商船三井コンテナ船事業の邦船3社への統合とオーシャンネットワークエクスプレスの設立
売上の4割を占める柱を、なぜ持分法の一行に移したのか——世界シェア2〜3%と、3期続いた部門赤字
- 概要
- 2016年10月、商船三井は日本郵船・川崎汽船とコンテナ船および海外ターミナル事業の統合を発表し、2017年7月にオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)を設立、2018年4月にサービスを開始した。出資比率は日本郵船38%、商船三井と川崎汽船が各31%。売上の4割を占めた事業は連結対象から外れ、持分法投資損益の一行へ姿を変えた。
- 背景
- コンテナ船は好況期でも赤字を出し続けた。1980年からの20年でコンテナ取扱量は6倍になったが船腹量は12倍に膨張し、商船三井も1968年の事業開始以来「そのうち十何年が赤字」であった。2010年代には部門営業損益が2015年3月期241億円、2016年3月期298億円、2017年3月期329億円の赤字と3期続き、2016年3月期には連結で1,704億円の最終赤字を計上した。
- 内容
- 世界のコンテナ船社の船腹量シェアは首位マースク16%、2位MSC14%に対し、邦船3社は各2〜3%にとどまっていた。共同運航では規模が小さいと有利な役割を担えず外される危険もあり、2016年8月には提携相手の韓進海運が経営破綻した。統合後の新会社のシェアは7%で6位となる計算であった。コンテナ船事業の売上比率は郵船3割・商船三井4割・川崎汽船5割と各社の立場は異なった。
- 含意
- 初年度のONEはシステム統合の混乱で赤字を出したが、コロナ禍の運賃高騰で2022年3月期のコンテナ船事業の持分法利益は6,340億円、2023年3月期は6,202億円に達した。赤字ゆえに手放した事業が、手放した後に最大の稼ぎ手になった。同時に、最大の利益源の運賃と配当の決定権は31%の持分の外へ移った。
連結から外して初めて稼いだ事業
同じ事業が、自分の連結にある間は3期続けて赤字を出し、外へ出したあとに6,340億円を稼いだ。切り離しが運賃高騰を見越した判断であったとは考えにくい。2016年に池田潤一郎社長が「事業統合を他事業に広げることは考えていない」と線を引いた時点で見えていたのは、シェア2〜3%という規模と、韓進海運の破綻と、部門赤字の連続だけであった。31%という比率は、規模を得るために主導権を譲った対価であるとみることができる。
ただ、外へ出したことで、最大の利益源を自分で動かせなくなった。コンテナ船事業の従業員は3,653名から52名へ減り、運賃と配当の判断はONEの側にある。利益は2024年3月期に515億円へ縮み、2026年3月期は267億円と、市況次第で大きく振れる一行として残った。赤字の柱を畳んだことは正しかったとしても、その果実の大きさもまた自社の手柄とは言い切れない。手放すという判断は、損も益も他者の判断に委ねることであったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
積めば積むほど赤字になる
コンテナ船の採算は、2000年代初めにすでに底が抜けていた。1999年に3,000ドルであった北米向けコンテナ運賃は2001年に暴落し、2002年春の契約更改でさらに15%下がって2,000ドル前後に張り付いた。この水準で利益を出せるコンテナ船会社は存在せず、大手14社合計で推定12億ドル、1,435億円の赤字にまみれていた。商船三井の加藤敏文執行役員は「積めば積むほど赤字になる。このままではサービスの維持さえ難しい」と述べた[1][2]。
赤字は循環ではなく構造であった。1980年からの20年でコンテナ取扱量は6倍になったが、船腹量は12倍に膨らんだ。荷動きを上回る新船を投入し続け、自ら供給過剰をつくり出した結果であり、商船三井も1968年の事業開始以来「そのうち十何年が赤字」であった。1994年に社長となった生田正治氏はコンテナ船の新規投資凍結を宣言して米APL・香港OOCLとの世界初のアライアンスで代替したが、1999年に我慢が切れ、2000年に凍結を解いて16隻を発注した[3][4]。
シェア2〜3%という現実
2010年代のセグメント損益は、赤字の常態化を数字で示した。商船三井のコンテナ船事業の営業損益は、2015年3月期に241億円の赤字、2016年3月期に298億円の赤字、2017年3月期に329億円の赤字と3期続いた。2016年3月期の連結最終損益は1,704億円の赤字で、翌2017年3月期の純利益は53億円にとどまった。不定期専用船が好調な年には目立たなかった赤字が、市況全体の悪化で表に出た[5][6]。
規模の差は埋まらなかった。世界のコンテナ船社の船腹量シェアは首位マースク16%、2位MSC14%に対し、商船三井は11位、日本郵船14位、川崎汽船16位で各社2〜3%にすぎない。コンテナ船は世界規模で最適配船を図るため船社間で提携して共同運航するが、規模が小さいと有利な役割を担えず、外される危険もあった。2016年3月に3社はハパックロイド・陽明海運などと提携したが、8月にメンバーの韓進海運が経営破綻した[7][8]。
決断
3社で持ち寄る
2016年10月、商船三井・日本郵船・川崎汽船はコンテナ船および海外ターミナル事業の統合を発表した。事業規模と収益性を勘案して日本郵船が38%、商船三井と川崎汽船が31%ずつ出資し、2017年7月に合弁新会社を設立、2018年4月に事業を始める。新会社のシェアは7%で6位へ上がる計算であった。海外ではCMA-CGMがAPLを買収し、COSCOがCSCLと合併して、規模の競争が強まっていた[9][10]。
3社の切実さは同じではなかった。コンテナ船事業の売上比率は日本郵船で3割、商船三井で4割、川崎汽船で5割と開き、主力を切り出す川崎汽船には統合の意味が最も大きかった。日本郵船の内藤忠顕社長は「日本からコンテナ船事業をなくしてはならない」と述べたのに対し、商船三井の池田潤一郎社長は「事業統合を他事業に広げることは考えていない」と言い切った。週刊東洋経済は「同床異夢の船出に不安」と見出しを付けた[11][12]。
連結から持分法へ
2017年7月、3社はシンガポールの事業運営会社 OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD. と、在邦の持株会社オーシャンネットワークエクスプレスホールディングスを設立した。2018年4月にONEがサービスを開始し、邦船各社のコンテナ船事業は連結対象から持分法適用の関連会社へ移った。商船三井の売上の4割を占めた事業は、損益計算書の上では持分法投資損益の一行に姿を変えた[13][14]。
移ったのは損益の置き場所だけではなかった。商船三井のコンテナ船事業セグメントの従業員は、2019年3月期の3,653名から2023年3月期には52名まで減った。統合の実効性には条件もあった。無駄を削るには各社が成長事業を育てて統合事業の社員を一部吸収する必要があったが、自動車船やタンカーの成長力は衰え、LNG船や海洋資源開発の育成は途上にあった[15][16]。
結果
手放した事業が最大の稼ぎ手になる
初年度は赤字であった。サービス開始初年度のONEはシステム統合の混乱で集荷が低迷し、商船三井のコンテナ船事業セグメントの2019年3月期の損益は144億円の赤字となった。連結でも2018年3月期に474億円の最終赤字を計上している。同セグメントは2020年3月期に41億円の黒字へ転じ、2021年3月期には1,171億円の利益を上げた。切り出した先の立ち上がりには2年を要した[17][18]。
そしてコロナ禍が来た。コンテナ船事業の持分法利益は2022年3月期に6,340億円、2023年3月期に6,202億円へ達した。橋本剛社長は2022年2月の取材に「当初は荷動きが減るだろうと想定して船の保有数を減らしたが、世界規模での財政出動を契機に消費財の需要が急増するという、想定外の現象が起きた」と述べている。同期の1株配当は前期比7倍の1,050円。赤字ゆえに手放した事業が、手放した後に最大の稼ぎ手になった[19][20]。
31%の持分に残ったもの
運賃が正常化すると、利益も戻った。コンテナ船事業の持分法利益は2024年3月期に515億円へ縮み、2025年3月期は2,176億円、2026年3月期は267億円と振れている。市況が反転すれば薄利へ戻る事業を、商船三井は31%の持分で持ち続ける立場にある。運賃の決定も配当の方針もONEの側にあり、赤字の年に自ら止めることも、好況の年に取り込みを増やすこともできない[21]。
池田潤一郎社長が「事業統合を他事業に広げることは考えていない」と線を引いた通り、統合は定期船だけで止まった。商船三井は不定期専用船とエネルギー輸送の側で稼ぐ会社という性格を保ち、2023年4月の経営計画「BLUE ACTION 2035」ではLNG船や洋上風力といった長期契約型の領域へ投資を集中させた。コンテナ船を外へ出したことは、残った事業の輪郭を定める判断でもあった[22][23]。
- 週刊東洋経済 2016年11月12日号「ニュース最前線04 コンテナ船3社統合 同床異夢の船出に不安」
- 週刊東洋経済 2002年11月23日号「[産業レポート]経営分析 海運業界 コンテナ船の赤字地獄 U字回復か、大再編か」
- 週刊東洋経済 2022年3月5日号「トップに直撃 商船三井 社長 橋本 剛『海上物流の正常化に全力 ロシアリスクは限定的』」
- 商船三井 有価証券報告書 第167期(2025年3月期)【沿革】
- 商船三井 有価証券報告書(2015年3月期〜2026年3月期)【セグメント情報】
- 商船三井 有価証券報告書(2016年3月期〜2018年3月期・連結)