この人事の核心は、後継者を一人指名するのではなく、経営を担いうる人材を取締役会へ引き上げ、責任を段階的に負わせながら見極めていく設計にある。かつて柳井正氏は減益のなかで社長をいったん譲り、数年で復帰した経緯を持つ。今回は好業績のなかで、叩き上げの塚越大介氏を実績を積ませたうえで取締役へ登用しており、危機に迫られての交代ではなく、時間をかけた育成の帰結という色合いが濃い。定員を広げて女性や若手に門戸を開いたのも、一人のカリスマに代わる集団の経営陣を用意する布石と思われる。
同時に、創業家を経営から株主・ガバナンスの側へ置くという柳井氏の言明は、承継の形をもう一つの方向から規定している。創業者の一族が経営を継ぐのか、実力で選ばれた専門経営者が継ぐのか——多くの創業企業が突き当たるこの問いに、同社は所有と経営を分ける答えを示そうとしているようにみえる。ただし、それが柳井氏の存命・現役のうちにどこまで実体を伴うのかは、まだ定かではない。76歳の創業者が握る最終権限をいつ手放すのか、有資格者のなかから誰がどのように選ばれるのか、本稿の時点で答えは出ていない。カリスマの後をどう設計するかという問いは、なお生きた形で残されている。