Verigy買収によるSoCテスタの取り込み──メモリからSoCへ、テスタ世界首位の確立

2011年実施

メモリの量だけで戦い続けられるのか——非メモリの担い手Verigyを約909億円で丸ごと買い、テスタ世界首位を確立した選択

更新:

時期 2011年3月
意思決定者 松野晴夫(社長)
論点 メモリとSoC(非メモリ)の複線化
概要
2011年、アドバンテストが松野晴夫社長のもとで、非メモリ(SoC)向けテスタに強みを持つシンガポールのVerigyを1株15米ドル・総額約11億米ドル(約909億円)で買収し、同年7月に完全子会社化した経営判断。メモリテスタで世界の先頭を走りながら弱かった非メモリ領域をVerigyの技術と欧米顧客網で補い、二つの分野を自社の内側で束ねた。
背景
半導体はメモリだけでなく、多くの機能を一枚のチップに集めたSoCへ用途を広げていた。アドバンテストはメモリ分野と量産向け機種に強みを持つ一方、非メモリのSoCテスタでは米テラダインを追う立場にあり、事業が片側に偏っていた。
内容
2010年12月にアドバンテストがVerigyへ買収を提案し、2011年3月28日に最終契約を締結した。1株15米ドルは提案受領公表前日の終値に約64%を上乗せした価格で、非メモリと研究開発に強いVerigyの技術と欧米の設計顧客を、メモリの量産技術と組み合わせた。
含意
買収でアドバンテストは半導体試験装置で世界最大の供給者となり、テスタ市場の首位に立った。連結初年度は半導体不況で営業赤字に沈んだが、メモリとSoCの両輪は、のちのAI・HBM需要のもとで過去最高益を生む土台になった。
筆者の見解

量のメモリと、機能のSoCを束ねる

この決断の核心は、メモリで世界の先頭に立った会社が、性格の異なる非メモリのテスタを、提携ではなく買収で自社の内側に丸ごと置いた点にある。テスタの技術は、同じ素子を数多く速く測るメモリの量と、異なる機能を一台で測り分けるSoCの機能に分かれる。アドバンテストは前者を極めながら、後者では先頭に届いていなかった。約909億円を投じてVerigyを取り込む選択は、足りない半分を自前で育てる時間を買わず、非メモリの担い手と欧米の顧客網ごと手にする判断だった。首位は、二つの技術を一社で握ったところに生まれた。

もっとも、二つの技術をそろえることと、それで稼ぐことは別である。買収の初年度は市況の谷で赤字に沈み、果実はすぐには実らなかった。果実が実ったのは、AIが計算とメモリの双方に前例のない検査を求める時代が来てからである。メモリの量とSoCの機能を束ねた2011年の選択は、そのどちらが伸びても取りこぼさない備えだった。器をそろえること自体ではなく、需要がどこで膨らんでも受け止められる形をあらかじめ組めるか——アドバンテストが払った約909億円は、半導体の主役が移り変わる産業で首位を保つための、その問いへの答えだった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

メモリで先頭、非メモリでは追う側

アドバンテストは半導体用の自動試験装置の主要メーカーとして、DRAMやフラッシュなどメモリ半導体を測るテスタで世界の先頭を走ってきた。強みはメモリ分野と量産向け機種の開発にあった。ところが半導体はメモリだけではない。演算や制御の回路を一枚に集めたSoC(システムLSI)を測るには、性格の異なる多くの機能を一台で測り分ける幅が要る。この非メモリの領域でアドバンテストは手薄で、市場の先頭には米テラダインがいた。メモリで首位に立ちながら非メモリでは追う側という、片側に偏った姿が残っていた[1]

量のメモリと、機能のSoC

半導体がメモリからSoCへ用途を広げるほど、テスタに求められる技術も二つに分かれた。メモリの試験は、同じ構造の素子を高速に、多数まとめて測る量の技術が要る。SoCの試験は、性格の違う多くの機能を一台で測り分ける機能の幅が要る。前者を得意としたのがアドバンテスト、後者を強みとするのがシンガポールのVerigyだった。Verigyは、フラッシュやDRAM向けから多様なSoC向けまで一つの土台で対応する試験プラットフォームを持ち、欧米の設計顧客を抱えていた。二つの強みは重ならず、補い合う関係にあった[2]

決断

約909億円でVerigyを取り込む

2010年12月、アドバンテストはVerigyに買収を提案し、Verigyがその受領を公表した。交渉を経て、2011年3月28日、両社はアドバンテストがVerigyの普通株式全株を1株15米ドルで取得する最終合意に至ったと発表した。買収総額は約11億米ドル、日本円でおよそ909億円にのぼる。提示した15米ドルは、Verigyが提案の受領を公表した前日にあたる2010年12月3日の終値に約64%を上乗せした価格だった。アドバンテストは現金を対価に、非メモリテスタの担い手を丸ごと自社に迎え入れる道を選んだ[3][4]

統合の狙いは、二つの強みを一社の内側で束ねることにあった。メモリと量産に強いアドバンテストが、非メモリと研究開発に強いVerigyを取り込めば、半導体試験装置の全域で技術を磨けるうえ、重複する開発資源を新規事業へ振り向けられる。松野晴夫社長は統合について、メモリとSoCの両分野で強力な製品群と顧客基盤がそろい、グローバルリーダーへ向けた態勢が整うと述べた。買収はシンガポール法のスキーム・オブ・アレンジメントで進み、米司法省の審査を経て、2011年7月にVerigyは全株取得により完全子会社となった[5][6]

結果

世界最大のテスタ企業と、直後の逆風

買収でアドバンテストは、半導体試験装置で世界最大の供給者となり、テスタ市場の首位に立った。メモリで先頭を保ちながら、弱かった非メモリのSoC領域をVerigyの技術と欧米の顧客網で埋め、事業は片側偏重から両輪へ移った。ブルームバーグは合意の当日、アドバンテストがVerigyの買収で首位のテスタ企業になると伝えた。1954年に計測器メーカーとして生まれた会社は、メモリで築いた量の技術に、SoCを測る機能の技術を並べ、二本目の柱を手にした[7]

首位はすぐに果実を約束しなかった。Verigyを連結に加えた初年度の2012年3月期、アドバンテストは半導体市況の落ち込みで営業損失34億円を計上した。統合の費用と、メモリ・SoC双方の需要の谷が重なった。もっとも、無借金に近い財務がこの谷を支え、両輪をそろえた事業の形は崩れなかった。買収が生きるかどうかは、半導体の需要が次にどこで膨らむかにかかっていた[8]

AIとHBMが呼び込んだ果実

果実が現れるまでには、なお時間が必要だった。転機は、AIとHBM(広帯域メモリ)が先端半導体の検査量と複雑さを押し上げたことにある。生成AIの計算を担う大規模なSoCも、それを支える高速のメモリも、厳しい検査を通らなければ出荷できない。メモリの量とSoCの機能を一社で握ったアドバンテストは、この二つの需要を同時に受け止めた。2025年3月期の連結売上は7,797億円、純利益は1,612億円と、いずれも過去最高を更新した[9]

出典・参考