東芝次世代DVD「HD DVD」からの撤退——自ら仕掛けた規格戦争の終息

時期 2008年2月
意思決定者(推定) 西田厚聰 社長
論点 規格戦争の敗北と事業撤退
概要
すでに開発・生産を中止しており、3月末までに出荷も止めて完全に撤退した。次世代DVD規格をめぐる争いは、ソニーや松下電器産業を中心とするブルーレイ(BD)陣営の勝利で決着した。
背景
現行DVDの後継をめぐり、東芝が推すHD DVDと、ソニー・松下が提唱するBDが規格分裂したまま商品化に走り、世界最大の北米市場で消耗戦を繰り広げていた。有力家電メーカーが実質東芝1社のHD DVD陣営は、徹底した低価格戦略で先行逃げ切りを狙ったが、採算割れの価格競争が続いた。
内容
2008年1月、盟友の米ワーナー・ブラザーズがBD陣営へ鞍替えし、続いて小売り最大手の米ウォルマートがHD DVD販売からの撤退を表明した。
含意
HD DVD事業は撤収を決めた2008年3月期に営業損失602億円と事業終息費用483億円を計上し、開発費を含めれば損失は2000億円を超えたとされる。自ら旗を振った標準規格を自ら畳む判断であり、傷を広げないための損切りの速さと、分裂を避けられなかった規格戦争の代償が交錯した。
筆者の見解

仕掛けた側が畳むということ

この判断の芯にあるのは、自ら旗を振った標準規格を、当の旗振り役が自らの手で降ろしたという事実である。統一交渉が決裂し、有力メーカーが集まらないまま孤軍で走り出した時点で、勝算は陣営の広がりでBDに劣っていた。それでも現行DVDでの規格統一という成功体験が、統一や撤退を潔しとしない空気を社内に残し、走り続ける選択を後押ししていた。勝ち目を失うや2か月弱で幕を引いた素早さは、傷を最小限にとどめる損切りとして合理的であったとみることができる。ただ撤退の速さは、そもそも分裂したまま商品化へ突き進んだ側の責任と、表裏の関係にある。

より大きな問いは、VHS対ベータという先例を業界が共有しながら、なぜ二度目の分裂を避けられなかったかにある。次世代DVDの勝敗は、製品そのものの優劣よりも、ハリウッドの映画会社、ウォルマートに代表される流通、そしてパソコンを握るマイクロソフトといった外部の力学によって決した。旗振り役が自ら畳むという幕引きは潔くはあったが、規格を仕掛ける段階での見立ての甘さまでは覆えなかったといえる。撤退という判断の是非以上に、走り出す前の一手が問われる事例として、この一件は残るとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

出典・参考

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