田辺三菱製薬の完全子会社化(2019年・三菱ケミカルグループの決断)

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論点 上場子会社の少数株主持分を取得するか
三菱ケミカルグループ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
4,918億円で上場子会社の少数株主持分を取得した、親子上場の解消

何をなぜ決めたか:4,918億円で上場子会社の少数株主持分を取得した、親子上場の解消

概要

三菱ケミカルホールディングスは2019年11月19日から2020年1月7日まで、議決権の56.4%を保有していた上場子会社・田辺三菱製薬の株式に公開買付けを実施した。1月15日に197,355千株を396,684百万円で取得して議決権比率を91.6%へ引き上げ、続く株式売渡請求により3月2日に47,308千株を95,088百万円で取得して完全子会社とした。

背景

田辺三菱製薬は2007年10月に田辺製薬と三菱ウェルファーマの合併で発足した上場子会社である。多発性硬化症治療剤ジレニアのロイヤルティをめぐり、2019年2月にノバルティス・ファーマ社から仲裁の申立てを受け、ロイヤルティの一部について売上収益の認識を止めていた。ヘルスケアセグメントのコア営業利益は2018年3月期の812億円から2020年3月期の165億円へ減少している。

内容

有報は取引の目的を、創薬モダリティの拡大等の医療の環境変化への対応に加え、グループ会社間の更なるシナジー創出と記す。取得の対価は取引コストを含めて493,271百万円で、取得した非支配持分の帳簿価額348,615百万円との差額144,656百万円は親会社の所有者に帰属する持分の減少として資本に直接認識した。既に連結子会社であったため企業結合には当たらず、のれんは生じていない。

含意

4,918億円を投じて内に固めた医薬事業は、5年後に手放された。2024年11月の新中期経営計画2029を受けて、2025年2月にファーマ事業を米ベインキャピタルの投資ファンドが保有する特別目的会社の傘下へ移すことを決議し、約5,100億円相当の金銭交付を受ける見通しとなった。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

  • 小林喜光:会長
  • 越智仁:取締役
  • 伊藤大義:社外取締役
  • 國井秀子:社外取締役
  • 浦田尚男:取締役
  • 橋本孝之:社外取締役
  • 藤原謙:取締役
  • 伊達英文:取締役
  • 小林茂:取締役
  • 程近智:社外取締役
  • 菊池きよみ:社外取締役
  • グレンフレデリクソン:取締役
考察:取得した持分と、5年後の値付け
考察

考察:取得した持分と、5年後の値付け

この取引は企業結合ではない。田辺三菱製薬は既に連結子会社であり、動いたのは資本だけである。取得した非支配持分の帳簿価額348,615百万円に対し、支払った対価は493,271百万円で、差額144,656百万円がそのまま親会社の所有者に帰属する持分の減少として資本に直接認識された。のれんは立たず、償却も減損も起きない代わりに、1,446億円の減少が一度に資本へ計上されている。買い取る対象が帳簿より高いと判断した分だけ、持株会社の資本が薄くなる構図であった。

買い取った当の事業は、その時点で下り坂にあった。ヘルスケアセグメントのコア営業利益は2018年3月期の812億円から2020年3月期の165億円まで縮み、翌々期には損失に転じている。2023年3月期に1,442億円へ跳ね上がったのはジレニアの仲裁判断で留保していた売上収益1,258億円を一括して認識したためで、事業そのものの回復とは別の性格の利益であった。そして2025年2月、ファーマ事業は約5,100億円でベインキャピタルの投資ファンドへ委ねられる。4,918億円で内へ固めた事業を、ほぼ同じ額で外へ出したことになる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

三菱ケミカルグループ:ヘルスケア(ファーマ)セグメントの推移

外部売上収益(百万円)セグメント損益率(%)
三菱ケミカルグループ:ヘルスケア(ファーマ)セグメントの推移
(百万円) 外部売上収益セグメント損益 備考
2015年3月期 531,93377,012 2017年3月期までは日本基準で、セグメント損益は営業利益ベース
2016年3月期 554,056103,417
2017年3月期 547,03298,389 IFRS移行後の組替値。以後のセグメント損益はコア営業利益
2018年3月期 556,56881,227
2019年3月期 462,56353,782 翌期有報の組替後の値。当期有報の当初開示は545,666と56,865
2020年3月期 393,12816,475 完全子会社化の期。仲裁中のロイヤルティは売上収益に認識していない
2021年3月期 390,56917,911
2022年3月期 403,638△6,974 セグメント損益は損失
2023年3月期 535,449144,219 ジレニアの仲裁判断を受け、第4四半期に売上収益125,883を一括認識
2024年3月期 437,23056,281 報告セグメントの名称をヘルスケアからファーマへ変更した
2025年3月期 460,32865,402 2025年2月にベインキャピタルへの譲渡を決議した期
出所:三菱ケミカルホールディングス/三菱ケミカルグループ 有価証券報告書 第11期〜第20期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部収益・セグメント損益)
出所:三菱ケミカルホールディングス/三菱ケミカルグループ 有価証券報告書 第11期〜第20期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部収益・セグメント損益)

完全子会社化の条件

完全子会社化の条件
科目 概要 備考
対象会社 田辺三菱製薬㈱ 2007年10月に田辺製薬と三菱ウェルファーマの合併で発足した上場子会社
取引の目的 グループ会社間の更なるシナジー創出 有報は「創薬モダリティの拡大等の医療の環境変化への対応」も併記する
会計上の取扱い 非支配持分との資本取引 既に連結子会社であり企業結合に当たらない。のれんは発生していない
公開買付期間 2019年11月19日〜2020年1月7日 買付終了日の応募株式の総数が買付予定数の下限以上となり成立した
公開買付けの決済日 2020年1月15日 197,355千株を取得。1株当たり2,010円に相当する
公開買付けによる取得額 396,684百万円 取引コストを除く。連結財務諸表注記24.資本の記載
買付け前の議決権比率 56.4%
買付け後の議決権比率 91.6% 2020年1月15日時点
株式売渡請求の効力発生日 2020年3月2日 1月17日に請求を通知し、同日に田辺三菱製薬の取締役会が承認した
売渡請求による取得額 95,088百万円 47,308千株。取引コストを除く。これにより完全子会社となった
対価の合計 493,271百万円 取引コストを含む。役員報酬BIP信託の保有分に係る金額を除く
取得した非支配持分の帳簿価額 348,615百万円
親会社持分の減少 144,656百万円 対価が非支配持分の帳簿価額を上回った差額。資本に直接認識した
株式の追加取得による支出 3,981億円 当期の財務活動によるキャッシュ・フロー。未決済分95,433百万円を控除
出所:三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第15期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】連結財務諸表注記24.資本
出所:三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第15期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】連結財務諸表注記24.資本
当時の取締役 12名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

  • 小林喜光:会長
  • 越智仁:取締役
  • 伊藤大義:社外取締役
  • 國井秀子:社外取締役
  • 浦田尚男:取締役
  • 橋本孝之:社外取締役
  • 藤原謙:取締役
  • 伊達英文:取締役
  • 小林茂:取締役
  • 程近智:社外取締役
  • 菊池きよみ:社外取締役
  • グレンフレデリクソン:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第15期
  • 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書 第18期・第20期
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書「第15期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】連結財務諸表注記24.資本」
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書「第15期(2020年3月期)連結財務諸表注記5.売上収益」
  • 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書「第18期(2023年3月期)連結財務諸表注記5.売上収益、セグメント情報」
  • 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書「第20期(2025年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • 三菱ケミカルホールディングス/三菱ケミカルグループ 有価証券報告書「第11期〜第20期(セグメント情報)」

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