三菱ケミカルグループジョンマーク・ギルソン氏が社長就任:化学素材を海外で率いた経営者を社外から社長に迎え、報酬とベネフィットの仕組みを構築し替えた
更新:
- 概要
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2021年4月、ジョンマーク・ギルソン氏が執行役社長に就任した。三菱ケミカルホールディングスに社員として在籍した経歴はなく、同年2月にエグゼクティブアドバイザーとして加わってから2か月後の登用である。同年6月24日の第16回定時株主総会で取締役に就任し、取締役兼執行役社長となった。
前任の越智仁氏は2021年3月31日付で執行役を、同じ総会の終結のときをもって取締役を退いた。ギルソン氏は1989年8月に米ダウコーニングへ入社し、2011年2月に米アバンター・パフォーマンス・マテリアルズ、2012年2月に米ヌシル・テクノロジー、2014年9月から2020年12月まで仏ロケットで経営の職にあった。
- 背景
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指名委員会等設置会社として、取締役及び執行役の候補者の指名は指名委員会が行う。指名過程の透明性・公正性を高めるため委員長は社外取締役が務め、2021年3月期の委員は委員長の橋本孝之氏と程近智氏、菊池きよみ氏の社外3名に、社内から藤原謙氏を加えた4名だった。当時の執行役社長は委員に入っていない。
起用が決まった2021年3月期は、売上収益3兆2,575億円・営業利益475億円で、親会社の所有者に帰属する当期損失75億円を計上した。前期の営業利益1,442億円・当期利益540億円から一年で赤字へ転じた期にあたる。
- 内容
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報酬委員会は、同氏のグローバル経営の経験と実績、並びに出身地・居住地等に鑑みて想定される人材市場を考慮し、グローバルに競争力のある報酬制度・水準及びベネフィットを調査・研究したうえでパッケージを決めた。日本での居住の用に供する社宅(又は住宅手当)及び医療保険等のフリンジ・ベネフィットは、海外における標準的な慣行を参考にしている。
通常の報酬パッケージとは別に、就任時には譲渡制限付株式をサインオン・ボーナスとして交付した。就任後の3年間において各事業年度終了ごとに3分の1ずつ譲渡制限が解除され、解除される前に退任すれば未解除部分の受給権は消滅する。連結報酬等の総額は2021年度445百万円、2022年度659百万円、2023年度905百万円と増えた。
- 含意
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2021年12月1日に公表した2021年度から2025年度までの経営方針「Forging the future 未来を拓く」では、石化・炭素事業からのエグジットを掲げた。機能商品の海外展開についてギルソン氏は 『私はダウコーニングなどスペシャリティの企業で仕事をしてきましたが、MCGの機能商品セグメントに比べ規模はずっと小さく、製品の数もありませんでした。しかし全ての製品が全世界で展開していました』 と、日本で売る組織のまま海外へ出ていく形の限界を指摘している。
2022年度の指名委員会は執行役社長のサクセッションプランについて後継者候補の要件・社内候補者の状況・育成計画を議論し、2023年度は経営環境の変化を踏まえた審議を経て執行役社長の候補者を決めた。ギルソン氏は2024年3月末に執行役社長を退き、4月に1988年入社の筑本学氏が就任した。退任の理由は会社の公表資料に記載がない。
人ではなく仕組みを入れ替えた起用
この起用の中身は、社外から人を連れてきたことよりも、連れてくるために会社の仕組みを構築し替えたところにある。社宅と医療保険を海外の慣行に合わせ、就任時に譲渡制限付株式を渡し、会社都合で契約を解いたときに払う手当まで先に定めた。いずれも、それまでの三菱ケミカルホールディングスの役員報酬には無かった部品である。報酬は2021年度の445百万円から2023年度には905百万円へ倍以上になった。日本の化学会社が外国人の経営者を社長に据えるとは、待遇を国際的な人材市場の側へ寄せることだったのだと読める。
もっとも、先に定めておいた手当は実際に使われることになった。会社都合での契約解除時に支給される特別手当として298百万円の支給と支給額を報酬委員会が決め、2024年6月に支給することとした。在任は3年で、就任時に交付した譲渡制限付株式が3回に分けて解除され終わる時点と重なる。後任は1988年入社の筑本学氏で、社外から社内へ戻す交代だった。何がこの3年を終わらせたのかは、会社の側からは語られていない。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 指名の権限 | 指名委員会 | 取締役及び執行役の候補者を指名する。委員長は社外取締役が務める |
| 2021年3月期の指名委員会の構成 | 社外取締役3名と社内取締役1名 | 委員長は橋本孝之氏。程近智氏・菊池きよみ氏・藤原謙氏が委員で、執行役社長は入らない |
| 入社 | 2021年2月 エグゼクティブアドバイザー | それ以前に三菱ケミカルホールディングスへ在籍した経歴はない |
| 執行役社長就任 | 2021年4月 | 2021年6月24日の第16回定時株主総会で取締役に就任し、取締役兼執行役社長となった |
| 前任 | 越智仁氏 | 2021年3月31日付で執行役を、6月24日の総会終結のときをもって取締役を退任した |
| 前職 | 仏ロケット社 最高経営責任者 | 2014年9月から2020年12月まで。ほかダウコーニング・アバンター・ヌシルで経営職 |
| 報酬パッケージの前提 | グローバルに競争力のある報酬制度・水準 | グローバル経営の経験と実績、出身地・居住地等に鑑みて想定される人材市場を考慮した |
| フリンジ・ベネフィット | 社宅(又は住宅手当)・医療保険等 | 海外における標準的な慣行を参考に、報酬委員会が内容と給付水準を決めた |
| サインオン・ボーナス | 就任時の譲渡制限付株式(RS)の交付 | 就任後3年間で各事業年度終了ごとに3分の1ずつ解除。解除前の退任で受給権は消滅 |
| セベランス・ペイの定め | 基本報酬年額と年次賞与の標準額の合計額が上限 | 指名委員会の決定に基づき会社が委任契約を解除する場合に、現金で支給することがある |
| 在任中に掲げた方針 | 経営方針「Forging the future 未来を拓く」 | 2021年12月1日公表。2021年度から2025年度の方針で石化・炭素事業のエグジットを掲げた |
| 後継者の決定 | 2023年度に指名委員会が候補者を決定 | 経営環境の変化を踏まえ、執行役社長のサクセッションプランに基づき審議を行った |
| 退任 | 2024年3月末に執行役社長を退任 | 2024年4月に筑本学氏が就任。6月の取締役退任までは取締役会に出席している |
| セベランス・ペイの支給 | 298百万円 | 会社都合での契約解除時に支給される特別手当。2024年6月に支給するとした |
| 2023年度の連結報酬等の総額 | 905百万円 | 基本報酬等174・年次賞与117・株式報酬125・譲渡制限付株式134百万円ほか |
| 退任の理由 | 会社の公表資料に記載なし | 報酬委員会がセベランス・ペイの支給及び支給額を決定した旨だけが示されている |
出所:三菱ケミカルグループ 有価証券報告書 第16期(2021年3月期)・第18期(2023年3月期)・第19期(2024年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】
三菱ケミカルグループ:連結業績の推移
| (百万円) | 売上収益 | 税引前利益 | 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年3月期 | 3,543,352 | 252,791 | 51,358 | 国際会計基準への移行日は2015年4月1日。この期からIFRSで開示している |
| 2017年3月期 | 3,376,057 | 258,343 | 156,259 | |
| 2018年3月期 | 3,724,406 | 344,077 | 211,788 | |
| 2019年3月期 | 3,840,341 | 284,846 | 169,530 | |
| 2020年3月期 | 3,580,510 | 122,003 | 54,077 | |
| 2021年3月期 | 3,257,535 | 32,908 | △7,557 | ギルソン氏の起用を決めた期。営業利益は475億円で、当期損失を計上した |
| 2022年3月期 | 3,976,948 | 290,370 | 177,162 | 執行役社長としての初年度 |
| 2023年3月期 | 4,634,532 | 167,964 | 96,461 | |
| 2024年3月期 | 4,387,218 | 240,547 | 119,596 | 3月末に執行役社長を退任。4月から筑本学氏が社長 |
| 2025年3月期 | 4,407,405 | 150,695 | 45,020 | 翌期の有報では非継続事業への組替により売上収益3,947,566・税引前利益99,248 |
| 2026年3月期 | 3,703,988 | 711 | 11,829 |
出所:三菱ケミカルグループ 有価証券報告書 第15期・第20期・第21期(主要な経営指標等の推移)
三菱ケミカルグループ:連結従業員数の推移
| (人) | 連結従業員数 | 臨時従業員数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2016年3月期 | 68,988 | 6,967 | |
| 2017年3月期 | 69,291 | 6,878 | |
| 2018年3月期 | 69,230 | 7,428 | |
| 2019年3月期 | 72,020 | 7,558 | |
| 2020年3月期 | 69,609 | 6,753 | |
| 2021年3月期 | 69,607 | 6,031 | |
| 2022年3月期 | 69,784 | 6,297 | |
| 2023年3月期 | 68,639 | 5,993 | |
| 2024年3月期 | 66,358 | 5,389 | |
| 2025年3月期 | 63,258 | 4,663 | |
| 2026年3月期 | 56,678 | 4,551 | 前期末から6,580名減。ベーシックマテリアルズ&ポリマーズで希望退職を実施 |
出所:三菱ケミカルグループ 有価証券報告書 第11〜21期(従業員の状況・連結会社の状況)
同じ問いに直面した会社
- 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書「第16期(2021年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】」
- 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書「第18期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
- 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書「第19期(2024年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
- 三菱ケミカルグループ 決算説明会質疑応答「IR Day 2022 機能商品戦略 質疑応答要旨」
- 三菱ケミカルグループ 決算説明会質疑応答「インベスターデイ2023 トランスクリプト」
- 三菱ケミカルグループ 統合報告書「KAITEKI REPORT 2023」