東芝車谷暢昭氏が会長CEO就任:生え抜きによる社長継承の打ち切りと、10年で5人が替わった経営トップ人事

更新:

時期 2018年4月
当時の社長 綱川智
論点 経営トップが定着しない10年
概要

2018年4月1日、三井住友銀行副頭取とシーヴィーシー・アジア・パシフィック・ジャパン会長を経た車谷暢昭氏が代表執行役会長CEOに就任した。それまで社長を務めていた綱川智氏は代表執行役社長COOへ移り、最高経営責任者と社長が別の人物に割れた。

2013年6月の田中久雄氏から2022年3月の島田太郎氏まで、社長または最高経営責任者の座に就いたのは5人。田中久雄氏は2年1か月、室町正志氏は11か月、綱川智氏は1期目が1年10か月、車谷暢昭氏は社長CEOとして1年で、いずれも3年に満たない。

背景

2015年7月、第三者委員会の報告書を受けて田中久雄氏が辞任し、取締役会長の室町正志氏が社長を兼ねた。会社が原因の一つに挙げたのが、社長の選定基準及び選定プロセスが不明確であり、後継者計画も明確に規定されていなかったことである。指名委員会による牽制機能は十分ではなかった。

不正会計が起きた当時の指名委員会は社内1名と社外2名で構成され、社内の委員には後に社長となる室町正志氏自身が座っていた。再発防止策はこの委員会を原則5名程度の独立社外取締役のみに改め、執行役社長の後継者計画の策定を委ねている。

内容

2018年4月の車谷暢昭氏の招聘は、生え抜きの副社長が社長へ上がる継承の型を外から破るものだった。2020年4月に車谷暢昭氏は社長CEOとなり、綱川智氏は取締役会長へ退く。だが2021年4月14日、車谷暢昭氏から辞任の申し出があり、取締役会は同日これを受理して、取締役会長の綱川智氏を代表執行役社長CEOに戻した。

綱川智氏の2度目の在任は11か月で終わる。2022年3月、シーメンス日本法人から2018年10月に入社した島田太郎氏が、入社3年5か月で代表執行役社長CEOに就任した。

含意

島田太郎氏と柳瀬悟郎氏の任命は暫定である。暫定とは、就任者の業務執行状況及びパフォーマンスを取締役会が監視し、その地位にふさわしい業績を上げていることを確認できるまでという意味で、社外人材の登用の検討も継続する。取締役会議長を務めた綱川智氏の職にも同じく暫定と付された。

2023年3月期、指名委員会は10回開かれ、執行役社長CEOの後継候補者と取締役会体制を審議している。不正会計の後に整えた選定の仕組みは動いていたが、その下で退いた4人はいずれも在任が3年に満たなかった。

筆者の見解

選ぶ仕組みと、選ばれた人の短さ

この10年の東芝で起きたのは、社長が短命だったという事実以上に、トップの役職そのものが定まらなかったことだと読み替えられる。会長CEOと社長COO、社長CEOと取締役会長、そして取締役会長が社長CEOを兼ねる形。2018年から2022年までの4年で、最高経営責任者の置き方は三度変わった。人が替わるたびに器のほうも作り替えられたのであって、器に人を入れ替えたのではない。不正会計の反省として指名委員会を社外だけで固め、後継者計画の策定を委ねたにもかかわらず選定の結果がこれほど揺れたのは、選ぶ仕組みより先に、何を任せる職なのかが定まっていなかったからだと思われる。

もっとも、揺れの大半は経営環境のほうから来ている。債務超過、メモリ事業の売却、物言う株主との対立、買収提案と分割案の破談。どれも社長の任期を待ってはくれない事案で、そのたびに求められる経営者像が変わった。島田太郎氏の任命に暫定と付され、社外人材の登用の検討が続くと添えられたのは、次に何が起きるか読めないという取締役会の自己申告に近いのだろう。非公開化の後に問われるのは、株主の顔ぶれが定まったこの会社が、ようやく任期を前提にした後継者計画を回せるのかどうかである。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
田中久雄氏の就任 2013年6月 資材・調達部門の出身。代表執行役副社長からの昇格で、2011年6月に取締役となっていた
就任時の指名委員会 社内1名と社外2名 社長を選ぶ委員会に社内取締役が入っていた。2015年6月時点の社内委員は室町正志氏
田中久雄氏の辞任 2015年7月21日 第三者委員会の報告書の受領に伴う経営責任の明確化。同日に取締役8名が辞任した
室町正志氏の就任 2015年7月 取締役会長が代表執行役社長を兼務する形。半導体畑を歩み2014年6月から会長
会社が認めた原因 社長の選定基準及び選定プロセスが不明確 後継者計画も明確に規定されておらず、指名委員会による牽制機能が十分ではなかった
指名委員会の再構成 原則5名程度の独立社外取締役のみ 2015年の再発防止策で社内取締役を委員から外した
後継者計画の策定 指名委員会が策定 執行役社長の後継者の選定プロセスにおける客観性と公平性を担保するため
選定手続の追加 候補者全員との定期的な面談 上級管理職による執行役社長の信任に関する調査制度もあわせて導入した
綱川智氏の就任 2016年6月 東芝メディカルシステムズ社長を経た医療機器事業の出身。前年9月に代表執行役副社長
車谷暢昭氏の招聘 2018年4月1日 三井住友銀行副頭取とCVCの日本法人会長兼共同代表を経て代表執行役会長CEOへ
最高経営責任者と社長の分離 会長CEOと社長COO 綱川智氏は代表執行役社長COOへ移り、最高経営責任者は車谷暢昭氏が担った
社長CEOへの一本化 2020年4月 車谷暢昭氏が代表執行役社長CEO、綱川智氏は取締役会長へ移った
車谷暢昭氏の辞任 2021年4月14日 取締役及び執行役並びに代表執行役を辞任したい旨の申し出を取締役会が受理した
綱川智氏の再登板 2021年4月14日 同日の取締役会で取締役会長の綱川智氏が代表執行役社長CEOに就任することを決議
島田太郎氏の就任 2022年3月 2018年10月に入社し東芝デジタルソリューションズ社長から3年5か月で社長CEOへ
任命の位置づけ 暫定での任命 その地位にふさわしい業績を確認できるまでの意味で、社外人材の登用の検討も継続する
取締役会議長 2021年6月から暫定で綱川智氏 社長CEOを島田太郎氏へ渡した後も、議長職は暫定と付されたまま残った
指名委員会の活動 2023年3月期に10回開催 執行役社長CEOの後継候補者、取締役会体制、取締役会議長の選定を審議した

出所:東芝 有価証券報告書 第176期(2015年3月期)〜第184期(2023年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】

東芝:業績と株主資本の推移

(百万円) 売上高当社株主に帰属する当期純損益株主資本 備考
2014年3月期 4,722,98760,2401,027,189 2013年6月に田中久雄氏が社長に就任。売上高は非継続事業を除く継続事業ベース
2015年3月期 4,851,060△37,8251,083,996 不適切会計の調査で決算発表が9月へずれ込み、最終損益が赤字に転じた
2016年3月期 4,346,485△460,013328,874 2015年7月に室町正志氏が社長を兼務。構造改革の費用で4,600億円の最終赤字
2017年3月期 4,043,736△965,663△552,947 ウェスチングハウスの損失で株主資本が5,529億円の債務超過に転落した
2018年3月期 3,947,596804,011783,135 2017年12月の増資で債務超過を解消。翌期首に車谷暢昭氏が会長CEOへ
2019年3月期 3,693,5391,013,2561,456,659 車谷暢昭氏が会長CEOに就任した期。メモリ事業の売却益で最終利益は1兆円台
2020年3月期 3,389,871△114,633939,806 最終損益は1,146億円の赤字。翌期首に車谷暢昭氏が社長CEOへ移った
2021年3月期 3,054,375113,9811,164,534 期末の翌月に車谷暢昭氏が辞任し、綱川智氏が社長CEOへ再登板した
2022年3月期 3,336,967194,6511,206,634 期中に綱川智氏の再登板と島田太郎氏への交代が重なった
2023年3月期 3,361,657126,5731,247,381 上場会社としての最後の通期決算。島田太郎氏の最初の通期にあたる
2024年3月期 2023年12月20日の上場廃止により通期の開示がない
売上高と当期純損益率
売上高(百万円)当社株主に帰属する当期純損益率(%)

出所:東芝 有価証券報告書 第179期(2018年3月期)・第184期(2023年3月期)【主要な経営指標等の推移】

東芝:経営トップの在任期間

(か月) 在任月数 備考
佐々木則夫氏 48 2009年6月から2013年6月まで代表執行役社長
田中久雄氏 25 2013年6月から2015年7月まで。第三者委員会の報告書を受けて辞任した
室町正志氏 11 2015年7月から2016年6月まで。取締役会長が社長を兼務した
綱川智氏(1期目) 22 2016年6月から2018年4月まで代表執行役社長
車谷暢昭氏 36 2018年4月から2021年4月まで。うち社長CEOは2020年4月からの12か月
綱川智氏(2期目) 11 2021年4月14日から2022年3月まで代表執行役社長CEO
島田太郎氏 21 2022年3月から2023年12月の上場廃止まで代表執行役社長CEO

出所:東芝 有価証券報告書 第176期(2015年3月期)〜第184期(2023年3月期)【役員の状況】 / 東芝「代表執行役の異動に関するお知らせ」2021年4月14日

同じ問いに直面した会社

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出典・参考
  • 東芝 適時開示「代表執行役の異動に関するお知らせ」
  • 東芝 有価証券報告書「第176期(2015年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 東芝 有価証券報告書「第177期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 東芝 有価証券報告書「第179期(2018年3月期)【対処すべき課題】」
  • 東芝 有価証券報告書「第183期(2022年3月期)【役員の状況】」
  • 東芝 有価証券報告書「第184期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

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