セブンイレブン・ジャパンセブンドリーム・ドットコムの設立と、店舗網の電子商取引受け渡し拠点への転用
自前で作るか、8社で持ち寄るか——支払いと引き渡しを店舗に集めた電子商取引の設計
- 概要
- 2000年2月、セブンイレブン・ジャパンはNEC、野村総合研究所、ソニー、三井物産、日本交通公社(JTB)など7社と資本金50億円の電子商取引会社セブンドリーム・ドットコムを設立し、51.0%を出資した。同年6月にサイトを開き、代金の支払いと商品の引き渡しを全国約8,000カ所の店舗で受け付ける設計をとった。
- 背景
- 1999年11月末にソフトバンクなどと始めたネット書籍販売で、支払いと受け取りの3方式のうち、店舗で両方を済ませる客が93%を占めた。米国のネット企業が抱える自宅配送の物流投資を、すでにある店舗網と共同配送網で置き換えられるという読みがあった。
- 内容
- 出資はセブンイレブン51.0%、NECと野村総合研究所が各13.0%、ソニーとソニーマーケティングが各6.5%、三井物産6.0%、JTBとキノトロープが各2.0%。家庭のパソコンと店頭のマルチメディア端末の双方から注文でき、扱う品目は物販、旅行、音楽配信、写真のプリント、チケット販売、自動車販売の仲介に及ぶ。取扱高は2001年度に1,500億円、2003年度に3,000億円を見込んだ。
- 含意
- 自前のサイトを一社で作らず、8社で資本金を持ち寄った点にこの判断の性格が表れている。システム、仕組みの設計、コンテンツ、商流、旅行の手当てを外部に求め、自社は店舗網と決済の受け皿を出した。鈴木敏文会長は米国の5,600店を含む20カ国・地域1万9,000店への拡張も語っていた。
実測値が先にあった参入
93%という数字が、この判断の芯にある。1999年11月に始めた書籍販売で、店舗での支払いと受け取りをそろって選んだ客が9割を超えた。鈴木敏文会長が「ECはリアルの店舗が伴わなければうまくいかない」と言い切れたのは、自社の客が先に行動で示していたからである。1年前のインタビューでは、ネット小売への対応を問われて研究の必要を述べるにとどまっていた。実測値が出て初めて、8,000カ所の店舗を電子商取引の出口として使う設計に踏み切れたとみられる。
ただ、この設計には初めから危うさもあった。2001年度に1,500億円という取扱高の予測に対し、その後の実績を確かめられる資料は本稿の範囲にない。扱う品目も、旅行、音楽配信、自動車販売の仲介と出資7社の本業を並べた色合いが濃く、客の需要から積み上げたものとは限らない。決済と顧客管理の中核は社員50人ほどのエコスが握り、同じソフトはローソンも使っていた。店舗網という強みは、受け取り拠点としては他社にも開かれていたといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
一年前の答えは「研究はしていかなくちゃならん」だった
1999年1月、米国で伸びるインターネット小売にどう対応するかを問われた鈴木敏文会長は、急にそう変わるわけではないが研究はしなければならない、と答えている。セブンイレブンを始めたときも世の中がこう変わると分かっていたわけではなく、今は想定できないことも今後どんどん出てくる、とも語った。この時点の同社は1998年2月期に経常利益1,120億円を上げる高収益企業であり、電子商取引を急ぐ理由は乏しかった[1][2]。
構えを変える材料は、その年の暮れに出た。1999年11月末、ソフトバンクなどと組んでインターネット上の書籍販売を始める。利用者は、店舗で支払いと受け取りの両方を済ませる、店舗で支払って宅配便で受け取る、クレジットカードで支払って宅配便で受け取る、の3通りから選べた。結果は偏った。店舗で両方を済ませる客が全体の93%を占める。カード番号を送る不安と、宅配を自宅で待つ煩わしさが、その理由とされた[3]。
配送に金をかけずに済む出口を探す
米国のネット企業の大半は赤字であった。広告投資もさることながら、顧客の自宅まで商品を届ける物流の負担が重い。セブンイレブンには、共同配送で作り上げた物流網と、全国8,000カ所の店舗がすでにある。この二つを使えば、宅配網を新たに敷く投資を大きく抑えられる。電子商取引の弱点が最後の配送にあるとすれば、自社で最も厚い資産がそのまま弱点の埋め合わせになる、という読みであった[4]。
傍証は米国にもあった。オンライン証券最大手のチャールズ・シュワブは全米330カ所に店舗を持ち、新規顧客の70〜75%を店舗経由で獲得している。ネット書籍販売のアマゾン・ドット・コムも、実店舗での受け取りと返品を可能にするため既存の流通業者との提携を探っているとされた。鈴木会長は「ECはリアルの店舗が伴わなければうまくいかない」と述べ、顧客心理からすればそのほうが安心で便利であり、日本も米国も同じはずだと語っている[5]。
決断
8社で資本金50億円を持ち寄る
2000年2月、資本金50億円のセブンドリーム・ドットコムが設立された。出資比率はセブンイレブンが51.0%、NECと野村総合研究所が各13.0%、ソニーとソニーマーケティングが各6.5%、三井物産が6.0%、日本交通公社(JTB)とキノトロープが各2.0%である。過半を握って意思決定は手放さない一方、残る49%は7社に配った。一社で完結する子会社を作る形はとらなかった[6]。
顔ぶれは、扱う品目とほぼ重なる。サイトが並べたのは物販、旅行、音楽配信、写真のプリント、チケット販売、自動車販売の仲介であった。出資者の本業に引きつけて読めば、旅行はJTB、音楽配信はソニーとソニーマーケティング、商品の調達は三井物産、システムはNEC、仕組みの設計は野村総合研究所、サイト制作はキノトロープが受け持つ配置になる。コンビニエンスストアの本部が単独では持ちようのない機能を、出資と引き換えに集めた構図とみることができる[7]。
入口は二つ、引き渡しは店舗に集める
設計の要は、入口を二つ用意して出口を一つに絞った点にある。注文は家庭のパソコンからも、店頭に置くマルチメディア端末からも受け付ける。一方で代金の支払いと商品の引き渡しは、いずれもセブンイレブンの店舗で受け付ける。端末は2001年春までに全店へ置く方針で、会員カードを差し込めば氏名や住所の入力を省ける仕組みも検討された。取扱高は2001年度に1,500億円、2003年度に3,000億円を見込んだ[8][9]。
受け取り拠点として動かす裏側は、外部の手を借りていた。書籍販売のイー・ショッピング・ブックスで顧客管理と代金決済を作ったのは、社員50人ほどのソフト開発会社エコスである。同社はローソンの分も手がけ、そのソフトは店舗での受け渡しに加え、クレジットカード、銀行の引き落とし、着払い宅配便、郵便局の代引き配達まで扱えた。露木千尋社長は、業種ごとの顧客管理と業務の知識がなければこの種のソフトは作れないと語っている[10][11]。
結果
カードと提携先へ広がった構想
設立から2カ月後、次の一手が表に出た。2000年4月、セブンイレブンが年内にも発行する会員向けICカードで、トヨタ自動車、ソニー、日本航空など1業種1社に絞って参加を打診していることが報じられる。ポイントを相互に使えるようにし、カードの規格をそろえる案で、仕様は野村総合研究所などに委託して詰めていた。カードは、店頭に置く端末を客に使ってもらうための道具でもあった[12]。
品揃えを埋める提携も続いた。元インテル日本法人会長の西岡郁夫氏が興したワンチャネルとは、2000年6月から衣服やバッグ、時計など数百品目を扱い、全国約8,000店で代金の支払いと商品の受け取りができるようにする。西岡氏は3年ほど前にも同じ構想を鈴木会長に持ちかけ、「時期尚早」と断られていた。断った側が自ら合弁を作るまでの数年で、同じ話が通る条件がそろったとみられる[13]。
予測として置かれた数字と、厚みを増した店舗網
取扱高の予測は、当時の規模に照らしても野心的な数字であった。2001年3月末の国内店舗数は8,600店を超え、店舗の平均日販は2001年2月期の実績で約68万円と、全国のコンビニエンスストア平均43万円を引き離している。一方、2001年度に1,500億円という取扱高がどこまで実現したかを示す資料は、本稿で参照した範囲では確認できない。この数字は予測として置いたまま読むほかない[14]。
受け取り拠点としての厚みそのものは、その後も増した。国内店舗数は2001年度末に約9,000店となり、ローソンの7,700店、ファミリーマートの5,900店を上回る。2003年度中には1万店を超える見込みとなった。販売データを扱う仕組みも1997年に入れた第五次総合情報システムが動いており、鈴木会長は、米国のセブンイレブンでは自社でいう第三次に相当するものを使っていると述べている[15][16]。
- 日経ビジネス 1999年1月4日号「編集長インタビュー 鈴木敏文氏[イトーヨーカ堂社長、セブン-イレブン・ジャパン会長]」
- 日経ビジネス 2000年1月17日号「ネットとコンビニ連携、米国でも 鈴木セブンイレブン会長が目論む世界戦略」
- 日経ビジネス 2000年4月10日号「セブンイレブン、カードで『最強連合』を画策」
- 日経ビジネス 2000年5月15日号「インテル元幹部がユニーク電子商取引 セブンイレブンと提携」
- 日経ビジネス 2000年7月3日号「e革命に『陰の主役』あり セブンイレブンもドコモも彼らを欠かせない」
- 日経ビジネス 2001年4月16日号「セブンイレブンが『1階主義』から大転換」
- 週刊東洋経済 2003年4月12日号「特集 セブン‐イレブンの『論理思考』第1部・理論編 鈴木敏文会長ゼミナール」