FC専業の業務スーパーに直営店を併設し、店頭実験の装置を持った出店戦略の転換
1,000店をFCで築いた本部は、なぜ数店だけ自ら店を持ったのか
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- 概要
- 2021年8月、業務スーパーをFC専業で広げてきた神戸物産が、大阪市西成区に直営の天下茶屋駅前店を開いた経営判断。2023年10月には関東の大型直営店・横浜いずみ店を続け、省エネ設備・フルセルフレジ・自動発注システムなどを自社の店頭で検証する実験の場とした。規模を追う直営化ではなく、FC網を支える装置としての直営である。
- 背景
- 業務スーパーはロイヤルティを総仕入高の1%に抑え、加盟店の資本で売り場を広げるFCモデルで900店を超えた。だが店頭のほぼ全てが加盟店の資産であるため、本部は効率化の仕掛けを「提案」するほかなく、新しい設備や運用を自ら試す場を持たなかった。
- 内容
- 天下茶屋駅前店はソフトバンクと連携してDX投資を行った直営店で、先端技術による店舗運営の省力化を試行した。横浜いずみ店はかなりの大型店として、冷凍ショーケースのふたによる省エネ検証、フルセルフレジ、自動発注システムの運用検証を担った。
- 含意
- ふた付きショーケースでも売上が落ちないという検証結果や、自動発注の不具合検証など、直営店の実験成果はFC網へ展開されていく。直営小売の売上はFC向け卸売の1%未満に抑えられたままで、神戸物産は直営をあくまで実験と検証の装置として使っている。
数店の直営が支える1,000店の網
この判断の妙は、直営化の規模を意図的に小さくとどめたところにある。FCモデルの強みは、加盟店の資本で売り場を広げ、本部は仕入と製造に集中できる資本効率にあった。だがその代償として、本部は店頭という実験室を持たない。セルフレジも自動発注も省エネ設備も、加盟店への提案として持ち込む限り、失敗のリスクを他人に負わせることになる。数店の直営は、この構造の欠落をFCの利点を損なわずに埋める、最小限の装置であるとみることができる。
直営店を持つ小売本部は珍しくないが、多くはFCと直営の比率そのものが経営の変数になる。神戸物産の場合、直営小売の売上は一貫して全体の1%未満で、比率を動かす気配がない。実験は直営で、展開はFCでという分業が崩れないのは、1,000店の均質な網に一括で展開できることこそが検証の価値を最大にするからであろう。天下茶屋と横浜いずみで確かめた答えが、次はどの店頭の風景を変えるか——実験店という装置は、FC専業のまま業態を更新し続けるための、この会社なりの回答といえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
加盟店の資本で築いた店舗網
業務スーパーの店舗網は、本部の資本をほとんど使わずに築かれてきた。神戸物産は加盟するオーナー企業が支払うロイヤルティを総仕入高の1%に抑え、加盟店が利益を出して次の店を出したくなる設計で出店を加速させた。2021年1月には店舗数が900店を突破し、翌2022年10月には函館田家店の開店で1,000店に達している。2000年のFC1号店から22年、加盟店の資本で全国を覆ったこの網が、神戸物産の収益構造の土台であった[1][2]。
裏を返せば、店頭のほぼ全てが加盟店の資産であった。2021年10月期の販売実績で、業務スーパーFC事業の3,524億14百万円に対し、直営小売事業は30億51百万円と1%に満たない。本体が営業店舗として持つ業務スーパーも、フレッシュ石守時代からの稲美店・伊川谷店など数えるほどである。人手不足で加盟店の運営負担が増すなか、沼田博和社長は、限られた従業員数で品質・サービス・清潔さの水準を保てるよう、セミセルフレジなど効率化につながるものを加盟店へ提案していると語った。店を持たない本部にできるのは、あくまで提案までであった[3][4]。
試すべきことが増えた2021年
天下茶屋駅前店を開いた2021年は、業務スーパーが最も伸びていた時期にあたる。コロナ禍の内食需要で8期連続の増収増益が続き、メディア露出の増加で顧客基盤も広がった。2021年10月期の出店計画は60店と過去最高で、沼田社長は国内で最低でも1,200店は出店できる、登山でいえばまだ5〜6合目と語っていた。店舗網が大きくなるほど、店頭のオペレーションを少しずつ変えるだけで効果が網の全体に効く。試す価値のある仕掛けが、規模とともに増えていた[5]。
試したいものの筆頭が、発注と会計の自動化であった。業務用の大量発注は人手で対応せざるを得ないなか、沼田社長は販売実績と需要予測に基づいて発注量を店舗側へ提案する自動発注システムの導入を構想していると明かしている。需要予測に生かすための加盟店POSデータの収集も、沼田社長の代から始まった取り組みであった。ただし、こうした仕組みを他人の資産である加盟店の店頭でいきなり試すわけにはいかない。構想と店頭のあいだに、実験の場が欠けていた[6]。
決断
ソフトバンクと組んだDXの実験店
2021年8月、神戸物産は大阪市西成区に直営店として業務スーパー天下茶屋駅前店を開いた。有価証券報告書の沿革に「直営店として」開店したと明記された、FC専業からの転換点である。沼田社長はこの店について、ソフトバンクと連携してDX投資をした直営店を大阪でつくり、先端技術を取り入れて店舗運営の負担を減らすために試行錯誤していると説明した。出店の主眼は売上ではなく、加盟店には頼めない実験を自社の店頭で回すことにあった[7][8]。
直営はあくまで例外にとどめられた。2021年10月期末時点で神戸物産本体が営業店舗として抱える業務スーパーは、稲美店、伊川谷店、天下茶屋駅前店の3店だけである。天下茶屋駅前店は約1,600平方メートルの借地に建物2億99百万円を投じた店で、加盟店網の1,000分の3という規模は、直営で稼ぐ意図がないことをそのまま示している。FCの資本効率を崩さずに、実験の場だけを自前で持つ構えであった[9]。
関東の大型店へ広げた検証
実験の場は2年後、関東の大型店へ広がった。2023年10月、神戸物産は横浜市泉区に直営の業務スーパー横浜いずみ店を開店した。賃借面積は約1万4,500平方メートルと、標準の売場面積150坪を基本とする業務スーパーのなかで際立って大きい。沼田社長は2024年6月の決算説明会で、この店はかなりの大型店であり、いろいろなテストを行っていると位置づけを明かしている[10][11]。
テストの中身は具体的であった。一部の冷凍ショーケースにふたを付け、省エネ効果がどれだけ見込めるかを計測する。小売業では、ショーケースにふたを付けると売上が落ちるといわれてきたが、それを自社の店で確かめる。会計では、客がスキャンから支払いまでを行うフルセルフレジを検証した。スキャン漏れや機械の停止といった課題から業界で導入が進んでいない方式を、あえて自社の店頭で試し、レジメーカーと協議しながら業務スーパーへ導入できるかを見極める実験であった[12]。
結果
実験装置として働く直営店
直営店の検証は、実際に結論を出し始めた。ふたを付けると売上が落ちるという通説に対し、横浜いずみ店ではふたを付けても他店と同様の売上であったことから、ふたを付けても売上は下がらないと分析し、検証は省エネ効果とイニシャルコストの比較へ進んだ。2021年のインタビューで構想として語られた自動発注システムは、直営店で運用しながら不具合がないかを検証する段階を経て、順次導入が進められている。他人の店では試せない失敗込みの検証を、自社の数店が引き受ける分業が形になった[13]。
一方で、直営の規模は抑えられたままである。2023年10月期の販売実績は、業務スーパーFC事業の4,426億69百万円に対し直営小売事業が42億39百万円と、比率は開店前とほとんど変わらない。直営店は増やさず、実験のテーマを増やす方向に装置は使われている。2025年12月の決算説明会では、売場面積50坪程度を基準とする都市型小型店の物件探しが具体化し、2026年中の出店を目指すと説明された。標準フォーマットの外側を試す仕事も、直営が担うことになる[14][15]。
- 神戸物産 有価証券報告書【沿革】
- 神戸物産 有価証券報告書(2021年10月期・2023年10月期)【生産、受注及び販売の実績】【主要な設備の状況】
- 週刊東洋経済 2021年9月4日号「トップに直撃 神戸物産 社長 沼田博和 「業務スーパーの出店はまだ5〜6合目だ」」
- 週刊東洋経済 2025年2月22日号「【特集 もうけの仕組み 2025】 SCMの達人に聞く 神戸物産 社長 沼田博和 「自社で製造するからこそ迅速に価格へ反映できる」」
- 神戸物産 2024年10月期第2四半期 決算説明会 質疑応答
- 神戸物産 2025年10月期 決算説明会 質疑応答