取締役定員の拡大と塚越大介氏の登用による「ポスト柳井」の準備
2025年進行中売上3兆円を一頭で率いてきた創業者は、カリスマの後をどう設計するのか——叩き上げの取締役登用と、所有と経営を分ける承継の枠組み
更新:
- 概要
- 2025年11月27日、ファーストリテイリングは山口市で開いた定時株主総会で、取締役の定員を10名以内から15名以内へ広げる定款変更を可決し、ユニクロ社長兼COOの塚越大介氏を取締役に選任した。売上収益3兆4,005億円を創業者の柳井正会長兼社長がなお一頭で率いるなかで、後継の準備を一歩進める人事であった。塚越氏は柳井氏が「後継の有資格者の1人」と評する叩き上げの経営幹部である。
- 背景
- 柳井正会長兼社長は76歳になっても会長・社長・CEOを兼ね、経営はカリスマ創業者に集中してきた。同社は10年をかけて後継者を育てる計画を進め、2023年には米国事業を立て直した塚越大介氏をユニクロ社長兼COOに据えた。柳井氏はその時点でファストリ全体の舵取りを保ち続けていた。
- 内容
- 定款変更で取締役の枠を5名広げ、塚越氏を社外取締役を除く5人目の取締役として登用した。同じ総会で三井住友フィナンシャルグループ特別顧問の国部毅氏が社外取締役に加わり、服部暢達取締役が退いた。柳井氏は「取締役自体を、優秀な人の中から選ぶ必要がある」「男性で比較的高齢の方が多い」と述べ、女性や若手を含む次世代の経営陣づくりを掲げた。
- 含意
- 塚越氏の取締役入りで「ポスト柳井」の候補は経営の中枢に一歩近づいた。ただし柳井氏は会長兼社長CEOの体制を続け、承継そのものは未決着のまま残る。柳井氏は実子2人について「経営者ではなく、株主として会社のガバナンスを担ってもらいたい」と述べ、創業家は所有の側へ、経営は叩き上げの幹部へという枠組みをにじませた。
カリスマの後をどう設計するか
この人事の核心は、後継者を一人指名するのではなく、経営を担いうる人材を取締役会へ引き上げ、責任を段階的に負わせながら見極めていく設計にある。かつて柳井正氏は減益のなかで社長をいったん譲り、数年で復帰した経緯を持つ。今回は好業績のなかで、叩き上げの塚越大介氏を実績を積ませたうえで取締役へ登用しており、危機に迫られての交代ではなく、時間をかけた育成の帰結という色合いが濃い。定員を広げて女性や若手に門戸を開いたのも、一人のカリスマに代わる集団の経営陣を用意する布石とみられる。
同時に、創業家を経営から株主・ガバナンスの側へ置くという柳井氏の言明は、承継の形をもう一つの方向から規定している。創業者の一族が経営を継ぐのか、実力で選ばれた専門経営者が継ぐのか——多くの創業企業が突き当たるこの問いに、同社は所有と経営を分ける答えを示そうとしているようにみえる。ただし、それが柳井氏の存命・現役のうちにどこまで実体を伴うのかは、まだ定かではない。76歳の創業者が握る最終権限をいつ手放すのか、有資格者のなかから誰がどのように選ばれるのか、本稿の時点で答えは出ていない。カリスマの後をどう設計するかという問いは、なお生きた形で残されている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
3兆円企業に残るカリスマ依存
ファーストリテイリングは、ユニクロとジーユーを軸に世界へ店舗網を広げ、2025年8月期には連結売上収益3兆4,005億円、営業利益5,643億円を計上する規模へ育った。この成長を主導してきたのは、1984年に山口でユニクロ第1号店を開いた創業者の柳井正氏である。柳井氏は2025年に76歳を迎えてもなお、会長・社長・CEOを一人で兼ね、経営の意思決定は創業者に集中する形が続いていた。同社にとって、この一極集中をどう解きほぐすかは、規模の拡大とともに重みを増す課題であった[1]。
カリスマ創業者への依存は、同社が繰り返し向き合ってきた論点でもある。柳井氏は2002年にいったん社長を退いて世代交代を試みながら、数年で経営に復帰した経緯を持つ。その後は後継者づくりを長期の計画として抱え、2018年には実子の柳井一海氏と康治氏を取締役に選び、経営を支える体制を少しずつ組み替えてきた。後継の育成は10年におよぶ計画として進められ、2020年代半ばにかけてその最終盤へ入りつつあった[2]。
叩き上げの経営幹部・塚越大介氏
後継の準備の中心に立ったのが、塚越大介氏である。塚越氏は1978年11月生まれで、2002年に将来の幹部候補である「ユニクロマネジメント候補生(UMC)」として新卒で入社した。会社説明会で柳井氏の話を聞き、経営理念に共感して入社を決めたという叩き上げの幹部であり、ユニクロ米国営業部長、米国COO、米国CEOと現場を積み上げてきた。最大の実績は、赤字が続いていた米国事業を2022年8月期に初めて黒字へ転じさせたことであった[3]。
この実績を背景に、塚越氏は2023年9月1日付でユニクロ社長兼COOに就いた。ユニクロは同社の売上の大半を占める中核事業であり、その社長を叩き上げの幹部に委ねた意味は小さくない。ただしファストリ全体の舵取りは引き続き柳井氏が担い、柳井氏のユニクロでの肩書は会長兼社長から会長兼CEOへ移る形をとった。柳井氏は塚越氏について、決算会見で「有力な後継者候補の一人」と評しており、後継の道筋のなかに位置づけていた[4]。
決断
取締役定員の拡大と塚越氏の登用
2025年11月27日、ファーストリテイリングは山口市の本社で定時株主総会を開き、取締役の定員を現行の10名以内から15名以内へ広げる定款変更案と、取締役11名の選任案を可決した。この枠の拡大により、ユニクロ社長兼COOの塚越大介氏が新たに取締役へ選ばれた。社外取締役を除けば、柳井正会長兼社長、実子の柳井一海取締役と康治取締役、岡﨑健取締役グループ上席執行役員CFOに次ぐ5人目の取締役であった。同じ総会で三井住友フィナンシャルグループ特別顧問の国部毅氏が社外取締役に加わり、服部暢達取締役が退いた[5][6]。
定員を広げた狙いを、柳井氏は総会の質疑で自ら説明した。世界で事業を広げるほど競争は激しくなり、勝つためには人材の質が要るという認識のもと、「取締役自体を、優秀な人の中から選ぶ必要がある」と述べた。そのうえで現状の取締役会について「自分がその典型だが、男性で比較的高齢の方が多い」と語り、女性や若い世代が入って活躍できる状況をつくるために定員を変えたと説明した。塚越氏の登用については、有資格者の1人であるためだと位置づけた[7]。
創業家を株主・ガバナンスの側へ
この人事には、創業家の位置づけをめぐる柳井氏の考えも重なっていた。取締役会には実子の柳井一海氏と康治氏が名を連ねるが、柳井氏は総会の質疑で創業家について「私の息子は経営者ではなく、株主として会社のガバナンスを担ってもらいたい」と述べた。経営の担い手は塚越氏のような叩き上げの幹部から選び、創業家は所有と監督の側に立つという、所有と経営を分ける枠組みをにじませた発言であった。息子2人を「経営者にはしない」とする方針は、以前から柳井氏が繰り返してきたものでもある[8]。
柳井氏は塚越氏への評価を、取締役への登用に先立つ決算会見でも語っていた。塚越氏について「素晴らしい結果を出している」「後継の有資格者のひとり」と述べたうえで、「取締役になるということは、責任をより負ってもらうことになる。今後に期待します」と続けた。実績で応えてきた幹部に、取締役としての責任を負わせて次の段階へ進める意図がうかがえる。塚越氏自身は、就任にあたり「顧客の要望に応え、顧客を創造する経営を実践していきたい」と抱負を述べた[9]。
結果
一歩前進、なお続く一頭体制
塚越氏の取締役入りによって、「ポスト柳井」の候補は経営の中枢へ一歩近づいた。売上3兆円を超える企業の後継者選びが前進したとの受け止めが広がり、叩き上げの幹部が正式に取締役として経営の責任を分かち持つ形が整った。取締役会は社外取締役を含めて11名となり、女性や若手を迎え入れる余地を残す枠組みへと組み替えられた。カリスマ創業者に集中してきた経営を、複数の担い手で支える方向へ動かす布石とみることができる[10]。
もっとも、承継そのものが決着したわけではない。柳井氏は取締役登用のあとも会長・社長・CEOを兼ねる体制を続け、経営の最終責任は創業者に残ったままである。柳井氏が塚越氏を「有資格者の1人」と、あえて複数を含みうる言い方で評した点にも、後継者が一人に絞られていない現状がうかがえる。76歳の会長がいつ、どのように権限を移していくのか、本稿の時点では見通せない。承継は準備の段階にとどまり、進行中の事案として残されている[11]。
- ファーストリテイリング 有価証券報告書(2025年8月期・連結)
- ファーストリテイリング 2025年8月期 決算説明会 質疑応答
- 日本経済新聞(2023年8月)「ユニクロ社長に塚越大介氏、ファストリ柳井正社長体制は継続」
- 日本経済新聞(2025年11月)「ファストリ取締役にユニクロ塚越大介社長 取締役の定員拡大」
- 日本経済新聞(2025年10月)「人事、ファーストリテイリング」
- 日経ビジネス(2025年11月)「ファストリ柳井氏の後継候補、47歳塚越氏が取締役に 『カリスマ後』最有力」
- 東洋経済オンライン(2025年11月)「ユニクロ『ポスト柳井』の有力候補、塚越COOがファストリ取締役に就任」
- fashionsnap(2025年10月10日)「柳井氏の後継者議論に進展 塚越ユニクロ社長が親会社ファーストリテイリング取締役に就任」