日立製作所 米GlobalLogicの買収 デジタルエンジニアリングの内製力の9,222億円での外部からの調達

更新:

時期 2021年3月
当時の社長 東原敏昭
論点 デジタル事業の強化と大型M&A
何をなぜ決めたか
概要

2021年3月31日、Lumadaのデジタルポートフォリオ強化を目的として、米国のGlobalLogic Inc.の買収を決定した。有利子負債の返済を含む買収総額は96億米ドル(約10,470億円)を見込むとし、規制当局の承認等を前提に2021年7月末までの完了を予定した。

2021年7月13日、米国子会社が設立したSPC社の吸収合併を含む一連の手続を経て、親会社GlobalLogic Worldwide Holdings, Inc.の発行済株式の100%を取得した。取得の対価は現金9,222億円で、これとは別に対象会社の借入金1,074百万米ドル(1,185億円)を返済している。

買収の理由

従来の強みである「OT×IT×プロダクト」に加えて強化しようとしたのは、顧客との協創力と、Chip-to-Cloud(現場レベルからクラウドレベルまで)のあらゆるレベルの開発に対応できる総合的なデジタルエンジニアリングの体制の2点である。GlobalLogic社は世界各地に協創を行うデザインセンターを持ち、通信、金融サービス、自動車、ヘルスケア、インダストリー等の幅広い分野で、顧客との協創を通じた迅速なアプリ・サービスの開発を実現していた。日立は、シナジーの実現によって社会インフラのDXを実現するグローバルリーダーへの成長をめざすとした。

計上したのれん

取得日に認識した価額は、受け入れた資産1兆1,019億円、引継いだ負債1,797億円。識別できた無形資産2,311億円のうち2,274億円が顧客関係に係る無形資産で、売上収益成長率、EBITDA率、既存顧客の売上収益成長率、既存顧客の逓減率、割引率等の仮定に基づいて測定した。

差額として計上したのれんは8,221億円(損金不算入)で、主に超過収益力及び既存事業とのシナジー効果を反映している。取得関連費用38億円は2022年3月期のその他の費用に計上した。取得原価の配分は翌期にも修正されていない。

買収後

連結ののれんは2021年3月末の1兆1,612億円から、取得後の2022年3月末に2兆1,537億円へ増えた。GlobalLogic社が属するデジタルシステム&サービスセグメントの外部顧客に対する売上収益は、2022年3月期の1兆9,883億円から2025年3月期に2兆6,530億円へ、セグメント損益は2,814億円から3,973億円へ伸びている。

のれんはサービス&プラットフォーム事業の資金生成単位グループに配分され、2025年3月末の帳簿価額は1兆3,167億円。減損テストに用いた主要な仮定が合理的な範囲で変動があった場合にも、帳簿価額が回収可能価額を上回る可能性は低いと判断している。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

取得原価の9割がのれんという値づけ

この買収で日立が手にしたものの大半は、帳簿の上で形を持たない。支払対価9,222億円に対し、識別できた無形資産は2,311億円にとどまり、差額の8,221億円は超過収益力とシナジーへの期待としてのれんに積まれた。取得原価の9割近くがのれんという構成は、買ったものが設備でも特許でもなく、世界各地の技術者と顧客との関係そのものだったことを示している。人と関係にこれだけの値をつけられるか、という一点にこの判断は集約される。日立が自ら覚悟の要る決断と位置づけたのも、そこに理由があったのだろう。

もっとも、その値づけが妥当だったかを外から検算する道は、取得の直後にふさがれた。GlobalLogic社ののれんは単独では追えず、サービス&プラットフォーム事業という資金生成単位グループに溶け、2025年3月末には1兆3,167億円の塊になっている。減損テストは通っているが、それはこの塊全体が回収可能だという判定であって、9,222億円という値づけの正しさを証明するものではない。成否の判定は、セグメントの売上収益と損益がどこまで伸びるかという間接的な物差しに委ねられたと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 GlobalLogic Worldwide Holdings, Inc. 米国・シリコンバレーに本社を置くデジタルエンジニアリング会社GlobalLogic Inc.の親会社
取得の法的形式 現金を対価とする株式取得 米国子会社が設立したSPC社を、GlobalLogic Worldwide Holdings社が吸収合併
公表日 2021年3月31日 HGDH社とGlobalLogic Worldwide Holdings社が買収に関する契約を締結
企業結合日 2021年7月13日 SPC社の吸収合併を含む一連の手続が完了し、完全子会社となった日
取得した議決権比率 100% GlobalLogic Worldwide Holdings社の発行済株式の全部を取得
公表時に見込んだ買収総額 96億米ドル(約10,470億円) GlobalLogic社の有利子負債の返済を含む。2021年3月31日時点の見込み
取得の対価 922,250百万円 現金。これとは別に借入金1,074百万米ドル(118,554百万円)を返済した
取得関連費用 3,874百万円 2022年3月期の連結損益計算書のその他の費用に計上
受け入れた資産 1,101,976百万円 現金及び現金同等物11,391、売上債権及び契約資産30,266を含む
引継いだ負債 179,726百万円 流動負債134,272百万円、非流動負債45,454百万円
のれん 822,173百万円 損金不算入。主に超過収益力及び既存事業とのシナジー効果を反映したもの
その他の無形資産 231,130百万円 顧客関係に係る無形資産227,424百万円を含む。売上収益成長率等を仮定に測定
通期換算した影響額 重要ではない 2021年4月1日に取得が行われたと仮定した場合の売上収益と当期利益への影響

出所:日立製作所 有価証券報告書 第152期(2021年3月期)【経営上の重要な契約等】・第153期(2022年3月期)【企業結合等関係】

のれんとその他の無形資産の推移

日立製作所:のれんとその他の無形資産の推移

(百万円) のれんその他の無形資産総資産 備考
2016年3月期 528,565541,83812,551,005 無形資産の注記はのれんを含む計で開示。のれんを除いた額を掲げた
2017年3月期 527,247391,9549,663,917 無形資産の注記はのれんを含む計で開示。のれんを除いた額を掲げた
2018年3月期 588,165466,20510,106,603 財政状態計算書の無形資産1,054,370はのれんを含む。差し引いた額
2019年3月期 561,936398,0809,626,592 財政状態計算書の無形資産960,016はのれんを含む。差し引いた額
2020年3月期 635,927479,7949,930,081 この期からのれんとその他の無形資産を財政状態計算書で別掲
2021年3月期 1,161,210964,83011,852,853 2021年3月31日にGlobalLogic社の買収を決定。取得は翌期
2022年3月期 2,153,7061,257,12813,887,502 GlobalLogic社の取得でのれん822,173、その他の無形資産231,130が増加
2023年3月期 2,165,3501,244,68812,501,414 取得原価の配分に修正はなく、前期と同額で再掲された
2024年3月期 2,371,6781,178,75012,221,284
2025年3月期 2,486,8231,199,99613,284,813 サービス&プラットフォーム事業に配分されたのれんは1,316,785
のれんとその他の無形資産
のれん(百万円)その他の無形資産(百万円)

出所:日立製作所 有価証券報告書 第147〜156期(連結財政状態計算書、のれん及びその他の無形資産)

デジタルシステム&サービスセグメントの推移

日立製作所:デジタルシステム&サービスセグメントの推移

(百万円) 売上収益セグメント損益セグメント総資産 備考
2022年3月期 1,988,339281,4032,987,359 2021年7月にGlobalLogic社を取得。翌期の区分変更に伴う遡及後の数値
2023年3月期 2,217,973293,7293,140,933 この期からデジタルシステム&サービスを報告セグメントとした
2024年3月期 2,432,182333,4333,480,331
2025年3月期 2,653,087397,3693,506,073
売上収益とセグメント損益率
売上収益(百万円)セグメント損益率(%)

出所:日立製作所 有価証券報告書 第153〜156期(セグメント情報)。売上収益は外部顧客に対するもの

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

事業のデジタル化2025年ミスミグループ本社北米のオンライン加工事業の獲得と、meviyとの統合デジタル調達と海外事業
2012年電通グループ取得原価3,651億円を投じ、海外本社を英国に設置した海外展開とデジタル化の出遅れ
2012年リクルートHD米国企業の取り込みによる海外への足がかりグローバルHRテックへの転換
2018年博報堂DYホールディングスD.A.コンソーシアムホールディングスの公開買付けによる完全子会社化デジタル領域の資本政策と親子上場の解消
2026年リンクアンドモチベーション企業向け統合AIサービスSELFBOTを提供するSELFの完全子会社化と、モチベーションクラウドの変革サービスへの組み込み組織人事のクラウド事業に対する、企業向けAIサービスの取り込み方
海外企業の買収2021年森永乳業海外買収への資金集中による、乳業の外への収益源の広がり成長軸の再定義と事業領域の拡張
2021年ルネサスエレクトロニクス3度目の巨額M&Aに踏み切ったうえでの、車載依存からの脱却車載マイコン依存からの脱却と、連続する巨額買収に伴う財務戦略
2021年いすゞ自動車ボルボとの戦略的提携と引き換えに手にした国内商用車大手商用車の体制と提携
2022年飯田グループホールディングスロシア極東の林業大手19社の取り込みと、侵攻直後の暗転木材調達の垂直統合とカントリーリスク
2022年クボタインド農機大手への1,950億円の出資と議決権44.8%の取得インド市場の攻略手法と過去最大の買収
参考文献
出典・参考
  • 日立製作所 有価証券報告書「第152期(2021年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第153期(2022年3月期)【企業結合等関係】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第154期(2023年3月期)【企業結合等関係】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第156期(2025年3月期)注10.のれん及びその他の無形資産」
  • 日立製作所 決算説明会質疑応答「新経営計画「Inspire 2027」/2025年3月期 決算説明会におけるQ&A(要旨)」
  • 日立製作所 決算説明会質疑応答「2026年3月期 第2四半期 決算説明会におけるQ&A(要旨)」
  • 日立製作所 決算説明会質疑応答「2026年3月期 第3四半期 決算説明会におけるQ&A(要旨)」

免責事項およびポリシー