CVC非公開化提案の破談(2021年・東芝の決断)

更新:
論点 拘束力のない買収提案をどう扱うか
東芝:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
外資ファンドによる非公開化提案の受け止めと、その頓挫

何をなぜ決めたか:外資ファンドによる非公開化提案の受け止めと、その頓挫

概要

2021年4月6日、英投資ファンドのCVCから買収・非公開化に関する初期的かつ法的拘束力のない提案書を受領した。会社の要請によるものではなく、翌7日朝の報道で存在が表沙汰になり、東芝は同日、詳細情報を求めて慎重に検討すると公表した。だが14日に車谷暢昭社長CEOが辞任し、19日にCVCから届いた新たな書面には具体的な詳細情報がなく、非公開化が経営陣と取締役会の戦略的目的に合致するかについてのガイダンスを待つため暫時検討を中断する、とだけ記されていた。受領から13日で、買付価格も買付比率も示されないまま提案は失効した。

背景

2015年の不正会計と米原発子会社の巨額損失で債務超過に陥った東芝は、2017年12月の第三者割当増資で急場をしのいだ。その結果、外国法人等の持株比率は2017年3月期の28.47%から2018年3月期には72.32%へ跳ね上がり、提案を受けた2021年3月期でも50.44%を占めていた。提案が届く3週間前の2021年3月18日には、前年の定時株主総会が公正に運営されたか否かを調べる調査者の選任を求める株主提案が、臨時株主総会で賛成57.90%をもって可決されている。経営陣と大株主の緊張が解けないさなかの提案だった。

内容

取締役会議長の永山治氏が4月9日に公表したコメントが、提案の輪郭を示している。提案は各国競争法や外国為替及び外国貿易法上のクリアランス、資金調達が可能となることなど多くの事項を条件とし、CVCは単独での資金調達を想定せず、協調投資家とのコンソーシアム組成と金融機関からの調達を前提としていた。検討には相応の時間を要し、複雑性を伴う——それが会社側の見立てである。16日には買収提案を拒否する方向との報道を、そのような決定はしていないと打ち消している。拒否も受諾もしないまま、提案者の側が先に降りた。

含意

価格も比率も、条件と呼べるものが公表されないまま終わった案件である。会社が引いた線は明快で、買収者の資本構成、買収後の具体的な経営方針、安全保障法制・外国投資規制・競争法制の適用関係が示されない限り、提案の検討を開始することはできないというものだった。上場していることが安定的な資本構成を提供しているとしながら、非上場化を選択肢から排除するものではないと併記したのも、同じ線引きの現れである。この一件を経て、取締役会は独自の財務アドバイザーと法務アドバイザーを選任し、社外取締役のみで構成する戦略委員会を取締役会の下に設けることを決めた。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 13名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 車谷暢昭:取締役
  • 綱川智:会長
  • 古田佑紀:社外取締役
  • 小林喜光:取締役会議長
  • 太田順司:社外取締役
  • 小林伸行:社外取締役
  • 山内卓:社外取締役
  • 藤森義明:社外取締役
  • PaulJ.Brough:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman:社外取締役
  • JeromeThomasBlack:社外取締役
  • GeorgeRaymondZageIII:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman(ワイズマン廣田綾子):社外取締役
考察:提案の正当性という土台
考察

考察:提案の正当性という土台

破談と呼ぶには、そもそも交渉が始まっていない。受領から13日で失効したこの提案が問うたのは買収の可否ではなく、東芝の取締役会が買収提案を審査する材料と手順を持っているかどうかだったと思われる。会社が求めたのは価格ではなく、買収者の資本構成、買収後の具体的な経営方針、規制の適用関係という審査の前提である。それが揃わなければ検討に入らないという線引きは、非公開化そのものへの拒絶ではない。上場していることが安定的な資本構成を提供しているとしながら、非上場化を選択肢から排除するものではないと併記したのは、その現れだろう。

もっとも、審査の手順を語る資格が当時の経営陣にあったかは別の話である。提案が届く3週間前、前年の定時株主総会の運営を調べる調査者の選任が賛成57.90%で可決されていた。株主構成が企業価値に悪影響を与えているというCVCの主張を、株主の信認を欠いた取締役会が否定してみせても、説得力は限られる。提案を受けた社長が8日後に辞任したことで、東芝は提案を審査する前に、自らの正統性を立て直す作業へ引き戻された。戦略委員会から特別委員会へと審議の場を移しながら続く戦略的選択肢の検討は、この失効した提案を起点として始まっている。

数字で見る 3表

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図と表

東芝:所有者別の持株比率の推移

  • MSIP CLIENT SECURITIES 8%
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 5%
  • SUNTERA (CAYMAN) LIMITED AS TRUSTEE OF ECM MASTER FUND 4%
  • CHINOOK HOLDINGS LTD 3%
  • GOLDMAN SACHS & CO. REG 3%
  • その他 77%
東芝:所有者別の持株比率の推移
(%) 外国法人等金融機関個人その他 備考
2016年3月期 28.4729.0937.97 不正会計の発覚後。外国法人等と個人その他がそれぞれ3割前後で拮抗していた
2017年3月期 38.2125.8431.39
2018年3月期 72.329.2115.91 2017年12月の第三者割当増資で外国法人等が7割超に。金融機関は9.21%まで後退
2019年3月期 69.8210.1316.79
2020年3月期 62.6513.4220.21
2021年3月期 50.4424.1420.5 提案を受けた期。外国法人等は3期連続で下がり、増資直後から21.9ポイント減
2022年3月期 52.8525.8416.91 会社3分割計画を発表した期。外国法人等が再び上昇し、個人その他が減った
2023年3月期 49.5223.8518.14 公開買付けへの賛同を決議した期。上場会社としての最後の開示
出所:東芝 有価証券報告書 第177〜184期【所有者別状況】 / 東芝 有価証券報告書 第182期(2021年3月期)【大株主の状況】
出所:東芝 有価証券報告書 第177〜184期【所有者別状況】 / 東芝 有価証券報告書 第182期(2021年3月期)【大株主の状況】

東芝:従業員数と平均年収の推移

連結のうち提出会社以外(人)提出会社の従業員数(人)提出会社の平均年間給与(千円)
東芝:従業員数と平均年収の推移
(人) 連結従業員数提出会社の従業員数平均年間給与 備考
2016年3月期 187,80936,6018,275 平均年間給与は提出会社のみの開示で、連結の平均年収は開示がない
2017年3月期 153,49232,3537,105 白物家電と医療機器の売却で連結が3.4万人減り、給与も1割超下がった
2018年3月期 141,2563,4628,155 社内カンパニーの分社化で提出会社の人員が移り、母数が別物になった
2019年3月期 128,6972,6729,150 メモリ事業とPC事業の譲渡で連結が1.3万人減った
2020年3月期 125,6483,2998,675
2021年3月期 117,3003,6138,665 提案を受けた期。連結は5期で7万人減り、提出会社は3,613人
2022年3月期 116,2243,6738,923
2023年3月期 106,6483,7129,260 上場会社としての最後の開示。連結は10万人台へ減少した
出所:東芝 有価証券報告書 第177〜184期【従業員の状況】
出所:東芝 有価証券報告書 第177〜184期【従業員の状況】

提案の条件と経緯

提案の条件と経緯
科目 概要 備考
提案者 CVC Asia Pacific Limited 4月7日の公表時の表記は英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ
提案の受領日 2021年4月6日 会社の要請によるものではなく、翌7日朝の報道で存在が公になった
提案の形式 初期的かつ法的拘束力のない提案書 買収・非公開化に関するもの。買付価格・買付比率・資金の裏付けの記載はない
提案の前提 各国競争法や外為法上のクリアランス 資金調達の実現も条件。単独ではなく協調投資家とのコンソーシアム組成を想定
会社の対応 詳細情報を求めて慎重に検討 4月9日に取締役会議長のコメントを公表。取締役会としての評価には至っていない
代表執行役の異動 2021年4月14日 車谷暢昭社長CEOが辞任し、取締役会長の綱川智氏が後任に就任した
提案者からの通知 2021年4月19日に検討の中断 新たな書面に具体的な詳細情報はなく、暫時検討を中断するとの内容だった
会社の評価 評価することは不可能 買収者の資本構成・買収後の経営方針・規制の適用関係が示されていないため
検討体制 財務・法務アドバイザーの選任 取締役会が独立した立場で企業価値の向上を検討するため独自に選任した
戦略委員会 2021年6月25日の定時株主総会後に設置 社外取締役のみで構成。2022年4月7日に解散し特別委員会へ改組した
出所:東芝 適時開示「一部報道について」(2021年4月7日)、「買収提案に関する当社取締役会議長のコメントについて」(同年4月9日)、「代表執行役の異動に関するお知らせ」(同年4月14日)、「CVCからの初期提案について」(同年4月20日)
当時の取締役 13名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 車谷暢昭:取締役
  • 綱川智:会長
  • 古田佑紀:社外取締役
  • 小林喜光:取締役会議長
  • 太田順司:社外取締役
  • 小林伸行:社外取締役
  • 山内卓:社外取締役
  • 藤森義明:社外取締役
  • PaulJ.Brough:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman:社外取締役
  • JeromeThomasBlack:社外取締役
  • GeorgeRaymondZageIII:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman(ワイズマン廣田綾子):社外取締役
参考文献

参考文献

参考

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