三菱商事出身・近藤康正への社長交代 ── 経営の外部開放

社内経験1年半の商社出身者に、なぜ次の10年を託したか

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時期 2024年1月
意思決定者 近藤康正・取締役会 社長
論点 経営体制の承継と外部登用
概要
2024年1月に発表し、同年4月1日に実行した社長交代の経営判断。2014年から10年間社長を務めた安田正介氏に代わり、1986年に三菱商事へ入社し2022年12月にサンゲツへ移った近藤康正氏が代表取締役社長執行役員に就任した。社内キャリアが1年半に満たない外部人材を抜擢する異例の承継であった。
背景
サンゲツは国内インテリアセグメント一極集中の収益構造を長年の構造課題として抱えていた。創業家・日比家から非同族の生え抜き安田正介氏へ移った経営を、さらにグローバル化とスペースクリエーション転換を加速するために、商社出身の専門経営者へ委ねる判断が下された。
内容
近藤氏は三菱商事で長くキャリアを積んだのち、2022年12月にサンゲツへ入社し、取締役執行役員管理担当・取締役常務執行役員を経て社長に就任した。就任にあたり、国内一極の収益構造からの脱却を掲げ、エクステリア・海外・空間総合提案の3領域の強化を表明した。
含意
創業家から生え抜き、そして商社出身の外部人材へと経営の担い手が二段階で移った承継となった。就任後は2024年5月にシンガポールのデザイン会社を買収し、2026年3月期には売上高2,064億円・純利益146億円と過去最高を更新した。異例の外部登用は、早期の業績で短期的に評価された。
筆者の見解

外部登用という賭けの行方

この承継の特徴は、社内で長く育った後継者ではなく、商社から来て1年半の人物にトップを委ねた点にある。国内一極集中という課題は、社内の延長線上の発想では解きにくいという認識が、外部登用の背景にあったように見える。創業家から生え抜き、そして外部の専門経営者へ——サンゲツの経営の担い手は、10年ごとに一段ずつ外へ開かれてきた。同族色の強い専業卸が、外から来た経営者に次の10年を託せるまでにガバナンスを近代化した点に、安田体制の準備がうかがえる。

もっとも、就任2年の業績はまだ承継の成否を語り尽くすものではない。過去最高の更新には価格改定や為替といった追い風も重なっており、外部登用そのものの評価は、国内一極集中という長年の構造課題を実際に解けるかどうかにかかっている。エクステリア・海外・空間総合提案という3つの柱が国内インテリアに並ぶ規模へ育つには、なお時間を要する。商社出身のトップが内装グループの構造をどこまで書き換えられるかは、次の中期計画の到達点として見届けるべき問いとして残されているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

国内一極集中という積年の課題

サンゲツは国内壁紙卸で約5割のシェアを持ちながら、収益を国内インテリアセグメントにほぼ全面的に依存する構造を長く抱えていた。2016年のKoroseal買収以降、海外へ事業を広げたものの、海外セグメントは黒字化の途上にあり、国内の高収益が海外の赤字を吸収する構図が続いていた。国内内装という単一市場への依存をどう解くかが、経営者が交代しても引き継がれる中心的な課題であった[1]

経営体制の面では、創業家・日比家の出身者が長く社長を占めた同社が、2014年に非同族の生え抜きである安田正介氏へ舵を渡していた。安田氏は10年をかけて海外M&A・物流投資・組織近代化を進め、専業卸を近代企業へ組み替えた。その安田体制の10年が節目を迎えるなかで、次の10年を誰に託すかが問われた。グローバル化とスペースクリエーション転換をさらに加速するには、社内の延長線上とは異なる視点が要ると判断されていった[2]

決断

社内1年半の商社出身者の抜擢

2024年1月12日、サンゲツは代表取締役の異動を決議し、4月1日付で近藤康正氏が社長に就任すると発表した。近藤氏は1986年に三菱商事へ入社して長くキャリアを積んだのち、2022年12月にサンゲツへ入社し、執行役員社長室担当・取締役執行役員管理担当・取締役常務執行役員を経て社長に上った。サンゲツ社内でのキャリアは1年半に満たず、創業家・社内プロパーから商社出身の専門経営者へ経営の担い手が移る、外部開放型の承継であった[3][4]

就任にあたり近藤氏は、国内一極の収益構造を過去10年、それ以前から変わらない構造課題と位置づけ、エクステリア・海外・空間総合提案の3領域での強化加速を掲げた。DESIGN 2030が示したスペースクリエーション企業への転換について、近藤氏は、空間デザイン力や施工管理力といった従来のサンゲツにはなかったスキルが必要になると語り、既存事業に埋没しない発想の必要を強調した。商社で培った海外・事業開発の経験を、内装グループのグローバル化へ接ぐ役割が託された[5][6]

結果

就任2年での過去最高更新

近藤氏は就任直後から海外の空間提案事業の拡充に動いた。2024年5月にシンガポールでデザイン&ビルド事業を展開するD'Perception Pte Ltdの株式取得を発表し、同年7月に子会社化した。サンゲツが手薄だった空間総合提案の海外モデルを取り込む狙いであった。あわせて2024年4月にはコンストラクションユニットを新設し、提案・設計・施工管理まで踏み込んだ長期案件を支える社内部署を立ち上げ、受注即出荷の商材販売から長期案件モデルへの移行を進めた[7]

業績は就任後に大きく伸びた。2025年3月期の連結売上高は2,004億円、翌2026年3月期は2,064億円・当期純利益146億円と過去最高を更新した。価格改定の浸透と海外事業の損益改善が寄与し、社内経験1年半からの就任という異例の起用は、就任2年で目標値を上振れさせる結果を残した。壁紙大手の新社長は屋外向けの新商品など「外」での成長を掲げ、国内一極からの脱却を業績の伸びとともに具体化していった[8][9]

この業績の伸びは、近藤氏の就任前から続く安田体制10年の蓄積の上にあった。連結売上高は安田氏が就任した2014年3月期の1,320億円から、2024年3月期には1,899億円へ44%増え、2023年3月期の連結営業利益は前年比2.5倍の203億円に達していた。海外M&Aと価格改定の効果が利益を押し上げるなかで経営を引き継いだ近藤氏は、その流れを、エクステリア事業や海外の空間総合提案の強化へ広げ、さらなる過去最高の更新へつないだ。前任が築いた土台と、外から持ち込んだ視点が重なった承継であった[10]

出典・参考