アドバンテスト Verigy買収 SoCテスタの取り込み──メモリからSoCへ、テスタ世界首位の確立

更新:

時期 2011年3月
当時の社長 松野晴夫
論点 メモリとSoC(非メモリ)の複線化
何をなぜ決めたか
概要

2011年、アドバンテストが松野晴夫社長のもとで、非メモリ(SoC)向けテスタに強みを持つシンガポールのVerigyを1株15米ドルで取得することに最終合意し、同年7月4日に全株式の取得手続を完了して完全子会社化した経営判断。買収総額の見込みは約11億米ドル(約909億円)で、実際の取得対価は78,729百万円となった。

メモリテスタで世界の先頭を走りながら弱かった非メモリ領域を、Verigyの技術と欧米顧客網で補い、二つの分野を一社に統合した。

背景

半導体はメモリだけでなく、多くの機能を一枚のチップに集めたSoCへ用途を広げていた。アドバンテストはメモリ分野と量産向け機種に強みを持つ一方、非メモリのSoCテスタでは米テラダインを追う立場にあり、事業が片側に偏っていた。

2011年3月期の半導体・部品テストシステム事業は売上高693億円・営業利益99億円で、2009年3月期の289億円の営業損失からようやく立ち直ったところだった。買収資金は手持ちの現金預金と銀行からの新規借入で賄う計画だった。

内容

2011年3月28日にVerigyの普通株式全株を1株当たり現金15米ドルで取得する最終合意に至り、韓国・台湾・米国の競争法審査を終え、6月17日にVerigyの株主総会で買収提案が承認された。効力はシンガポール高等裁判所の最終承認と同国会計企業規制庁への登録をもって発生し、7月4日に手続きが完了した。

取得対価78,729百万円の内訳は、現金預金による支払額77,661百万円とストック・オプションの承継1,068百万円である。取得原価の配分により無形資産16,899百万円とのれん35,140百万円を計上し、のれんは半導体・部品テストシステム事業に20,844百万円、サービス他に14,296百万円を配分した。

含意

買収でアドバンテストは半導体試験装置で世界最大の供給者となった。連結初年度の2012年3月期は統合関連費用を抱え、税引前で34億円の損失に沈んだ。

2014年3月期には半導体試験装置市場の縮小を受けて特許権と技術資産を全額落とし、有形固定資産と合わせ13,495百万円を減損した。IFRSへ移行した2014年4月1日にはのれん33,153百万円を減損して利益剰余金から減額しており、買収で積んだのれんと無形資産の大半は10年を待たずに帳簿から消えた。残ったメモリとSoCの両輪は、2025年3月期の純利益1,612億円を生む土台になった。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

量のメモリと、機能のSoCを一社で担う

この決断の核心は、メモリで世界の先頭に立った会社が、性格の異なる非メモリのテスタを、提携ではなく買収で自社の内側に丸ごと置いた点にある。テスタの技術は、同じ素子を数多く速く測るメモリの量と、異なる機能を一台で測り分けるSoCの機能に分かれる。アドバンテストは前者を極めながら、後者では先頭に届いていなかった。78,729百万円を投じてVerigyを取り込む選択は、足りない半分を自前で育てる時間を買わず、非メモリの担い手と欧米の顧客網ごと手にする判断だった。首位は、二つの技術を一社で握ったところに生まれた。

もっとも、二つの技術をそろえることと、それで稼ぐことは別である。買収で積んだのれん35,140百万円と無形資産16,899百万円は、2014年3月期の減損とIFRS移行日の減損で大半が帳簿から消えた。値付けの前提だった需要が、買収の直後には現れなかったということである。需要が現れたのは、AIが計算とメモリの双方に前例のない検査を求める時代が来てからで、2025年3月期の純利益は1,612億円に達した。技術をそろえること自体ではなく、需要がどこで膨らんでも受け止められる形をあらかじめ組めるか——帳簿の上でいったん消えた投資は、その形を手にするための代金だったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Verigy Ltd. シンガポール法人で米国上場。非メモリテスト分野と研究開発向け市場に強みを持つ
最終合意 2011年3月28日 普通株式全株を1株当たり現金15米ドルで取得する最終合意
買付価格 1株当たり現金15米ドル
買収総額の見込み 約11億米ドル 約909億円(1米ドル=81円にて換算)。手持ち現金預金と銀行からの新規借入で調達
効力発生の条件 シンガポール高等裁判所の最終承認 同国会計企業規制庁への登録等の充足で効力が発生。株主総会の承認は2011年6月17日
企業結合日 2011年7月4日 普通株式全株の取得手続を完了し、完全子会社化した
取得対価 78,729百万円 現金預金による支払額77,661百万円、ストック・オプションの承継1,068百万円
取得関連費用 1,285百万円 2012年3月期に販売費および一般管理費で処理。それ以前の処理額は656百万円
取得した無形資産 16,899百万円 取得価額は顧客関係2,227、特許権4,365、技術資産6,238、仕掛研究開発1,726
無形資産の加重平均償却年数 8年 顧客関係8年、特許権9年、技術資産8年。無形資産全体の加重平均は8年
のれん 35,140百万円 半導体・部品テストシステム事業に20,844、サービス他に14,296を配分
のれんの償却方法 規則的償却は行わない 少なくとも年1回の減損テストで評価する(米国会計基準)
連結に含めた被取得企業の業績 売上高27,449百万円 2012年3月期に含まれる分。同期間の税引前当期純損失は5,181百万円
無形資産の減損(2014年3月期) 11,671百万円 市場縮小で特許権と技術資産を全額減額。有形固定資産を含めると13,495百万円
のれんの減損(IFRS移行日) 33,153百万円 2014年4月1日。半導体事業19,153、サービス他14,000を利益剰余金から減額

出所:アドバンテスト 有価証券報告書 第69期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】【Verigy社株式取得に関する最終合意】・第70期(2012年3月期)【企業結合】【のれんおよび無形資産】・第72期(2014年3月期)【のれんおよび無形資産】・第74期(2016年3月期)【初度適用】

のれんの推移

アドバンテスト:のれんの推移

(百万円) のれん 備考
2008年3月期 1,426 全額を半導体・部品テストシステム事業に配分
2009年3月期 645 半導体市場の悪化でのれん781百万円を減損
2010年3月期 645
2011年3月期 645 3月28日にVerigyの全株式を1株15米ドルで取得する最終合意
2012年3月期 36,496 Verigyの買収で35,140百万円増加
2013年3月期 41,670 増加はすべて為替換算調整額
2014年3月期 46,846 無形資産11,671百万円を減損。のれんの減損は認識せず
2015年3月期 15,988 IFRS移行日(2014年4月1日)の減損テストでのれん33,153百万円を減額
2016年3月期 14,991 IFRS
のれんの残高
のれん(百万円)

出所:アドバンテスト 有価証券報告書 第68期・第70期・第72期・第74期(のれんおよび無形資産)

半導体・部品テストシステム事業の推移

アドバンテスト:半導体・部品テストシステム事業の推移

(百万円) 売上高セグメント利益 備考
2006年3月期 191,41557,517
2007年3月期 167,81548,608 セグメント利益はストック・オプション費用の調整前
2008年3月期 131,60823,263
2009年3月期 49,216△28,914 半導体市場の著しい悪化で受注が急減
2010年3月期 32,572△7,042
2011年3月期 69,3339,857
2012年3月期 105,6089,845 Verigyの売上高27,449百万円を含む。連結は2011年7月から
2013年3月期 101,11910,956
2014年3月期 73,017△26,724 当部門の減損費用12,770百万円を含む
2015年3月期 108,68615,955 IFRS。セグメント間の売上高を含む
2016年3月期 100,76210,514 IFRS
半導体・部品テストシステム事業の売上高と利益率
売上高(百万円)セグメント利益率(%)

出所:アドバンテスト 有価証券報告書 第64〜74期(事業の種類別セグメント情報・セグメント情報)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • アドバンテスト 適時開示「アドバンテストとVerigyが最終契約を締結」
  • アドバンテスト 有価証券報告書「第69期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】【Verigy社株式取得に関する最終合意】」
  • アドバンテスト 有価証券報告書「第70期(2012年3月期)【企業結合】【のれんおよび無形資産】」
  • アドバンテスト 有価証券報告書「第72期(2014年3月期)【のれんおよび無形資産】」
  • アドバンテスト 有価証券報告書「第74期(2016年3月期)【初度適用】」

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