欧州プレミアムビール4社の取得

Peroni・Grolsch

国内で成熟したアサヒは、独禁売却の受け皿として西欧の定番ブランドをどう取り込んだか

更新:

時期 2016年2月
意思決定者 泉谷直木 社長兼CEO
論点 成熟した国内ビール市場の外に、安定した収益基盤をどう築くか
概要
2016年、アサヒはABインベブによるSABMiller買収に伴う独占禁止法対応の売却を受け、西欧のビール事業4社(イタリアのPeroni、オランダのGrolschなど)を約25.5億ユーロ(約3,290億円)で取得した経営判断。成熟した国内市場の外に、先進国のプレミアムブランドで安定した収益基盤を築いた。
背景
スーパードライで国内首位を争ったアサヒも、人口減と酒税で国内の数量成長は限られ、海外の足場は薄かった。2015年のABインベブによるSABMiller買収で、独禁対応として欧州の定番ブランドが売却対象となった。
内容
2016年2月にBirra Peroni(伊)・Royal Grolsch(蘭)・Meantime(英)・Miller Brands UK(英)の4社取得で合意し、10月に完了した(最終約2,940億円)。定着したブランドの販売網を使い、スーパードライの欧州展開をねらった。
含意
ゼロから作らず既存の定番ブランドを買う手法は、カルピス取得と同じアサヒ独自のやり方であった。西欧4社は、翌年の中東欧取得(約9,000億円)と2020年の豪州CUB取得へ続く、三極体制への最初の一手となった。
筆者の見解

独禁売却が生んだ「買える定番」という機会

この取得の面白さは、他社の巨大M&Aが生んだ副産物を、機会に変えた点にある。ABインベブがSABMillerを飲み込む過程で、独占禁止法の審査に通すために手放さざるを得なかったのが、欧州で定着したプレミアムブランド群であった。長い歴史を持つ定番ブランドは、通常であれば市場に出てこない。それが独禁対応という事情で、一括して買える状態になった。アサヒはその受け皿となり、西欧4社を取得した。

国内でスーパードライを武器に成熟市場を勝ち抜いた発想を、欧州の定番ブランドで再現しようとした判断だった。西欧4社の取得額は約3,290億円で、翌年に約9,000億円を投じた中東欧の取得に比べれば小さいが、欧州に足場を築いた最初の一手であった。成熟した市場でポジションを取り、プレミアムで稼ぐという国内での戦い方を、そのまま海外へ移した試みが、ここから本格的に動き出した。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

成熟した国内市場と、薄い海外の足場

アサヒは1987年のスーパードライで国内ビール市場の首位を争う位置に立ったが、国内市場そのものは人口減少と酒税の負担で数量成長が見込みにくかった。1994年に進出した中国など海外事業は伸び悩み、先進国の主要市場に自前の販売基盤を持たない状態が続いた。国内で固めたシェアの先に、どこで成長を得るかが経営の課題であった[1]

世界のビール業界は大型再編が続いていた。2015年、世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)が2位のSABMillerの買収を発表した。この統合には各国の独占禁止法の審査があり、ABインベブはSABMillerが持つ欧州の主要ビール事業を分離して売却する必要が生じた。通常なら市場に出てこない各国の定着したプレミアムブランド群が、売却対象となった[2]

決断

独禁売却の受け皿として西欧4社を取得

2016年2月10日、アサヒはABインベブから、SABMillerが持っていた西欧のビール事業4社を取得することで合意した。イタリアのBirra Peroni、オランダのRoyal Grolsch、英国のMeantime Brewing、そして英国で販売を担うMiller Brands(UK)の4社で、取得総額は約25.5億ユーロ(発表時で約3,290億円)であった。買収は同年10月11日に完了し、最終的な取得額は約2,940億円となった[3][4]

この欧州展開を主導したのは、発表時に社長兼CEOだった泉谷直木であった。泉谷は2016年3月に会長兼CEOとなり、社長を継いだ小路明善とともに買収を進めた。アサヒが選んだのは、ゼロから欧州で販売網を築くのではなく、既に定着した定番ブランドを丸ごと取り込む道であった。Grolschは400年、Peroniは150年以上の歴史を持ち、欧州で高い認知を得たプレミアムブランドであった。その狙いは、これらのブランドが持つ販売網を使い、主力のスーパードライを欧州で広げることにあった。国内で90年の歴史を持つカルピスを2012年に取得したときと同じ、定着したブランドを買って事業の質を変える発想を、海外に持ち込んだ判断であった[5][6][7][8]

結果

三極体制への第一歩と、翌年の中東欧拡張

西欧の足場を得たアサヒは、同じ2016年の12月に、ABインベブから旧SABMillerの中東欧事業を約9,000億円で取得することで合意し、2017年に完了した。ピルスナー・ウルケルなど中東欧のプレミアムブランドが加わり、欧州事業が本格的な規模になった。2020年にはABインベブの豪州事業CUBを取得し、日本・欧州・豪州の三極体制を整えた。西欧4社の取得は、この欧州展開の最初の一手であった[9][10]

アサヒの欧州買収は、成長市場ではなく成熟した先進国市場を選んだ点に特徴がある。数量の伸びを追うのではなく、定着したブランドで安定した収益を得る方針を、国内から海外へ広げた。既存の定番ブランドを取り込む手法は、カルピスやエノテカの取得と同じアサヒ独自のM&Aのやり方であった。西欧4社の取得を足がかりに、欧州はアサヒの主要な収益基盤の一つになった[11]

出典・参考
  • M&A Online 2016年2月10日「アサヒ、SABMillerの欧州ビール事業を買収」(https://maonline.jp/news/20160210d)
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書【役員の状況】
  • 日経新聞 2016年12月13日「アサヒ、9000億円で買収」
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書(連結・IFRS)