永山治議長の再任否決(2020年・東芝の決断)

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論点 株主提案の独立調査をどう受けるか
東芝:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
エフィッシモの株主提案による独立調査と、経営陣への信任の否定

何をなぜ決めたか:エフィッシモの株主提案による独立調査と、経営陣への信任の否定

概要

2020年12月17日、Effissimo Capital Management Pte LtdとECM Master Fundが、会社法第297条第1項に基づいて臨時株主総会の招集を請求した。目的は、2020年7月31日の第181期定時株主総会が公正に運営されたか否かを調べる調査者の選任である。

2021年3月18日の臨時株主総会で、弁護士3名を会社法第316条第2項の調査者に選ぶ議案は賛成57.90%で可決された。取締役会は反対の意見を表明し、株主に反対の議決権行使を推奨していた。同じ総会に上程されたもう1つの株主提案、資本政策案の総会承認を義務づける定款変更は39.33%で否決されている。

背景

2020年9月18日、第181期定時株主総会の前日までに持ち込まれた議決権行使書面1,139枚が、有効な議決権として集計されていなかったことが公表された。集計を受託していた三井住友信託銀行が期限日に受領した書面を集計対象外とする処理を行ったもので、同行は金融庁から報告徴求命令を受けた。

第181期総会では会社提案の取締役12名が全員可決されたものの、車谷暢昭社長兼CEOの賛成率は57.96%にとどまり、株主提案の候補者も今井陽一郎氏の43.43%を筆頭に僅差で否決されていた。提案株主は独立した委員のみで構成する第三者委員会の設置を求めたが、要請から約3か月を経ても設置されなかった。

内容

選任された前田陽司氏、木﨑孝氏、中村隆夫氏の3名は、会社からも提案株主からも独立して3か月の調査にあたり、2021年6月10日に調査報告書が交付された。報告書は、東芝が経済産業省と一体となってエフィッシモの株主提案権の行使を妨げようと画策し、他の株主の議決権行使にも不当な影響を与えようとしたと認定し、 『本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する』 と結んだ。

会社は6月13日、指摘を真摯に受け止めるとして、第182期定時株主総会に付議する取締役候補から社外取締役2名を外した。6月25日の総会では、取締役会議長で指名委員長の永山治氏が賛成43.74%、監査委員候補の小林伸行氏が25.32%で否決された。前年の永山治氏の賛成率は97.70%である。

含意

会社が幕引きを図った問題を、株主が会社法の手続で強制的に調べ直させ、その結果が取締役会議長の否決となって経営陣に返った。ガバナンス改革の旗を振ってきた経済産業省自身の関与が明るみに出た点で、日本のコーポレートガバナンスの節目となり、東芝の混乱はその後の会社分割案と非公開化へつながっていった。

いつ何が起きたか 9件
当時の取締役 13名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 車谷暢昭:取締役
  • 綱川智:会長
  • 古田佑紀:社外取締役
  • 小林喜光:取締役会議長
  • 太田順司:社外取締役
  • 小林伸行:社外取締役
  • 山内卓:社外取締役
  • 藤森義明:社外取締役
  • PaulJ.Brough:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman:社外取締役
  • JeromeThomasBlack:社外取締役
  • GeorgeRaymondZageIII:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman(ワイズマン廣田綾子):社外取締役
考察:株主が発動した「調べる権利」の重さ
考察

考察:株主が発動した「調べる権利」の重さ

エフィッシモは取締役の入れ替えを再び求めるのではなく、会社法の調査者選任というほとんど使われてこなかった手続を選び、事実の解明だけを議案にした。会社側が反対しにくく、助言会社も機関投資家も賛成しやすい論点の立て方であり、その結果として、会社の内部資料に基づく認定が経営陣の正統性を直撃した。前年に97.70%の信任を得ていた取締役会議長が43.74%で退場したのだから、争点設計そのものが勝敗を分けたことがうかがえる。

もっとも、この決着は、政府と企業の距離という、より古い問いを今日の資本市場に持ち込んだといえる。原子力を抱える東芝にとって国との関わりは避けられず、経済安全保障の要請も現実にある。だが報告書が示したのは、その関わりが株主の議決権という市場の根幹に及んだときに何が起きるかであった。増資で招き入れた株主を制度の力で抑えようとした結果、経営陣は議長を失い、会社は分割案の否決を経て市場からの退出へ向かった。国策と資本市場の間に立つ企業の統治がどうあるべきかは、非公開化を経た今もなお開かれた問いであると思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 5表

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図と表

東芝:従業員数と平均年収の推移

連結のうち提出会社以外(人)提出会社の従業員数(人)提出会社の平均年間給与(千円)
東芝:従業員数と平均年収の推移
(人) 連結従業員数提出会社の従業員数平均年間給与 備考
2016年3月期 187,80936,6018,275 平均年間給与は提出会社のみの開示で、連結の平均年収は開示がない
2017年3月期 153,49232,3537,105 白物家電と医療機器の売却で連結が3.4万人減り、給与も1割超下がった
2018年3月期 141,2563,4628,155 社内カンパニーの分社化で提出会社の人員が移り、母数が別物になった
2019年3月期 128,6972,6729,150 メモリ事業とPC事業の譲渡で連結が1.3万人減った
2020年3月期 125,6483,2998,675 第181期定時株主総会の基準日にあたる期末
2021年3月期 117,3003,6138,665 調査者選任が可決された期。連結は5期で7万人減っていた
2022年3月期 116,2243,6738,923 調査報告書を受けて永山治氏の取締役再任が否決された期
2023年3月期 106,6483,7129,260 上場会社としての最後の開示
出所:東芝 有価証券報告書 第177〜184期【従業員の状況】
出所:東芝 有価証券報告書 第177〜184期【従業員の状況】

東芝:株主提案の議案別賛成率

東芝:株主提案の議案別賛成率
(%) 賛成反対 備考
2020年7月 Allen Chu 31.1466.37 第181期定時株主総会の第3号議案。否決
2020年7月 清水雄也 31.1466.37 第181期定時株主総会の第3号議案。否決
2020年7月 竹内朗 41.9554.76 第181期定時株主総会の第4号議案。否決
2020年7月 杉山忠昭 37.6859.02 第181期定時株主総会の第4号議案。否決
2020年7月 今井陽一郎 43.4354.77 第181期定時株主総会の第4号議案。株主提案の候補者では最多の賛成
2021年3月 第1号議案(調査者選任) 57.941.86 臨時株主総会。可決。弁護士3名を会社法第316条第2項の調査者に選任
2021年3月 第2号議案(定款一部変更) 39.3357.79 臨時株主総会。否決。資本政策案の総会承認を義務づける規定の新設
出所:東芝 第181期定時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2020年8月5日) / 東芝 臨時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2021年4月5日)
出所:東芝 第181期定時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2020年8月5日) / 東芝 臨時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2021年4月5日)

東芝:会社提案の取締役候補の賛成率

東芝:会社提案の取締役候補の賛成率
(%) 第181期・2020年7月第182期・2021年6月 備考
綱川智 89.9577.39 2021年4月に代表執行役社長CEO、6月に取締役会長へ
永山治 97.743.74 取締役会議長・指名委員長として再任案に付されたが否決
小林伸行 85.5625.32 監査委員候補。否決
ポール・ブロフ 76.688.22
ワイズマン廣田綾子 76.6456.31
ジェリー・ブラック 76.6378.05
レイモンド・ゼイジ 68.9988.08
出所:東芝 第181期定時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2020年8月5日) / 東芝 定時株主総会における議決権行使結果に関するお知らせ(2021年6月28日)
出所:東芝 第181期定時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ(2020年8月5日) / 東芝 定時株主総会における議決権行使結果に関するお知らせ(2021年6月28日)

東芝:所有者別の株式分布

東芝:所有者別の株式分布
(%) 外国法人等金融機関個人その他 備考
2017年3月末 38.1325.8431.39
2018年3月末 72.299.2115.91 第三者割当増資により外国法人等の比率が急伸
2019年3月末 69.7910.1316.79
2020年3月末 62.6213.4220.21 第181期定時株主総会の基準日にあたる期末
2021年3月末 50.424.1420.5 臨時株主総会と第182期定時株主総会の年度
2022年3月末 52.8225.8416.91
2023年3月末 49.4523.8518.14
出所:東芝 有価証券報告書 第178〜184期【所有者別状況】。外国法人等は法人分(個人分はいずれの期も0.1%未満)
出所:東芝 有価証券報告書 第178〜184期【所有者別状況】。外国法人等は法人分(個人分はいずれの期も0.1%未満)

株主提案の条件

株主提案の条件
科目 概要 備考
提案株主 Effissimo Capital Management Pte Ltd ECM Master Fundの受託者Suntera (Cayman) Limitedとの連名で請求
請求時の所有 総株主の議決権の100分の3以上 6か月前から引き続き保有。具体的な所有比率は会社の開示に記載がない
招集請求の日 2020年12月17日 会社法第297条第1項に基づく請求。会社は同日受領し、翌18日に開示した
対象の総会 2021年3月18日の臨時株主総会 議決権を行使することができる株主の議決権の数は4,521,140個
株主提案の議案 会社法第316条第2項の調査者3名の選任 前田陽司氏、木﨑孝氏、中村隆夫氏。いずれも弁護士で、会社と提案株主の双方から独立
調査の目的事項 第181期定時株主総会が公正に運営されたか 2020年7月31日開催。決議が適法・公正に行われたか否かを含む。調査期間は3か月
会社提案の議案 なし。上程された2議案はいずれも株主提案 第2号議案はChinook Holdings Ltdの別個の招集請求による定款一部変更
提案の理由 議決権行使書面1,139枚が集計されず 圧力で議決権行使を断念した株主の存在も確認したとする。第三者委員会の設置要請にも会社は応じなかった
取締役会の意見 反対。株主に反対の議決権行使を推奨 監査委員会が外部の弁護士事務所を起用して検証済みで、更なる調査の必要性は認められないとした
可決の要件 出席した株主の議決権の過半数 定款変更の第2号議案は3分の1以上の出席と出席議決権の3分の2以上の賛成
議決の結果 第1号議案は賛成57.90%で可決 第2号議案は39.33%で否決。賛否を確認できなかった株主の議決権も分母に加算
調査の結果 公正に運営されたものとはいえない 2021年6月10日に調査報告書を受領。同13日に取締役候補から社外取締役2名を外した
出所:東芝 2021年3月18日開催臨時株主総会招集ご通知・議決権行使結果、2020年12月18日適時開示「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」
当時の取締役 13名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 車谷暢昭:取締役
  • 綱川智:会長
  • 古田佑紀:社外取締役
  • 小林喜光:取締役会議長
  • 太田順司:社外取締役
  • 小林伸行:社外取締役
  • 山内卓:社外取締役
  • 藤森義明:社外取締役
  • PaulJ.Brough:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman:社外取締役
  • JeromeThomasBlack:社外取締役
  • GeorgeRaymondZageIII:社外取締役
  • AyakoHirotaWeissman(ワイズマン廣田綾子):社外取締役
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