博報堂DYホールディングスD.A.コンソーシアムホールディングスの公開買付けによる完全子会社化
デジタル広告を自前の営業で伸ばすか、専業会社を資本で抱え込むか——九年をかけた段階的な取り込み
- 概要
- 2018年8月6日、博報堂DYホールディングスが連結子会社D.A.コンソーシアムホールディングス(現Hakuhodo DY ONE)の全株式取得に向けた公開買付けを決議し、同年10月に完全子会社化した経営判断。買付価格は普通株式1株につき3,700円、買付予定数をすべて取得した場合の買付代金は1,140億3,462万1,600円であった。
- 背景
- マス広告の需要が急速に縮み、インターネット広告が伸び続けるなかで、博報堂DYグループは2009年2月に博報堂がデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の第三者割当増資を引き受けて連結子会社とし、2016年10月にはDACとアイレップの共同株式移転でD.A.コンソーシアムホールディングスを設立していた。
- 内容
- 公開買付けは2018年8月7日から9月18日までの30営業日。買付予定数30,820,168株、下限10,688,550株に対して応募は28,612,110株に達し、全部の買付けを行った。買付け後の株券等所有割合は公開買付者47.38%、特別関係者49.71%となり、対象会社は10月に上場廃止となった。
- 含意
- 上場子会社を抱えたままでは動かしにくかったグループ内の機能移管が可能になり、2019年4月に博報堂DYデジタルとDACが統合、2024年4月にはデジタルコア新会社Hakuhodo DY ONEが設立された。2025年4月、DACとアイレップはそのHakuhodo DY ONEへ吸収合併されて消滅した。
九年かけて締めた資本
九年の長さで眺めると、博報堂DYホールディングスは一度も急いでいない。2009年に議決権を49.3%から53.7%へ、2016年に共同持株会社へ、2018年に100%へと、支配の度合いだけを段階的に上げてきた。デジタルの現場そのものは専業として走らせたまま、資本の側だけを締めていったやり方であったとみることができる。単価が数十万円のネット広告を、数千万円から億円単位の案件を抱える営業組織に売らせようとすれば、テレビを優先する担当者の合理が勝つ。その合理を組み替えずに済ませる方法として、別会社を丸ごと抱える形が選ばれたとみられる。
もっとも、資本で押さえた時間には値段がついていた。1株3,700円は前日終値に4割上乗せした水準で、2019年3月期に流出した1,131億円のうち1,045億円は長期借入金で賄われている。少数株主へ払ったこのプレミアムは、2009年の時点で全部を取っていれば要らなかった支出でもある。買い切ったあとも組み替えは続き、博報堂DYデジタルとの統合、Hakuhodo DY ONEの設立、DACとアイレップの吸収合併と三度重なった。最初の出資から十六年、2025年4月にDACという社名は使われなくなった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
マス広告の急減と、後回しにされたネット広告
2008年秋以降の景気後退で、テレビと新聞の広告需要は急速に冷え込んだ。博報堂DYホールディングスの2008年9月中間期の連結営業利益は、広告不振に本社移転の費用負担が重なって前年同期比68%減の39億円へ落ち込んでいる。戸田裕一社長は当時、日本の広告市場約7兆円とは別に、販促費のうち広告が触れる市場が2兆円ほどあるとみて、その二つを取り込めば成長の余地は残ると語っていた。マス広告に代わる収益の場所を探すことが、この時期のグループ全体の課題であった[1]。
もっとも、大手広告会社がインターネット広告に力を入れてきたとは言いがたい状態が続いていた。テレビは一件あたりの取扱額が数千万円から億円単位に達するのに対し、ネットは数十万円にとどまる。営業担当者は広告主に旧来のマス媒体を優先し、ネットの提案をおろそかにしてきたと業界内でも指摘されていた。その隙にサイバーエージェントのような小回りの利くベンチャーが地歩を築き、電通はネット広告代理大手オプトの株式を買い増して筆頭株主となっている。自前の営業組織でデジタルを伸ばす道は、単価の差そのものに阻まれていた[2]。
出資から共同持株会社へ
2009年2月2日、博報堂DYホールディングスは、連結子会社の博報堂がデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の第三者割当増資を引き受けると決議した。取得株数は45,000株、取得金額は12億8,772万円で、増資後の発行済株式総数に対する割合は8.4%にあたる。すでに博報堂DYメディアパートナーズが議決権の49.3%を保有しており、これと合算して過半を超えたためDACは連結子会社となった。あわせて博報堂はWEB制作会社である博報堂アイ・スタジオの株式の一部をDACへ譲渡し、メディアレップにクリエイティブの機能を足している[3]。
次の一手は2016年に打たれた。DACと、2010年12月の公開買付けを経てDACの子会社となっていたアイレップが、共同株式移転により2016年10月3日付でD.A.コンソーシアムホールディングスを設立した。両社は合併その他の再編手法も検討したうえで、それぞれの顧客との関係と互いの企業文化・独立性を保ちながら、テクノロジーと新領域であるグローバルの分野で協業し、重複した業務を効率的に集約できる経営形態として持株会社を選んでいる。新会社は東京証券取引所市場第二部に上場し、博報堂DYホールディングスの連結子会社にとどまった[4]。
決断
1株3,700円、最大1,140億円の公開買付け
2018年8月6日、博報堂DYホールディングスは取締役会でD.A.コンソーシアムホールディングス株式の公開買付けを決議し、翌7日から9月18日までの30営業日にわたって実施した。買付価格は普通株式1株につき3,700円で、6日終値の2,630円に対しておよそ4割高い水準にあたる。買付予定数は30,820,168株、下限は10,688,550株、上限は設けなかった。予定数をすべて取得した場合の買付代金は1,140億3,462万1,600円となり、議決権比率を50.54%から100%へ引き上げる計画であった[5][6]。
買いに行った相手は、規模の小さな新興企業ではなかった。DACHDの2018年3月期の連結売上高は前の期比13%増の2,083億円で、多様なデータを統合して管理・分析する基盤を持ち、閲覧者の関心に合わせて配信する運用型広告の運用ノウハウを抱えていた。国内の広告市場ではテレビや雑誌が低迷する一方、インターネット広告の規模は1兆5,000億円を超えて伸びており、成長分野をグループ全体で取り込むことが買付けの目的に挙げられている。テレビ中心の営業組織では育てにくかった技術と人が、そのまま買付けの対象であった[7]。
上場子会社であることをやめる
買付けの範囲を見ると、この取引が誰から株を買うためのものであったかがわかる。博報堂DYホールディングスの完全子会社である博報堂DYメディアパートナーズと博報堂は、2018年8月6日時点で対象会社株式29,574,750株を保有し、本公開買付けに応募しないことに合意していた。買付予定数30,820,168株は、潜在株式を含む60,394,918株からこの合意分を控除して算出されている。狙いは機動的な経営施策の実行とグループ全体の一体運営に置かれ、公開買付けを通じた上場廃止が最初から想定されていた[8][9]。
公開買付けは2018年9月18日に終了した。応募株券等の総数は28,612,110株で、うち株券が28,165,110株、新株予約権証券が447,000株にあたる。下限の10,688,550株を大きく上回ったため、応募のあった全部を買い付けた。買付け後の株券等所有割合は公開買付者47.38%、特別関係者49.71%となり、対象会社は同年10月に上場廃止となっている。残った株式は株式売渡請求により取得され、D.A.コンソーシアムホールディングスは博報堂DYホールディングスの完全子会社となった[10][11]。
結果
買い切ったあとに動いたグループ再編
完全子会社化から半年もたたないうちに、グループ内のネット広告機能の付け替えが始まった。2019年2月、博報堂DYホールディングスは、広告制作に強い博報堂DYデジタル(460人)を、メディアレップ機能を担うDAC(約900人)へ2019年4月1日付で吸収合併させると発表した。ネット広告市場の拡大が続くなかで、制作から配信までを切れ目なく手がける体制を整える狙いであった。上場子会社を頂点に置いたままでは、こうした人員規模の機能移管に少数株主との調整がついて回った[12]。
会社自身も、この順序を決算説明の場で述べている。2019年3月期の説明資料は、成長するインターネットメディア領域での体制拡充という戦略施策を掲げたうえで、前年10月のD.A.コンソーシアムホールディングスグループの完全子会社化と博報堂DYデジタル・DACの経営統合を、その推進を目的とした取り組みとして並べた。買付けの代金は同期の財務キャッシュ・フローに現れ、連結範囲変更を伴わない子会社株式の取得として1,131億円が流出し、長期借入金が1,045億円増えている[13][14]。
デジタルコアへの再編と、二つの社名の消滅
買い切った二社は、その後さらに大きな器へ移された。2024年2月、博報堂DYホールディングスは新中期経営計画の一環として、DACとアイレップの機能に加え、博報堂や博報堂DYメディアパートナーズなどグループ内事業会社が持つデジタルマーケティングのナレッジとリソースを集約した新会社の設立を発表し、翌3月に社名をHakuhodo DY ONEと決めた。2024年4月1日の設立時点で社員数は約3,000名、株主は博報堂DYグループ100%で、グループのデジタルコアと呼ばれた[15]。
そして2025年4月、DACとアイレップはHakuhodo DY ONEを存続会社とする吸収合併により消滅した。2009年に資本を入れ、2016年に持株会社へまとめ、2018年に買い切った二つの会社の名は、グループのデジタル中核会社の中へ収まっている。博報堂DYホールディングスは2026年度を中期経営計画の最終年度とし、国内マーケティングビジネスの構造改革とグループ間連携の深化を掲げた組織改正を2026年4月1日付で実施している[16][17]。
- 週刊東洋経済 2009年1月31日号「特集 テレビ・新聞陥落! COLUMN マス広告の急減で電通・博報堂も岐路」
- 博報堂DYホールディングス ニュースリリース 2009年2月2日「デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社が実施する第三者割当増資の株式会社博報堂による引受と博報堂の子会社である株式会社博報堂アイ・スタジオの異動について」
- 博報堂DYホールディングス ニュースリリース 2016年5月11日「当社連結子会社デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社と当社連結子会社株式会社アイレップとの共同持株会社設立(株式移転)による経営統合に関するお知らせ」
- 日本経済新聞(2018年8月6日)「博報堂DY、傘下のDACHDを完全子会社化へ」
- M&A Online(2018年8月6日)「博報堂DYHD<2433>、子会社のD.A.コンソーシアム<6534>をTOBで上場廃止へ」
- 博報堂DYホールディングス 適時開示 2018年9月19日「D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社株券等(証券コード6534)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」
- 日本経済新聞(2019年2月5日)「博報堂DYHD、ネット広告会社を統合」
- 博報堂DYホールディングス 2019年3月期 決算説明会資料
- 博報堂DYホールディングス ニュースリリース 2024年3月25日「博報堂DYグループのデジタルコア新会社「Hakuhodo DY ONE」を設立」
- 博報堂DYホールディングス ニュースリリース 2026年2月12日「組織改正のお知らせ」
- 博報堂DYホールディングス 有価証券報告書【沿革】