オービックビジネスコンサルタント完全SaaS型「奉行クラウド」の投入と、買い切り型から継続収益型への収益構造の入れ替え
販売パートナーの売り切りの取り分を守るか、月額の継続収益へ移るか——四十年続いた売り方の畳み方
- 概要
- 2018年2月、オービックビジネスコンサルタントが主力の奉行iシリーズを完全SaaS型の「奉行クラウド」として発売し、買い切り型から継続収益型へ収益の立ち方を入れ替えた経営判断。和田成史社長が決めた。
- 背景
- 2014年4月に日本マイクロソフトと協業してIaaS対応を進めた後もSaaS化には踏み込まず、販売パートナーの売り切りの商売を壊さないことを優先していた。一方で買い替え需要は細り、2018年3月期の基幹系ソリューション出荷は前期比31.7%減った。
- 内容
- 勘定奉行と給与奉行のSaaS版を1ユーザー年額15万円から投入し、基盤は Microsoft Azure に置いた。1件あたり111.6万円が立っていた買い切りの平均単価を、16.3万円から始まる年額の利用料へ置き換えた。
- 含意
- 継続収益比率は2026年3月期に83.9%、ARRは457億円まで伸びた一方、移行の途中にあたる2023年3月期は減収減益に落ちた。オンプレミスの「奉行11シリーズ」は2027年4月のサポート終了という期限が切られている。
売る側の商売が動くのを待った四年
和田成史社長が本格的なSaaSモデルへ踏み出す段階になったと述べたとき、根拠として先に置いたのは自社の技術ではなく、パートナーの商談の70%がクラウド関連になっていたという数字であった。SaaS化を遅らせてきた理由が販売パートナーの商売を壊さないことにあった以上、踏み切る条件も同じ側に置くほかなかったとみられる。売り手の準備が整ったからではなく、売る人たちの商売のほうが先に動いたことを確かめてから発表した判断といえる。
ただし、待った分の代償が消えたわけではない。2023年3月期はオンプレミスの売上が64.3%減り、保守も目減りして、減収減益に落ちた。1件111.6万円で立っていた金額を16.3万円から始める売り方に替えれば、移行の途中で穴が開く。継続収益比率83.9%という数字も、裏を返せば売上の8割強を毎月の解約に預けた形になる。2027年4月に「奉行11シリーズ」のサポートが切れるまで、答えの出ていない部分は残っている。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
代理店に渡していた売り切りの取り分
オービックビジネスコンサルタントは2014年4月に日本マイクロソフトと協業したが、そこで進めたのはパッケージをオンプレミスとIaaSの両方の環境で動かすところまでであった。販売パートナーから見れば、奉行のクラウド運用を顧客に勧めても、ハードウェアがIaaSに置き換わるだけで、売り切りの商売そのものは変わらない。SaaS化を遅らせてきた背景には、パートナーの既存の商売を壊さないことを優先したという事情があった[1][2]。
奉行シリーズで賄えない需要には業務サービスを足し、売り切りの上に年額の収益を積み増す。パートナーはこの形で商売を組み立てていた。会社の2018年3月期も、ソリューション売上が65億円で前期比6.2%減、保守契約料を含むサービス売上が137億円で同5.5%増と、売り切りが細って継続分が伸びる並びになっている。売上高全体では1.0%増と横ばいであった[3][4]。
買い替え需要が細った年
売り切りの商売は、制度改正と基本ソフトの世代交代が呼ぶ買い替えに支えられてきた。その需要が2018年3月期に細る。2017年3月期末で奉行21 Ver.5のサポートが終わり、バージョンアップが減ったため、基幹系ソリューションの出荷は前期の26,676本から18,213本へ31.7%落ちた。とりわけ単体利用のStandaloneが19,908本から11,498本へ42.2%減り、減少の大半をここが占めている[5]。
同じ資料で、会社は市場の見立ても示している。年商別の利用実態を調べたノークリサーチの2017年の調査を引き、中規模以上ではIaaSが中心、小規模・零細ではSaaSが使われ、中小規模はSaaSとオンプレミスが混在すると整理したうえで、中小企業向けのSaaSには本命が不在であると書いた。どこが空いているのかを、踏み切る前に名指ししていたことになる[6]。
決断
本丸をSaaSにする
2018年2月16日、オービックビジネスコンサルタントは中堅・中小企業向け「奉行i10」シリーズのうち「勘定奉行i10」と「給与奉行i10」の完全SaaS版を23日に出すと発表した。和田成史社長は、ついに本格的なSaaSモデルへ踏み出す段階になったと述べている。根拠として先に挙げたのは自社の開発の進み具合ではなく、顧客とパートナーの側で起きていた変化を示す数字であった[7]。
前年の自社イベント「奉行フォーラム」の参加者1万人を分析したところ、基幹業務をクラウドへ上げたいという回答が初めて半数を超えた。パートナーの商談も、70%がクラウド関連になっていた。和田社長は5年後には基幹業務ソフトもほとんどすべてクラウド化すると見通し、勘定奉行を1ユーザー年額15万円からとして、向こう1年で3,000社から4,000社の新規獲得を計画した[8]。
初回に立つ金額を捨てる設計
手放したのは、1本売るたびに立つ初回の金額であった。2022年3月期の資料で会社が並べた平均単価は、買い切り型が奉行V ERPシリーズ111.6万円・奉行iシリーズ21.8万円であるのに対し、利用料型は奉行クラウドが16.3万円、奉行クラウドEdgeが11.7万円にとどまる。1件あたりで見れば、主力の7分の1以下の金額から始める売り方へ移した[9]。
代わりに得たのは、翌期以降へ繰り越す前受収益であった。買い切りではライセンス料が初年度と更新時に一括で入るのに対し、SaaSでは年払いの利用料のうち未経過分が前受収益に積まれる。基盤は自前で持たず Microsoft Azure に置き、オンプレミスも同時に残して2020年3月に「奉行11シリーズ」を発売したうえで、2027年4月のサポート終了という期限を切った[10][11]。
結果
移行の途中で開いた穴
入れ替えの代償は2023年3月期に出た。売上高は337億円で前期比3.0%減、経常利益は158億円で同7.7%減と、減収減益になっている。オンプレミスのソリューション売上が67億円から24億円へ64.3%減り、保守も4.9%減った。クラウドは86億円から127億円へ47.3%伸びたものの、落ちた分を埋めるには届かなかった。基幹系ソリューションの出荷本数も、37,732本から21,837本へ42.1%減っている[12]。
それでも、先に確定している収益のほうは厚みを増していた。前受収益残高は2018年3月期の108億円から2022年3月期に214億円、2023年3月期には278億円へ積み上がり、継続収益比率は63.9%から76.5%へ上がる。ARRも238億円から275億円へ15.3%増えた。減益の期に、翌期以降へ繰り越す売上のほうは増えるという並びが、同時に成り立っていた[13]。
売り切りの終わり方
2025年春、オービックビジネスコンサルタントは新規販売をクラウドへ一本化した。2026年1月の時点で、オンプレミス版「奉行V ERP」の利用者はおよそ2割がクラウドへ移っている。2026年3月期の販売実績はクラウドが313億円で前年同期比20.8%増、オンプレミスは6億9,200万円で同60.1%減、保守は117億円で同4.5%減となり、合計は514億円に達した[14][15]。
オンプレミスの売上は、合計の1.3%まで縮んでいる。2026年3月末のARRは457億円、稼働システムは27.5万で、うちクラウドと奉行クラウドEdgeが14.7万を占める。継続収益比率は83.9%、契約継続率は99.4%、前受収益残高は358億円。2027年4月にサポートが終わる「奉行11シリーズ」はなお約11万システム残っており、移行は続いている[16]。
- 週刊BCN+(2018年3月1日)「OBC 基幹系業務ソフト市場のクラウドシフトが進む? ついに本丸の奉行iシリーズをSaaS化」
- 週刊BCN+(2026年1月26日)「【2026年 新春インタビュー】オービックビジネスコンサルタント」
- オービックビジネスコンサルタント 2018年3月期 決算説明会資料
- オービックビジネスコンサルタント 2022年3月期 決算説明会資料
- オービックビジネスコンサルタント 2023年3月期 決算説明会資料
- オービックビジネスコンサルタント 2026年3月期 決算説明会資料
- オービックビジネスコンサルタント 有価証券報告書(2026年3月期)【沿革】【販売実績】