岡三証券グループネット専業・岡三オンライン証券の設立と、16年後の岡三証券への吸収合併
対面とオンラインを別会社で持つか、一つの会社に束ねるか——委託手数料の完全自由化に押された準大手が探した答え
- 概要
- 2006年1月にネット専業の岡三オンライン証券を別法人として設立し、2022年1月1日に岡三証券が同社を吸収合併して社内の「岡三オンライン証券カンパニー」とした経営判断。1999年10月の委託手数料完全自由化で対面とオンラインの収益構造が分かれたことに対する、準大手証券としての二段構えの答えであった。
- 背景
- 手数料自由化の後、準大手以下の証券会社は大手証券とオンライン専業の双方に顧客を削られた。オンライン専業の松井証券は従業員約160人で、約1,200人を抱える準大手と同水準の経常利益を上げていた。岡三証券は2003年10月に持株会社へ移り、事業会社を並べて持つ形を先に整えていた。
- 内容
- 岡三証券を存続会社とする吸収合併で、合併期日は2022年1月1日。取引ルール・手数料水準・部店番号・口座番号・IDはいずれも据え置き、岡三オンライン証券は独立事業部門として続いた。間接部門とデータを共有し、外国株式や内外債券が品揃えに加わった。
- 含意
- 束ねた顧客基盤は、証券機能をグループ外へ供給する証券プラットフォーム事業につながり、2026年3月末の預り資産は10.1兆円に達した。一方で2026年3月26日、岡三証券は日本株と投資信託の約46万口座をSBI証券へ譲渡すると決め、自ら立てた専業の主要部分を手放した。
二重に持つことの重さ
松井証券の従業員約160人と、準大手の約1,200人。2000年の誌面に並んだこの二つの数字が、岡三証券のその後の20年を縛っていた。対面の人員を抱えたまま手数料の安さで競えないなら、専業は別の法人で持つほかない——2006年の岡三オンライン証券設立は、その割り切りであったとみられる。16年後に本体へ吸収したのは、割り切りの前提が消えたからである。手数料の安さでは勝てず、システムと管理を二重に持つ費用だけが残った。
ただ、1社に束ねたことが答えになったとは言い切れない。統合から4年で岡三証券は日本株と投資信託の約46万口座をSBI証券へ渡し、自前で始めたオンラインの主要部分を手放した。口座乗っ取りへの対策費という、2006年には勘定に入っていなかった費用が採算を割らせている。残ったのは対面のコンサルティングと、証券機能を他社へ供給する事業であった。オンラインを自ら持つという選択は、20年をかけて畳まれたとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
手数料自由化と、両側から削られた準大手
1999年10月に株式の委託手数料が完全自由化されると、対面の営業社員を抱える中堅・準大手の証券会社は、大手証券とオンライン専業の双方から顧客を削られた。2000年11月の週刊東洋経済は、オンライン専業の松井証券と準大手のみずほインベスターズ証券の経常利益が第1四半期・第2四半期ともほぼ同水準になったと伝えている。従業員は松井証券が約160人、みずほインベスターズ証券が約1,200人であった[1]。
同じ記事は、準大手以下がオンライン専業に比べて固定費を圧倒的に重く抱えている点も指摘している。ただ、9月単月で赤字に陥ったとされた準大手以下のなかに、岡三証券は含まれていない。危機の渦中にはいなかったが、委託手数料に頼る収益の前提は崩れかけていた。岡三証券は2003年10月、証券業その他の営業を会社分割で子会社へ承継させ、岡三ホールディングスと商号を変えて持株会社へ移っている[2][3]。
自前でオンライン専業を立てる
持株会社の下に事業会社を並べる形が整った2年余り後の2006年1月、岡三証券グループは岡三オンライン証券を設立した。対面営業を担う岡三証券とは別の法人とし、格安の手数料と高機能のトレーディングツールで自ら専業の側に回る選択であった。当時の社長は加藤哲夫氏で、2006年3月期の連結営業収益は889億円、親会社株主に帰属する当期純利益は179億円と、本業が好調な時期の新設にあたる[4][5]。
別会社の採算は、手数料競争のなかで早くから揺れた。2009年10月1日、岡三オンライン証券は信用取引の定額プランを引き上げ、1日に1億円を約定した場合の手数料を3,000円台から2万〜3万円台へ改めている。池田嘉宏社長は「新料金はコストパフォーマンスを考えると応分」(週刊東洋経済 2009/10/3)と述べた。他社の値上げで流入した顧客により売買代金は3〜4倍に増えたが、赤字幅はかえって広がった[6]。
決断
2021年3月の統合方針と、合併期日
2021年3月17日、岡三証券グループは対面の岡三証券とネット専業の岡三オンライン証券を統合すると発表した。日本経済新聞は同日「岡三証券G、対面・ネット子会社を10月にも統合へ[7]」(日本経済新聞 2021/3/17)と伝え、5月の決算説明会資料にも2021年10月のカンパニー設置が予定として載っている。合併期日は同年7月に2022年1月1日と定まり、岡三証券を存続会社とする吸収合併となった[8][9]。
統合は、顧客の手元をできるだけ動かさない形で組まれた。合併後も岡三オンライン証券は岡三証券内の独立事業部門「岡三オンライン証券カンパニー」として運営され、取引ルールや手数料・金利の水準は据え置かれた。部店番号も口座番号もIDとパスワードも変えず、変わるのは銀行振込口座の名義人だけとされている。法人としては消しながら、利用者から見た看板とサービスは残す組み立てであった[10][11]。
一つの会社に束ねたもの
子会社を社内カンパニーへ落とす手つきは、岡三証券にとって初めてではない。2020年4月に岡三とうきょう証券カンパニー、2021年4月に岡三みえ証券カンパニーを設けており、オンライン専業もその列に並んだ。統合で見込んだのは、「オンライン取引を求めるシニア層」「相談ニーズのある若年層」(岡三証券グループ FY21決算説明会資料 2021/5/14)という顧客層の拡大と、外国株式や内外債券という品揃えの拡充であった[12][13]。
もう一方のねらいは費用にあった。統合により間接部門やデータを共有し、二重に抱えていた管理機能を1社へ寄せる。世帯単位で顧客データを突き合わせる分析も、別々の法人のままでは進めにくかった。あわせて証券基幹システムを自社運用から業界標準的なシステムのサービス利用へ切り替える計画を、2022年度下期に置いた。オンライン専業を別法人で持つ限り避けられなかった重複が、合併によって整理の対象になった[14]。
結果
統合後の口座数と、証券プラットフォーム事業
統合の効果は口座数に表れた。2023年3月期末の口座数は対面が63.1万口座、オンラインが40.9万口座で、証券ジャパンの子会社化や同業他社からの事業譲受と合わせ、3年間で顧客数は約3割増えた。2022年11月には岡三アセットマネジメントが連結子会社から持分法適用関連会社へ移り、SBIグループとの合弁会社となった。運用子会社を手放す一方で、販売の側は厚くする組み替えであった[15][16]。
束ねた顧客基盤は、証券機能をグループ外へ供給する事業につながった。岡三証券グループは対面とオンラインを併せ持つ本体の業務を、グループ証券・友好証券・IFA・地域金融機関へ提供する証券プラットフォーム事業を進めており、預り資産は2026年3月末で10.1兆円、口座は110万、証券ビジネスの拠点は117を数える。2026年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益214億円は過去最高であった[17][18]。
オンライン事業の主要部分をSBI証券へ
一つの会社に束ねてから4年後、岡三証券はオンライン事業の中核を外へ出した。2026年3月26日、岡三証券とSBI証券は「岡三オンライン証券」事業に係る吸収分割契約を締結し、日本株の現物取引・信用取引と投資信託を2026年10月13日付でSBI証券へ承継させると決めている。証券総合口座やNISA口座など約46万口座が移る。取引所FXと取引所CFDは岡三証券に残る[19][20]。
日本経済新聞は、2025年に急増した口座乗っ取りを受けたセキュリティー対策の強化が重荷となり、事業の採算が合わなくなったと伝えている(日本経済新聞 2026/3/26)。岡三証券グループはこの譲渡を「対面コンサルティングを軸としたデジタル推進体制への『選択と集中』」(岡三証券グループ FY26決算説明会資料 2026/5/15)と説明した。かつて手数料を競った相手に、自ら立てた専業の主要部分を渡す結果となった[21][22]。
- 週刊東洋経済 2000年11月11日号「準大手証券以下は冬の時代 相場低迷とオンライン専業に脅かされ収益急降下」
- 週刊東洋経済 2009年10月3日号「スペシャルリポート02 手数料値下げに限界 曲がり角のネット証券」
- 岡三証券グループ 有価証券報告書【沿革】
- 岡三証券グループ 有価証券報告書(2006年3月期・連結)
- 岡三証券グループ 有価証券報告書(2022年3月期・連結)
- 岡三証券グループ 有価証券報告書(2026年3月期・連結)
- 岡三証券グループ FY21 決算・経営戦略説明会資料(2021年5月14日)
- 岡三証券グループ FY23 決算・経営戦略説明会資料(2023年5月12日)
- 岡三証券グループ FY26 決算・経営戦略説明会資料(2026年5月15日)
- 岡三オンライン証券「岡三証券株式会社との経営統合に関するQ&A」2021年3月17日
- 岡三オンライン証券「岡三証券株式会社との経営統合に関するお知らせ」2021年12月20日
- 岡三証券「岡三オンライン証券との経営統合(合併)完了のお知らせ」2022年1月4日
- 岡三オンライン証券「岡三オンライン証券事業の一部譲渡のお知らせ」2026年3月26日
- 日本経済新聞(2021年3月17日)「岡三証券G、対面・ネット子会社を10月にも統合へ」
- 日本経済新聞(2026年3月26日)「岡三証券が株ネット取引から撤退 安全対策費が重荷、SBIに譲渡」