三菱ケミカルホールディングスの設立は、市況に揺れる総合化学が、性格の異なる医薬を同じ資本の下に抱えることで収益の振れをやわらげようとした選択とみられる。石化・機能材料と研究開発型の医薬では、投資回収の時間軸も収益の性格も異なる。両者を一つの事業会社に混ぜるのではなく、持株会社の下に自律した事業会社として並べる設計は、それぞれの事業運営を尊重しながらグループ全体の戦略と資本配分を一元化する狙いをもっていた。化学メーカーが医薬を第二の柱に据える構想を、持株会社という枠組みで実現した事例といえる。
一方で、事業会社の自律性を保つ持株会社の設計は、グループの統合度を低く保つ要因ともなった。医薬・機能商品・産業ガスを順次取り込みながらも事業システムの一体化は先送りされ、2017年のワンカンパニー化を経てもなお業務基盤の統合は課題として残った。快適・健康・環境という化学の社会的意義をグループの方針に据えるKAITEKI経営は、多角化した事業を統括する理念を与える試みであった。性格の異なる事業をどの枠組みと理念でまとめるのかという問いは、2005年の持株会社設立に端を発し、その後の三菱ケミカルグループの経営が長く向き合う課題であった。