THKTHKによるリズム買収と輸送用機器事業への参入
直動案内一本の会社が、自動車部品という二本目の柱を買った
- 概要
- 2007年5月31日、THKは自動車部品メーカーのリズム(静岡県浜松市、旧旭精工)の株式等100%をカーライル・グループ等から125億89百万円で取得し、子会社化した。産業用機器一本だった事業構成に、輸送用機器という二本目の柱を置く判断であった。
- 背景
- 2007年3月期のTHKは連結売上高1,747億円・営業利益318億円と当時の最高水準にあったが、主要な顧客は工作機械・半導体製造装置などの生産財メーカーで、業績は設備投資の動きに振られた。成長戦略はグローバル展開と新規分野への展開に置かれていた。
- 内容
- 2007年4月23日の取締役会で決議し、同日カーライル・グループ等と株式譲渡契約を締結。潜在株式を含む128,549株を自己資金で取得した。リズムとその子会社7社を合わせた取得価額は130億82百万円で、のれんは135億11百万円が発生した。
- 含意
- 直動案内のボール循環技術がボールジョイントなどの球面案内に応用できるという技術の親和性が判断の根拠にあった。ただし輸送用機器の営業損益は初年度から赤字で、2026年2月にTHKは輸送機器事業の選択と集中を新経営方針に掲げた。
買ったのは技術の隣接か、別の産業か
この買収でTHKが手にしたのは、自動車部品の売上と、そこに付いてきた赤字であった。取得価額125億89百万円に対してのれんは135億11百万円で、貸借対照表の上では純資産をほとんど買っていない。ボール循環を球面案内へ応用できるという技術の親和性は理屈としては通っていたが、量産部品の現場で求められたのは、単価と歩留まりを一円単位で詰める別種の能力であった。技術が隣接していることと、事業が隣接していることは同じではない。
寺町彰博社長が買収時に指摘した「日産系への依存」は、その後の顧客拡大で薄まった。ただし輸送用機器の営業損益は初年度から赤字で、産業用機器との利益率の差はその後も残った。2026年2月、THKはROE10%超を掲げてTRAホールディングスと欧米4社の譲渡を決めている。二本目の柱として買った事業は、19年を経て、持株統括会社ごと投資ファンドへ渡ることになる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
設備投資の波に振られる収益構造
2007年3月期のTHKは、連結売上高1,747億円・営業利益318億円・経常利益350億円と当時の最高水準にあった。ただし売上の大部分はLMガイドを中心とするLMシステムで、主要な顧客は工作機械・一般機械・半導体製造装置などの産業用機器メーカーに偏っていた。有報の【事業等のリスク】でも、売上高の大部分をLMシステムに依存する状態が今後しばらく続くと見込まれる、と記されている。需要の増減は、顧客の設備投資の判断にそのまま連動した[1][2]。
この振れを和らげるため、THKは「グローバル展開」と「新規分野への展開」の二つを成長戦略に据えていた。前者は中国・欧州の販売網拡充、後者はLMガイドの用途を医療機器や航空機など従来と違う分野へ広げる取り組みで、いずれも既存製品の売り先を増やす方向にあった。これに対して2007年の判断は、製品そのものを別の産業向けに持つという道であった。有報は、新規分野への展開を加速すべくリズムの全株式等を取得したと記している[3]。
日産直系から投資ファンドへ渡っていたリズム
リズムは静岡県浜松市南区に本店を置き、ステアリング部品、サスペンション部品、ブレーキ部品、エンジン・トランスミッション部品の開発設計から製造販売までを手がけていた。もとは日産自動車の直系部品メーカーで、買収時点の代表取締役社長は北村勝男氏、親会社は米国の投資会社カーライル・グループであった。2007年3月期の連結業績は売上高306億67百万円、経常利益7億24百万円、当期純利益4億92百万円、総資産262億41百万円である[4][5]。
THKがリズムを選んだ理由は、製品の作られ方にあった。直動案内で磨いたボール循環の技術は、自動車のボールジョイントのような球面案内へ応用が利く。精密な機械加工を要する部品であれば、量産品でも自社の技術で戦えるとの読みがあった。加えてリズムは冷間鍛造と金型の技術を持ち、北米と中国に日産系グループ向けの販売網を抱えていた。THK側が持たない要素が、そのままリズムの資産の内訳であった[6][7]。
決断
125億89百万円で全株式を取得する
2007年4月23日、THKは取締役会でリズムの株式等100%をカーライル・グループ等から取得して子会社化することを決議し、同日付で株式譲渡契約を結んだ。株式等は5月31日に全額払込のうえ取得している。取得したのは新株予約権に係る潜在株式5,052株を含む128,549株で、取得価額は125億89百万円。カーライル・グループの持ち分以外の8,749株も併せて取得し、所有割合は100%となった。支払いには自己資金を充てた[8]。
リズムとその子会社7社を合わせた取得価額は130億82百万円であった。連結開始時点で受け入れた資産は流動97億7百万円・固定140億27百万円、引き受けた負債は流動74億54百万円・固定167億8百万円で、負債が資産を上回る。この差から生じたのれんは135億11百万円と、取得価額を超える大きさになった。貸借対照表の数字で見るかぎり、THKが買ったのは純資産ではなく、リズムの技術と顧客そのものであった[9]。
日産依存をほどく仕事も引き受ける
寺町彰博社長は買収を発表した翌日の取材で、リズムについて「長年にわたって日産系グループとの連携が強かった。逆に言うと、そこに依存しすぎている」と述べ、THKの営業の手法で顧客の幅を広げる方針を示した。販売網を得ると同時に、その販売網の偏りを直す作業まで引き受ける取引であった。自動車部品は完成車メーカーの生産計画に沿って動くため、取引先が一系列に寄っていれば、業績もその系列の浮沈に連動する[10]。
有報に記した取得の目的は、自動車部品メーカーとして実績のあるリズムと協働することで経営効率を高め、新規用途の拡大とイノベーションを通じてビジネス領域を広げ、両社の企業価値を高めることであった。取得の翌月には、タイのラヨーン県にTHK RHYTHM(THAILAND)を設立している。買収の決議から2カ月足らずで東南アジアの生産拠点に着手した速さに、この事業を単なる出資先ではなく供給網ごと作り替える対象と見ていたことがうかがえる[11][12]。
結果
初の2,000億円と、初年度からの赤字
2008年3月期から、事業区分は「産業用機器関連事業」と「輸送用機器関連事業」の2区分に改められた。同期の売上高は産業用機器1,682億86百万円・輸送用機器404億22百万円で、連結では前期比19.5%増の2,087億8百万円と、初めて2,000億円台に乗せた。一方、営業利益は15.3%減の269億37百万円にとどまった。原材料価格の上昇、新工場の減価償却、リズムの新規連結とのれん償却が重なり、売上高原価率は4.7ポイント上がって67.4%となった[13][14]。
輸送用機器の営業損益は初年度から赤字であった。2008年3月期は22億20百万円の損失、2009年3月期は45億26百万円の損失。リーマンショック後の2010年3月期には連結売上高が1,153億円まで落ち、経常損失88億円・当期純損失143億円を計上している。それでもTHKは供給網の整備を止めず、2008年9月にベトナムのバックニン省、2012年2月にメキシコのグアナファト州に生産と技術の会社を置いた[15][16][17]。
二本目の柱が置かれた場所
2010年6月、リズムはTHKリズム株式会社へ社名を改めた。2012年3月にはTHK本体の輸送用機器関連事業のうちボールジョイント製品の製造・開発部門を会社分割してTHKリズムへ統合し、自動車部品の開発と生産を一つの会社にまとめている。2011年6月には、TRW Steering & Suspension(Malaysia)の株式を取得してTHK RHYTHM MALAYSIAとし、東南アジアの生産をさらに厚くした。買収から5年で、輸送用機器はグループの一部門から一つの事業体へ組み替えられた[18]。
二本柱の構成は、連結業績の振れ方も変えた。産業用機器が設備投資の波で上下するのに対し、輸送用機器は自動車の生産台数に沿って動く。ただし利益率の差は埋まらず、2026年2月12日の決算説明会でTHKはROE10%超の早期実現を掲げ、輸送機器の選択と集中を新経営方針に盛り込んだ。同月2日には、TRAホールディングスと欧米の子会社4社をアドバンテッジパートナーズのファンドへ譲渡すると発表している。譲渡の予定日は2026年6月1日である[19][20]。
- THK 有価証券報告書 第37期(2007年3月期)【重要な後発事象】
- THK 有価証券報告書 第38期(2008年3月期・連結)
- THK 有価証券報告書 第39期(2009年3月期・連結)
- THK 有価証券報告書 第41期(2010年3月期・連結)
- THK 有価証券報告書 第56期(2025年12月期)【沿革】
- 日経クロステック(2007年4月24日)「THKの寺町社長がリズム買収の狙いを語る」
- レスポンス(2007年4月23日)「THK、自動車部品メーカーのリズムを買収」
- THK 2025年12月期決算説明会(2026年2月12日)
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2026年2月2日)「THK、自動車部品子会社5社をファンドに売却」