7][8]

出典・参考