会社分割案の株主総会否決(2021年・東芝の決断)

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論点 2分割で自力再建できるか
東芝:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
2分割で自力再建を図る構想の提示と、支持を得られぬまま迎えた2022年の破談

何をなぜ決めたか:2分割で自力再建を図る構想の提示と、支持を得られぬまま迎えた2022年の破談

概要

2021年11月12日、中核事業であるエネルギー・インフラ事業とデバイス・ストレージ事業をそれぞれ新規上場会社としてスピンオフし、東芝本体を含め3つの独立した上場会社となる計画を公表した。大規模なスピンオフは本邦初であり、公表後に関係各所の参画を得て詳細を確認した結果、当初想定していなかった考慮すべき点が判明したため、2022年2月7日にデバイス・ストレージ事業のみを分離する2分割案へ改めた。

2022年3月24日の臨時株主総会に諮った会社提案の第1号議案は賛成39.53%・反対59.69%で否決。非公開化やマイノリティ出資の積極的な検討を求めた株主提案の第3号議案も、賛成44.60%・反対54.84%で否決された。

背景

2015年の不正会計と米原子力子会社の巨額損失で債務超過に陥った東芝は、2017年12月5日、2,283,105,000株の有償第三者割当増資を実施した。発行価格は1株262.8円、主な割当先はECMマスター・ファンドをはじめとする海外ファンド57社ほかである。

この増資で外国法人等(個人以外)の持株比率は2017年3月末の38.13%から2018年3月末には72.29%へ跳ね上がり、金融機関は25.84%から9.21%へ低下した。2021年4月のCVCによる非公開化提案が頓挫した後、上場を維持したまま企業価値を高める策として事業分割が浮上したのは、この株主構成のもとであった。

内容

修正後の案では、デバイス・ストレージ事業のみを株式分配の方法でスピンオフし、エネルギー・インフラ事業を営む東芝本体がキオクシア株を保有したまま残る形とした。3分割に比べ分割コストを大幅に削減でき、それぞれの会社の安定的な財務体質を確保でき、スキームの不確実性を大幅に低減できることを理由に挙げている。

臨時株主総会には、会社提案1件と3D INVESTMENT VALUE MASTER FUNDによる株主提案2件が付議された。会社提案の第1号議案は株主の意見を確認するもので法的拘束力を持たず、法的拘束力のある決議は2023年の株主総会に上程し、2023年度下期にデバイスCo.を上場させて再編を完了する計画だった。

含意

会社案も株主案も過半数に届かず、ともに否決された。誰も過半数を握れない株主構成のもとでは、経営陣の描く再建策も物言う株主の要求も、株主総会という関門を通らない。

否決の翌月、東芝は全委員が独立社外取締役で構成される特別委員会を設置し、潜在的な投資家やスポンサーとの協議を開始した。特別委員会は非公開化を含む選択肢の提案を特定する役割を負っており、分割による上場維持の道が閉じたことが、市場からの退出へ向かわせたのだろう。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 綱川智:会長
  • 古田佑紀:社外取締役
  • 太田順司:社外取締役
  • 小林伸行:社外取締役
  • 山内卓:社外取締役
  • 藤森義明:社外取締役
  • PaulJ.Brough:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman:社外取締役
  • JeromeThomasBlack:社外取締役
  • GeorgeRaymondZageIII:社外取締役
  • 永山治:取締役会議長
  • AyakoHirotaWeissman(ワイズマン廣田綾子):社外取締役
考察:株主が決めた再建の方向
考察

考察:株主が決めた再建の方向

この破談を分けたのは、価格でも戦略合理性でもなく、株主の意思であった。会社は分割こそ企業価値向上の道だと信じ、物言う株主は非公開化やマイノリティ出資まで含めて選択肢を洗い直せと迫った。だが2022年3月の臨時株主総会では、会社案も株主案もともに過半数を得られなかった。誰一人として過半数を握れない株主構成のもとでは、経営陣の描く再建策が、株主総会という関門で立ち往生しうる。上場を維持したまま大株主と対峙し続けることの難しさが、議案の二重否決という珍しい形で可視化された一件だっただろう。

分割案の否決は、東芝の迷走の終点ではなく、非公開化という次の局面への入り口であった。2021年のCVC提案の頓挫、2022年の分割案否決、そして2023年のJIPによる非公開化——上場維持か、分割か、非公開化かをめぐる三すくみは、最終的に株式市場からの退出という形で決着した。株主主権が強まる時代に、再建の方向性そのものを株主総会が左右しうることを、東芝の一連の攻防は示している。成立しなかった分割案にも、日本企業のガバナンスと株主構成の変質を読み解く手がかりは多く残されているのだろう。

数字で見る 4表

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図と表

東芝:所有者別の持株比率の推移

  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12%
  • SUNTERA (CAYMAN) LIMITED AS TRUSTEE OF ECM MASTER FUND 5%
  • CHINOOK HOLDINGS LTD 4%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 4%
  • 3D INVESTMENT VALUE MASTER FUND 3%
  • その他 73%
東芝:所有者別の持株比率の推移
(%) 外国法人等(個人以外)金融機関個人その他 備考
2017年3月期 38.1325.8431.39 1単元1,000株。個人株主は316,190人で、株主数は319,763人
2018年3月期 72.299.2115.91 2017年12月5日の第三者割当増資2,283,105千株で外国法人等が7割を超えた
2019年3月期 69.7910.1316.79 2018年10月に10株を1株へ併合し、1単元は100株になった
2020年3月期 62.6213.4220.21 第181期定時株主総会の議決権基準日2020年5月15日現在の値
2021年3月期 50.424.1420.5 英CVCの非公開化提案が持ち込まれた期
2022年3月期 52.8225.8416.91 分割案を否決した臨時株主総会の期。株主数は186,263人まで減っている
2023年3月期 49.4523.8518.14 公開買付けが始まる前の期末。金融商品取引業者が2.79から6.83へ上がった
出所:東芝 有価証券報告書 第178〜184期【所有者別状況】【大株主の状況】
出所:東芝 有価証券報告書 第178〜184期【所有者別状況】【大株主の状況】

東芝:従業員数と平均年収の推移

連結のうち提出会社以外(人)提出会社の従業員数(人)提出会社の平均年間給与(千円)
東芝:従業員数と平均年収の推移
(人) 連結従業員数提出会社の従業員数平均年間給与 備考
2017年3月期 153,49232,3537,105 平均年間給与は提出会社のみの開示で、連結の平均年収は開示がない
2018年3月期 141,2563,4628,155 社内カンパニーの分社化で提出会社の人員が移り、母数が別物になった
2019年3月期 128,6972,6729,150 メモリ事業とPC事業の譲渡で連結が1.3万人減った
2020年3月期 125,6483,2998,675
2021年3月期 117,3003,6138,665
2022年3月期 116,2243,6738,923 分割案を諮った期。連結11.6万人を2社に割る計画だった
2023年3月期 106,6483,7129,260 上場会社としての最後の開示。連結は1年で9,576人減った
出所:東芝 有価証券報告書 第178〜184期【従業員の状況】
出所:東芝 有価証券報告書 第178〜184期【従業員の状況】

東芝:臨時株主総会の議案別議決権行使結果

東芝:臨時株主総会の議案別議決権行使結果
(%) 賛成の割合反対の割合 備考
第1号議案 戦略的再編の検討(会社提案) 39.5359.69 賛成1,432,510個・反対2,163,100個・棄権28,388個
第3号議案 戦略の再検討(株主提案) 44.654.84 賛成1,616,668個・反対1,988,047個・棄権20,282個
出所:東芝 臨時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2022年3月29日)
出所:東芝 臨時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2022年3月29日)

分割案とその帰結

分割案とその帰結
科目 概要 備考
当初案の公表 2021年11月12日 戦略委員会の推奨に基づく計画として公表した
当初案の形 3つの独立した上場会社 エネルギー・インフラ事業とデバイス・ストレージ事業を新規上場会社としてスピンオフ
修正案の公表 2022年2月7日 大規模スピンオフは本邦初で、公表後に想定していなかった考慮点が判明したため
修正後の案 2つの独立した上場会社 デバイス・ストレージ事業のみを株式分配でスピンオフ。東芝本体がキオクシア株を保有
臨時株主総会 2022年3月24日 場所はベルサール高田馬場。議決権行使の期限は前日午後5時15分
付議した議案 会社提案1件・株主提案2件 株主提案は3D INVESTMENT VALUE MASTER FUNDによる2件。取締役会は反対を推奨
第1号議案(会社提案) 否決。賛成39.53%・反対59.69% 戦略的再編の検討を進めることへの意見確認で、法的拘束力は持たせていない
第2号議案(株主提案) 議決権行使結果は公表されていない 戦略的再編の実施を定款に定める案。提案者自身が賛成する意向はないとした
第3号議案(株主提案) 否決。賛成44.60%・反対54.84% 非公開化やマイノリティ出資の積極的な検討と、検討内容の定期報告を求める案
可決要件 出席議決権の過半数 棄権は第1号議案が28,388個、第3号議案が20,282個
予定していた完了時期 2023年度下期 2023年の株主総会で法的拘束力のある決議を得たうえで上場させる計画だった
否決後の方針 特別委員会の設置(2022年4月) 全委員が独立社外取締役。非公開化を含む戦略的選択肢の提案を特定する役割
出所:東芝 臨時株主総会招集ご通知(2022年3月24日開催)/臨時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2022年3月29日)/有価証券報告書 第183期(2022年3月期)
当時の取締役 12名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 綱川智:会長
  • 古田佑紀:社外取締役
  • 太田順司:社外取締役
  • 小林伸行:社外取締役
  • 山内卓:社外取締役
  • 藤森義明:社外取締役
  • PaulJ.Brough:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman:社外取締役
  • JeromeThomasBlack:社外取締役
  • GeorgeRaymondZageIII:社外取締役
  • 永山治:取締役会議長
  • AyakoHirotaWeissman(ワイズマン廣田綾子):社外取締役
参考文献

参考文献

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